尋問三日目
「では、気を取り直して話を聞こうではないか」
例によって、階段二段分高くなった場所に置かれている豪華な椅子に座り、肘を立て足を組み、ジンタを見下ろしながらマリーが言った。
「やっと始められますね」
「あう~シリルさん、もうあんまり喋らないで下さい~」
どうでも良さそうに口を開いたシリルに対し、マルテネットは幼く見える顔を顰めて窘めた。
「で、俺は何を話せばいい?」
見上げる形であぐらをかきながら、後ろ手に縛られたジンタが尋ねる。
「そうね、とりあえず名前と種族を教えてもらおうかしら」
「名前は宮間仁太。種族は一応人間と言うことで登録している」
「ふむ。では次にマスターの名は?」
「マスターの名はミリア。ミリアリタ、だ」
「ミリア、リタ……?」
「ああ、今中学校二年生だ」
「ふ……む……」
ジンタの回答に、マリーが何か考え込み空返事に頷いた。
「他の家族は?」
どこか物思いに耽り、次へと進まないマリーに代わり、隣に立つシリルが問う。
「一人は種族ゴーレムのイヨリ、もう一人は種族ドリアードのあーちゃ、アリディアだ」
いつも呼んでるように言おうしたのを言い直したぐらいで、ジンタは即答した。
昨日のしっちゃかめっちゃかな状況でも分かることはある。
少なくとも、今ジンタの前にいる豪華なローブを纏ったエルフと、その右隣の執事風の男は、何かあればジンタを殺すこと(その場で死刑)を厭わないということだ。
だからジンタも聞かれたことは出来るだけ嘘をつかずに正直に話すつもりでいた。
もっとも、いくつかある特殊なワードは自分から言うのではなく、深く聞かれない限りはスルーする方向で。
「ふむ、種族ゴーレムか……。それはミリアリタと言うお前のマスターが一番最初に喚んだ者か?」
「ああ、そうだ」
問いに対し、即座に答える。
聞いたシリルが、アゴ下に手を置き静かに唸る。
ジンタを囲うように立つ、周りのマスターやその家族である『召喚されし者』達も、驚いたようにざわめく。
――やっぱ『召喚されし者』の中でも、種族ゴーレムはかなりレアなんだな。
最愛の人であるイヨリのことを口にし、周りがこのような反応をするのを見て、ジンタは誇らしく思った。
「最初の『召喚されし者』が~、種族ゴーレムのイヨリさんと言う方で~、二番目はあなたですか~?」
周りがいまだざわめく中、三人のうち一番温和な思考としゃべり方の持ち主だろうマルと呼ばれているマルテネットが指を折り、確認するようにやや上向きで中空に視線を漂わせながら聞いてくる。
「え? ああ、そうです。自分がマスターであるミリアリタの二番目に喚ばれた『召喚されし者』です……」
まさか、マルテネットから質問が飛んでくるとは思ってなかったジンタが慌てて答える。
「そうですかぁ~~」と上の空のように答えながら、聞いた時同様に上向きに視線を彷徨わせ、何かを確認するように人差し指を軽く前後に押すように出すマルテネット。
「え~っと、あなたはこの世界、つまりこのリリフォリア以外の世界からここに喚ばれた人なんですよね~?」
「ええ、そう、ですけど……?」
それが何か? と言いたげにジンタは訝しみながら答える。
返答を聞いたマルテネットは上の空のように中空に視線を彷徨わせたままだ、しかしボタンを押すような指の動きは早くなっていく。
「それじゃあ、三人目の『召喚されし者』の種族ドリアードの方は、一体どんな特殊性や意外性を持っているんですか~~?」
「何を言っているのですマルさん。そうそう特殊性や意外性を持っている者など――――」
イヨリが種族ゴーレムだと聞き、少し黙っていたシリルが口を挟みながらジンタの顔を見て、口を止めた。
「まだ、何かあるんですか?」
スッと瞳が細められる。
しまった、と思ったが時すでに遅し。
きっと、マルテネット本人は純粋に興味に駆られて聞いたのだろうその言葉だが、ジンタからすれば、まさかそこにまで行き着くとは予想外の予想外に他ならなかったことだった。
だから思いっきり表情にも出てしまった。
「どうなんですか?」
スッと、音を一切鳴らさずに足を一歩踏み出しシリルは言及してくる。
ジンタは、自分のポーカーフェイスの才能の無さに心の中で呆れ、首を振りながら答えた。
「三人目の『召喚されし者』である種族ドリアードのアリディア、あーちゃんは、今年四才になった女の子だ」
目の前で一歩足を踏み出し、身が竦むような殺気を放っていたシリルという男の動き。
そしてどんなことを言われても絶対にもう想像はついているんだからねと、笑みを向けて右手をかなり早くボタンを押すように動かしていたマルテネットの右手も。
