あ~~夏休み。 ジンタと保健医 1
ジンタが魔法を使えるようになって一週間。
ミリア達も夏休みに入り、普段は学校へ行くミリア達がそのまま朝から集合し、しかもついでとばかりに『召喚されし者』であるみんなまで一緒に来て、家でワイワイと賑ぎくつろいでいく。
「う~~、早く夏休みの宿題終わらせるのは分かるけど、遊びに行きたいよ~~」
「そうだよねぇ。でもミリアちゃん、ここはロンシャンくんのを写すだけだから、私達はあまりがんばってないんだよねぇ」
「ミリアちゃんもエルファスちゃんも、自分の分は自分でやらないとだめだよ……」
「そうだぞエルファス、しっかり聞こえてるからな!」
「ミトのバニー耳……」
「ああん? なんか言ったかエ~ル~ファ~ス~」
「痛い、痛いよ~~ミト、コメカミグリグリは止めて!」
「リゼットさんそろそろちゃんと起きませんと、目玉焼きにお顔がダイブしちゃいますよ~」
「ハッ! 雪目ありがとう。リゼット目玉焼き食べ損ねてたよ!」
「いえ、食べ損ねてると言うより、ずっとウトウトされてましたが……」
「うん、おいしいよこれ」
「……それはよかったですね」
「ちょっとイヨリさん? いつも言ってますが、このお料理ちょっと味が濃くありませんこと?」
「私も毎回言ってますが、そんなこと言うならリカさんが作って下さいっ!」
「私、作るより食べる方が好きなんですの」
「だからなんですか?」
「ですから、作るのはあなたに任せますわ」
「だったら文句言わないで下さいっ!」
こんな調子のリビングの中で、ジンタは朝食を待つ。
「そう言えばジンタさんは今日はどうされるんです?」
ジンタの分の朝食を置き、何気なくイヨリが尋ねてくる。
一瞬、部屋のざわめきが消え、ジンタに視線が注がれる。
「今日は、保健医のところに行ってこようかと……」
「そうなんですか」
「うん、ちょっと魔法のことで、ね」
「――魔法…………」
ピクッと敏感に反応を示すのはミリアだ。
「借りてた本を読み終わったから、返すついでにちょっと相談をと……」
「どんな相談なんですか?」
ロンシャンが興味深そうにジンタの隣にやって来た。
「いや、俺の魔法はどうしても発動までに時間が掛かるんだよ」
「僕達でもやっぱりそれなりに掛かりますが……」
「そうなんだけど、一応俺って『召喚されし者』だから前に出て戦う方だし、それに威力的に俺の魔法は大したダメージにならない目くらまし程度だから。、戦闘ではあまり役に立たないかなって思ってさ」
「それなら、何を相談しに?」
はて、と小首をかしげるロンシャンに、
「これ、教科書なんだろ?」
ジンタは借りていた本を見せる。
「はい」
「これの最後に、強化系の魔法について少し書いてあったからさ」
「あっ! 僕達が中学に上がったら覚える予定になってますね、強化系魔法」
「うん、俺はもう年齢的に中学生は卒業してるからな、もし良ければそれを覚えられる本もないかと思ってな」
「な、なるほど……」
頷きながら目を輝かせるロンシャン、その目は借りられたら僕にも貸して下さい、と訴えている。
「ぶ~~~~、魔法魔法魔法……。最近ジンさんずっとそればっかだよね」
トゲのある言い方、大きくむくれた顔のままミリアがそっぽを向く。
「ごめんなミリア。でも、俺だって男なんだよ。少しは強くなってミリアやイヨリを、そしてみんなを守りたいんだよ。分かってくれ」
「うぅ~~~~」
分かってはいるが、どうしても納得出来ないミリアにイヨリが両手を合わせ、
「じゃあミリアは今日、私とお買い物に行きましょう。帰りにお菓子も買って。夏休みだし、いつもこうして集まるなら少し多めに買わないといけないでしょう?」
「うんっ!」
一気に有頂天の笑みに変わって、ミリアは大きく頷いた。
それを聞いたロンシャンとエルファスの目も輝いている。
「あら? それでしたら私も紅茶の葉とサフラン亭のクッキーが欲しいですわね。ロンシャン様イヨリさん達と一緒に行きましょう、そして帰りに私たちもお菓子を買っていきましょうか」
「うんっ!」
「リゼットも行くぞっ!」
何気にリゼットの方が大喜びだ。
「ジィ――――――――ッ」
声まで出し、エルファスはミトに顔を近づける。
見られてるミトは、大きく首を曲げエルファスから目を逸らす。
