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どうしてこうなった? 魔法編

 季節は春から夏へ。


「オラオラオラッ!」


 暑く眩しい太陽の下、激しい連打で蹴りつける獣人化したミトの攻撃を、ジンタは鉄の盾で必死に防いでいく。否応なく徐々に後退させられていくが、ジンタの目はそれでもミトの隙を窺っている。


 そこに訪れる一瞬の好機。

 激しい蹴りの後、着地際のミト目掛けジンタは右手に持つ自身の直剣と同じ長さで作った木刀を突き出す。


「こっこだあぁぁぁぁッ!」


 驚いた顔でジンタの繰り出す剣を見つめてるミト。あと少しでその剣がミトの体に触れようとした時、


「ミリアっ! いい加減にしなさいッッッ!」


 ジンタの後方から、咆哮の如き怒声が響いた。


 ミトへと向けた渾身の突きは、その咆哮に背中から潰されるように、ヘナヘナと地面に刺さった。


「な、なんだぁ~?」


 後少しでジンタの攻撃を喰らいそうだったミトが、ホッとしながらジンタの後ろ、その先にあるジンタの住む家へ目を向けた。


「うぅ――――。イヨリのバカヂカラ――――ッ!」


 ジンタも四つん這いのまま振り返ると、ミリアの何とも間違いでは無いが今この状況で言うのはどうかと思える叫びと、バンッと扉を開け飛び出すミリアの姿が目に映った。


 泣いているのか顔の前で右手を動かし、ピョンピョンと軽やかに跳ねるように背を向け、ミリアが遠ざかって行く。


 それをジンタ同様に見送りながらミトが聞いてくる。


「珍しいなあの二人がケンカなんて。一体どうしたんだ?」

「ん~、なんかミリアのこの間あった夏休み前のテストが、あんまりにも悪すぎて色々となぁ……」


「ああ、そう言えばエルファスはしれっとテストを雪目に見せて、ご褒美とか言いながら雪目から何か買ってもらってたな。――エルファスのヤツ何気に目ざといから、テストの前に雪目に成績次第で何か買ってくれとでも言ってたんだな」