さらに話を聞いていた周りの観客のような人達も。
ジンタが言った瞬間、場のすべてが固まった。
その部屋に居るすべての人達が、まるで部屋の中のオブジェクトのように、動きを止め思考までも止めてしまったのがジンタにも分かった。
後ろ手に縛られているため出来ないが、悠々と鼻をほじり、クルクル丸めて、ふっと吹き飛ばせるぐらいの時間、その部屋にいる全員が固まっていた。
「他には?」
そんな中、一人だけ唯一別のことで先に固まっていた人物、マリーが口を開いた。
ジンタは諦めたように付け足す。
「あーちゃんはドリアードでも稀な、ヒール級の葉っぱを備えている」
「ヒール級だとっ!」
「回復も出来ちゃうの!」
「「「「「おぉっ!」」」」」
シリルとマルテネット、そして周囲の者達がさらにショックを受けたように一歩下がり戦いた。
「他には?」
それを聞いても驚かず促してきたのは、ジンタの正面で足を組み、豪華なイスの肘掛けに肘を立て、アゴ下を支えた体勢で座っているマリーだった。
「しかもあーちゃんは、四才にして俺よりも強いっ!」
「他は?」
即答で聞かれる。
「負けん気が――――」
「次」
「髪の色が――――」
「次」
「甘いモノが――――」
「次」
「…………」
「…………」
延々と二十回ほどその問答が続き、マリーがイスの背もたれに深く座り直して溜息を付いた。
数秒、ジンタと睨み合う格好になる。
「あなた、まだなんか隠そうとしているでしょ?」
「……は?」
見つめ合う形のまま、その射貫くような目をジンタに向けたまま、マリーは言った。
咄嗟にシラを切るように戯けて見せたつもりだが、動揺を隠し切れていないことが自分でも十分に理解出来た。
「全部。すべてを言いなさい」
きっと数センチだけマリーは顔を前に動かしたのだろう。
しかし、後ろ暗い気持ちのあるジンタには、マリーの射貫くようなその顔が目の前数センチにまで近づいてきたように見えた。
「お、俺は――――」
「言いなさい」
目を逸らし、言い逃れようとするも、止められた。
長い沈黙。
逸らした目をマリーに向ける。
マリーの目はいまだジンタを射貫き通すように向けられてる。
諦めた。
はぁ~~、と息を吐いた。
ジンタが張った肩を落とすと、周囲からも息を吐く音がいくつも聞こえた。
「――――分かった。全部話す」
「始めから、全部話せと言ったはずだが?」
ジンタが本気なのを分かってくれたのか、マリーはやや前傾姿勢になっていた体を、イスへと深く落ち着かせた。
「ただ、これから先の話は色々と問題がある。あんたが信頼する最低限の人数にして欲しい」
現状で、自分が相手にお願い出来る立場でないことを理解しながらも、ジンタはそう口火を切った。
「……ほう、それほどのことなのか?」
言葉通り、試すような視線をマリーは向けてくる。
だからジンタは真っ直ぐその目を見つめたまま言った。
「第二階層の中学校、その保健医に話をしたことがある」
「ふむ」
「その時、出た言葉の一つを言えば伝わるだろうか?」
「どうかな?」
マリーは、からかうような瞳に挑発的な笑みを浮かべた。
その態度と表情が語っている。
ほとんどのことであれば、自分は動揺することなく受け止めて見せると。
ジンタは目を背けず、もう一度息を吸い込み口にした。
「『神』は、居る」
ッッッ‼‼‼‼‼‼‼
部屋全体の空気が一気に震えた。
挑発的な瞳を向けていたマリーでさえ、笑みを作った口元を固まらせたまま、金色の瞳を見開いている。
また数秒、言葉がないまま部屋の空気が固まった。
動きを起こしたのは、口元の笑みを消し長く細く息を吐いたマリーだった。
「それを……あの人が、たかが中学校のマスターの、しかもただの『召喚されし者』であるお前に口にしたと?」
あの人、その言葉が保健医を指すのだと気付いたジンタは、心の中であの変態保健医、本当にタダの変態じゃなかったのかよ! と驚きながらも、その事実を有効利用することにした。
「ああ、こう見えて俺ってば、異世界から来たって言うのもあって、あのへんた――――いや、小学校時代は校長まで兼任していた、あの保健医とはツーカーな仲なんだよ」
はったりではない。
仲はいいはずだ、多分。
しかし、口にしていてなぜか自分が今までここで話してきたどの事柄よりも、一番嘘っぽいこと言っているような気になってくる。
何故だろう? と自問してしまう。
「ふむ。……分かった」
ジンタが自問の旅をしていると、マリーからの返答が聞こえた。
左右に立つ、自分の家族二人を交互に見た後、
「私達以外の全員を退出させろ」
命じた。




