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ジンタと保健医 2

 ジンタは保健医と共に、暑い校庭に出ていた。


「なあ、先生。よくよく考えたら、なぜ俺達こんなクソ暑い校庭に来てるんだ? 教えてもらうだけなら保健室でもいいんじゃねぇ?」


 暑そうに、手でぱたぱたと風を送りながらジンタが聞けば、保健医もけだるそうに、


「君のために来たんだよ。実際の強化魔法の効果を自分で実感してみた方が良いだろうと、わざわざ私まで暑い中出て来たんだろうに」

「え? じゃあ俺に強化魔法を掛けてくれるの?」

「ああ、とりあえず一番実感出来る「スピード」の魔法をな」

「ま、まじか……。俺に強化魔法が掛けられるなんて……。なんか夢見たいだな……」


 完全に舞い上がっているジンタに対し、保健医は考え込む。


「ふむ、強化魔法を掛ける振りして、眠りの魔法をかけてもいいな。そうすれば楽に君を解剖出来るか……」


 考え込むと、つい口から考えが洩れる保健医に、ジンタは平目を向け、


「おい、だだ聞こえしてるぞ」


 ズビシ、とおでこにチョップを入れる。


「なかなかに痛いな。しかしバレてしまってはしょうが無いか……」


 保健医は眼鏡の中心を押し上げ、クィッと直し話を戻す。


「君に聞くが、強化魔法をなぜ小学生とういう早いうちに教えないのか、それは分かるか?」


 ジンタは一瞬だけ考え、何となくといった感じで適当に、


「基本的な攻撃魔法やヒールの魔法より、扱いが難しいから?」


 ズビシッ! 


 さっきのお返しとばかりに保健医がジンタのおでこにチョップを入れる。


「馬鹿者。強化魔法自体は、この小学校で習う魔法より奥が深くない分簡単なんだよ」

「は? それじゃあなぜ小学校では教えない?」


 一応、チョップを受けたおでこをさすりながらジンタが聞き返す。


「強化魔法はな、誰にでも掛けられるんだよ」


 そうしないと意味ないよな? とジンタも思うが。保健医は至っては真面目な顔をしている。


「まだ分からないのか。魔法を掛ける相手を間違えると、それはイコールで自分の死に直結するんだよ」

「え? 掛ける相手を間違える? それってモンスターとかに?」


 そんなこと普通しないだろ? とジンタは思いつつ問い返す。


「違うよ、味方だと思っていた相手が寝返ったときにも、それが降りかかるんだ」

「寝返るって……、自分の家族達が?」

「それもある、が、それよりも味方だと思ってた者が、だ」


「えっと……」


 ジンタは理解に苦しむように頭を捻る。


「例えるとだな。君は今、大量の敵に襲われている状況。そこには君以外に名も知らない『召喚されし者』つまり仲間が十人いて、強化魔法を使えるのは君だけだったとする。君はどうする?」


「当然、強化魔法をみんなに掛けて応戦しますよ」

「では、その十人のうち実は四人が敵だったとしたら? いやもっと言えばその十人のうち八人が敵に寝返ったら?」

「それは……。って一体どういう意味でこんな話を?」


 参ったとばかりにジンタは両手を上げ、真意を問う。


「強化魔法は単体で掛けると時間が過ぎない限り、もしくは別の強化魔法を上書きされない限り、掛けた本人でさえも解除できないんだ。だから簡単に唱えられるとは言え、強化魔法は誰にも彼にも掛けるわけにはいかない。掛ける側が倫理的に道徳的にそのことをわきまえ相手を見て掛けられないと、それは自分達をより危機的な状況にしてしまうんだ」


 保健医は唇を噛み、切々(せつせつ)と語った。まるで自分が過去にその経験を味わったかのように……。


「お、おい先生、あんた……まさか昔……」


 ジンタは頭にフッとよぎった予想に、喉がカラカラに乾いた。


 それに対し保健医は、


「ふっ、引っかかったな」


 眼鏡をもう一度クィッと上げ直し、笑みをこぼす。


「……………………は?」


 思いっきり、目を点にしたジンタが呆けた声を上げる。


「いや、一応なこの魔法を教えるに当たって、全員にやらないといけない儀式みたいなもんなんだ」

「儀式? 今の話が?」

「うむ。一応それほどのリスクがあることを、理解して欲しいと言うことだな」

「なるほどな……。迂闊に使える、安定して効果が持続する。だからこそ注意が必要か」

「そうだ。だから中学生ぐらいになって、物事の分別が出来るようになってから教えるのだよ」

「理解出来たよ」

「そうか…………………………」


 頷いたジンタに、保健医はさらにジィィ――――っと見つめてきている。


「――――つまり私はこう言ってるんだぞ? ロンシャンはその辺理解してるからと言っても教えるなよ、と」


 ジンタは一瞬ビクッと体を跳ね上げ「そこまでバレているとは」と、恐れるように保健医を見た。


「ま、時期が来れば教えられるんだからいいが。一応規律だからな」


 保健医は言いながらジンタに手を向ける。


「対象は「君」。時間は「一〇分」。魔法は「スピード」」


 無造作この上ないほどに保健医は口を動かした。と同時にジンタの体が微かに緑色を纏う。


「へ? まさか今ので?」

「ああ、そうだが。試しに走ってみてはどうだ?」

「ああ、うん」


 何とも曖昧にジンタは返事をし、軽く地面を蹴った。

 グンッと体が一気に加速を始める。


「お、おお、おおおおおお~~~~~」


 今まで感じた事ないほどの、あり得ない速さでジンタの見ている景色が流れていく。


 校庭のトラックを走り、ただ立っている保健医を、遠くに、そして近くに、何度も足を動かし走り強化魔法の効果を実感していく。


「おい、いい加減そろそろ教えていいか? 私は暑いから早く日陰ひかげに行きたい」


 保健医の弱々しい声にジンタは足を止め、


「いっや~~~、すっげえわ、これ」

「うむ、強化魔法は単体で掛ける分にはかなりローコストだ。もっとも時間が増えればそれだけ魔力のコストは上がるがな」

「そっかぁ。これなら俺はもっと強くなれそうだ」


 ジンタは意気揚々ヤル気満々に、暑さにへばっている保健医と共に、保健室へと戻っていった。

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