追撃任務と助っ人
「ぎゃああああああああああああああああ――――――――っっっっ!!!!!!」
「ミ、ミリア手を離せっ!」
「ミリアッ!」
砦の中、如何にも強固極まる天井に体を大の字にさせて、めり込むように張り付いて大絶叫するミリアに、ジンタとイヨリが必死に手を伸ばす。
「とりあえずミリア、石を『浮遊石』を離せ!」
「ぐ、ぐおおおぉぉぉっ、は、離そうとしてるけど、天井と石に板挟みになって手が抜けないぃぃぃぃぃっ」
ミリアが泣きそうな声で言っている通り、ミリアの手は『浮遊石』を握ってはいない。
むしろパーの状態で開いている。
にも関わらず『浮遊石』はミリアの右手の中から落ちてこない。
「これはあれだな、魔力の放出量が圧倒的すぎて、もう触れているだけで効果が発動してしまってるんだな」
冷静に状況を分析する保健医に、
「あれって発動というよりは暴走っていいませんか?」
ロンシャンも冷静に指摘する。
「発動にしても暴走にしても、一応良かったよ。もし天井のないところでああなったらきっとどこまで上がって行っちゃうか想像もつかなかったよ」
「そうだな」
「そうですね」
ミシミシと音を立てるほど天井に押し付けられるように張り付いているミリアを見て、カインが安堵すると、保健医とロンシャンもほっとしたように頷いた。
「おい、でもいい加減あれ本当に何とかしないと、ミリアの奴天井突き破っていくぞ?」
あんな目に合わず本当に良かった、みたいな顔をしたミトが言うと、
「それなんだが、とりあえず誰かあの『浮遊石』を横に叩いてみてくれないか?」
「わかったぉ~」
保健医の指示で、あーちゃんが獣人化して蔦を一本に纏めてミリアの手に張り付いている石を横に飛ばす。
ふっと天井へと押し潰そうとする力の流れが止まり、普通に戻った重力に引き寄せられたミリアが落ちてくる。
「「ミリアっ!」」
同時に声を上げたジンタとイヨリが手を伸ばす。
しかし、なぜか二人揃って、さっと手を引っ込めた。
「「あっ……」」
ベチンッ!
見事な音を響かせて、今度はミリアが大の字で地面に張り付いた。
ジンタとイヨリがしまったと、慌ててミリアに駆け寄る。
「う、うぅ……イヨリもジンさんも、受け止めてくれないなんて……」
ずびっと鼻を啜り、地面に大の字で張り付いたままのミリアが言う。
「ご、ごめんなさいミリア。なんとなく引っ込めないといけないような気がして、つい……」
「そ、そうなんだ。なんか引っ込めた方がいい、って誰かが言ったような気がして……」
必死に言い訳する二人がミリアを抱き起こす中、
「やはりミリアリタにはこの『浮遊石』は扱えないな」
「そうですね、ミリアちゃんの力では石が暴走してしまって、危険なだけですね」
「範囲強化魔法を扱える人物と言うのは、本当に魔力が桁違いなんだな」
保健医、ロンシャン、カインの三人が、それぞれに納得し互いに感想を述べた。
その後、『浮遊石』を二つ持って浮いた場合や、四つならどうかと、色々やってみた。
もっとも、その辺りはジンタ達が知りたいと思ったことで、保健医は知っていた。
「だから言っただろう、この『浮遊石』は大きさ、まあこの場合は質量と言えばいいのか? とりあえずそれが増えれば高く上がる。四つとも、すべて同じ大きさぐらいではあるが、この四つの『浮遊石』を一人が持てば、浮く力が大きくなって空を飛べるぐらいにはなる」
そうなのだ。一人が四つの石を持って魔力を注ぐと天井まで行き、さらに上へと上がろうとする。
つまり、四つを持つと重力より浮力の方が勝り浮いていくということなのだろう。
「さて、ここまで色々やったんだ。君らも、もういいだろう?」
保健医は意味ありげにクイッと眼鏡を押し上げる。
「そろそろ本題に入ろうか」
真顔でそう言った保健医に対し、ジンタを始めほとんどが「何を?」とキョトン顔で訴えた。
「やっぱり、石に夢中で忘れてたなっ!」
大仰な溜息だが、どこか勝ち誇った感を漂わせる保健医。
「あ、ああっそうか! ドラゴンの追撃っ!」
一番に思い出したのはカインだった。
そして、全員がその事を思い出した。
「あ、ああ。そう言えば追撃しないといけないんだったっけ?」
