最終戦 その後
ベンジャミン達との家族戦は、総当たり戦の最終である第六試合となった。
呼ばれ学校の外へと出ると、冬場前の空はそろそろ夕刻にしようかと思っているかのようにやや肌寒い風を吹かしていた。
「そろそろ夕方かぁ……」
「そうですね。早く帰って夕ご飯の用意をしないといけませんね」
「あ、イヨリわたしもうお腹一杯だからご飯はパスで」
「あーちゃんもパスで」
エルファス戦から三時間ほど、ずっとお菓子を頬張っていた二人のお腹はいい具合にパンパンだった。
だが、当然おかん的立場のイヨリはそんなこと許すはずも無く、
「二人ともちゃんと食べてもらいますからね……」
と、無表情に言った。
会場に着き、中央でベンジャミン達との挨拶を済ませ、レフリーからの紹介もされた。
ここまで一連の流れは先の二戦と一緒のため、スムーズに進んだ。
開始前に全員に強化魔法『スピード』これも今まで同様両者全員一緒だった。
この試合が今日の最終戦であることをレフリーのマイクから告げられ、会場は最後の戦いだと大いに盛り上がったところで『開始』の合図が響いた。
こうしてジンタ達と松竹梅の戦いは始まった。
開始と同時に、ジンタ達は走り出した。
松達も当然こっちに向かってきていた。
もっとも速力の差もあり、そして作戦もあるだろう二チームの先頭を走るのは、ある意味で当然なジンタと松だった。
試合場の中央部分の草原地帯、その中央で二人はぶつかった。
「松、何でもっと本気で走らなかった?」
「おれっち達にも色々あるんだよ!」
フォースソードを勢いよく振り下ろしたジンタに対し、松は新しく装備している両腕の腕当てで受け止める。
「ジンタこそ、一人で飛び出していいのか、っよ!」
カシャッと音が聞こえ、松がリスと化した下半身の右足、そこに装着されている脚当てから刃を伸ばし蹴りを出してきた。
「こっちにも、色々あるんだ、っよ!」
言い返しながら、ジンタも片腕を脇に持って行き、松の脚当ての刃を受け止める。
「なんだ、その脚当てもかなり改良されてるな」
「へへん、そりゃおれっちだっておやっさんと色々話しをして使いやすくしているってもんだぜ」
確かにその通りだった。
ドラゴン戦の時は折りたたみ式だった刃が、今は脚当ての先から三〇センチほど飛び出す仕組みになっている。
初手のフォースソードを受け止めた両腕の腕当ても然り、松も避けるだけではなく防具で受け止める、そして爪以外でも攻撃するという概念が根づいているのがジンタにも良く分かった。
そんな二人が拮抗している間に、それぞれの家族が中央に到着する。
最初に動いたのはあーちゃんだった。
獣人化した髪の蔦を使い、ジンタをフォローしようとしたが、
「さ、させませんっ!」
それまで人化のまま走ってきていた竹が獣人化し、自身の白と茶色でカラフルな長い髪をハリゴンであるハリネズミのように尖らせる。その際、手には初めて見せる新しい武器大金槌(自身と同じほどの大きさがある)を大きく振り上げ目一杯に地面を叩いた。
凄まじい打撃音に続き大きな揺れが発生し、あーちゃんを始めジンタとイヨリも揺れに足を取られる。
「ここだすっ!」
ジンタ達がたたらを踏んだのを見て、竹の行動を知っていた梅が揺れが収まると同時に即動いた。
長い赤黒の長い髪が土となり巻き付いている両腕を勢いよく地面に振り下ろした。
ズポンとまるで水の中に勢いよく手を入れたように、なんの抵抗もなく梅の腕は地面に肘まで埋まった。
「フンッだす!」
梅がその状態から気合いの声を上げ、勢いよく体を持ち上げるような引っ張り上げる素振りをすると、地面がまた揺れた。
しかし、今度はそれだけではない、地面がひび割れ、そしてさらには幾本もの土の柱が草原のような地面から迫り上がった。
「な、なんだ~~」
地面の揺れと幾本も伸びる土の柱にジンタが驚きを口にする。
「へへへ、もうおれっち達の勝ちだぜジンタ」
松が目の前で鼻を擦りにっと笑う。
「まだ早いんじゃないか」
ジンタはそう返して両手持ちであるフォースソードを大きく振り被ろうとしたが、ガシンと音を響かせ何かが邪魔をした。
見れば、ジンタが振り被ろうとした先に、梅の出した土の柱があった。
「へへ、そんな長くて重そうな剣、ここじゃ邪魔なだけだぜジンタ」
言ってる間にも松は出来た土の柱を勢いよくよじ登っていく。
