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依頼の向き不向き

 次の日、ミリア達が学校へと行った後、いつものようにいつものメンバーがくつろいでいるリビングから、ジンタは部屋に戻り昨日買ったばかりの武器と防具を着込み、この世界に一緒にやって来たショルダーバッグを右腰の後ろに回しベルトで固定し、みんなのいるリビングへと戻った。


「ジンタさん、その格好は?」


 洗濯カゴを持ったイヨリが、目を白黒させて聞いてくる。


「いや、なんか昨日武器屋のオヤジさんに聞いたんだけど、証明書があれば役所で依頼を受けれるって聞いたから、少し見てこようかなと思って」


「依頼……、ですか?」


 どこか歯切れの悪いイヨリだったが、話を聞いていたミトとリゼットが目を輝かせジンタの隣に立つ。


「そっかそっかジンタ依頼受けに行くのか。だったらおれも付き合うぜ」

「リゼットも。リゼットも手伝うよっ!」


 二人は遊び感覚で乗ってくる。


「ですが……」


 二人が一緒でも不安げにするイヨリ、そこに今度はリカが、


「いいじゃありませんか。依頼は種類がいっぱいありますわ。ジンタさんでも出来る依頼があると思いますわ、きっと」


 適当な感じに言い、自分の前に置かれた紅茶に口を付ける。


 依頼を受けに行くのならとイヨリは洗濯カゴを置き、台所に向かい簡単ながらも立派なサンドウィッチを三人分用意してくれた。

 それを持って、ジンタとミトとリゼットの三人は依頼を受けるため家を出た。


 洗濯カゴを脇に置いたまま、イヨリはソファーに座り、


「はぁ~、ほんとに大丈夫でしょうか?」


 優雅に食後のお茶タイムと流行の洋服雑誌を退屈そうに見ているリカに呟く。


「そんなこと…………、知りませんわ」

「え? でもリカさんさっき……」

「あの三人で依頼探しからなんて、すごく面白そうではなくて?」

「お、面白いって……」

「それに、あの二人が居なくなるとここも静かになりますし」

「えっと、リカさん。静かでいたいなら、自分のお家に……」

「それでは、こうして少しパサパサしたクッキーと、少し苦みの強い安物の紅茶、それと暇つぶしのストレス発散ができるからかいがいのある人がいませんもの」


「……………………」


 小鳥のさえずりが三度ほど通り過ぎるほどの沈黙の後、イヨリは洗濯カゴを持ち、


「リカさん、明日からはウチには来ないで下さいね」


 コメカミに血管を浮かせて、イヨリが声を震わせながら言った。


        ※※※※※※※※


 ジンタ達は、満員電車もかくやの役所の一階、その最奥に来ていた。


「これが掲示板だぜジンタ!」


 ギュウギュウ詰めの中、ミトがやっとのことで掲示板を指差す。


「こ、これか……」


 ジンタは何とか人混みをかき分け、息も絶え絶えに最前列へと抜けだして、ミトの隣で掲示板を見上げた。


 もう一人の同行者であるリゼットは……、完全に人混みに流され行方不明になっていた。


「ここで自分に合った依頼を探して、掲示板に刺してある紙を取って、受付に持って行くんだ」

「へ~~~~」


 ミトの説明を聞きながらも、ジンタの目は掲示板の紙へと釘付けとなる。


「お使い」「狩り」「採集」「手伝い」など、掲示板の上に大雑把な目安が書かれている。中には「討伐」なんて物騒なのもあるが、その下には各種に合った依頼の数々が所狭しと張られ、一緒に数枚の紙が貼り付けある。

 依頼を決めたらその紙を取っていき、紙がなくなった依頼は終了となる感じなのだろう。

 ジンタは掲示板に目を走らせながら、ふと気付いた。


 ――あれ? 俺ってなぜこの世界の文字読めるんだ?


