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条件

 着の身着のままの格好でジンタ達は第二階層から第三階層へと上った。


 そこはしんしんと雪が降り積もっている静かな雪国のような場所だった。

 上がった先の街自体はやはり第一階層のラペンの街や第二階層のカナンのように中世ヨーロッパ風の石造りの建物が多い場所だった。


 第三階層に到着するなり、用意されていた三台の馬車に乗りジンタ達は街の中を突っ切って進んだ。


「なんか懐かしい感じがする……」


 暖かな馬車の中から外を眺めていたミリアが呟く。


「懐かしい?」


 隣で同じように外を見ていたあーちゃんが首を傾げる。


「まあ、こんな静かで雪国風だと確かになんか懐かしいって感じになるよなぁ」


 ジンタも何となくそんな感じに思えていたので、感慨深げに頷いたが、


「そうですか? 私の居たところはどちらかというと暖かいところでしたから、雪景色に懐かしさはあまり感じないですけど……」


「あーちゃんもだよ~」


「え? ああ、そう言われるとそうかも知れないな。俺も暖かいところで懐かしいって感じたことはないし、この景色を見て懐かしいって思うのは、きっと小さい頃北国に住んでいたばあちゃん家によく行ってたことがあったからだと思うな。だとすると、もしかしたらミリアの生まれた場所って、ここのような雪の多い場所だったんじゃないか?」


「……うん、そうかも知れないね」


 外を見つめたままミリアは頷いた。


 ミリア達マスターは小学校に上がる前の記憶を持っていない。

 どうしてなのか、それは分からない。

 ただ全員がそうなのだと考えれば、必然的に消された、もしくは封印されたと考えるべきなのだろう。


「しかし、なんでそんな小さい頃の記憶を消したりするんだろうなぁ」


 ジンタも降る雪を見つめながら呟いた。


「懐かしいのは当たり前でしょう」


 それまで腕を組み、ジンタ達とは対面の座席にに一人で座っていたシリルがそれに答えるように語り出した。


「なんせマスターであるエルフ達はここで生まれ育ったのですから。それに小さい頃はご自分の母上と一緒に住み、色々な話を聞き成長しておられた。それらの記憶の中には、きっと上の階層での出来事や情報などもあったでしょう、小さい頃とはいえ、そういった情報を下に持っていかれ、健やかな成長の妨げになっては困るので記憶を封じて第一階層の小学校へと送り届けられたのですよ」


「「「へぇ~~そうなんだ」」」


 ジンタとミリア、そしてイヨリまでもその理由に感心したように頷いた。

 あーちゃんだけは初めて見る街並みに眼を奪われていた。


「それともう一つは、学校へと上がりご自分の喚び出した『召喚されし者』、つまり新しい家族と早く絆を結べるようにするためとも聞いています」


「「「へぇ~~~」」」


 さらに頷く三人。

 そしてジンタは「ん?」と首を傾げた。


「あれ? ちょっと待て……。えっとここってミリアの生まれた街?」


「ええ、そう言ったでしょう。ここはマスター達の生まれ故郷ですよ」


「「「ええっっ!!」」」


 三人は同時に絶叫し立ち上がった。

 あーちゃんだけは「むお?」と街並みから目を離し振り返った。


「じゃあじゃあ、ここにわたしのお母さんもいるの?」

「ええ、おられますよ」

「ほんとに!」

「ええ、本当です。なんせこの私もお会いしたことがありますから」

「わたしのお母さんに会ったのっ!」

「はい、何度かお会いしていますが、最後にお会いしたときはミリアリタ様がやっとご自分で立って歩き始めた頃でしたね。一応私もマリー様の嫌がらせで恐れ多くもミリアリタ様を抱っこさせられましたから」