「くっ!」
あっという間に届かない位置まで松は移動してしまった。
「ジンタ、こうなったらもう早くギブアップした方がいいぜ?」
五メートル以上離れた上から逆さで見下ろす松。
「なんのまだまだ」
ジンタは大きくジャンプするため、深くしゃがみ一気に跳ね上がった。
飛ぶと同時に、鎧と剣に魔力を注ぎ浮遊石の浮力を得て、空に飛び上がろうとした。
しかし、そんなのは当然松が許さなかった。
近くに幾本も立ち上る土の柱を器用に蹴飛ばし、まるで空中を縦横無尽に走るようにして松が飛び上がったジンタに襲いかかってきた。
咄嗟に剣を逆さに持ち頭上を防御をしたが、松の勢いの乗った蹴りで、軽くなったジンタは地面へとより勢いよく叩き落とされた。
痛みに耐え急ぎ立ち上がるも、その時にはもう松は手の届かない高いところへと上がっていた。
「へへへ、ジンタもう無理だって、この形になったらおれっち達には勝てないぜ」
自信に満ちた松の声が響く。
「これぐらいなら、俺だけは無理でも、イヨリとあーちゃんがいれば」
ジンタが近くにいる二人を振り返れば、
「むお~~、ぬ、抜けない~~~~」
「くっ! これじゃ動けません」
イヨリの体が七割ほど地面の中へ埋まり、あーちゃんの髪の蔦も全部そのイヨリと一緒に埋まっていた。
「げっ!」
「どうだジンタ、これでもまだ戦うか?」
松に言われ、さらにイヨリ達の少し先を見れば竹が大金槌を構え、梅が地面に腕を突っ込んだまま、こちらを見ていた。
「あ、参った、降参」
ジンタは、まったく勝ち目がないことを理解して武器を手放し両手を上げた。
『勝者ベンジャミン!』
ジンタが降参を口にして数秒、会場内にマイクの大音響が響いた。
同時に会場内が耳が痛くなるほどワッと盛り上がった。
『くあ~~、三連勝で決まると思ったんだがなぁ~』
『最後にこれかぁ~』
『大儲けだぜ~~』
など、の声が会場から聞こえる中、ジンタはイヨリとあーちゃんを引っ張り上げた。
「す、すいません。梅さんに地面を柔らかくされて、抜けられませんでした……」
「あーちゃんもいより助けようとして、一緒に動けなくなった……」
二人が済まさなそうに頭を垂れている。
「いや~それを言うなら、ここまでの二勝は二人のお陰だし、今回だって結局俺も何も出来ずにすぐ降参しちゃったから、そっちの方が面目ない」
ジンタは言いながら頭を掻いて、言った後それが一切間違いのない事実なことにイヨリ達以上に頭を垂れた。
こうして、総当たりの家族戦は幕を閉じた。
結果を言えば、
ミリアリタ=二勝一敗
ロンシャン=二勝一敗
エルファス=一勝二敗
ベンジャミン=一勝二敗
だった。
※※※※※※※※
一息入れ、他の家族達全員と合流して我が家に着いた時には、もう辺りは夜の帳が下りていた。
イヨリが晩ご飯の用意をしている間に、それぞれがお風呂に入り、今日の汗を流した。
ジンタもロンシャンと一緒に入り、疲れと汗を洗い落とした。
食前とは言え、イヨリが冷たいビールの入ったジョッキを出してくれたので、とりあえずそれを半分ほど一気に飲み大きく大きく安堵の息を吐く。
やっと落ち着いたといった感じだった。
先に入っていたミリア達マスターとあーちゃんとリゼットは、これ以上ないほど落ち込みソファーに座っていた。
理由はなんてことはない、今日の家族戦その待合部屋に置いてあったお菓子をそれぞれがみんな持ち返ってきて、我が家のメインテーブルである一辺に四人以上が一緒に食事を取れる大きなテーブルの真ん中に山のように積んでいたのだが、お風呂に入っている間にイヨリが当然のように全部を没収したからだ。
風呂からルンルン気分で上がってきた五人は余程大きなショックを受けたのだろう、お菓子が綺麗になくなってるテーブルを見て絶句していたが、イヨリの「みんな今日はもうたっぷりと食べたでしょうから、この後の夜ご飯もしっかりと食べて今日はゆっくり寝て下さい」と、口答えを一切許さないイヨリスマイルで言われて、悲しさのあまり放心していた。
そんなこんなで、晩ご飯が出揃うまでに全員が汗を流した。(イヨリは作っている途中、竹と雪目に変わってもらい入った)
全員揃って「いただきます」と食事が始まった。
いつもなら、がっつくように取り合うおかずも、さすがに今日はなく、食の進み具合は必然的に落ちた。
