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追撃開始

2万PV達成出来ました。

まだまだ、まったりと、ゆっくりと書いていきますので、生暖かい目でお守り下さい。

 砦から、カナン方向へ歩いてすぐの場所に武器屋のおやじが乗ってきた屋根付きの荷馬車はあった。


 荷台を引いていたであろう馬三頭は今、大きな荷台から開放され美味しそうに地面の草を頬張っている。


「あれが、おやじさんの乗ってきた馬車か?」

「あれがそうだぜ、松ちゃん」


 意気揚々とずんずんと歩く松に引っ張られガッカリした様子の武器屋のおやじ。


「にしてもおやじさん、一人で乗ってきたのに馬三頭にあの大きさの荷台はさすがに大きすぎません?」


 すぐ後ろを歩いていたジンタが、置かれている荷台と三頭の馬を見て苦笑する。


 ジンタ達が十人以上乗ってここまできた馬車だって二頭で引っ張ってきたのに、今ジンタ達の目の前にあるのは、その時の馬車の荷台より大きく、馬も三頭なのだからさすがに大袈裟に見える。


 しかし、そんなジンタの言葉におやじは真顔で答える。


「何言ってんだ。あれでやっと運べるほどの重さの武器だぜ?」


「あれでやっとって……」


 自分用に用意してあると言われた武器が、さすがに馬三頭でやっと運べるほどの大物だとはさすがにイヨリも思っていなかったようだ。


「とりあえず、見てみましょう」


 そこまでの代物、さすがにリカも興味が沸いたようで、足を速め荷台に向かう。

 当然他の面々も、興味津々で後を追う。


 荷台の最後方に全員が集まる。

 屋根付きの薄暗い荷台の上にシーツが二枚被されていた。


 その下にあるのは明白だった。

 しかし問題はその面積。


 恐らく掴むだろう取っ手部分が荷台からはみ出し、シーツに至っては、掛け布団二枚を並べた大きさなのだ。


 詰まり大体ソレ倉の大きさの武器と言うことだ。


 自分が想像していた以上の大きさに、思わずジンタもツバを飲む。


「これ……ですか?」


 イヨリがはみ出している取っ手の前に立つ。


「ああ、ちょっと待っててくれ、シーツを退かすから」


「よっ」と掛け声を上げて、荷台におやじが上がると、ギシギシギシッと荷台が悲鳴を上げるように音を上げた。


「よいしょっ」


 再度の掛け声で、布団二枚分の毛布を退かす。


 朝の明るい時間ではあるが、太陽の暑さを避けるように、やや深めの木陰に置かれていた屋根まである荷台である。


 中は、周りが明るい分、余計に薄暗く、毛布を退かしたその武器がシルエットに近い形でしか見えない。


「斧……だな」

「斧……ですね」


 ジンタとイヨリが言い合う。


「さあイヨリちゃん、持ってみてくれ」


 薄暗い荷台の中で、武器屋のおやじが自慢げに言う。


「はい、では持ちますね」


 イヨリが獣人化し、ゴツゴツした岩の腕へと両腕を変化させ、はみ出ている取っ手を両手で掴む。


 ぎぎ……ぎぎぎぎ……


 ゆっくりと、イヨリが力を入れると、やっと開放されると安堵するように荷台が音を立て、重く沈んでいた荷台を元の高さまで戻していった。




「おいおい、これって……」


「おれ……、これ見たことあるぜ……」


「確か第一階層のトレントの時……でしたわね?」


「はい、あの時、私が使った斧……」


 イヨリが荷台がら引き抜き、正中に構えた巨大な斧を見て、ジンタとミト、リカとイヨリの四人が思い出すように呟いた。


 それは見覚えがある斧だった。

 無骨過ぎるほど飾り気のない片刃の大きな斧。


 しかし、確かに見たことあると感じられるほどに同じに見える斧。

 唯一の違いがあるとすれば、それは大きさだろう。

 第一階層で見た斧よりも、さらに大きい。

 まるでイヨリがあれから二年経って成長している分、大きくしているぞと言ってるように。


「おやじさん……」

「あ? なんだ?」

「本当におやじさんって、第一階層の武器屋のおやじさんと何にも関係がない?」

「いや、本当に俺は知らねえぜ」