「さすがエルファスだな。ミリアは普通の教科は、俺から見てもそこそこだったんだが、魔法がどうにも……、な……」

「ミリアってヒール以外に使える魔法あるのか? ってか、あいつの場合ヒールも攻撃魔法だけど」


「ははは……、ない。だから実技テストの結果はイヨリも納得してるんだけど……、問題は筆記でさ」

「そっちも悪いのか?」


「ぶっちゃけ一桁だった」

「うおっ。それってある意味すごくないか?」


「ああ、俺も元いたところではあまり頭は良くなかったけど、そこまではひどくなかったと思う……」

「じゃあ、イヨリさんの怒るのも無理ないんじゃないか?」


「まあ、そうなんだけどなぁ……、なんというかミリアの言い分も分かるかなぁ~というか」

「なんて言ってるんだ?」


「それがさ「魔法がちゃんと使えないのに、魔法の問題なんて分かるわけがないでしょっ!」って」

「ああ、なんかそれ、おれも分かりそうだな……」

「だろ?」

「うん」


 二人の目に、出ていったミリアが心配になったのか外に出て来たイヨリの姿が映る。

 そして互いに目が合い、何とはなしに困ったように笑いあう三人。



 ジンタがここリリフォリアに来て、三ヶ月が過ぎた。

 剣の扱いや依頼の狩りなども限定だけど何とかこなせるようになってきたが、それでもまだまだだとジンタは思っているし、実際まだまだなのだ。


 そして、それを少しでも補おうとこうして暇なときにミトやイヨリ、リゼットや気晴らし程度のリカとも剣の稽古をしている。

 今日は珍しく絶好調で、ミトにもう一歩で攻撃を当てられそうだったのだが……。まあミトに攻撃を与えるより、さらに珍しい家族二人の大喧嘩が勃発してしまった訳だった。


「それで、ジンタはどっちの味方についたんだ?」

「どっちというかなぁ~。とりあえず間に入ったけど……。まあどっちも正論なようでさ、それにケンカの原因が魔法だと、俺からしてもどっちが正しいのかさっぱりでさ」


「だよなぁ~。おれもさ、エルファスが魔法の概念がってたまに口にするけどちんぷんかんぷんでよ、でよ雪目だって氷の魔法を使うだろ?」

「ああ。言われてみればそうだよな?」

「うん、でも雪目に聞いてもさ「魔法はセンスと魔力と才能ですが、私達が扱う種族スキルは先天的な生まれついての能力に起因しますので、説明は難しいです」って言われて余計にチンプンカンプンだぜ?」


「たしかに分かりにくいよなぁ。イヨリも種族がゴーレムで魔力云々(まりょくうんぬん)はさっぱりって言ってたし」

「あと、ウチ等の中で魔法っぽいの使うのはリゼットだけど……、あいつはなぁ……」


 ミトと共にジンタも振り返る。ジンタ達のいる大きな木の下の木陰でリゼットは立ったままだ。どうもイヨリの怒鳴り声にすくみ上がって、固まってるようだった。


「これは聞くだけ無駄だろ?」

「そうだなきっと余計にこんがらがる」

「まったくだ」


 そうこうミトと話をしていると、イヨリがフラフラと歩いてくる。そしてどんよりとした黒いオーラを纏い、ガックリとうな垂れながらも申し訳なそうにジンタを上目遣いに見て、