「ええ、ミリアがそう言ってましたよね?」
「あれにも書いてあったぉ~」
ジンタ、イヨリ、あーちゃんがそれぞれに言う。
「そ、そうなんだよっ! 早くあのドラゴンを倒さないと、次はもっと酷いことになるんだよっ!」
『浮遊石』をうまく使えず、自分だけふよふよ浮けなかったことにショックを受けていたミリアも、思い出したようにそう意気込んで言い放つ。
「ですが、すぐにというのはさすがに、とりあえず最低でも今日と明日はゆっくりしないと……」
カインもまた、さっきと同じようにそこは譲らなかった。
「出発は明後日だとしても、討伐しに行くメンバーは?」
疲れを癒やすことには賛成だが、決められることは決めてしまおうと言ってるのだろう。ロンシャンが問う。
「ん? そんなものはもう決まっているだろう、ここにいるメンバーでいいんじゃないか」
保健医がさも当然のように答えた。
「そうですね。ではここにいる五家族で行きましょう」
誰も異論はないと判断して、保健医の言う通りここにいる五家族で行こうとカインが言ったのだが、「待て」と保健医が止めた。
「すまない。何か誤解があったようだが、ここに『浮遊石』は四つしかない。つまり四人しか持てないんだ」
保健医は両手に持つ、四つの『浮遊石』を見せる。
「ええ、ですから、僕とロンシャン、エルファスとベンジャミンの四人で持てば……」
カインは戸惑うようにしながらも即答する。
その場の全員もきっと同じことを思っていたはずだ。
しかし、保健医だけは、そうではなかった。
「いや、もう一人いるだろ? この場で『浮遊石』を持てる者が」
全員が「え?」と漏らして考えようとする。
「いや、マスターではないが、強化魔法を使える者がいるだろう? そこに」
両手で石を持っている保健医が、ジンタをアゴで指し示す。
「はぁ? 確かに俺もその石が使えるけど、でも俺は『召喚されし者』だぞ? 俺なんかが持つより、カインが持ってもう一家族多く人を増やした方が――――」
「君は、いや君達は本気でそう思っているのか?」
言い返したジンタの言葉を鋭く遮り、保健医は切るように鋭い目で全員を見た。
なぜ保健医がそんな目を向けてくるのか、見当もつかない。
ジンタは、嘘をついているつもりはなかったからだ。
本当に、尻尾を切られ時をドバドバ血を流し弱っているだろうとはいえ、あのドラゴンを相手にするのなら一人でも多く、一家族分でも戦力は多い方がいい。
そしてその一家族がカイン達なら申し分ないとも。
カインは、砦でも、そしてドラゴンとの戦いでも総指揮をしていたし、その家族である麗火にしても竜女にしても、日頃はカインを守ることに集中するためあまり目立たないが、第二段階を習得している。
きっと、今年卒業し第三階層へと上がることは間違いないはずだ。
十分過ぎるほど戦力としては申し分ない。
ジンタの思っていることを察したのか、保健医は呆れた感じに俯き、
「はぁ~~、まさかここまではっきり説明しないと気付かないとは……」
保健医は眼鏡を押し上げる。
「君達は今日の戦いで全力を出して戦えてたか?」
保健医が真顔で口にした言葉。
それを、しっかりとしっくりと理解するのに数秒かかった。
「僕は出来ていました」
「私もカインを守ると言うことであれば、しっかり出来ていたわ」
「私も全体を把握しつつ、フォローは欠かさなかったと思います」
カイン、麗火、竜女の三人は答えた。
しかし、ジンタを始め、それ以外の全員は言葉を詰まらせる。
結構必死だった。
決して手を抜いていたなんてことはない。
しかし、しかしだ。
保健医が口にした「全力を出して」とまではいってなかったように感じる。
「どこが」とか「どうして」とかはうまく言えないが、でも確かに何となく不完全燃焼な気がする。
そしてそれはジンタ以外のみんなも感じていたのだろう、誰もカイン達に続いて口を開こうとはしなかった。
「やっぱりそうだな。君達は決して手を抜いていた訳ではない。でも、どこか納得していないところがあるんだろ?」
図星を突かれたせいか、何となく答えられない全員の姿勢が窮屈そうに正される。
その姿を見て、ふっと笑みを浮かべ保健医は続ける。