 前に聞いた、しかしジンタがまた聞いてしまうほど、今イヨリの手の中にあるその斧は第一階層の時の斧にそっくりだった。


「で、イヨリちゃん。重さとか握り加減はどうだ?」


 正中に持ち上げ、構えたままのイヨリにおやじが聞く。


「ええ、まだ振っていないので何とも言えませんが、重さは十分大丈夫そうです」


「そうか、じゃあ一回試しに振ってみようか」


 気軽な感じでおやじが言った直後、ざざざっとその場の全員がイヨリから十メートルほど離れた。

 それほど離れたくなる大きさだ。


 一応の安全を確認するようにイヨリは周囲を見てから、素振りをするように片刃の大斧を横に振る。


 ぶぉんっと音が鳴り、振った先のさらに奥にある木立が風に吹かれたように揺れた。


 二度、


 三度、


 と、早くしながら振っていくイヨリ。


 四度目でついに全力の勢いだとジンタが思えるほどの強い振りをした。


 巻き起こる風が台風のように吹き抜け、辺りの木々が激しくざわめき、遠くで草を食んでいた馬達が興奮したようにいなないた。


「うん。大丈夫そうです」


 振り終え、正中に構え直したイヨリが、大きく頷いた。


「そうか、それはよかったぜ」


 安堵したようにへへへと笑い、おやじは鼻の下を擦る。


「さて、じゃあ次はおれっちのだ!」


 待ってましたとばかりに、今度は松が前に出る。


「おう、松ちゃんのだな。それなら確かあれが……」


 再度荷台にあがって、おやじが中でゴソゴソと何かを探す。


「これだこれだ」


 持って来たのは足当て。

 しかし普通の足当てとは違う。

 まず一番は普通の足当てにしては異様に長い。

 次に、足当ての上部、甲の部分に刃が付いていることだった。


「これがおれっちの?」


「ああ、一応松ちゃんとミトちゃん用で作ってみたやつだ」


「とりあえず履いてみるぜ!」


 嬉しそうに獣人化させた大リスの足に足当てを装着し始める松。


 そしてそんな松を見ながら、ジンタはこっそりとおやじの隣に行き、


「(おやじさんあれって確か……)」

「(ああ、あの問題点がある足当てだが、でもな、とりあえず試してみてもいいじゃねえか)」


 誰にも聞こえない小声でやり取りする二人。


「よっしゃあっ!」


 履き終えた松が勢いよく立ち上がる。


「どうだ?」


 不安一杯(元々不安ありなのが分かっている)の声でおやじが聞く。


「ん~~、普段獣人化で何かを履くってことないからなぁ~、なんか窮屈な感じがするかなぁ~」


「それはだな、試作と言ってもサイズ自体、俺達が大体こんなもんだろうで適当にやったからな。測ってない分多少きついとかゆるいはあるだろうな」


「そっか、確かに今までこんなモノを作ってることすら知らなかったからなあ、おれっちは」


「だろう? で、松ちゃん。とりあえずジャンプしてみてくれねえか?」


「ん? ジャンプか? じゃあちっと飛んでみる」


 下半身をリスヘと変えた松が、膝を曲げぴょんとその場で飛び上がる。


「じゃあ松ちゃん。とりあえずもっと高くジャンプしてくれ」


「もっと?」


 おやじに言われるまま松はジャンプをくり返す。

 五度目のジャンプ、ほぼ全力の垂直ジャンプをしようと、松が下半身をググッと沈めた瞬間、


「痛っっっっってええええええ――――っ!」


 松が跳ね飛んだ。

 真っ赤な血の筋を作って。


 ずだんっと、普段の松ならあり得ない程無様に尻餅をついて着地した。

 痛みに耐えるような顔をしている松の脛の辺り、そこには出来たばかりの深い切り傷が刻まれ血がドクドクと出ていた。


 慌ててベンジャミンとロンシャンが松の傷を治すため駆け寄る。


 全員が大なり小なり慌てる中、こうなることを予期していた二人が意見を交わし合う。


「ほら……、やっぱりこれは失敗ですよ」

「だなぁ……、でももう少しこうどうにかしてだなぁ……」

「いやいや、俺達のように思いっきりジャンプしても足の甲が脛と当たらないなら大丈夫ですけど、そもそも松もミトも獣人化した際の足が長い上、思いっきりジャンプする時屈伸すると両方とも足の甲が脛とくっつくんですから、刃があったらそれで切っちゃいますよ」