そして変わりにいつもより口が自由な分、話が進んだ。
「だからよ、あのリゼットのいきなり重くなるスキルか? あれはマジでやべえって」
「そうなのか?」
「ああ、あれは本当にやべえぞジンタ」
「た、確かにあれはきついですね。し、しかもあの後リカさんが……」
「私がなんですの?」
「リカさんが、動けない松さんに上から飛び込んだから、松さんはもう「むぎゅ~」ってなって、わっち等は降参しただ」
「ええ……、あの立ってるのも辛い中、リカさんがお尻から乗っかるんですか? それは……すごく辛そうですね……」
「そうなんですよイヨリさん。うちのミトさんもそれをやられて一瞬で目を回してましたから」
「ほんとそうですよね雪目さん。それで私達もすぐ降参しましたから」
「僕も、リゼットのあのスキルを見た時、あの連携を実行していいものかどうか考えてしまいした」
「じゃあなんであれやさせたのロンシャンくん、おかげでミトがあの後「腰が……腰が~~~~~」って待機室で大変だったんだから」
「うちの松も同じ状態でしたわ」
「イヨリの時はリカさん来なかったけど、やっぱり来てたらイヨリもそうなってたかな?」
「りぜは重いのか?」
「いいえ違いますよあーちゃん殿、リゼットさんが重いのではなく、リゼットさんのスキルが人を重くするんですよ」
「ギャッギャッ! リゼットはロンシャンに言われたからやっただけ」
ゆっくりとはいえ進む夕食に、今日のそれぞれの戦いの感想などが飛び交う。
「でも、今日戦って分かったけど、みんなすごい強くなってたな。正直おれが一番よわ――――ああっっ!」
みんなの話も終盤、そこまで話を聞いていたジンタがそう口を動かしたが、すぐに何かを思い出したようにイスを倒すほどの勢いで立ち上がった。
「どうしたジンタ、トイレか?」
立ち上がったジンタにミトが笑いながら言う。
そして全員が手と口を止めジンタを見ていた。
「そうだ、思い出した」
「何をだ?」
「俺だけ……、あの変態ロボット女に何も教えてもらってねえっっっ!」
そこまで言って、ジンタは背後に振り向き大きく息を吸い込んで叫んだ。
「こんのっ! 変態ロボットどこにいやがる!」
ジンタのいきなりすぎる行動にしーんと静まり返るリビングだったが、五秒ほどして何もない空間からややくぐもった声が聞こえた。
『あの~~変態ロボットって一応の確認をしますが、マスターはもしかして私のことを喚んでるんすか?』
「ああ、そうだ。お前だ水連」
答えてからまた数秒沈黙があり、
『お、おおお、おおおおおぉ! やっと、やっとマスターがご自分の意思で初めてこの私を喚んでくれるのですね!!』
くぐもった感じでも実に感極まったことが分かるほど、水連の声は喜びに満ちていた。
『ふふふ、ふふふふふふ、喚ばれてしまっては出て行くしかありませんね』
実に誇らしげな声が響き、すーっとリビングの何もない空間の二メートルほどの位置に線が入り、そこから一気に扉が現れ、ガチャリとその扉を開け放たれた。
そして優雅な音楽が流れ出すと同時に、開いた扉から黒いヘルメットに黒タイ、そのタイツの上に黒の装甲を纏った水連が、音楽に合わせダンスを踊りながら出てきた。
まるで三歩歩いて二歩下がるようなダンス。
扉からジンタの前まで一〇歩分もない距離だが、その距離をゆうに一分ほど掛けて水連はジンタの前まで来て、膝を折り敬うように頭を垂れた。
「お喚びでしょうかマスター」
実にすがすがしい、そして誇らしげで嬉しいそうな声で名乗った水連に、ジンタの一手目は全力でのゲンコツだった。
ゴチンッッ! と部屋中に響いた音の後、ジンタの顔が大きく歪み殴った拳を必死に摩りながら悶絶した。
「お? マスターどうしたんです? 私を撫でるのであればもう少し優しく……っぽ!」
頬に手を当ていやいやと恥ずかしそうに首を振る水連。
「ちげえわ!」
未だ引ききらない痛む手を摩りながら、なんとか話せるほどに回復したジンタがおもいっきり水連の解釈を否定する。
「それでマスターは私を喚び出してどうしろと? 一緒にお風呂とか一緒にお布団なら私はいつでも良いですが」
相変わらず空気を読まないアンドロイドは、さらりと爆弾発言をしてみせる。
「お前……ほんとどこでそんなこと覚えてくるんだよ……」