 書かれている文字はどう見てもみたことがないはずなのに、ジンタの頭はそこに書かれていることを理解出来ているのだ。


「なあ、ミト。俺さ、なんか文字読めるんだけど……」


 隣のミトに、どこか間抜けな質問をぶつけると、


「ああ、それな。なんかマスターの赤い糸の話聞いただろ?」

「うん、不老とか獣人石の維持とかだろ?」

「それそれ、その一種で文字も読めるようになるんだってさ。おれもなぜかここに来て、勉強なんてしたこともないのに、いきなり読めるようになってたし。もっとも、今はもう普通に読めるけどな」

「なんか、ある意味俺にとってそれが一番嬉しい付加価値なような……」


 ジンタは目を掲示板に向けたまま、感慨深げに答えた。


 さらに、もみくちゃにされながら十五分ほど自分の出来そうな依頼を探し掲示板を見ていたが、ジンタはどうしたものかと決めかねていた。

 そんなジンタに、ミトが掲示板から依頼の紙を三枚選んで取ってきた。


「さって、とりあえず依頼はコレいいだろ! 次はこれを受付に持って行くんだけど……、その前に行方不明のリゼットを探さないとな……」


 自分では決めかねていたジンタは、ミトの言う通りに頷き、リゼットを探すべく辺りを見渡した。

 そしてすぐに、そのリゼットは発見できた。

 あまりの窮屈に押されたりまくり、リゼットは地面に押し倒され、みんなに踏まれていた。



「みんなギュウギュウ押すからリゼット倒れちゃったんだよっ! でもその後もみんなリゼットが起き上がろうとする前に踏んでいくんだよっ!」

 泣きしながら語るリゼット。その緑色の大きなシャツの背中には色々なサイズと形の靴跡で芸術を描ていた。


 三人は、五列ほど折れ曲がっている受付の列、その最後尾に並ぶ。


「これは先が長そうだな……」


 ジンタが長蛇の列を見て言うと、ミトが頭の後ろで手を組みながら、


「いや、これなら少し待つだけで順番来るぜ」


 と気楽に答えた。


 ミトの言うとおり十五分ほどで順番になった。

 依頼の紙を三枚、受付と書かれた入り口の女性に渡すと女性は紙を確認した後、


「では証明書を見せて下さい」


 証明書を見せると今度は、


「狩りの依頼ですね。これは南の大通りの肉屋さんからですが、場所は分かりますか」


 目も合わせずテキパキと聞いてくる、


「場所はわかるぜ」


 ミトが答えると、依頼の紙三枚にドンドンドンと強めに大きな印鑑を押してから、紙を返してくれた。

 それから女性は、目を列の先頭に向け、


「では、次の方~」


 と声を上げる。


 ジンタとリゼットが多少証明書を見せるのにもたついたが、確認と依頼登録までわずか一分弱だった。

 受付窓口は全部で八つあるので、これなら確かに回転が早いわけだとジンタも納得した。


 ミトを先頭に、依頼主である肉屋へと向かう。

 南の大通りを歩いていると、肉屋はすぐに分かった。

 客寄せに大声をだしている店主にミトが近づき紙を見せる。


「オヤジ、依頼を受けてきたんだけどさ」

「お? おぉ、珍しいなミトが依頼を受けるなんて」


 ぷっくらした肉付きの良い顔についた、小さい目を大きく見開いて肉屋のオヤジが答える。


「まあな、たまにはいいだろ。それで今日の依頼ってどれを狩ってくればいい?」

「ん~在庫も心許ないからなぁ。イノゾー辺りが二匹ほど最低でもほしいな。それ以外も鹿やキツネやウサギ、なんてのも取れれば上乗せで依頼料弾むぞ?」

「わかった。とりあえずイノゾーをメインで狩ってくる」

「ああ、よろしく頼む」


 肉屋のオヤジと依頼の話を纏めてミトは歩き出す。

 ミトを先頭にジンタ達三人は街の大通りを西に向かい歩き、西門から街を出て三十分ほど歩いた森の中へと入って行った。


 そして森の中を歩くこと十分ほどで、少し開けた原っぱへとでる。

 そこから狩りはスタートとなった。

 始めにリゼットが空から獲物を確認し、見つけたらミトが追い掛けこの原っぱに誘導し、最後はジンタがトドメを刺す。と言う流れだったが……。