「「「ええっっ!」」」


 もう馬車の中では悲鳴に近い声が響き渡っていた。


「ちょ、ちょっと待て、シリルお前はミリアを知っていたのか?」

「そうですね、知っていた、というよりは思い出したというべきか、お前が我々の元に来た時、マリー様がミリアリタ様のお名前に聞き覚えを感じてな。それで問い合わせたところ、ミリアリタ様はマリアリタ様のずっと下の妹であることを知り、そして十数年前に実家に数日の間休養に戻られた際、生まれてまだ一年ちょっとのミリアリタ様と会ったことを思い出した、という訳です」


「ほ、ほえ~~……」


 ミリアが口をあんぐりとさせ、イヨリは「まぁ~」と口を押さえた。

 しかしジンタだけは、鯉のように口をぱくぱくさせてシリルを指差す。


「なんですか? 人に指を突きつけるなんて失礼ですね」

 シリルがぺしりとジンタの指を払う。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。って事は何か、ミリアはあの鬼のようなマリーの妹だっていうのか?」


「人のマスターであり家族でもある人に鬼とは失礼極まる言い方だが、まああながち間違いではないところもあるから多少は留意するとしましょう。そして、確かにミリアリタ様がマリー様の妹に当たるのは事実ですよ」


「ま、まじか……確かに見る度に似ているとは思ってたけど……。まさかほんとに血縁者だったとは……」


 ジンタは両手で頭を抱えた。


「お前はそれが事実として、一体何に頭を抱えているです?」


 やや不快そうに眉間を寄せてシリルが聞いてくる。


「そんなん決まってるだろう。将来ミリアがあんな性悪女になる可能性があるってことに対してだよ」


「お前は……、マリー様本人がいないと本当に言いたい放題言いますね」


「間違ったことを言ってるか?」


「愛すべき家族としては否定したいところですが、まあ客観的には半分ちょっと当たっているからしょうがないと言ったところもありますかね」


 シリルも幾分考えてから答えた。


「しかしだ。ミリアの姉があのマリーで、ミリアとあのマリーを産んだ母親がここ、この第三階層のこの街にいて、俺はミリアの家族でしかも兄であり父親でもあるから――」


「む? どうしたんですいきなり?」

「ジ、ジンタさん……?」


 全員が心配げにジンタを見る中、当のジンタは両手で髪を掻き毟るようにガシガシさせながら独り言のように先を続ける。


「つまり、つまりだ、俺は兄であり父親でもあるんだから、これって俺はマリーの嫁であり、ミリアの母親も俺の嫁ってことに――――」


「フンッ‼」


 完全に錯乱した状態でとんでもないことを口走るジンタに、イヨリは両手でジンタの頭を挟み込むように軽く叩いた。

 くらったジンタは動きを止め、瞳孔の開いた目をぐるっと上向け高速で走る馬車の背もたれに意識を失って倒れ込んだ。


「「おぉ~~」」


 ミリアとあーちゃんの感嘆の声。


「今のは何をされたんです?」


 逸らさず見ていた先の出来事(叩かれたジンタが気を失ったこと)がどうしてそうなったのか分からずシリルは興味にかられ、彼には珍しくやや前のめりになってイヨリに尋ねた。


「ええっと今のは、両手で脳を揺さぶって意識を飛ばしたんですけど」


「脳を揺さぶる? それはどういった原理で?」


 より興味をそそられたシリルがさらに身を乗り出す。


「え、ええ、私も水連さんから見せてもらったテレビのアニメというものの知識からなのですが、ああやって頭の左右に手を置いて、少しだけ空けた隙間で激しく左右に頭を揺さぶると脳が一時的に機能しなくなるとかなんとかで……」


「ほほ~~、それは興味深い。私も後で試してみましょう。彼に」


「あ、一応あまりやり過ぎると死んでしまうそうなので、適度に揺さぶるといいようですよ」


「なるほどなるほど、分かりました少し軽めにやってみます」


 こうしてジンタは、この後目を覚ましたあと再度シリルに脳を揺さぶられ、結局移動中の記憶がほとんど無いまま現地(第四階層)に到着することとなった。




           ※※※※※※※※




「ごめんなさいっ!」


 目を覚ましたジンタは、即座に土下座した。


 目が覚める少し前、ジンタは微睡まどろみの中で、イヨリの怒ってる声を聞いた。

 思い当たる節はなかったが、そのあまりの気迫というか剣幕というか、とりあえずこういうときは何も思い当たる節がなくともまず謝ることにしていた。怒っている理由などは後で確認すればいいだけなのだから。


