表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/162

帰還

 季節は巡り、また夏がやってきた。


 ほぼ一年の間、生活のほとんどを共にした闘技場で、ジンタは最後の稽古をシリルから受け、見事に地面へ突っ伏していた。


「ふむ、まあこんなもんかね」


 パンパンと両手の埃を払うシリル。


「あ、あざっした……」


 いつものように突っ伏したままお礼をするジンタ。


「その剣、フォースソードにもなんとか慣れてきたようだし、とはいえ今後もお前が自分自身でちゃんと鍛えより昇華させていくのが条件だがな」


「は、はい……」


 ジンタは、ゆっくりと上体を起こす。

 ほぼ、一年。

 ほぼ、毎日。

 目の目に立つ執事然とした男を相手に剣稽古(人によっては憂さ晴らし見えた)をしてきたせいだろう、ジンタの打たれ強さとスタミナ、そしてその回復力はかなり向上していた。

 もっとも、脆弱極まりないジンタの体だけではなく、その身を守るための防具、全身フルプレートの鎧が持つ破格の防御能力もあってだが。


「しかし、シリルさん。この鎧はともかく、こっちの武器に関しては、どうしてこんな面倒臭い形と構造をさせているんですかね?」


「さあな。本当の意味でそれを知っているのはきっとマリー様だけだが、私的な意見で言わせてもらえるのであれば……」


「あれば?」


「それはお前だけの武器ではない」


 言い切るシリルに、


「はい?」


 ジンタは、目をキョトンとさせた。


「あ~~、つまりそれはお前だけが扱うための武器ではなく、他の者にも扱えるように……、つまり武器庫の役割もあるんじゃないか?」


「武器庫、ですか?」


 呟き、ジンタは自分の右手にある無骨な超大型剣を見る。


 刀身だけでゆうに一メートル以上、しかも刀身の途中からまるで盾のように丸い形のモノが剣の左右に装着されている。


「それはフォースソード。まあ、ぶっちゃけちまえば四つの剣を内包している。言い換えれば四つの剣をくっつけたとも言える」


「そう、ですね……」


 そう、この剣は四つの剣を組み合わせて作った一つの武器なのだ。

 まず幅二十センチ以上ある刀身の両手剣。

 そしてその根本付近に装着された左右二つのまるでシールドのような円形の剣。


 これで三つだが、さらに幅二十センチ以上ある大元の剣は二つの剣へと切り離せる。


 つまり、無骨で超大型の一本の剣は、四つの剣でもあるのだ。


「そんな四本の剣を、お前一人で全部扱える訳はない」


「確かに……」


 昔、まだこのリリフォリアに喚ばれる前に見ていた漫画の中で、三刀流(両手と口で一本)なんてのはあったが、ジンタにはそんな芸当は出来ない。


「つまり、君にはどう頑張ってもその四つの内二本しか扱えない、なのにその剣には四本ある。となると考えられるのは、その武器を貸し与えることで周りの戦力、もしくは防御力を上げるための武器庫としての扱いなのでは? と私は考えています」


