表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/162

超有名モンスターと綺麗だ

 次の日、まだふて腐れていたミリアをエルファスとロンシャンに頼み、なんとか機嫌を直させ学校に行かせた後、今日も行く気満々のミトとリゼットにイヨリが笑みを張り付かせ、


「今日は私がジンタさんと依頼をします」


 と断言し、二人を渋々と退散させた。


 イヨリがテキパキと洗濯をしている中、ジンタはリビングのソファーに座り、ボーッとしていた。そして気付いたことがあったのでイヨリに尋ねた。


「今日ってリカさんは?」


 イヨリは洗濯カゴを持ったまま立ち止り、


「きっと、今日は依頼じゃないですか?」

「へ~~、なんかリカさんってそういうのあまりやらないように見えるけど……」

「まあ、あまりやらないですね。でもあの人って特殊技能がありますから。結構、いい収入の依頼をたまに受けるんですよね」

「いい収入?」

「ええ、グリズリーってクマじゃないですか?」

「ですよね?」

「ハチミツの匂いにすごい敏感で、しかもるのうまいんですよ」

「へ、へ~……、リカさんにそんな特技が……」

「ちなみに雪目さんなんて、高収入の定職みたいなものですよ?」

「雪目さんが?」

「ええ、ジンタさんも知ってると思いますが、うちにもある冷蔵庫分かりますよね?」

「あるねぇ……」

「あの冷蔵庫の上と下には実は氷が入っていて冷やしているんですが――」

「雪女の能力っ!」

「はい、しかも雪女の作る氷は、よく冷えて溶けづらいのが特徴で、どこでも引っ張りだこなんですよ」

「へ、へ~~~~、それは意外な使い道の獣人化能力を知ったよ……」

「ですよね~。私みたいにただのチカラバカなんかよりずっといい能力ですよね~」


 イヨリが、珍しく羨ましそうに溜め息を漏らす。


「いや、まあそれでもイヨリさんは強いし、料理や洗濯や掃除だって何だって出来るんだからいいじゃないか……俺なんか……。はぁ~~」


 言ってて、悲しくなりジンタも溜め息を漏らした。


「でもそういうのって、他の畑はよく見えるって言いますからね。きっとリカさんや雪目さんだって、私達のことを羨ましいと思ってるかもしれませんよね」

「そ、そうかも知れないよな」

「はいっ」


 そこまで言って、イヨリは洗濯を干しに外へと出て行った。


 ――なんか……、またなぐさめられたな……。


 鼻歌交じりに、良い天気の中で洗濯物を干しているイヨリを、リビングの開けた窓越しに眺めながらジンタは心の中で呟いた。


 洗濯も終わったイヨリが、ジンタに「そろそろ準備してて下さいね」と告げ、台所へと向かった。

 ジンタはいったん自分の部屋へと戻り、直剣や革の鎧などを着込み、最後にショルダーバッグを右腰の後ろに固定して準備を完了させる。


 リビングに戻ると、イヨリもジンタのショルダーバッグに近い大きさのカバンを肩に担ぎ待っていた。

「さあ行きましょう」と促され、ジンタとイヨリは隣に立ち歩きだした。


 いつも通りの混雑を見せる役所の奥へと進み、イヨリは「採集」と書かれた場所で、何かを探しだした。そして見つけたのか二枚の紙を引っ剥がしてきた。


「やっぱり最初の依頼はこれがいいですね」


 手渡された一枚の紙には『薬草採集』と書かれている。


 受付を済ませ、依頼主である道具屋のおばあちゃんに薬草を入れるバッグを手渡され、ジンタとイヨリは、北門から出て道なりに歩いて行く。道なりに三十分ほど歩いた辺りで、今度は獣道に近い細い道へと入り、歩いて行く。