「ン~~~~、そうなるとやっぱあっちが良いのかぁ~~」

「ええ、やっぱあっちの方がいいですよ。強度の面や多少の手間が必要ですが、通常時と戦闘時で使い分けれますし、あっ、一応あっちも持って来ています?」


「ああ、持って来てるぜ」


 新しい何かを持ってくるため、おやじが荷台に上がる。


「えっと、ジンタさん。今の話って一体……」


「ん? ああ、一応その足当てを作った時に、いくつか問題点があってさ、その一つが今松がなったように、深く一気に踏み込むと、その足当ての場合は自分の脛を切っちゃうんじゃないかって話をしてたんだ」


「そ、そそそ、それって、ま、松さんがこうなるって分かっててやらせたってことですか?」


 いつも以上に竹がドモリを激しくさせて、詰め寄ってくる。


「いや、可能性があるってだけだったし、実際に履いてもらわないと分からなかったところもあるから……」


「つまり松さんは実験台と言うことだすか?」


 梅も、頬を膨らませて竹の隣に立つ。


「実験と言うよりは試作品の場合はどうしてもそう言うのがつきものというか……」


 二人の怒っている視線を受け、言い淀むジンタだったが、そこに荷台に上がっていたおやじが戻る。

 その手に新しい足当てを持って。


「おう、どうしたんだ?」


 キョトン顔のおやじに向かって、竹と梅が詰め寄り、もう一度同じことを聞く。


「いや、そうは言っても俺にしてもジンタにしても松ちゃんやミトちゃんのように下半身を獣人化出来ないしな。こうなりそうだ、と分かっていても実際ならないかも知れない。それは実際にやってもらわないとな」


「ではどうしてこうなると思っていて、松さんにそれを言わなかったんですか?」


 頭に血が上っているのだろう、ドモリもせずにさらにズイッと竹が詰め寄る。


「そりゃあ言っちまったら、松ちゃんはきっと全力で飛ぼうとしないだろ? それじゃあ分からないじゃないからな」


「でも、それで松さんはケガしただ!」


 梅も両腕を下にぴーんと伸ばし詰め寄る。


「いや、それは、まあ、だな」


 クリクリお目々が普段以上にくりくりと動き、おやじのハゲ頭に汗が滲む。


「それ以上は止めておくんですわ」


 怒りを露わに詰め寄る二人を止めたのはリカだった。


「でもっ!」

「んだっ!」


 普段の温和な二人とは違う、攻撃的な眼差しをさらりと受け止め、


「どんな理由であれ、この二人は必要になるかもと今まで用意を重ねてきた。それを、今までまったく必要としてなかった人達が、今いきなり完璧な状態で下さいと言う方が虫が良すぎるのではなくって?」


「それは……」

「んだ……」


 言い返そうにも言葉を詰まらせて二人は俯いてしまう。


 リカの言う通り。

 ジンタにしても武器屋のおやじさんにしても、必要になるかも、と思い用意をして来た。だが、用意はしても肝心の扱う側が必要ではないと感じていたから、こうして試作として作っていても試運転まで出来なかったのだ。