「武器庫……」


 確かに、剣の左右に取り付けられた丸い形の剣、別名(命名者マリー)シールドソードと呼ばれている。


 それは直径五十センチの盾としても扱えて、斬り付ければ剣としても機能する。

 合体させた一本の剣としての扱いでも、剣を横に向ける(腹を向ければ)シールドソード部分でジンタの頭から上半身部分近くをガード出来る。

 そして切れば中央の両手剣より先に届く二本の刃と化す。


 だが、本質は防御側の構造。

 それがシールドソードなのだ。


 そして中心になる一本の超大型両手剣。

 刀身だけでも一メートル以上。

 それは縦に二つに割ることで二本の剣へと早変わりする。

 普段両手で握る柄。

 その下半分が捻り引っ張ることで外せる。

 そうして外した柄を鍔前方にある穴に差し込むことで、剣が二本に別れる。一つは刀身の長さそのままの幅広の剣。

 一つは刀身の長さそのままのバスタードソード並の剣。


 そしてその剣こそが、ジンタが両手剣としての稽古の他、練習してきた二刀の剣である。


 つまり、一本の両手剣として扱う分には構わないが、二刀として練習する時は、左右にあるシールドソードをとりあえず捨てて練習してきた。


 もっとも何度か、シールドソードを扱った二刀も練習はしたが、ジンタからすればあまり使い勝手的に良くなかったというのが感想だ。


「そうなると、やっぱ、このシールドソードというのは……」


「ああ、誰かに貸し与えることを念頭に置いた武器であり盾であると考えるべきだろう」


「しかし、貸すと言っても……、これそこそこ重さありますし……」


「あのなぁ。一応それぐらいはどんな『召喚されし者』でも持てる重さだろう? それにもしエルフであるマスターに持たせるなら、お前同様魔力で重さを無くせるんだぞ?」


「ああ、そうか……。それならだれでも……」


 言い掛け、一人だけダメそうだとジンタは思った。


 例え欠片でも、天井の壁にめり込むほどの力で飛んでいきかけた少女のことを思い出し。


「すべて私の考えだがな。さて、そろそろ時間だ。さっさと風呂入って準備してこい」


「分かりました」


 起き上がったジンタは、超重量級の鎧を脱ぎ刀身だけで一メートル以上の無骨な大剣を砂場である地面に突き刺し、闘技場の出口へと向かって走っていった。


 体中の汗を流すために。




           ※※※※※※※※




「えっと、一応確認ですけど……。俺って目隠しだけでいいんですか?」


 揺れる馬車の中、目隠しされただけのジンタは御者台だろう方向に声を掛けた。


「それだけでいいって言うのがマリー様からのお達しだからな。まったくあの人は何を考えているのか、さすがに私にも分かりませんよ」


 呆れたようにも怒ったようにも聞こえる声でシリルが答えた。


 もっとも、シリルがそういう態度になるのも頷ける。


 今までここがどこだかをジンタに悟られないよう(第二階層よりは上というのは分かっている)にして来ていた。

 それなのに、これからジンタを第二階層に戻すというのに目隠しだけとは、正確には分からなくとも、ここがどこの辺りかは分かってしまう。


 なぜ、今更そんなことをするのか、ジンタにも分からなかった。


 不安的要素の一つとしては、ジンタを第二階層に戻す気がなくなったと言う可能性もあるのだが……、それは考えないようにした。


 不安も残る目隠し移動ながらも、ゆったりとした旅が進んでいた。


 そして三日目のお昼。


 今日中にはマリーと合流出来るだろうと、シリルに言われ、ジンタの心はまるで子供のように高鳴って興奮していた。


 やっと戻れる、やっと会える。


 その今まで抑えていた気持ちが、一気に溢れ出して来たからだ。


 道中何度も、服か深く深呼吸をし落ち着かせようとしたが、ある一定のところまで落ち着くとすぐに、みんなと再会した時のことを考えてしまい、興奮してしまう。


 カサカサと馬車に木々が触れる音がジンタの耳にも聞こえてきた。


 朝食の時、目隠しは取られる。

 その際にやや遠めに見えていた森、その中を移動しているのだろうと予想はついた。


 ガタゴト揺れる馬車の中、自分の中から溢れ出す気持ちと格闘していたジンタだったが、突如背筋がピリピリとざわめきだした。


 ほぼ同時に、馬車が止まる。


 目隠しされたジンタの意識が耳に集中する。


 動いていた馬車の振動が止まり、馬車に当たっていた木々の枝の擦れる音もしなくなった、そして辺り一面が静まり返る。


 ――――おかしい……


 ジンタは、注意深くより耳に意識を集中させる。

 馬車が止まり振動がなくなり静かになるのは分かる。しかし、静かすぎる。ここが森の中のなのは分かっている。

 なのに、小鳥の囀る音や虫の鳴く音、そもそも生き物の気配というのが、ジンタには感じられなかった。


 ジンタの背筋は、先程のピリピリからざわざわに変わった。


