尋問二日……目……?
ゴトゴトと振動を響かせていた馬車が止まり、ジンタが降ろされたのは豪邸と呼ぶに足る大きな建物だった。
「ここは……」
ジンタがこの世界リリフォリアに来て、これだけ大きな建物は学校ぐらいしか見たことがないほど、その建物は大きかった。
「こっちだ」
馬車のドアを開けた女性が、促すように言う。
ジンタは辺りをキョロキョロと見渡しながら、それに付いて行く。
「ここだ、入れ」
建物をぐるっと迂回しながら歩いた先にあったのは、どう見ても牢獄としか思えない場所だった。
「ここって……」
一応の確認も兼ねて、ジンタは連れてきた女性にそこを指差した。
「決まっているだろう、牢屋だ」
「で、ですよねぇ~……」
ああ、やっぱりかと思いつつ、ジンタはしぶしぶと開けられた扉から中に入る。
「今日はここで寝てもらう。明日、また話を聞かせてもらうことになるはずだ」
女性はそう言い残して、扉を閉めて牢屋を離れていった。
ジンタはとりあえず格子に掴まり、女性が見えなくなるまで牢から見送った。
「はっ! うわっなんか俺めっちゃくちゃ罪人みたいなことしてる……」
自分の仕草が、昔テレビや映画などで見たことのある行動をしていることに気付いて、驚きと恥ずかしさが込み上げてきた。
一通り身悶えた後、落ち着く。
一人になれたせいなのもあるのだろう。
冷静に、そしてゆっくりと周りを気にする余裕が出てきた。
まずは、入れられた牢屋を見渡す。
とても汚らしい何年、いや何十年以上も掃除されていなそうな、そもそもまったく使っていた形跡すらない場所だった。
とりあえず、一箇所だけを重点的に埃と汚れを払ってそこに座る。
「俺、あれから一体どれくらいの間気を失っていたんだ……。そもそもなんで俺は生きている?」
自問自答。
さっきまでの自分は、やはり平常心ではなかったのだろう。
「あの時あの黒いのは本当に爆発したのか? もし爆発したとして規模はどれ位だったんだ? みんなは無事なのか?」
冷静に考えれば考えるほど、分からないことが押し寄せてくる。
そもそも、こういった物事を当事者が一番なんでも知っているという訳ではない。
ましてや、自爆に近い状況で爆発されその中心地に一緒にいたのなら、視界真っ白、意識真っ白けっけ、なのは当たり前だ。
ジンタからすれば、爆発がどの程度の規模だったのか、実は光っただけで爆発は大したことなかったんじゃないか、とさえ思えてくる。
自分が死んでおらず、こうして考える事が出来ている状況。
根拠もないが何となく前向きに考えが向く。
実は、みんなで自分をからかっているんじゃないかとさえ疑ってしまうほどに。
もっとも、今は夕刻。ここに到着してからそろそろ数時間。
冗談なら、もう誰かしら顔を出して来ても不思議ではない。
しかし、今だ誰一人として顔を見せてこない。
実に凝っている、と思う反面。
もしこれが事実の出来事とした場合、一体自分が今どこにいるのか、と言う疑問も浮上してくる。
ここに来る前にしていた話の中、いくつか違和感のある部分があった。
一つは、どうもここが第二階層では無さそうと思える反応。
そして、さっき出会った面々はジンタが知っているどの仲間よりも鋭い殺気と雰囲気を持っていたこと。
そして最大の違和感は……。
「へ、へっぶっしょんっ!」
盛大なクシャミをしてジンタは、身を震わせた。
日が落ちてきたせいもあるのだろう、ジンタはより体を縮めるように膝を抱え体育座りをした。
そしてこれこそが一番の違和感の理由だった。
ジンタの記憶が正しければ、ジンタの記憶の最後、あの爆発の際、季節は夏だった。しかも、真夏と言っていいほどの連日暑い日が続いていたはず。
しかしここは、どう見ても秋から冬にかけてのような肌寒さ。
「へ、へっぶっしゅっ! うぅ~~いくらなんでもこれは寒すぎるよなぁ……」
もう一度クシャミをし、さっき以上に激しく身を震わせて膝を抱え込み直す。
これは一体どういうことだろう……?