 一〇分ほど森の中を進むと、少し木々の少ない開けた湖畔へと辿り着いた。


「さて、ここですよジンタさん」


 イヨリが立ち止まり、太い木の枝に自身の大きなバッグを引っかけ、ジンタに向き直る。


「ここが……?」


 確かに開け気味のスペースに二十センチほどの草が生い茂っている。イヨリはおもむろにその草を摘み、


「これが依頼の薬草です」


 と教えてくれた。


「これを摘めばいいのか?」


 見渡せば、辺り一面に同じような草が生えている。

 こりゃあほとんど全部が薬草なんじゃないか? とジンタが思うと、イヨリはジンタの考えを読んだかのようにさらに口を開く。


「ここの生えている草は、ハッキリ言って全部薬草ですよ。だから集めるというのは楽なんですが……」


 そこで言葉を止め、イヨリは少し離れた場所に指を向ける。


「あれが大量にいるので、結構不人気な場所なんです」


 イヨリ自身もやや眉を顰め、嫌な顔をする。


 ジンタがそんなイヨリの表情を確認しながらも指差す方を見ると、草がガサガサと揺れ、地面を何かが這って出てくる。


 緑のブニョブニョしたような物体。

 ジンタはその物体を見て、


「あ、あれって……」


 感動に声が震えた。


「ええ……、スライムって言うんですけど……」

「やっぱり……」

「ジンタさん、なぜ嬉しそうな顔してるんです?」


 イヨリ言われ、ジンタは自分がにやけてることに初めて気付く。


「え? いや……、これは……」


 必死にゆるむ顔をなんとかしようとするが、こいつなら絶対大丈夫。と、ほっこりとしてしまうのが王道にして初期に現れるモンスター、スライムなのだ。

 そして、モンスターという存在でありながら、ある意味もっとも有名な幻想生物と生で対面している喜びにジンタは浸ってしまったのだ。


 そんな緑色のブニョブニョスライムに、イヨリが獣人化し、岩の手で掴み握り潰す。


 ブシュッ


 まるで袋に詰まった水――、いや、もっと固体に近いゼリーのようなものが潰れるような音が響く。


「ジンタさんはどうもこのスライムを知ってるようですので、見せて説明しませんが――」


 少し不愉快そうに、そして不機嫌にイヨリが頬を膨らませる。


「い、いや。スライムっていうのは俺の居た世界には実在しなくて、でも有名でよく知られていて――」

「とりあえず、こいつが一杯出て来ますから、気を付けて下さい」


 慌てて言い訳するように答えるジンタの言葉を、さえぎりイヨリに言われると、ジンタの視界のいたるところの草がガサガサと揺れ、赤や黄色や緑や青、更にはピンクや白のスライムが大量に出てくる。


「こ、こんなに一杯……」

「大丈夫です、こいつらに人をケガさせるほどの殺傷能力はありませんから、安心して倒して下さい」


 動揺したジンタにイヨリが言い、近づくスライムにゴーレムの拳を見舞う。

 あっさりと潰れ、ゼリーのような液体をまき散らすスライム。

 ジンタも腰の剣を抜き、近づく一体に向け剣を突き刺す。



 ブリュッ



 ビニールを突き破り、ゼリーの様な感触を手に感じ、ジンタは剣を引き抜いた。

 抜いた箇所から、スライムの体内のゼリーのような液体が勢い良く飛び出す。


「なんかすごい飛び散るな……」


 背中合わせで立つイヨリに聞こえるように言うと、


「不人気な理由は、それなんですよ……」


 後ろから返ってくるイヨリの声は、さも嫌そうだ。


「どうして?」

「倒すと飛び散るじゃないですか?」

「うん」

「洋服が……、汚れるんですよ……」

「……なるほど」


 確かに、それははた迷惑な話だとジンタも納得した。


 それから二人は、ひたすらモグラ叩きのようにスライムを、突いたり、切ったりしていく。スライムが出てこなくなるまで、およそ二十分ほどだろうか。延々と剣を振り続けジンタは汗だくになり、息切れを起こしていた。