 御者台にいるだろうシリルの気配が隠すような、それでいて探るような印象を感じさせる。


 ぴくっとシリルの動く気配、そして一気に空気が張っていく。


「お、おい、なんかあったのか?」


 殺気に近い、しかし隠す様な、つまりは臨戦態勢に近い雰囲気を肌に感じる。

 ジンタは、やや腰を上げいつでも動けるようにしながら声を掛けた。


「何かあったなんてもんじゃないかも知れないな……、これは……」


 一年、ほとんど毎日一緒にいた男から初めて聞くやや怯えたような声に、ジンタは息を飲んだ。


 それほどまでの事態が起きていると言うことに。


「……お前も備えろ」


 静かだが、拒否を一切与えない言動。


 言われるまでもない、と、ジンタは中腰になり目隠しを外そうかどうか悩んだが、その目隠しをシリルが引っ剥がす。


「死にたくなかったら、自分の身は自分で守れ」


 真剣な言葉に真剣な眼差し。


 冗談でないことを再度認識出来た。


「一体何が?」


 とりあえず、開けた視界で辺りを窺い馬車を降りた。


 そして見渡す。


 一見静かな森の中。しかし静かすぎる雰囲気が逆にそれを拒絶している。


 気を緩めることなく、ジンタは背を預けるように立つシリルに尋ねる。


「一体何が?」


 再度聞く。


 一瞬、間があった。


 それは葛藤でもあったんだろうか、一度だけ小さく息を吸う声が聞こえ、シリルが答えた。


「マリー様が……、失敗した」


 短いがはっきりとした口調。


「失敗?」


 ジンタには意味が分からない。


「そもそも、お前のことをマリー様はアリスに話していなかった。たまにはアリスに意地悪がしたかったのだろうな」


「意地悪って……。確かアリスって人はマリーの最初の『召喚されし者』だろ?」


「そうだ」


「それならなんでここまで緊迫した雰囲気に?」


「お前のところでもあるだろ? 最初の『召喚されし者』というのは、その家族の家長でもあり、マスターにとっては母親や父親のような存在だ。確かにここ一番の判断どころでは、エルフでありマスターでもあるマリー様の一言はそれを越えるやも知れん。が、通常、そして今みたいなときはそうではない」


「それってつまり……」


 何となくだがジンタにも分かってしまった。


 今のシリルの話を、ミリアとイヨリの立場に置き換えて見ればすぐに分かった。


 つまりマリーはいたずら(ジンタのことを隠していた)をしたため、アリスと言う母親を怒らせてしまった、と。


「えっと、この場合こんだけ場が緊迫していると言うことは……」


「何か、を悟られはしたが、まだそれが、何か、まではばれてはいないのだろうな」


「つまり、悟られたマリーは……」


「うむ、森の中を逃げ回っているのだろう」


「聞くけど、アリスって人からマリーは逃げ切れるのか?」


「難しいだろうな……」


「なら俺が空から見れば?」


 鎧と剣に魔力を強く注げば浮力が勝り、今のジンタならそれなりの高さまで飛べる。


「止めておけ、落とされるぞ」


「落とされるっ⁈⁈」


「アリスは弓の名手でもある」


「えっと、一応聞くけど、アリスさんって種族は一体?」


「それは……こんな状況だがお前には言えんな」


「ですよねぇ~~」


 目の前のシリルでさえ種族を教えてくれないのだ。これだけ緊迫しているとはいえ家族の種族を教えてくれるはずもない。


「とりあえず、気を緩めるなよ」


「分かった」


 背中をシリルに預け、前方に意識を向ける。


 気を張った状態での時間は消耗于が激しいせいもあるのだろうすこぶる長く感じる。


 気が遠くなるように感じた時間が、ガサリと数十メートル先の木々が揺れたことで動き出した。


 目を凝らし見る。


 飛び出してきたのはマリーだった。


 元々透き通るほど白い肌をした顔が、完全に蒼白になり引き攣っていた。


 一目散にこっちに走ってくる。


 次いでマルテネット、こちらはいくらか後ろを気にしながら、マリーを守るように走ってくる。


「マリー様!」


 後ろにいたシリルが声を上げる。


「し、ししし、シリル助けてっ!」


 上擦り、震えるマリーの声。


「あ、あああ、あ、アリスの奴本気で怒ってる」


 もう泣きそう、というよりももう幾筋か涙が流れている。


「一年も隠そうとしたんですから、まあ、それは本気で怒るでしょうね……」


 シリルがアリスの気持ちも分かるとばかりに頷く。


「で、でもどうするんですか? このままじゃあ送り届けることもままならないですよ?」


 警戒し護衛しながらも、やっと到着したマルテネットが蒼白で息を切らせて告げる。


「え? まさか、今日戻れない?」


「当たり前でしょ! そもそも、今日『天翔る橋』を使うこと自体、アリスには言ってないのよ! それなのにいきなり「今日使うから」なんて言って今の激おこ状態のアリスが納得すると思ってんの!」