「あ、あのジンタさん……」


 縋るように呟く。


「ん、分かってる。まあしょうがないよイヨリのミリアに対してがんばって欲しいという気持ちも分かるから」


 言いながら、ジンタはイヨリの黒髪をポンポンと優しく叩く。

 こういうときのイヨリは、やたらと素直で可愛らしいなとジンタは思う。


「で、どうするんだ? まあミリアは走って行った方向から、恐らくエルファスのところだと思うけど」

「ん~とりあえず、なんとかミリアの気持ちも分かってあげないと、こと魔法に関しては俺達より、きっとミリアの方がずっと神経質に気にしてると思うんだよなぁ」

「そうなんですよね。何度魔法の基礎の本を読んでも、書いてある意味が分からないって言うばかりで、どうしても理解出来ないって……、あの子言ってて……」


「とりあえず俺は、変態だけど魔法に詳しい人に相談してくるよ」

「え? あの人にですか?」

「大丈夫か、ジンタ?」


 それでだけでだれか分かってしまう相手だ。


「ああ、最近は結構慣れたというか、まあ普通に相談に乗ってくれるから助かってる部分もあるんだよ」

「それって油断させる為じゃないです?」


 イヨリの不安そうな顔に、


「それはあるかもな」


 ミトも頷く。


 自分以上に警戒する周りに、ジンタの方が苦笑する。


「とりあえず俺は学校に行くから、ミトはエルファスのところに行ってミリアをなだめてくれ。イヨリは何か甘いモノでも作って待っててくれ」

「わかった」

「はい」


 二人の返事を後ろに聞きながら、ジンタは学校へと歩き始める。


 ミトとイヨリも、それぞれに自分の役割に向かい動き出す。


 最後に、大きな木の下で固まったままのリゼットだけが残された……。




「こんちわ」


 ジンタは言うと同時に保健室のドアをスライドさせた。


「む? 君は女性の部屋を訪ねるのに、まずノックというモノをしないのか?」


 保健医が、得体の知れない液体の入った試験管を両手に持ち非難を口にする。


「いや~、そりゃあ普通の女性にならそうするけどさ、あんたはあれでしょ? 着替えとかって週に一回とかじゃない?」

「失敬な、ちゃんと三日に一回は着替えているぞ。そうしないと治療にきた生徒達に臭いといわれるからな」

「ははは……、ちょっと冗談だったのに、三日かよ……」


 言っておいてなんだが、ジンタの方が驚いた。


「まあそんな話はどうでもいい。で、何を聞きに来たんだ?」


 試験管を置き、道具そのものをテーブルの端に追いやり、保健医は向かい合う席を用意する。


「いや、それがさ、ちょっとうちの家族のことなんだけど」

「ミリアのことか?」


 冷蔵庫の中から飲み物を取り出し、カップに移しながら保健医が即座に答える。


「そそ」

「ふむ、となると魔法のことか?」

「おぉ。分かるのか?」

「私はこう見えてここの保健医だぞ?」

「へ~~、保健医ってそんな忙しくて、色々と生徒のことを調べるのか?」


 保健医はテーブルに冷たい水の入ったカップを置き、ジンタに席と水を勧める。


「いや、その逆だ」

「逆?」


 ジンタは夏の強い日射しで乾いていた喉に、冷たい水を流し込み潤しながら聞き返した。


「そうだ、ほんと暇すぎてつい色々と調べてしまうのだよ」


 サラッと保健医は答える。


「暇なのかよっ!」

「今更何を言ってるんだ。君はここに来たとき私が忙しそうにしていたのを見たことあるか?」

「そういえば……、ないな?」

「だろ」


 ジンタがいくら思い浮かべても、この保健医はいつもこうして平然とここに居て、当たり前のように飲み物を出しては話相手になっていた。一度として居なかったことなどなかった……。


「言われて初めて気付いたぜ……」

「ふっふっふ。いつもここに居る私を敬うがいい」

「俺より暇人なのか……」

「うむ、最近では君が尋ねてくると、少し嬉しく感じる程、暇なんだ……」


 二人は、同時にカップの水を口に含んだ。


「で、そんな私の偉大さはどうでもいいとして、一体ミリアのことで魔法の何を聞きたいんだ?」

「いや、なんかさミリアが教科書を読んでも、魔法のことがよく分からないって言ってて、あいつは実技でも魔法がうまくいかないみたいだし、だから学科もって」

「ふむ、学科は教科書に書いてある問題をうめていくものだからな、あまり関係ないようにも見えるが……。しかし、あの教科書はここで何百年も使われ万人の幼いエルフ達に理解出来るようにと、修正に修正を重ねてきた本なんだがな……」


 一度「ふむ」と保健医は考え込み、無造作に立ち上がり部屋の隅にある棚から、一冊の本をとり、座って待つジンタの前にその本を置いた。


「これは?」

「ミリアが使っているのと同じ魔法の本なんだが、君も読んでみるか?」

「ほ~~~、じゃあちょっとここで読んでいいか?」

「ああ、読めるものならな。私は少しトイレに行って来る。もちろん大きい方だ」

「そこまで言わんでいいっ!」


 ジンタの非難の声に、メガネの真ん中をクィッと動かし笑みを浮かべたまま保健医は部屋を出て行った。


 ジンタは、置かれた本。

「魔法の基礎」と書かれてる本を手に取りパラパラとページをめくる。


「えっと、魔法を使う時は、こんこんと湧き出る泉から水をすくう様に魔力を両手に集め、それを現実世界に溶け込ませ使用する」


 ――魔法は基本的に三つの組み立てを必要とし、まずは使う魔法を、対象で使うか、範囲で使うか。そして次に魔力をどれ位で消費し使うか、もしくは継続で消費し続けるか。そして最後にその魔法名。この三つの仕組みをうまく組み立てることで発動する。


 ――例えばファイアの魔法を例にすると。――まずはファイアを掛ける相手が対象か、範囲か。

 次にどれ位の強さで魔力を使うか、それとも魔力を消費し続けて永遠と燃やし続けるか。

 最後に魔法名であるファイアと唱えることで、魔法が発動する。


 この時、自身の中ですくった魔力量以上は効果を発揮しない、最悪魔法は発動しなくなる。特に継続させる時は魔力の湧き出る泉から水をかき出し続けるような行為に等しく、魔力はすぐに尽きてしまうので注意が必要だ。