「竹に梅ありがとうな。でも、リカさんの言う通りだぜ、おれっちがいきなり自分が必要だからクレってお願いしてるんだ。こういうことになっても確かにしょうがねえ」


 ヒールのお陰で傷が治った松が、おやじの手にある新しい足当てに手を伸ばす。


「で、おやじ、次はこれか?」


「あ、ああ、そうだ」


「一応聞くけど、これは切れたりは……」


 強気なことを言ってはいたが、やっぱり嫌なのだろう、松も顰めっ面でおやじに聞いた。


「ああ、一応それはさっきのことを見越して作ったもんだ、改善と言うよりは別物としだがな」


「そうか、じゃあいっちょ履いてみるか」


 松は、すとんとその場で地面に座り、足当てを履き始める。


「それはさっきのような切れる刃が固定されてない。使う時に使用するような形になるからな。一応使い方を分かってくれ」


 足当てを履こうとしている松におやじはしゃがんで説明を始めた。


 数分して、よっと声を出して松が立ち上がった。


 松の大リスの足の甲には刃がない足当てが履かれていた。

 ただ違うのは、両足の足当て、その左右両方に逆刃に反ったような刃が一本ずつ備え付けられていた。


「それが新しい足当てなのか?」


 ミトが怪訝そうに見ている。


 確かにさっきのように勢いよくしゃがんでも刃が脛に当たらないだろうが、逆にどう見ても深くどころか、まったく切れないように見えるからだろう。


 松が、感触を確かめるようにその場で数歩足を上げ下げしている。

 その際も、両足の左右にある刃は確かに地面に触れているだろうが。踏むと幾分刃の方が地面に触れるだけで浮き上がる。


「まあ、おれにはこれがとても武器なように見えねえんだけど……」


 胡散臭さをそのまま表情に現してミトが告げると、全員が頷く。


「まあ、もうちょっと待てって」


 宥めるようにおやじが言うと、


「なんかいい感じだし、おやじそろそろ変えるけどいいか?」


 松が、履いた感触に納得したように口を開いた。


「よし、じゃあやってみろ」


 おやじが言うと、松がもう上半身を折り曲げて、足当て部分にある足の両端にある刃を繋げている革紐の留め具を外した。


「よいしょ」


 松は外した革紐を持ち上げ、つま先側へと倒した。同時に、今までカカト方向で逆刃を向けていた刃が、つま先側に倒れ刃の部分を上へと向け、足先より二〇センチほどの前へと出た刃へと変わった。


「おぉ! そうか、そうやって倒すことで、武器になるわけか!」


 見ていたミトがぽんと手を叩いて頷いた。


「へへへ、そう言うこったミト」


 どうだと自慢げに立ち上がる松。


「とりあえず動きを見せてくれるか?」


「ああ分かったぜ、おやじ」


 松はまずカカト持ち上げつま先立ちになる。

 じゃりっと地面に刃先を突き刺すが、刃を押さえる留め具に幾ばくかの遊びがあるせいか、刃は思ったより地面を噛まなかった。


 次に歩来だす。


 がしゃっがしゃっと幾分重たげな音を響かせるが、それ位で問題はなさそうだった。


 以降、走ってみたり、ジャンプしてみたりして、松自身の意見なども出たりしたが、これぐらいならと今は納得した。


 それから攻撃、つまり試し蹴りを行った。


 一番最初に蹴りは、松が今までしていた蹴りそのまま、足当て部分に叩き付けるような蹴りを大木へと放った。


 どんっと響いた音の割に、切れることはなかった。


「松、蹴りで切るのは叩き付けるんじゃなく、最後叩き付けるタイミングのところで足の甲を胸元に引き上げる感じだ」


『纏い風』を覚え、今は叩き付ける蹴りより斬る蹴りを主に扱うミトが助言を告げる。


「最後の叩き付けるところを足を胸に引きつけるようにする、か……へへへ、やってみるぜ」


 不敵に嬉しそうに松は構えて足を振り出す。


 シュッ


 切れる音がして、松の蹴りの軌道にあった大木に二本の切り傷が付けられる。


「その調子だけど、もう少し引くのを遅くした方がいい」


「だな」


 ミトの助言を再度受け、松は足を振るう。


 シュパッ


 乾いた風切り音がして、木に深い二本の傷が追加される。


「そんな感じだな」

「ああ、こんな感じだな」


 へへへと、二人して鼻下を擦る。


 新しく作られた武具に納得している面々を余所に、蹴りによって付けられた傷をロンシャンがまじまじと見ている。


「どうしたロンシャン?」


 一応自分も制作に参加し、それで喜ばれていることが嬉しいジンタが、笑みを向ける。

 ロンシャンは少し困ったように笑みを浮かべて、


「確かにこれなら松さんの攻撃が打撃から斬撃に変更されて効果は上がるかも知れないですが、果たしてこの蹴りの切れ味でドラゴンにダメージを与えられるのかどうかが気になって……」