 そう思って謝った。

 ――――のだが……。


 いつもならこの後すぐにイヨリから何かしらの反応があるはずなのだ、例えば「とりあえず頭を上げてください」とか「何で謝っているんですか」とか、とりあえず話をするためのきっかけになる何かを。


 しかし今回は長い、ジンタの中では何時間にも感じてしまうほどの長すぎる沈黙。

 砂におでこを擦り付けている状態からジンタは上目遣いにゆっくりと頭を上げていく。


 驚いた顔、何だこいつと言った顔をした仲間達の姿が見えた。


「あれ?」


 上目遣いのまま首を傾げるジンタに、一番近い位置で見ているあーちゃんも首を傾げた。


「お前目を覚ましていきなり土下座とか、一体どんな夢見てたんだ?」


 呆れたのだろう首を振りながらミト。

 それには同意とばかりにみんなが苦笑やため息を吐いている。


「い、いや……ははは……」


 何となく笑いつつジンタは立ち上がる。


「えっと、それでここって?」


 見渡せば、かなり広く天井も高い砂場にジンタ達はいた。


「なんかここって修練場っぽい感じに見えるんだけど……」


「「っぽい」じゃないですわ、ここはまさしく修練場ですわ」


 イラつき気味にリカが答える。


「そもそもここって?」


 第三階層のミリアの生まれ育った街で錯乱したように考えをこんがらかせてイヨリに意識をおとされ、そして途中目覚めそうになったところで今度はシリルに落とされたジンタにはここまでの記憶が一切無かった。


「第四階層の端、第五階層の入り口のすぐそばの詰所らしいですよ」


 やっぱり怒っているのだろう口調のイヨリが教えてくれた。


「そ、そうなんだ……。で、イヨリは何で怒ってるの?」


 ジンタがとりあえず今一番気になっていることを尋ねると、


「そりゃあイヨリさんだけが怒ってる訳じゃねえぜジンタ。ここにいる全員が怒ってるんだ」


 腕捲りするような素振りをして、松が振り返る。

 その見つめる先には、シリルとマルテネットがいた。


 シリルはいつも通りに憮然と腕を後ろで組んでいて、きっとこいつが何か言ったのだろうことはすぐに分かった。

 そしてマルテネットはマルテネットでハラハラしているのだろう、小動物のような童顔に心配してますと書かれているような顔で、胸の前で手を組んでおろおろとしている。


「えっと、シリルが何を?」


 シリルの性格上、人を逆なでするところがあるのは分かってはいるが、ここまで見事に全員を怒らせることが出来るとはさすがにジンタも気になったので聞いてみた。

 すると見事に殺気を放った全員がシリルに振り返り、


「この野郎が――」「この人がですね――」「こいつがなっ!」「この方がっ!」


 個々に口にし、全員が一斉に指差し、


「ミリアだけを連れて行くから私達はここで待ってろ、とか言ってきたんですよっ!」


 と、最後はイヨリがずいっとジンタに詰め寄り教えてくれた。


「ははは……そうかそうか……、ミリアだけを……」


 みんなの息の合った行動にちょっとしたお笑いのような面白さを感じたジンタが微笑み頷きかけたが、すぐにその意味を理解して、


「は? はぁ~~~~??? ミリアだけを連れて行く? なんだそれ?」


 当然のように納得出来ないことを、さらにはみんなと一緒の怒りと憤りを隠しもせずシリルに食いついた。


「何度も言うのは性に合わないですが、気を失っていたお前もいることだしもう一度だけ言いましょう」


 シリルは一度咳の替わりにのどを鳴らし、ピッとしている姿勢をもう一度正してから、


「我々はこれからミリアリタ様の『エターナル』の力を借りて戦線を押し返します。ですので、その間『エターナル』であるミリアリタ様を我々がしっかりと護衛し戦線にお連れする訳ですが、あなた方までも守り進むのは、本当にただの足手まといでしかないのでここで待ってて下さい」