「ミ~~~ト~~~」
「な、なんでおれを見るんだ! 自慢じゃねえが、おれは宵越しの金は持たねえ主義だっ!」
「つまり無一文ってことでしょ? ほんと自慢じゃないよね」
「ぐっ……」
何気に、鋭い目線ときつい一言をエルファスがミトにぶつける。
「雪目ぇ~~」
そしてエルファスが方向転換し、甘えた声で雪目を見ると「はぁ~」と溜め息を吐いて、
「しょうがありませんね。先日買ってあげたばっかりなんですが、私も同行しますよ」
雪目が渋々と頷く。
「「やったっ!」」
なぜかエルファスと一緒にミトまで喜んでる。
「ミトには買わないからね」
釘を刺すようにエルファス。
「ばっ、買うのは雪目だろ?」
「ミトは自分で稼げるじゃない」
「そ、それは……」
「いつも何に使ってるのよ?」
「お、お菓子を少々……」
「ちょっとっ! 私ミトからお菓子貰ったこと無いよっ。あっ! そう言えばたまに晩ご飯いらないって……」
何かに気付いてエルファスがミトをキッと睨む、ミトは頭の上で両手を組み、下手な口笛を吹いてそっぽを向いている。
「いっつも内緒で一人で食べてたのね!」
「ばっ、バカ言うな。ちゃんと雪目に依頼報酬の半分以上は渡してるんだからな」
「私にお小遣いくれたことないでしょ!」
「うっ……」
ミトが再度、目を逸らす。
「うわ~~~、驚愕の新事実だな……」
二人のやり取りを見ていたジンタが呆れたように呟く。
「なんだと! じゃあジンタ、お前はミリアに――――」
「お菓子買ってきてくれたよ?」
ミリアがミトの言葉を遮り即答。
「………………」
今度こそミトは、無言で俯いた。
そこまで話が進むと、善は急げとマスターであるエルフ三人、さらにリゼットとミトまでもが早く行こうと急かし出す。
それを何とかなだめるイヨリ達に苦笑を浮かべながら、ジンタは食事を済ませ先に家を出た。
当然、保健医に強化魔法の本を借りに。
学校に着いたジンタは、向かい合う形で保健医と保健室にいた。
「まったく、君はほんとに遠慮というものを知らないな……」
本心なんだろうが、嘘っぽくも見える抑揚のなさで保健医が首を振る。
「まあそうだよな。他の人ならいざ知らず、なんかあんたにはそういう気持ちがないかもな?」
「それだけ私に心を許しているなら、そろそろ君も私の言う事を聞いてくれてもいいんじゃないか?」
「ああ、しかしそれに対してはなぜだろ? 絶対にヤだなとしか……」
「ほんっっとに君はワガママだな……」
「はははは……」
「で、ここに来た理由は強化魔法の本はないか、と言うことだな?」
「ああ、どうにも俺の攻撃魔法やヒールだと、ほとんど効果が無い割に発動までに時間が掛かりすぎるんだよ」
「そうか? 威力に対しては始めたばかりというのもあるしな分かる気もするが、集中の時間から発動まではそんなではないようにみえたが?」
「それは後衛として、守られながらだろ?」
ジンタは一度、出されていたカップの果汁を一口飲み、
「俺は一応前で戦う『召喚されし者』だぞ? それにリゼットとか雪目さんのようにもっと発動が早くないと、攻撃の合間に間に合わない!」
ジンタの力説に、保健医はゆったりと果汁を飲み、
「いや君な、そもそも獣人化した者のスキルと魔法を一緒にしてはいけないぞ?」
「え? 違うの?」
ジンタは目を丸くする。
「当たり前だ。彼らの使うあれは先天的な属性や種族による攻撃方法だ。対して魔法は後天的、まあ資質という点で言えば生まれついての才能もあるが、しかし、こうして君のように後になっても覚えられるのが魔法だ」
「先天的と後天的か……」
「うむ、彼らの使うスキルは、生まれついての獣人化したときから自分の身を守る為に身についていた技術みたいものだ。対して魔法は、身を守りたい、倒したいと願い、それに向かい努力して身につけていくモノでもある。それに、彼らのスキルは動作が詠唱みたいなモノだからな」
「動作が……」
言われ、ジンタは振り返るように雪目とリゼットのスキルを思い起こす。確かに、それぞれのスキルを出すとき、決まったモーションをしているなと、初めて気付いた。
「つまり、スキルは詠唱を動作でってことか? じゃあ魔力の溜めは?」
「それはあれだな? 言葉と同時に高めているのだろう」