 嬉しい気持ちで一杯だったジンタが冷や水を掛けられたように固まった。


 うまく武具として装備されたことに舞い上がってしまっていたが、実際なぜそれが必要なのか、の根本を忘れてしまっていた。


 松の通常の攻撃は蹴りによる打撃と爪の引っ掻き。

 それではドラゴンの鱗を突き破りその奥にあるドラゴン本体にダメージを与えられないから、もっと深く斬撃出来る武具をと考えたのだ。

 その武具のお陰で斬撃効果を与えられたとしても、肝心の鱗を切り裂けなければ、それは意味がないことになる。


 本質を思い出したジンタの耳に、ズンッと腹の底から響く振動が聞こえた。

 見れば、松が斬撃を刻んだ木に、竹が自身の持つ武器鉄の槍を突き刺していた。


「わ、私もそれを気にしています。こ、この槍も目一杯突き刺せば刺さりますが、今以上の切れ味がなければ、きっと大した役には立ちません」


「うむ、実は私のこの大型ランスもドラゴン相手でははっきりいってあまり効果が出ていない。私の力ではこの槍をあのドラゴンに突き刺すには大きすぎるのだろうと思う……」


 浮かれきった雰囲気が沈黙する。


 無精ヒゲのあごに手を置き、ジョリジョリとヒゲを撫でて考え込むおやじを全員が見る。


 ジンタとおやじが主に作っていたのは武具より防具がメインで、新しい武具と言うのは今回の松とミト用ぐらいだった。


 まったく新しい武器などはそうそう出来るモノではないし、大概はイヨリの斧にしても言えるように、今このリリフォリアで現存する武器の形を多少変化させるか、どの材料で作るか、それぐらいしかない。


 そして今一番の問題は、確かにその武器の強化、主に切れ味などの強化なのだ。


 この部分に関しては、ジンタ達ではどうしようもない。

 専門職である武器屋のおやじ以外、誰も答えられないのだ。


 だから全員が武器屋のおやじを見て待っていると、ゆっくりと指を指し示し、おやじが口を開いた。


「なあ、ずっと気になってたんだが、あれってひょっとしてドラゴンの尻尾か?」


 おやじの示す先にあるのは、昨日ミリアが魔法のシールドをジンタのシールドアックスと同じ使い方で切り落としたドラゴンの尻尾だった。


「そうですけど、でも、あれはどんなに火で炙っても研いでも全然無理だって、言ってましたけど……」


 ジンタとロンシャンとてそこにはすぐに目がいった。

 真っ先にあれが一番の武具の材料になると思った。

 だから真っ先にあれで武器が作れないかとカインや保健医に頼んでみた。

 しかし、少なくとも今の段階ではいい返事が帰ってきてない。

 この砦に居る鍛冶師が必死に叩いても、鱗の加工がまったく出来ないらしい。


「おやじさんはドラゴンの鱗の加工を知ってるんです?」


 少し、ほんの微かの期待を持ちながらジンタが尋ねるが、


「バカ言うなって。そもそもドラゴンなんてもんを見たことがねえのに、その鱗の加工なんてしたこもねえ」


 困ったように、軽く両腕を広げ肩を上げてみせる。


「だよなぁ~」


「じゃあ、武器の切れ味を上げる方法は……」


「無理だな。今からまったく新しいのを打ち直すって言うには時間がなさ過ぎる。かといって多少切れ味が良さそうな武器を持っても使い慣れない不備を考えると、あまりいいとは言えんだろうな」