 シリルは一欠片も悪びれた素振りを見せずそう言い切った。


「お、お前……本気でそれを言ってるのか?」


 ジンタの知っているシリルははっきり言って冗談は言わないイメージだ。だから今聞いたこともまじめに言っているのだとは分かっていた。しかしそれでもそう聞くしかなかった。


「ええ、本気ですよ。ここから先は本当の戦場です。まだ本当の戦場を知らないあなた達では足手まといどころかお荷物にしかなり得ないのは明白です。本来であれば『エターナル』であるミリアリタ様もお連れするのははばかれるですが、そこは現在の戦況を鑑みればそんなことを言っている状況ではないためお連れします。しかしあなた方はさっきも言いましたが、何の役にも立ちませんし、邪魔でしかない、だからここにいて欲しいとこれでも優しく説明しているのですがね」


 さらりと、むしろため息交じりにシリルは説明した。


「いやお前、その説明で俺達家族や仲間が納得すると思っているのか?」


「そうですね。きっと言われているのが私でも納得はしないでしょうね」


「じゃあ分かってるだろ?」


「ええ、ですからどうしたものかと、今考え中なんですよ」


 また溜め息を吐くシリル。


 当然そんなことでは納得出来ないジンタ達は、とりあえずシリルが考えている間待つことにした。


 しかし、待つこと三分シリルが考え中の間に動きがあった。

 ジンタ達のいる修練場に二人の人物が姿を見せた。


 一人はジンタも知っているシリルやマルテネットのマスターでもあるエルフのマリーだった。

 今こうしてミリアの姉と知って見てみると、確かに似ているとジンタも思う。


 そしてもう一人はジンタも知らない人物だった。

 仕事が出来るのだろうか、そう思わせるほど目つきが鋭い、そして少しきつめな赤みのある髪をアップにさせてメガネ掛けている。

 何となく家庭教師っぽく見えるなと感じたのがジンタの第一印象だった。


 そしてその後、ある人物とも似ていると思えた。

 種族がエルフで髪が赤髪ではなく金髪であれば某保健医に間違えそうな感じがする。


 もっとも大きな違いが一つ。これが一番の違いだろうこちらの女性は一応あると分かるぐらいの胸の膨らみがあるので絶対見間違えることはないだろう。


 そんな二人はみんなが見ている前を通り、シリルとマルテネットの前に立った。


「どう? 話は済んだ?」


 張りのある、しかもいかにも出来る女性のようなハキハキしたしゃべりでメガネの女性がシリルに話しかけた。


「あ、いや、一応話はしたんですが……」


 あのシリルが言い淀む。


 女性がくるりと振り返り、ジンタ達を見渡した。


「それでどうして皆さんがこんなお怒りに?」


 またシリルに向き直る女性。


「一応、待っていろと伝えたんですが……どうもそれでは納得出来ないようで……」


「それなら分からせればいいでしょう?」


「ア、アリスさん、いくら何でもそれは」


 さっきからハラハラして挙動不審のような動きをしていたマルテネットがより挙動不審に手足を上下に動かし口を挟む。