その場に居る全員の「え? 本当にそんなこと頼む気なの?」的な視線を一心に浴びながらジンタはバツが悪そうに返すが、
「何を言ってるんですか。私はマスターから頂いている魔力からマスターの記憶を読み取ってそれを口にしているんですよ? つまり私の口にする言葉はイコールでマスターのして欲しいことと同義なのでは?」
なんとも余計に痛々しい視線が突き刺さる原因となってしまった。
「と、とりあえずそれは横に置いておくとして」
いたたまれない視線を一緒に横に退かすようにしてジンタは言い、
「なんでお前はみんなにはあれほど有益となる情報をそれぞれに与えていたのに、マスターである俺には何にも情報をくれなかった?」
逸れた話を戻す。
「え? 皆さんにとって有益? それは何かの間違いでは? 私は常にマスターを一番に考えそしてマスターのために行動しているつもりですが?」
はて? と小首を傾げる素振りをする水連。
ジンタも首を傾げる、ただこっちは睨むように水連を見てだが、
「はぁ? それならなぜ今日の試合で俺は全員に対して完全に後れをとるようなほど戦えなかったんだ? それのどこがおれが一番なんだ?」
今日の全三試合、自分一人だけだったら完全に全敗だっただろう。それが自分で一番身に浸みているからジンタは余計に苛立った。
しかし、そんなジンタの苛立ちの言動や視線を一心に受ける水連は、ああそういうことでか、とやっと理解したと左の手の平に右手をぽんと置いた。
「つまり、マスターは自分だけ仲間はずれにされたことを怒っているのですね」
ある意味で言いたいこととはズレているが、ある意味言ってないことでそれも当たりなため、余計にイライラとしてくる。
「そ、それもあるが――――」
がなるようにジンタは言い掛けるが、水連がそれを手の平を前に出して止めさせる。
「分かりました。マスターのお気持ちは十分にこの水連にも分かりました」
うんうんと頷いてから、
「それでは今のイライラしているマスターにもっとも必要な映像を私が出しましょう」
と、水連が胸を叩いた。
「おぉ~~~~」と周りからどよめきが起き、そしてジンタ自身も今までの苛立ちがすべて消し飛んだ。
「ほ、本当か? 本当に今俺に一番必要な映像を?」
「ええ、ええ、分かっています。マスターの苛立ちを今一番解消してくれるモノを私がお見せします」
自信満々に再度胸を叩く水連を見て、ジンタはこいつ以外と頼もしいなと心の底から思った。
「では、お部屋にテレビと本当は直接私からテレビに映像を流したいのですが、今は色々とやることがあるので、ブルーレイのディスクを置いていきますね」
さて、とジンタの部屋に向かおうとした水連をジンタがはしっと掴んで止める。
「別にここででも見れるんだろ?」
何となく水連を部屋に入れると後でイヨリが恐そうなので、ジンタはそう問いた。
「ここで……ですか? 良いのですか、本当に?」
言ったジンタ以上に水連はこの人の考えが分からないと言った感じで聞いてきた。
「あ、ああ。ここででも見れるよな?」
その声音に一抹の不満がジンタに過ぎったので、もう一度確認した。
「ええ、まあ、それは別に見るだけですから、問題はないですが……」
今まで大体キッパリとした言動をしていた水連にしては実に歯痒い言い回しだ。
「じゃあ別にここでいいんじゃないか、俺専用なんだろ? 他の人が見てもあまり意味がないんだろ?」
「ええ、まあ、専用と言えば専用ですが……。ではマスターがそこまで言うのでしたら……」
渋々といった様子で水連はテレビの準備に取りかかった。
ジンタはチラリと見たイヨリの表情にホッと安堵しつつも、なぜか水連の戸惑うような動きが気にもなった。
しかし、そんなのはものの数分。
「出来ました」と呟くような小さい声で水連が言った瞬間に吹き飛んだ。
「そうかそうか、それで俺専用とはどんなもんかな……」
見たことのある形状、大体にしてテレビの電源など例え四年見ていなくともどこか何となく分かっているジンタはスイッチを入れる。
「えっと再生再生」
「あ、あ、あああああ――――っ!!!!」
全員が固唾を飲んで画面を見ている中、再生のスイッチを押そうとした直前に水連が叫んだ。
「なんだ⁉」
全員が水連に振り返る。
「す、すすす、すいませんマスター。私ちょっと用事を思い出したのでここで失礼します。ああテレビは見終わったらそのままにしておいて下さい後で片付けますので」