 背後から、イヨリのやや息切れしている吐息が聞こえる。


「出てこなくなった……?」

「そうですね、そろそろ用心しながら薬草集めちゃいましょうか」

「はい」


 ジンタは全身をスライムの体液まみれにしながら、剣を鞘に収め振り返った。


 そこには陽光が差し込む湖畔の木漏れ日の中、イヨリが不快感に頬を膨らませなが、黒髪にべっちょりと付着したスライムの体液を払っている姿があった。


 スライムの透明ながらも色のあるゼリー状の体液がイヨリの全身を濡らし、風によって揺らぐ木漏れ日から光が当り、キラキラと輝かせている。


「…………」


 いつも牧歌的で陽だまりのような印象が強いイヨリが、今は眩しい月夜に照らされた妖艶な女性のように見える。


「はぁ~~~~……」


 ジンタはその光景に、長い溜め息を吐いた。


 イヨリは、自分をジィ~っと見つめて動かないジンタに気付き、


「ええっと、どうしました、ジンタさん?」


 小首を傾げながら、心配そうに尋ねた。


 ジンタは数秒そのままイヨリを見ていた後、ゆっくりと口を動かす。


「……すごく綺麗だ」


 独り言の小さい声だったが、風が止み音のなくなった湖畔で二歩分ほどの距離。

 当然、イヨリの耳にも声は届いた。


「……………………………………。――――――え?」


 時の止まった湖畔に風が吹き、カサカサと葉を揺らす音が聞こえたとき、イヨリも声を漏らした。

 呆けていた顔が一気に真っ赤になり、イヨリはジンタに背を向けた。


「な、何を言ってるんですかっ! そ、そのいきなり変な事言わないで下さいっ」


 イヨリの上擦った声にジンタも我に返り、イヨリから背を向ける。


「い、いや、あの、ほんとすいませんっ! なんかつい口から出てしまったというかっ――ほんとすいませんっ!」


 背中合わせのまま頭を下げる。


「い、いえ、と、とりあえず、え、えーと……、薬草を――、そう薬草取らないとっ!」

「そ、そうですねっ! 薬草ですよ、うん。薬草ですっ」


 イヨリが足早に遠ざかるのを聞きながら、ジンタもイヨリとは逆の方へ早足で進み、スライムの体液のかかっていない薬草を摘み始めた。


 時間にして、一時間ほどだろうか、時々現れるスライムを素手で掴み放り投げながら、薬草を摘んだ結果、おばあさんから預かったバッグ一杯に薬草が集まった。


 立ち上がり辺りを見回すと、イヨリもちょうど同じように立ち上がるのが見えた。

 あんなことがあったせいか、二人揃って互いに結構離れた位置まで移動していたようだ。

 まだ幾ばくか残る気恥ずかしさのせいか、どこか不自然なところもあったが、二人は帰路へとついた。


 獣道を抜け、街道を少し戻ったところに流れる川辺でスライムの体液を落とし、イヨリが持って来ていた着替え(イヨリが大きなバッグを持っていた理由)を済ませ、お昼用にと作ってくれていたサンドウィッチを頬張りながら街へと向かった。


「前に一度、この薬草取りの依頼をミリアと二人で一緒に来たことがあるんです」


 歩きながらのサンドウィッチを食べ終わり、無言だった中、突然吹き出したイヨリが口元を押さえながらジンタに話始めた。


「ミリアと?」

「はい、あの子がまだ小学二年生のときだったですかね」

「じゃあ六才か七才?」

「それぐらいです。スライムはあまり危害がないことを知っていましたから、どうしても一緒に依頼に行きたいって駄々をこねるあの子を、しょうがなく連れてきたんですが……」


 イヨリはそこで一回口を止め、クスクスとまた笑い出し少し落ちついてから、


「あの子ってばわざとスライムに襲われて、体にスライムをいっぱい引っ付けて、大喜びで走り回ってたんですよ」


「ミリアが?」


「ええ、確かにスライムのチカラでは人は殺せないですが、それでも口を塞がれるとか、喉に詰まるとかすれば大変ですから、私が何とか引き剥がそうとしてたんですが、あの子ってば「イヨリと鬼ごっこだ~~」って言って、ほんっと大変でした。今となっては面白かった思い出ですが」


 イヨリは、顔全体を綻ばせる。


「な、なんかすごい想像つくな……」


 ジンタの頭の中で、スライムを体中に引っ付けて逃げ回るミリアと、それを追い掛けるイヨリの姿がすぐに想像出来てしまう。


 それから他愛もない話しをしながら、二人は街の北門をくぐり、道具屋のおばあさんの元へ行き依頼の完了を報告し報酬をもらった。


 イヨリに付き添い買い物を終え、南門をでたところでジンタは立ち止った。

 薬草取りの帰り道からここまでの間で、ジンタは自分のこれからのためにもどうしても確認しておきたいことを考えていた。


 そして、その為にある人物に会うべきだと判断していた。


「どうしました?」


 イヨリが少し戸惑ったように尋ねる。


「えっと、俺ちょっと学校に行って来る」

「今からですか? ミリアならもう帰って来てる頃かと」

「いや、ミリアじゃなくて……、一応俺の左腕を治してくれた人の……」


 そこまで言うと、イヨリもあぁと言い頷いた。


「ちょっとお礼言ってくる」

「そうですね。――でも一応気を付けて下さいね」


 やや真剣味のある顔と声で、イヨリが忠告してくれた。


「分かってる、大丈夫だって」


 ジンタは笑み、イヨリに手を振り学校へと歩きだす。


「さて、あの変態保健医はどこまで教えてくれるだろうか……」


 学校へと向かい歩きながらジンタは呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