「何も全力でやれって言っている訳ではないですよ、マル」


 アリスと呼ばれた女性はそう言って小さいマルの頭をぽんぽんする。


「むっ? 全力でなくと言うことは?」


「獣人化しないでってことだけど、あなたには無理かしら?」


 挑発的に細めた瞳をアリスはシリルに向ける。


「ふんっ馬鹿にしないで下さい。こんな軟弱な奴ら獣人化しなくとも余裕で倒せます」


 挑発に乗ったシリルが一歩進み出てジンタ達の前に立った。


「とりあえずミリアリタ様の強化魔法を受けるメンバーの顔合わせはもうそろそろ終わりますから、この際シリル一人に対して全員一斉でいいわよね?」


 少し離れた位置に移動した後、マリーが大きな声で言う。

 すごく楽しそうに。


「は?」


 逆にシリルは驚きの顔で振り返る。

 こちらはマスターが参加しないとはいえ四家族の総勢一二人。

 さすがにジンタもシリルに同情してしまう対戦方式だ。


「シリル、一応相手も強化魔法なしよ」


 マリーの横に立つアリスまでも、楽しそうに付け加える。


「くっ! 後で覚えていろ」


 そう吐き捨ててシリルがこっちに向いた。

 その顔はいつものすました顔ではなく、余裕がないややお怒りの表情だった。


「あ、あの本当に全員でいいんです?」


 イヨリがさすがに悪いよなぁ~と言った感じで確認すれば、


「そ、そうか、じゃあ一家族――――」

「男に二言はないわよ! ねえシリル」


 マリーが、ここだとばかりに二言を言おうとしているシリルの声を止め、後に引けないような声掛けをした。


「くっ! な……い……、二言はないっ!」


 切羽詰まった本当に後がないような顔でシリルが叫ぶ。


「よしっ! じゃあ行こうか」

「へへへ、全員でいいのか、それはいいなぁ」


 全員が獣人化し、最初に前に出たのはミトと松だ。


「「いくぜ!」」


 そして二人の声が合図だった。


 修練場の砂をまき散らし二人がシリルを挟むように攻撃を始めた。


 ミトと松の息をも吐かせぬ連続攻撃をシリルは見事に全部防ぎきる。

 二人が同時に飛び退ると同時に、水音と雪目の水と氷の飛礫、さらに梅が砂の地面に両腕を突き刺しそこから持ち上げた二本の土の柱を、梅が拳でそして竹が自身の武器である大金槌で叩き、石の飛礫をシリルに向け放った。


「ぐっ!!!」


 水と氷と土の飛礫すべてを防げないと判断したシリルが歯を食いしばり両腕をクロスする。


 マシンガンのような音を響かせ水氷石の飛礫がシリルの体を通り過ぎる。


「ジンタさん」

「行きますわよ」


 さすがにかわいそうに見えて、どこか呆然としていたジンタにイヨリとリカが発破を掛け走っていく。


「お、おぉ!」


 二人とさらにラーナも詰めていた。

 ジンタは三人に遅れながらもシリルに斬りかかる。


「ぶっ!」


 シリルは執事然の服に大量の切り傷を付けながらも、リカとイヨリの重量級の攻撃を見事に躱しながら、ラーナの放つレイピア二刀流をもいなし、さらにジンタだけには遠慮の無い裏拳を叩き込んできた。