震えながら考えていると、近づいてくる足音がした。
一人の殻に閉じこもるのを止め、ジンタは足音に意識を向ける。
姿を見せたのは、先程ジンタをここに閉じ込めた女性だった。
手には、いくつかの料理が載せられているのだろうお盆と、肩に毛布を持っていた。
「ほう~~。逃げてもいいように鍵を掛けずに行ったのだが、まさか出ていかずに残っているとはな」
感心したと言うには、殺気が十分過ぎるほど漏れ出ている雰囲気のまま女性はおもむろに牢の扉を開け、ジンタにお盆と毛布を手渡した。
お盆と毛布を受け取りながら、
「ふっ、どうせ出ていこうものなら、殺していたんだろ?」
不敵に知ってましたよそんなこと、的言い方で言い返す。
「なんだバレバレかい」
ジンタ以上に不敵に微笑し、女性が扉を閉めた。
そして今度は鍵を閉めて立ち去っていく。
「そうそうさっきも言ったが、明日はより詳しく事情を聞くそうだ。ちゃんと素直に全部吐けるよう心の準備をしておけ」
言い残して、女性は牢屋を出て行った。
静まり返った牢の中、手に持ったお盆に目を落とし、
「なんだよ……、鍵、開いてたのかよ……」
まったく知らなかった事実に、チッと舌打ちした。
それから、しっかり量のある温かいスープとパンを食べ、かなり厚手の暖かい毛布にくるまった。
「まあ、とりあえず飯と毛布にありつけたし、明日まで少し我慢するか」
一つアクビをして、ジンタは目を閉じた。
いまだ分からないことだらけ。
家族達のこと。
仲間達のこと。
心配したらキリがない状況だったが、相当に疲れていたのだろうジンタは気付けばぐっすりと眠ってしまっていた。
ジンタが目を覚ました時、唯一の窓のようにある格子から朝日が射していた。
――いい天気になりそうだ。
立ち上がり格子から外に目を向ける。
見事な朝日が、ちょうど奥に見える山の向こうから顔を出し始めていた。
「さて、とりあえず今日は色々としっかり状況を理解しないとな」
大きく伸びをし、ジンタは気合いを入れた。
ジンタは昨日同様、女性から運ばれてきた朝食を食べた。
そしてさらに、女性が運んできた昼食を食べて。
さらにさらに、女性が運んできた夜食を食べ、また毛布にくるまった。
そして日が昇り、朝食を食べてから呼びだしを受けた。
「さて、では昨日の話の続きをしようではないか」
数段高い場所に置かれた豪奢な椅子に座り、マリーと呼ばれていたエルフの女性が肘掛けに肘を立てて、アゴの下に手の甲を当て、ジンタを見下ろし言った。
「いや、ちょっと待て。昨日の続きってーのは、そもそも昨日過ぎているんだが……」
地面にあぐらをかき、後ろ手に縛られたジンタは反論を口にする。
「何? そうなのか?」
マリーが隣に立つシリルを驚いたように見る。
「ええ、マリー様はお疲れのあまり二日間ぶっ通しでお眠りでした」
「なんと。……まあ五日間寝てないからな。二日ぐらいは寝ててもバチは当たらないだろう?」
「そうですね。まあパトアリスも居ませんでしたし、それぐらいは良かったのではないですか」
「そ、そうだよな。アリスの奴がいないんだから、少しくらいは羽目を外しても……」
「でも、アリスちゃんがそのことを知ったら、きっと怒ると思うよ?」
「うっ……」
問うたジンタを無視して、台上の三人の家族達が何やら雑談を始めてしまう。
「お~~い」
とりあえず、これ以上の遅延を恐れ、ジンタはなんとか話を戻そうと声を上げたが、
「あん? 何よ?」
「いや、まずは昨日呼ばれなかったことに対して少し謝罪をしてくれても――――」
「はぁ? そんなん、いつ呼ぼうが私の勝手でしょ。それに今はそんなことどうでもいいのよ。今は丸一日の間眠っていたことがアリスにばれないようにする方が、私には重要なのよ」
「まったくその通りですよ。ばれたら私まであの人に色々言われてしまう」
「ちょっとシリル、何よその言い草。そもそも、あなたなんで私を起こさなかったの?」
「いえ私はむしろ、マリー様が起きていれば私は寝ていてもいいだろうと思いまして二度寝をしました」
「はぁ~~、ちょっとあんたなんでいっつもそう自分だけを甘やかすようなことする訳?」
「失礼ですが、マリー様は日頃あれだけさぼっているのですからいいですけど、私はいつもパトアリスに色々言われて気を張っているんですよ?」
「あんた男でしょ、ちょっとはガツーンと言い返しなさいよっ!」
「言わせてもらいますが、過去に何度もガツーンと言って、その何倍ものガツーンを喰らっているんですよ、私は」
「か~~~っなっさけないわねぇ~~~~」
呼び出されたジンタを放置し、見えも体裁もなく二人が言い争う。
「と、とりあえずアリスちゃんのことは置いといて、二人共今は目の前にいるこの男の人のことを進めようよ~~」
「はぁ~~~?」
「あぁ~~~?」
暴言を吐き続ける二人の頭がグルリと動き、ジンタに向く。
そしておもむろに右手を持ち上げ、首の横に親指を立て、クィッと横に引きながら同時に叫ぶ。
「死刑よっ!」
「死刑だっ!」
もうどうにでもなれと思いながらも見ていたジンタだったが、さすがに盛大に吹き出した。
「ぶっっ! ちょっと待てお前ら! とりあえず話が一向に進んでないのにどうしていきなり死刑なんて吐けるんだっ!」
「うるさいわね、理由なら後で適当に付けるわよ!」
「ええ、そんなもの後でいくらでも付けてあげますとも!」
「だから待てよっ! 適当に付けるなよ! 後で付けるなよ! 今聞いてからどうするか考えろよ!」
「そ、そうだよ二人共! とりあえず話はちゃんと聞こうよ! それから死刑でもいいでしょ!」
「死刑はもう確定なのかよ!」
もう、しっちゃかめっちゃかに場が荒れた。
結果、ジンタについての話はさらに翌日へと繰り越された。