「なるほどなぁ……。これはこれで何となくだけど分かるような気がするけど……」


 ジンタは、考え込むように首を傾げ腕を組み唸った。


 そこにちょうど保健医が帰ってきて、


「やっぱり、そうなるよな」


 さも可笑しそうに笑いつつ、ジンタの向かいへと座った。


「先生さ」

「なんだ?」

「ここに書かれている、こんこんと湧き出る泉の意味がミリアは分からないのかな? それとも、この魔法の組み立てのところかな?」


「……………………」


 ジンタが、読んで得た情報のどこでミリアがよく分からないのか尋ねたが、保健医は珍しく何も返事をしてこない。


 本に目を落としていたジンタは、いぶかしそうに顔を上げた。そこには今まで見たことないほど間抜けに口をぽかーんとさせた保健医の顔があった。


「おい、どうしたんだ?」


 余りに異常な光景に、ジンタが心配になり肩を揺する。


 保健医はゆっくりとジンタを見、掠れるような声で、


「君は、君は、この本が本当に読めるのか?」


 と本を指差した。


「ああ、確かに魔法のことがよく分かるように、子供向けに書いてあったけど……それが――」


 どうした? と言おうとしたジンタの両肩を保健医はガッチリと押さえ込み、


「やっぱり君!」

「な、なんだ?」

「解剖させてくれっ!」

「断るっ!」


「「……………………」」


 見つめ合ったままのしばらくの沈黙、保健医は肺の中の空気を全部吐き出すほどの長い溜め息を吐き、ジンタを離してイスに座った。


 ジンタも、チカラを抜いてイスに深く腰を落とし、


「一体、いきなりどうしたんだ。あんな取り乱すなんてあんたらしくもない」

「何を言う。今私はエルフの歴史の中で初となる可能性を目にしているのだぞ? とんでもなく由々しき自体かもしれないんだぞ? それほどまでの事態に私の心臓がまだ急停止せずに、ちゃんと動いているのが私自身不思議なくらいだ」


 いつもは興味なさげに淡々と話す保健医の口調が、今はとんでもなく饒舌に熱の篭もったものへなっている。


「お、おい、ほんとに大丈夫か?」


 ジンタが本心で心配するように手を伸ばすと、保健医はその手を掴みジンタを睨むように見つめ、


「いいか、君はこの本を。エルフ以外に読むことの出来ないはずの、この魔法の文字で書かれた本を読んだんだぞ」


 ゆっくりと、自分にもジンタにも染みこむように、本当にゆっくりと告げた。


「――……は? エルフ以外?」


 ジンタは間の抜けた声で呟く。


「そうだ、読めないはずなんだこの本は。つまりこの魔法文字は、な」

「え?」

「どんなに魔法のようなスキルを扱う『召喚されし者』たちに教えても、なぜかすぐ忘れ、理解してもらえないのがこの魔法文字なんだ」

「だ、だって、俺は普通に……」

「そう、だから君をもっとよく知りたいと、私は――」


 そこまで言って、保健医は急にイスからずり落ち、地面に膝をついた。


「ど、どうした?」


 ジンタが慌てて駆け寄る、


「す、すまん。頭に血が上りすぎた…………」


 それにはジンタの方が、ガクッっとコケそうになった。


 少し落ち着かせる為、保健医を座らせ飲み物を手渡す。

 二口ほど水を含み、さらに大きな深呼吸の後、保健医はイスから立ち上がりもう一度ジンタの手を掴む。


「来い、実験をしようではないか」


 強引にジンタの手を引っ張り、保健室の出口に向かい歩き出した。


 移動中、ジンタは「まさかこのまま解剖されるのでは?」とも疑ったが、どうもそうではないらしく、保健医は校庭の一角、弓道場にあるまとのようなものが立つ場所へとジンタを連れてきた。