「言葉で?」
「そうだ。よく考えろよ君? 本来攻撃をするのに技名を叫ぶのはどう見てもおかしいだろ? でもみんなそうする。なぜか? 簡単だよパロールだよ」
「パロール?」
「そう。ある動作とある言葉をきっかけにそれを発動させる、と彼らは生まれたときから本能で無意識に理解して使っているんだ。もっともそれは魔法も一緒だがな」
「ファイアと唱えるとかか?」
「そうだ、実際にやってみればいい。ファイアと唱え、サンダーを出すとかな。慣れればそれもありだろうが、恐らく相当に時間が掛かるだろうがな」
「確かに頭の中がグチャグチャになりそうだな。ははは……」
ジンタは天井を見つめながら、自身でその光景を想像してみたがやはりこんがらがる。
「つまり、彼らのスキルはモーションに発動を、言葉に魔力を宿していると、私は解釈している。対して我々の使う魔法は、イメージに魔力を、言葉で発動をさせているんじゃないかともな」
「言われてみれば、確かに魔法を使うときは、最初にこんこんと少しずつ湧き出る魔力の泉をすくうイメージをし、それを自分の目の前で形に変化させ、そして言葉で発動させる感じだな」
「うむ、ヒールの概要にしても、その者の傷が無い状態をイメージし、それをくみ取った魔力の泉を埋め合わせるように塗り埋めていくという感じだしな」
「そうなのか? 俺は垂らす感じで思ってた。そうか塗る感じの方が確かに効果ありそうだ」
「む? 認識の齟齬だな。私はまた貴重な私の技術を君に教えてしまったことになるな……。これはやはりそろそろ利子を付けて返してもらわねば」
保健医のメガネの奥、その細い目が怪しく光る。
「まあ、それは口を滑らせたあんたが悪いとして、それより本題の強化魔法の件だけど」
ジンタはおもいっきり無視し、話を進める。
「はぁ~~。まあ君はいつもそうだな。人の言い分は一切聞かないときている」
「いや、こうして無事にここに来てることが、あんたの研究の役に立ってるだろ? 観察的に」
「確かにそうだがな。君のような珍種がこの世界にいると思うだけで、私は夜もなかなか眠れんのだよ」
「なんか、ある人を彷彿させる言葉だな……」
ジンタの中で、青白い顔の雪目がウインクしてる。
「まあ、それはまた今度、君がここのベットの世話になったときに色々やればいいとして。それより強化魔法だな」
「ああ、サラッととんでもないこと言いながら次にいってるが、その通りだ」
「結論から言えば、教えることは可能だが……」
「まじで?」
「うむ。しかし書面。つまり本としてはこの第一階層には置いてない。そもそもここの若い苗木達には中学に上がってから学んでもらうモノだし、教員である我々はとっくに使えるものだからな。ここにその本を置いておく理由がない」
「確かにな。つまり俺は……」
「うむ、私から直接教えてもらう、となるわけだ」
そこでジンタはふと考え込む。それから少しだけ声を落として、
「それって、教えてもいいのか?」
保健医に顔を近づけ尋ねる。
「若いあの子達に教えるのはダメとなっている。が、『召喚されし者』にそれを教えてはならないとはなっていない。そもそも魔法を使える『召喚されし者』などいないからな、そんな規律はない」
「――つまり、想定外的なことだと?」
ジンタの言葉に、一瞬考え込むような素振りをした後、保健医は言う。
「うむ。それか――君のような存在の為に、あらかじめそうして作られた規定なのかも知れないな……」
「俺のような存在……?」
「つまり、別の世界。君の居た世界からこっちに召喚された者に、魔法を教えれるようにわざと抜け道を用意していた、と言うことだ」
「まさか? 俺の他にもこの世界に来た人がいると?」
「さあな、私は初耳だが、しかし絶対ない、とは言えないんじゃないか? 現に君はこうしてここに来てるんだからな」
「それは、そうだけど……」
考え込むジンタを見ながら、保健医は口元を緩め果汁を飲む。
「さて、それでどうする? 私に習う気があるか? それともないのか?」
「当然習うさ」
ジンタは意気込んでそう答える。
保健医は満足そうに頷き、席を立ちながら、
「よし、じゃあまず始めに、そこのベットに服を脱いで寝ろ」
「ああ。それは却下だ」
即答で答えながら、ジンタも席を立つ。