 きっと本当に必死で恐いんだろう、マリーは本気で怒鳴った。


「確かに……、そんな状態のアリスに何を言ってもきっと全部『却下です』と言われて終わりですね」


 シリルも、それは揺るがないとばかりに同意し、マルテネットもうんうんと頷いていた。


「えっと、じゃあ俺は今日帰れない、と?」


 アリスなる人物を知らず、やっと戻れると思っていたジンタはかなり落ち込んだ。


 しかしそこで、


「まだよ。まだ全部が手遅れではないわ。アリスはまだこのことの全貌を分かっていない、つまり、私が何かを隠していると確信していても、何をやらかすつもりかまでは分かっていない。だから、まだ全部が潰えたわけではないわ」


 そう言い切るマリーを見て、ジンタは思った。


 ――なんか……、どこかのいたずら娘と同じような思考回路だな。


 と。


 その瞬間だった。

 ガサリと、ジンタの背後で木々の揺れる音がした。


 四人は円を組み、互いを見ている形だった。


 そのジンタ以外の三人が、目を見開いてジンタの背後を見ていた。


 咄嗟だった。

 何が来るかなんて見ている余裕も無かった。

 とりあえず本能か、或いは日頃の練習の賜物か、ジンタは振り返ると同時に、手に持つフォースソードを逆手にし、地面に置くように突き刺した。


 そうすることで、この剣はジンタの全身の半分以上をゆうに隠してくれる。


 そして次に来る衝撃に備え、鎧と剣に浮力を与えるために流していた魔力を切った。


 ッズンと鎧と剣の重さが体中に伝わる。

 そこで、さらに踏ん張るように腰を沈める。


 これでちょっとやそっとの衝撃なら余裕で耐えられる。

 そう思ったが甘かった。


 次の瞬間に訪れた衝撃は、重く、そして剣や鎧を突き抜けてきた。


「――――っぐ」


 声が漏れる。

 決して気を抜いていたわではない。

 むしろ完璧に備えていたはずだった。


 しかし、そんなジンタを嘲るように、その衝撃は、ジンタの体を、そして鎧を、さらに剣をも吹き飛ばした。


「ぐおおおおぉぉぉぉぉっ‼‼‼‼‼」


 地から足が浮き、後ろに吹き飛ばされながらジンタは雄叫びを上げた。


 そして、このままではまずいと即座に魔力を鎧と剣に流し込む。


 重さを無視した様に吹き飛ばされている状態で浮力を与え、わざとより一層に吹き飛ばされていく。

 重力を無視したように上方に向かって。


 太い幹への衝突を避けたのが功を制したのか。


 背中に木々の枝がバキバキと折れる音が響いたが、幸い大きくぶつかることなく森の上空へと突き抜けた。


 そこから今度は浮力を落とし、地面へと降りていく。


 着地したジンタの元に、マリーとシリルが駆け寄ってくる。


「よくいなしたな」

「アリスの蹴りを受けて、あんた良く無事だったわね」


 本当に感心したように、二人から労いの言葉をもらった。


 蹴り? あの衝撃は蹴りだったのか?


 まだバクバク鳴っている心臓の音が耳を突く中、ジンタはそう思った。


「走れ、こっちだ」


 労った二人だったが、ぼう然とするジンタの横を走って通り過ぎて行く。


 ジンタも、返事をする間もなく振り返り走り出した。


 必死に走った。

 魔力をうまく扱い浮力で体重をなくし、強化魔法『スピード』まで使い、必死に。


 そして辺りの気配が落ち着いた時に気付いた。


「あれ? マルテネットさんは?」


 ジンタの問いに、前を走る二人はバツが悪そうに顔を背ける。


 それだけで分かった。


 彼女があの場に残ったんだと言うことが。


 ジンタがそのことに気付いた時。


 遥か後方で少女の叫ぶ声と、まるで竜巻のような風が天高く空へと巻き上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