「さて、ここは基本的な攻撃魔法の練習をする場所なんだが、どれ、君があの本を読め、さらに魔法が使えるのかどうかを私に見せてくれ」


 保健医はそう言い、ジンタに自分の指にはまっていた指輪を手渡した。


「それは魔法を使う媒介として作られた指輪だ。君は右利きだろうから、右手のちょうどいい指にはめるといい」


 ジンタが戸惑いながらも指輪を小指にはめる。それを見てから、保健医はジンタの斜め後ろに立ち、指導をするように口を開いた。


「ではまず右手を、正面の的に向けて――――」




 空が真っ赤に染まる夕刻、無言の家の中、イヨリはミリアと二人でリビングのソファーに座っていた。


 いつもなら、二人の時は隣同士で座るのだが、今日は朝のケンカもありテーブルを挟んで向かい合い座っている。

 しかもミリアは、戻って来てからずっとイヨリと目を合わせようともしてくれない。


 テーブルにはミリアの大好物である季節物の甘い果物を使ったパイを作って置いてあるのだが、一口も手を出して食べてくれない、そんな状況だった。


 何度か話掛けようと手を差し伸べるが、その都度ミリアが拒絶するように余計に首を後ろに向け、タイミングをいっされてしまう始末。


 ――もう、私一人じゃどうしていいのか分からない……。後はジンタさんが何とかしてくれないと……。


 イヨリは情けなくも、自分からの解決をあきらめ、ジンタの手助けを待つように黙って座っているしか出来なくなっていた。


 そうこうしているうちに日は沈み真っ暗となった。


 ジンタが戻らない為、どうしていいか分からず困ったイヨリはとりあえず夕食の準備をへと台所に向かった。

 作っている最中もミリアが気になり、何度も何度もリビングに目を向けてしまう。

 夕食も出来上がり、テーブルに並べてもまだジンタは帰ってこない。そしてミリアとも会話が一つも無い。

 泣きたくなるほどのどうしようもない時間だったが、その時間も家のドアが壊れるほど激しく開いたことで終わりを告げた。


 ビックリしながらイヨリは扉の前に立つ人物を見た、そして安堵の息をこぼした。


 家のドアを壊れるんじゃないかというほど激しく開けたのは、他ならぬジンタだったからだ。

 激しく息を切らせ、額からは汗の粒が大量に頬へと流れ落ちていく。

 きっと、学校からここまで走ってきたのだろうとイヨリにも予想は出来た。


 息を切らせたまま、ジンタはミリアとイヨリに向け口を開いた。


「二人共、ちょっと外に来てくれ」


 イヨリは戸惑った目でミリアを見ると、ミリアも驚き困ったようにイヨリを見ていた。

 今日、ケンカをしてから初めて目が合った、とイヨリは内心で喜びつつ、先にソファーを立ち、ジンタの言うとおり外へと歩き出す。

 後ろから、ミリアも立ち上がり後をついて来る気配を感じながら。


 ジンタは、二人が出てくるのを確認して「こっちだ」と言い、家の裏口へと歩いて行く。

 イヨリがジンタに続き、最後にミリアがついていく。


「これでいいかな?」


 ジンタが、適度に太い木を触り呟く。それからイヨリ達に「少し離れててくれ」と言い、自身も十歩ほど木から離れる。


 イヨリは、ジンタが何をするのか分かりかね、おずおずと尋ねた。


「えっとジンタさんは一体何を?」


 それに対しジンタは笑みを浮かべ、


「ちょっと見ててくれ」


 と右手を木に向けながら答えた。


「はぁ……」


 困ったように小首をかしげイヨリが見ていると、ジンタが「じゃあいくぞ」と合図をし、目を瞑った。


「はああぁぁぁっ」


 低く、集中するように声を出し息を吐いていくジンタを、イヨリとミリアは黙って見つめている。

 声が止まり、カッとジンタが目を見開くと同時に、ジンタが叫ぶ。


「ファイア」


 出されたジンタの右手、その小指にはめられた指輪が輝き、ジンタの伸ばした手の先に火の玉が現れ、ジンタが「ハッ」と気合いを入れ、押し出すように声を張り上げると、火の玉は木へと向け一直線で飛んでいき、ぶつかってぜた。