 本職のまっとうな回答に、全員がさっき以上にどんよりと俯いた。




 明日に備えての休養も含め、ジンタ達は砦内の部屋でのんびりとしていた。

 ベットでは、朝飯をたらふく食べ、これ見よがしにお昼寝しているミリアとあーちゃんがいる。


 ジンタは部屋の真ん中に置かれているテーブルにセットで用意されているイスに腰を下ろしていた。


 イヨリは、明日以降の追撃の準備も兼ねて、食料の加工をしに出ていた。


「もうじき昼頃かな?」


 窓など一切ない部屋の中だが、腹の虫加減でなんとなくそう思った。

 そしてぐーすかぐーすかと気持ち良さそうに寝ている二人を見る。


 ――お昼になったら、絶対に起こしてね


 食べて寝ているだけなのに、お昼もちゃんと食べるらしい二人が、寝る前にジンタにきつくそれを言っていた。


 ぐぅ~~っと盛大に腹が鳴った。

 ジンタのではなく、寝ているあーちゃんのが……。


 マジで寝ているだけで、朝飯の消化が終わってるのか……?


 グッすりと寝ているあーちゃんの顔を覗き込んで、ジンタは心底感心したようにその寝顔を見ていた。


 それから考える。


 やっぱ起こすべきだろうか、このまま寝かせておくべきだろうか、と。


 ん~~っと低く唸っていた時だった、部屋のドアが勢いよく開いた。


「おい、ドラゴンの鱗の加工方法が分かったぞ」


 入ってくるなり大声でいきなりの報告。


 しかしその内容に、人の部屋のドアを強引に開けたことを怒鳴ってやろうとしていたジンタの口が開いたまま閉じなくなった。

 数秒開いたまま、それからパクパクと動かしてようやく声が出る。


「マジで?」


「ああ、マジもマジだ。寝ずにここまで必死に私は考えたんだ! どうして焼いても煮ても加工出来なかったのに、なぜ同じ鱗を使っていた『開かずの箱』は加工出来ていたのか、ってな」


「『開かずの箱』……」


 言われて気付く。そうだったのだと。どんなに砦に居る鍛冶師達が頑張っても、まったく一切加工出来なかった鱗だが、数千年も前から学校にあり、誰も開くことが出来なかった加工した箱があったということを。