言い終わるなり、そそくさと何もない空間に扉を出して、まるで逃げるようにその中へと飛び込んでいった。
「なんだ???」
さすがにジンタを始め全員がきょとんとしてしまった。
「とりあえず、スイッチ入れるぞ」
気を取り直して、ジンタは再生ボタンを押した。
画面が青く輝き、そして英語の文章らしい文字が一杯の画面が表示される。
警告とかかれたその文面の意味は分からないが、その画面自体は何度も見た記憶がある。
なんかとてつもなく嫌な予感がしてくる。
なんかこれは、ここにいるみんなで見ちゃいけないようなそんな予感が。
「わぁ、ジンさんが覚えるのって一体何だろうねえ~」
「あーちゃんも覚えるよぉ~~」
「なんか人のを見るってドキドキするよな」
「ミトあんまりはしゃがないでよ~」
「おれっちもすげえドキドキしてきた」
「松も静かに」
「ところでこの画面はなんて書いてありますの?」
「うんリカ、実は僕も気になってたんだけど」
後ろから聞こえるみんなの楽しそうな声に、ごくりとツバを飲む。
警告の画面の後、三回ほど画面が切り替わりついに映像が始まった。
青空の下、若いワンピースを着た若い女性がぎこちない動きで一回転し画面に向けやや強ばりながらにこやかに笑いかけた。
瞬間、ジンタは再生ストップを押した。
心臓が早鐘のように鳴っている。
――これはまずい……まずすぎる……。
映像の始まりを見ただけで、ジンタはこれがなんであるかを一瞬で理解した。
昔、まだジンタがこのリリフォリアに来る前、毎晩とは言わないまでも、かなりの頻度で夜のお世話になっていた映像であることを。
そしてもう一つ、水連のどこか動揺したような口調と言い回しの理由も分かった。
しかし、分かったからと言ってジンタには納得出来ない。
なぜあいつは今の俺にこれが必要だと思ったのかを。
「おいおい、ジンタ見ねえのかよ?」
「ジンタ今更自分だけで見るとかはなしだぜ?」
「見ないんですか? ジンタさん」
ジンタの背後、好奇の眼差しで画面を見つめていた全員からは大ブーイング。
しかし、今起きているブーイングなど、きっとこれを見続けていけば屁でもないほどの蔑みに変わるのは明白過ぎた。
「えっと、いや、ちょっと、これは……」
ここまで来てしまったが故に、どうやってこの場をやり過ごせばいいのかジンタにも思いつかない。
全員がブーイングを口にしながら詰め寄って来る。
ジンタはテレビの稼働を阻止するため画面に張り付く。
最後の砦たる再生ボタンに触れさせないジンタに対し、全員が手を伸ばそうとしてくる。
「待って、ちょっと待ってくれ。これだけは、なんていうのか、その……」
内容を言えるはずがない。
そして、どうぞと見せれるはずもない。
そんな葛藤も含めて、なんとか護っていたジンタだったが、
「あ~~、もう面倒臭いですわ!」
「そ、そうですね!」
「わっちもそう思いますだ!」
リカ、竹、梅のパワー型三人がジンタの頭と両腕をガッシリと掴み、テレビから引っ剥がした。
「ちょっ! ほんとに待って、それは見ちゃ、見ちゃらめ、らめらから~~~~」
あまりの動揺に、舌がうまく回らない。
必死にもがき手を伸ばして止めようとするジンタだが、三人の力にまったく及ぶはずもなく遠ざけられた。
そして誰が押したかはもうどうでも良いが、スイッチがオンされた。
押さえ付けられてもなお悶え狂うジンタを無視して、テレビは素直な挙動で再生を始める。
五分後。
みんなの楽しそうな和気あいあいな声と、テレビからの女性の話す声が聞こえた。
一〇分後。
全員が無言になり、それでもテレビに視線を釘付けにさせていた。テレビからは女性のやや艶めかしげな声が聞こえてくる。
一三分後。
フンッ! と獣人化したイヨリの鉄拳がテレビを粉々に吹き飛ばした。
ジンタを押さえていた力が無くなり、ゆっくりと顔を上げれば、顔を真っ赤にさせた全員がゴミを見るような目でジンタを見下ろしていた。
そのまま一〇分ほど経ち、誰にともなく一人また一人と自分達の部屋に帰っていった。
最後に残されたジンタも、自分に部屋へと戻った。
その日、ジンタは久々にベッドの中で泣いた。
さらに、次の日から一〇日間ほど当然のようにジンタは全員から無視された。