「「――え?」」


 火の玉が直撃し、くすぶっている木を見つめイヨリはボー然と呟く。

 隣では、ミリアもイヨリ同様ぼー然としている。


 そこへ再度ジンタの声、


「サンダー」


 まばゆい光の線が、くすぶっている木へと当り「バチイィッ!」と弾ける。


 さらに数秒の間をあけ、


「ウインド」


 ジンタが唱えると、くすぶり煙る木に切り込み傷を作った。


「ジンタさんが……」


 口が動くも、頭が理解に追いつかずそれ以降が続かない。そんなイヨリの手を、ギュッとミリアが掴んだ。

 きつく掴むミリアの手のぬくもりがイヨリを正気に戻した。


「あの、ジンタさん、それは……」

「ああ、何か俺、魔法が使えるみたい」


 まだ少し息を切らせながらも、嬉しそうに満面の笑みで自分を指差すジンタ。


「ジンタさんが……、魔法を?」

「保健医の話だと、ミリアとの赤い糸の繋がりで俺って召喚石がないために、行き場をなくした魔力が体を循環してるんじゃないかって。それ以外にも理由があるかもしれないけど、詳しくは分からないって」

「……そ、そうなんですか」


 嬉々としてしゃべるジンタに対し、イヨリの手を掴むミリアの手は、イヨリが痛いと思うほどキツく握ってくる。

 イヨリは、その一杯に握られる手の痛みと、それ以上に突き刺さるようなミリア放つ殺気に冷や汗が背を伝う。


「いや~~、なんか新しい世界を見ている感じだぜ」


 そんなミリアに気付きもせず、ジンタはぺらぺらと口を動かしていく。

 イヨリは、恐る恐る自分の手を握ってるミリアを見た。


 初めて見るいつも可愛いミリアの鬼の形相と、そこまで大きくふくらむのかと驚きを隠せないほどのふくれっ面に、ある種感心した。


「なな、どうだ? 俺すごいとおもわね?」


 あまりに鈍感すぎるジンタが、限界スレスレのミリアにそう問い掛けると、ミリアは無言のままイヨリの手を引っ張り、家に入り「ガチャリ」と扉を閉めた。


 外からジンタの戸惑いの声、


「ちょ、ちょっとなんで鍵掛けるんだ? なあここ開けてくれよ」


 情けなく扉をドンドンと叩くが、ミリアはわざと気付かない振りして、


「わあ~~おいしそうなご飯。いただきま~~す」


 と、テーブルの夕食を食べ始める。


 イヨリはミリアの隣の席に座り、モクモクと食べるミリアを見て考える。


 ――これは誰が悪いのか。


 ミリアと自分の魔法に関する問題が原因で、ジンタが間に入るため学校に行った。

 にも関わらず、そのジンタが嬉しそうに「俺、魔法使えるようになった」と報告し嬉々として実演をした。


 つまり結果論で言えば、ジンタは、ミリアのイヨリに対する怒りをなだめるのではなく、より強い怒りをミリアに売ることで、イヨリの問題を解決したことになる。


 が、それは結果であってイヨリも見ていたが、ジンタは心底楽しそうにしていた。

 これは完全に自己満足をしてきただけだとイヨリも思う。


 よって、この件に関しては、ジンタが一番悪いとイヨリも判断した。

 イヨリは「ふむ」と頷き、仲直り出来たミリアと一緒に夕食を食べ始めた。


 そしてジンタは、以降三日間ミリアから一切口を利いてもらえず。イヨリからも一緒になってツンとされたのだった。

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