「そうか……、あれも確かドラゴンの鱗を使っていたって……」


「ああ、あれは鱗一枚を紙のように折り畳んで箱を作ってたんだ。鱗であんな芸当が出来ると言うことはそれが可能な方法があるということだったんだよ」


「確か、あれが開いたのってドラゴンの血を浴びて……だったよな」


 ミリアがドラゴンの尾っぽをぶった切った際、辺り一面に雨のように降りそそいだ血によって箱が鱗の形に戻った感じだったはず。


「そう、しかしあれは血を浴びたら元に戻るように加工されていただけで、決して血で加工出来るわけじゃなかった」


「違うのか?」


「実際試したが違った。そして色々試した結果、ドラゴンの鱗は魔力で加工出来る!」


「魔力で?」


「そう、鱗にこういった風にな~れ、と魔力を送り込むことで、鱗の質感が変化する」


「ほう……なら――」


「だがっ!」


 だったら、それですぐに新しい武器を作ってくれと安易にも取れるほどの考えでジンタが言おうとしたが、止められる。


「だが?」


 もったいぶった言い方を促すようにジンタが問うと、


「その送り込む魔力量が問題なんだよ」


 保健医が、疲れたように溜息を付いた。


「そんなに凄い量が必要なのか?」


「使うな。実際一つの鱗を一箇所曲げるのに、私とカインと他上学年のマスター二人が『曲がれ』と精一杯の魔力を送り込んでやっとって感じだった」


「……ほう」


 曖昧な相づちを口にしながら、ジンタは思う。

 よくそこまで人を集めて試してみたな、と。


「しかし、そうなると……」


「お前達が懇意にしているラペンの鍛冶屋とは会ったよ。とりあえず早急に補強が必要なのは、君達の武器だということだな?」


「ああ、しかしそれだけ大量の魔力が必要となると……」


 ジンタがチラリと目を向けた先には、気持ち良さそうに眠り、お腹をポリポリ掻いているミリアがいる。


「そうなるだろうな」


 同じように眼鏡をクイッと持ち上げ、保健医が頷いた。




「それで、これをどうしたらいいの?」


 右手で、直径にして一メートル大の鱗を持ってミリアが眠そうに目を擦りながら聞いた。


「そうだな、とりあえずどこまで出来るのか知りたいところだが……」


 みんながいる中、武器屋のおやじがヒゲを触り考え込む。


「とりあえず、おやじさんとしてはどういった状態になればこの鱗を扱いやすいです?」


 停滞したような場の雰囲気にジンタが波紋のように投げかける。


「そりゃあおめえ、とりあえずお前達の武器を強化するのに一番手っ取り早いのは、炉で溶かして、お前達の武器の上塗りって形で鱗を加工出来れば一番手っ取り早いが……」


「溶かすって……」


 さすがにジンタもそれはちょっと、と思ってしまうが、


「うんじゃあ溶かせばいいのね?」


 寝ぼけまなこのミリアは言うなり、炉の手前に置かれている長い箱状の上に鱗を持って行く。


「え? ミリア?」

「おい、ミリアちゃん今のは――――」


 ジンタとおやじが止めようとした瞬間、


 バシャッ


 ミリアが手を離し箱に落とした鱗が、溶解し真っ赤なドロドロの状態になった。


「「「「「お、おぉ~~」」」」」


 ジンタとおやじだけではない、その場に居た全員が驚愕した。


「早く終わらせて、私はお昼ご飯食べないといけないんだから」


 朝ご飯を食べてからぐっすりと寝て、さらに今も寝ぼけ眼のまま、そう口にするミリア。


「ミリア、あなたさっきまで寝てたのに、お昼も食べるの?」


「え~、朝ご飯からもう四時間は経っているでしょ? お腹空いたよ」

「あ~ちゃんも、お腹すいたぉ~」


 イヨリに手を引かれているあーちゃんも目元を擦りながら相づつ。


 イヨリが「まったくこの達は」と呆れたように目元を揉んだ。




 ミリアが溶かした鱗の箱を眺めて、武器屋のおやじはジンタと松、竹とラーナの武器を預かり加工を始めた。

 夏の遅い日の入りで、空に夜空が輝きだした頃、それまでも休む間もなく作業していたおやじが、じっと見ていたジンタ達に怒鳴った。


「そこに居られると気が散る、お前らは邪魔だからとっとと部屋で寝てろ!」


 と。


 きっと、明日出発を控えている自分達に、気を使ったんだろうと理解し、みんなはその言葉通り寝ることにした。


 そして鉄を叩く音は夜半過ぎ、ジンタが寝る時までずっと鳴り続けていた。




 次の日。真夏の太陽が昇り始めた頃。

 ジンタ達全員は、準備を整え砦を出てゴブリンの森の前に集まっていた。


 あまりに早い時間に、まだ眠そうに目を擦り手を引っ張られているマスターもいるし、約一名、小さいお子様はイヨリにおんぶされてまだ夢の中だ。


 見送りで保健医とカイン達、他にどこで知ったのか多数の仲間達が来ていた。


 そんな中、丸いくりくりお目々の下に真っ黒なクマを作った武器屋のおやじがフラフラしながらも、ジンタと松、竹とラーナにそれぞれの武器を手渡した。


 手渡された武器。

 その刀身が、水に浮かぶ油のように輝き揺らめいて見える。


「とりあえず、今俺に出来ることはすべてやったつもりだ。だが、これはどんなに格好良く言ってもただの上塗りだ。俺の鍛冶屋としての、職人としての仕事としてはまったくなっちゃいねえ程度のもんだ。いいかよく聞けよ、これの元になっているのはお前達の持っていた武器のままだ。つまり、上塗りしてどんなに切れ味が増したとしてても、芯の部分の強度は変わらねえ。むしろ刃先の切れ味が増した分、負担が増えるかも知れねえ。その事だけは忘れねえでくれ」