「み、みんないったん離れろ!」


 攻撃に参加しようとしていたミトと松、そしてさらに攻撃を繰り出そうとしていたイヨリ、リカ、ラーナが、ジンタの声を聞いて即座にシリルから離れた。


「ジンタ?」


 ミトが、なぜ止めた? と言った目で見てくる。


「あいつに同じようなやり方は通用しない。続けていたら反撃されていたからな」


 シリルの裏拳でいまだ痛む鼻を摩りながら答える。


「じゃあどうするんです?」


「次で終わらせるしかないな」


 イヨリの問いにジンタは即答で返す。


「どうやってですの?」


「こっちにも切り札があるだろ?」


 リカの問いを再度の即答で返し、ジンタはニッと笑う。


「ああ、あれか」

「あれ、やるんですか」

「あれはなぁ~」


 それぞれが何となく嫌そうな、それでいて仕方ないかと言った感じの表情。


「とりあえず行くぞ!」


 ジンタが声を張り上げ、そして走り出す。


「何をする気なのか分かりませんが、とりあえずあなただけには手加減しませんよ」


 ぐっと拳を握り締めるシリルを見て、やっぱこいつ俺にだけは反撃する気だ、とジンタは覚悟を決める。

 とはいえ殴られるのは嫌なので、攻撃する気を一切なくし防御にだけに意識を注ぐ。


 シリルの拳がぶれて見えたと同時に、ジンタはフォースソードを九〇度捻り、シールドソードを前面に向ける。


 っごごん! と衝撃が盾を叩く。


 さらに殺気を感じたジンタは、大きく飛び退く。


 その間に全員が次々とシリルに攻撃し一撃離脱していく、最後にイヨリのアイアンゴーレムの手がシリルと力比べの形に持ち込む。


「なるほど種族ゴーレムの力で私を抑え込む。これがあなた方の切り札でしたか、しかし力だけではこの私は抑えきれないですよ」


 勝ち誇るようにそう言い放ったシリルに対し、イヨリは笑みだけを返す。


「リゼットっ!」


 直後ジンタの叫びの後、「ギャッ!」とリゼットの声が響く。


 超重力操作。


「なっ!!!」


 シリルの驚きの声。


「いまだ、みんな行け――っ!」


 言うなりジンタは走り出し、力比べをしている二人の手前数メートルの位置から鎧の浮遊石の力も借り大きくジャンプしシリルの真上へ、そこで浮力を切りそのまま落下。ある位置まで落ちると体にとんでもない負荷が掛かり勢いが増す。


「ぐえっ」


 ジンタが押しつぶしたシリルからカエルの潰されるような声が聞こえた。

 そこにさらに次々と全員が飛び乗ってきた。


「ぐ、ぐぐ、ぐお」

「ぐ、ぐへあああ」

「ぐぶぶぶぶ……」


 次々にのし掛かってくる重みに、それぞれが苦しげに声を上げる。


 そして最後に、


「褒めてあげますわ。最後の私までがんばるとは。しかし、これで最後ですわ」


 勝ち誇ったリカの宣言。


「え? 最後にリカさん?」

「ちょっ、マジで? マジで? 最後リカなの?」

「あ、あうあうあう……」


 全員が戦く中、


「いきますわ」


 リカが飛んだ。


「「「ぎゃああああああああ――――――っっ!」」」


 ジンタの上から絶叫が響く、しかしそれも数秒後、凄まじい重圧に襲われ潰されたカエルのような声を全員が口にして静まった。


 さらに数秒後、今度はジンタの下から声が漏れた。


「ま、まいった……」


 風前の灯火如き、消え入りそうなその声を聞き全員が叫ぶ。


「「「「リゼットッッ!」」」」


「ぎゃっ!」


 脅されたように感じたのだろうリゼットが飛び上がる。

 同時に体に掛かっていたあり得ないほどの負荷が一気に和らぐ。

 もっともそれでも重さの差違はあれ一〇人分。


「ふはぁぁ~~」

「た、助かったぁ~~」

「く、苦しかったです……」


 折り重なったそれぞれが一言何かを口にしてどいていく。


 最後にジンタが退きシリルを見れば白目を剥いていた。


「あ……」


 初めて見るシリルの情けない姿に、何となくジンタはちょっとほくそ笑んでしまった。

 形ややり方はともかく、とりあえずあのシリルに一矢報いたことに。

 そして、これでジンタ達はミリアと一緒に行くことが出来ると言うことだ。


 ジンタはドヤ顔で振り返り、マリー達を見た。



 腹を抱えて大爆笑していた。



 いまだ白目剥いて気を失っているシリルを遠慮無く指差して、三人共如何にも腹がねじれてしまうような呻き声を溢し「シ、シリルの奴、白目剥いてる」「ひぃっひぃっやばいこれやばすぎる」「ふ、二人とも、わ、笑いすぎですよ~~ぷふふふふ」などと、目に涙まで浮かべながら大爆笑している。


 さすがにマリー達の態度を見て、シリルも苦労しているんだなあと気を失っているシリルにジンタも同情の眼差しを向けた。

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