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サフラン亭 リカとイヨリ 1

 夏の刺すような日射しを避け、イヨリは今大きな日傘の下、小洒落たイスと丸テーブルに座りアイスティーを飲んでいた。

 そしてなぜか、正面に座っているのはリカだけだった。


 さかのぼること十五分ほど前。

 ここサフラン亭の前に全員で来た時のことだ。


「さて、では私とイヨリさんはここで少し買い物とおしゃべりをしていきますので、どうか他の方々はお菓子を買って来てださいまし。雪目さん支払いは後で致しますから、ロンシャン様とミリア様の分もお願いしますね」


 と、リカが一人で勝手に話を進めたのだ。


 イヨリが「え?」と思考を止めた一瞬の間に、今度はミリアがずる賢さを全開にさせ、イヨリがいなければ好きなお菓子をいくら買ってもOKだと結論を出し、


「うん、わかったよっ! じゃあリカさんはここでイヨリを引き止め――、ううん、イヨリとゆっくり話をしててよ。イヨリもゆっくりしてってね」


「え?」


 ミリアの早口&逃走劇に、イヨリの方がついて行けず、しまったと気付いた時にはもうリカと二人きりの状態だった。

 しかたなく二人でサフラン亭に入り、今へと至っている。


 リカが頼んだアイスティーとクッキーをイヨリは口に入れる。

 確かにおいしいと思った、それを見透かしたようにリカが口を開く。


「どうです? これが一流のクッキーと紅茶ですわ」

「ええ、確かに美味しいですけど、でもこれって……」

「そうですわ、使っている材料もかなり厳選された高級品ですのよ」

「やっぱり……」


 イヨリだって料理を作ることに関してはかなりの自信を持っている。材料の微妙な違いの見極めに関しては自信がある。


「それでこれを私に食べさせて、次は作れと?」


 イヨリはうんざり気味にリカに問う。が、リカは含みがある笑みで、


「半分――いえ、三割程度はそうですが残りは違いますわ」


 アイスティーのグラスをテーブルに置き、


「実は、少しあなたの家族のことについて、お話をしておきたかったのですわ」

「私の家族? ミリアとジンタさんのことですか?」


 イヨリは怪訝に眉をひそめるが、リカは気にせず、


「ええ、あなたも含めてますが」


 と続け、今度は至って真剣な顔で、


「ハッキリ言ってあなたの所のマスター。ミリア様はかなり異常ですわ」


 言い切った。


 さすがに普段はおっとりし我慢強いイヨリも、一気に感情が沸点に達した。

 ダンッとテーブルを叩く。

 クッキーの皿とアイスティーのグラスが、一瞬宙を浮き、大きな音をたて無事テーブルへ着地する。


「いくらなんでも、それは言い過ぎじゃないですかリカさん?」


 自分の事ならいざ知らず、こと自分の家族を馬鹿にされたのだ。それは家族想い、そしてミリアに多大な愛情と感謝をしているイヨリからすれば、激怒しても当たり前のことでもある。


「お怒りになるのは当然ですわ。私からすればロンシャン様を馬鹿にされたように聞こえますからね。ですが、私はあなたを怒らせたいだけで言ったわけではありませんわ。とりあえず少しお話をお聞きになりなさいな」


 リカは眉一つ動かさず、イヨリの怒りを受け止め。さらに手で座るようにうながしてきた。

 イヨリも、荒ぶる感情を鎮めながらイスに座り、アイスティーを口に含む。


「どうしてそんなことを言ったのか教えてもらえますよね。リカさん?」

「ええ、ただし、出来るだけ冷静に、でお願いしますわ。決して私はあなたの家族を馬鹿にしてるのではなく、むしろロンシャン様同様に心配しているのですから」

「ロンシャンくんも?」

「ええ、ロンシャン様もです」


 リカが嘘や冗談でロンシャンの名前を口に出すことはない。それはイヨリにも分かる。つまりリカは本心で言っているのだ、と。


「分かりました。聞きましょう」


 イヨリはクッキーを口に入れ、もう一度アイスティーを飲んだ。


 ――ほんとここのクッキー美味しいわ。後で買っていこうかな――。


 どんなに怒っていてもイヨリだって女性だった。美味しいもの、甘いものには目ざといのだった。

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