 今にも倒れそうになりながらも、おやじははっきりとそこまで言った。


「わかった気を付けるよおやじさん」

「へへ、わかったぜ」

「わ、分かりました」

「承知しました」


 ジンタ、松、竹、ラーナの四人が頷く。


「じゃあ気を付けて行けよ。俺はとりあえずぐっすり寝て、今度はちゃんと職人としての武器をあれから作っておくからな」


 おやじとしての無事帰ってこいというメッセージなのだろう。振り向きフラフラと頭を揺らし、おやじは手を振って砦の中へと戻っていった。


 おやじが去った後、声も泣く沈み込むような雰囲気が漂う。


 一昨日戦ったあのドラゴンにたった四家族、しかもまだ年若い二年生のマスター達とその家族だけで行かせると思っているからだろうか。

 見送りに来ている先輩方はどう声を掛けていいのか分からない感じに見えた。


 だからジンタは、家族達を振り返って、それから見送りに来てくれている仲間達に向き直り、笑みを浮かべ、軽い感じに手を上げて、


「じゃあ行ってきます」


 と言った。


「気を付けてな」

「勝利を願っています」


 保健医とカインが手を上げ返す。


 頷いた後、ジンタ達は振り返り歩き出した。

 ドラゴンとの戦いに決着を付けるために。


 後ろから応援する声が轟く。

 がんばれ! とか。

 勝ってこい! とか。


 声援を背に受け、歩くジンタだったが、そこに一つ変な声が混じった。


「おいっ! 脱童貞ヤローちょっと待ちやがれっ!」


 ピシッとジンタのコメカミに筋が浮かぶ。


「ここまで格好良くいってたのに……、このどうしようもなく今は聞きたくない濁声だみごえは――――」


 堪えるようにふるふる震えるジンタの頭を、太い腕がふざけるようにロックする。

 誰かなんて聞く必要もない。


 なんせトカゲ臭いからすぐわかるヤツだ。


「おい、がんばれよ、死ぬんじゃねえぞ」


 ぼそぼそと耳元でジンタにしか聞こえない声で呟く。


「俺は死ぬ気なんてないし、誰も死なせる気はない」


 ジンタもはっきりと言い返す。


「そうか、そうだな、その意気でいい」


「お前こそ病院は?」


「あん? そんなのお前、抜け出してきたに決まってるだろ?」


「マジか……俺、今竜女さん見るの恐いんだが……」


「安心しろ、俺も怖え……」


「俺が行ってから死んでくれ」


「いや、俺は死なねえよ。なんせお前から女を紹介してもらわねえといけねえからな」


「あ? ――ああ、そうか、それなら――」


「いや今はいい。言ったろ? 帰ってきてから聞くって」


「……そうか。ってかよ、お前がそういうこと言うと、なんか俺に変なフラグが立っちまいそうで恐いんだが……」


「あ? 何が立つって? 俺はナニなら今でも立つぞ?」


「お前もう帰れよ。死んでくれよ……」


「へへへ、まあ楽しみに待ってるぜ。お前からの紹介と、倒したドラゴンの頭部の鱗のお土産をよ」


「頭部の鱗?」


「あ? おめえ知らねえのか? ドラゴンの頭部の鱗って―のは、最高級品なんだぜ?」


「そうなのか?」


「当たり前だろ。なんせ手に入れるには倒したヤツじゃなきゃ無理なんだからな。普通には手に入らねえだろ?」


「なるほどな……」


「だから待ってるぜ」


「分かったよ。ちゃんと持って帰ってくる」


 言い終えると、ロックしていた腕が弛み代わりに背中をドンッと叩かれ、ジンタはつんのめるように数歩前に歩いた。


「脱ドーテーが、何千年もドーテーをこじらせてるヤツに負けんなよ、がんばってこい!」


 ヒリヒリ痛むほど強く叩かれたことに、振り返って文句言ってやろうとしたが、先に送り出す言葉を言われてしまい、仕方なく右手を軽く上げてそのまま歩き出した。


 前で待っている家族達のところへと。


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