「ジンタっ! 行ったぞッ!」


 ミトの叫びを聞きながら、ジンタは盾を構え、剣を突くように構える。

 我を失ったイノゾー(イノシシ)が、ジンタを突き飛ばし逃げ切ろうと、体全体の毛を逆立て、マッサージ機の振動のように体をぶれさせながら向かって来る。


「であああああぁぁぁぁぁっ!」

「ブヒブヒブヒヒヒィィィィィッ!」


 ジンタは叫び突進して剣を突き出し、イノゾーは雄叫びを上げジンタに向けさらに勢いを増し突進してくる。


 一人と一匹が叫びながら交差する。


 …………そして、


 見事に吹き飛ばされ倒されたジンタの体を踏みつけイノゾーが走り去っていく。


「あぁ~、ジンタ~~」

「す、すまない……」


 申し訳なく謝るジンタだが、逃げたイノゾーには空から追い掛けたリゼットが風の刃でトドメを刺した。


 それから何度か、ミトが追い込んできた動物をジンタが倒そうとするも全部返り討ちにされた。


 しかも、これなら大丈夫だと思われたウサギには、振った剣を見事にしゃがんで躱され、その後、硬直しているジンタの顔をこれ見よがしに踏みつけて逃走された。


 依頼自体はジンタの失態の後、リゼットが風の刃でフォローに入り逃がさなかったが、ジンタが成功させた狩りは、結局ゼロだった。


 次の日、また三人で依頼に出かけ今度はリゼットが依頼を選んだ。


 依頼内容は『卵の調達』


 これならばとジンタは意気込んだが、調達予定である卵のある場所は垂直どころか、アールを描いてせり出している壁の中腹だった。


「…………………………」


 ジンタは、それこそ昨日以上に出番のないまま、リゼットが空を飛び、巣から回収してきた卵を預かる係しか出来なかった。


 ミトはといえば、ウサギのような下半身、その自慢のバネとスピードでせり出した崖を走って登り、卵を奪取してくるという荒技を披露していたが……。


 依頼を受けると言って二日でジンタは獣人化出来ない自分の情けなさと役立たずさに、心とプライドをズタズタのボロボロに打ちのめされた。


 そんなジンタの姿を、当然ミリアもイヨリも気付いていた。

 なんせ、初日の依頼を受けに行って、帰ってきてからずっとそれこそ楽しいはずの夕食の最中にも、何度も、何度も溜め息を付いていたのだから。


 イヨリとミリアは困ったようにそれを見ていたが、さすがにイヨリがこれ以上はと、口を開いた。


「ジンタさん、依頼の調子はどうですか?」


 ジンタは一瞬ビクッと体を跳ねさせ、それからひどく顔を歪めた後、出来るだけ平静を装って答える。


「あ、あ~~、まあ……。依頼自体は、成功、してるかな……、ははは」


 乾いた笑いをしながらの、辛そうな報告。


「そうですか。それで、この二日間一体どんな依頼を受けたんです?」

「え? えっと、狩りの依頼と、卵の調達依頼かな?」

「どんな感じのです?」

「え、えっと……」


 ジンタは辛そうに、この二日間の自分の情けなくも苦しかった狩りの内容を二人に伝えた。途切れ途切れに。


「はぁ~……、やはりですか……」


 イヨリは呆れたように首を振り、


「まったくあの二人は、ジンタさんに少しでもいいところを見せようとして、ほんとに……もう……」


 それでも、どこかしょうがないという感じの物言いをイヨリはする。


「えっと……?」


 ジンタは意味が分からずに首を傾げると、イヨリはジンタに目を向け、


「明日は、私がジンタさんと一緒に依頼を受けに行きますよ」

「うん、じゃあわたしも行くよっ!」


 ミリアも元気に手を上げたが、イヨリがキッと睨みを利かせ、


「ミリアは明日も学校あるでしょっ!」


 間髪入れずにたしなめる。


「っ~~~~~」


 頬を膨らませイヨリを睨むミリアに、イヨリも負けじと睨みを利かせる。


 結局ミリアが折れる格好で、唇を尖らせたままイヨリにそっぽを向いた。

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