「まあこれは本当に珍しいことなのだがな。君達はここに来るまでの間、普通であれば一つの家族として乗り越える試練より、四つの家族を一つとして乗り越えてきたことの方が多いんじゃないのか?」
問い掛けられたその言葉に、ジンタだけではなく全員が思い当たるように頭を動かす。
「まったく気付いていないようだが、君達はもう四つの家族で一つの家族と同じなんだよ。そしてその四つの家族で戦う時、誰にも遠慮しない、誰にも邪魔されない、当然のように全員が無理なく動ける状況を作り出すんだ。そこに戦力アップだとか、もっと人をだとかは必要じゃない。それは邪魔なだけなんだ。少なくとも今の君達四家族、四色に対して新しい色が混ざっても、それは邪魔にしかならない。動きがギクシャクと阻害されてしまうだけだろう」
全員を見渡した後、保健医は「分かったかね?」と付け加えた。
「なんかあんたに言われると、どことな~く騙されてんのかなって感じがするけどよ~。まあ確かにここにいるいつものメンバーだけの方がおれは動きやすいから、そっちのが確かにいいかな」
最初に答えたのはミトだった。
へへっと鼻を擦って、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「まあ、そうですわね。私が目一杯両腕を振るって、ぶつけても気にしないで済むのは、ここにいる人達だけですわね」
「え? いや、それは気にしようぜ、リカさん」
「で、ですよね? そこまで気にされないと、当たったらちょっと冗談では済まないというか……」
「んだ、当たり所によっては、死ぬだ……」
リカの言葉に、松竹梅がそれぞれ顔を青くさせる。
「でも確かに、僕にしろジンタさんにしろ作戦を立てるなら、分かっているメンバーの方が色々立てやすいって言うのもありますね」
「うぅ~~、人が多ければ、私がドラゴンに狙われる可能性が下がると思うんだけど……」
「リゼットも狙われたくないぞ」
「ははは、エルファス殿にリゼット殿なら大丈夫ですよ。昼間の戦いを見ている限り、泣きながら必死に逃げるエルファス殿の動きなら十分躱せるし、リゼット殿程何もしなければ狙われないですよ」
「ちょっとラーナさん。何気に二人に対して相当酷いことを言ってますよ?」
「本当に、イヨリさんが言う通りですわ。私ベンジャミンだって結構必死に逃げていましたのに」
「あーちゃんは逃げないぞ?」
「うん、わたしも逃げないよ」
「いや、あーちゃんにミリア、お前達は少し逃げるようにしような」
全員がいつものようにわいわいと話を始める。
「あれ? そういや、何か数が少ねえと思ったけど、雪目と水音の二人はどこだ?」
作戦というより雑談に近い話をしている中、ミトが思い出したように二人の名をだした。
「そう言えば、いないですわね……」
「ど、どこにいるんでしょう?」
「わっちも見てないだす」
「マスターの私が言うのはなんだけど、なんか最近あの二人ってどこか存在感が……」
「リゼット昔から、雪目のこと良く気付かなかったぞ?」
「水音さんもあの凶悪ボディの割に、意外と存在感がないよな?」
「ジンタさん、いくら気が緩んでも今ここでそんなことを言うと……」
「ジンタさん、それってどういう意味です……」
「イヨリ、ダメだよ。今ゴーレムの手でジンさん殴ったら、明後日動けなくなるよ」
「ジンさ、あーちゃんの葉っぱ食べるか?」
「私の記憶が正しければ、泣いて走り出したエルファスさんの後を追い掛けていったような? ですわ」
「ふむ、確かに私も雪目殿、水音殿がエルファス殿を追い掛けるのを見ましたね」
「おれっちは、ミトとエルファスが帰ってきた時、二人しか見てないぜ?」
まるで伝言ゲームのように話が進み、
「つまりあれか? 泣きながら走り出したエルファスを追い掛けて、二人はそのままはぐれた、と?」
最後に保健医が纏めた時、扉がぎぃぃぃぃと、小さいながらも重い音を響かせた。
「あ、あのすいません。エルちゃんを追い掛けて疲れ果て、少し休むつもりが……」
「そのまま眠ってしまって、さっき目を覚まして帰ってきましたぁ~……」
問題の二人が、申し訳なそうに顔を出した。
「「皆さん、昨日は本当にすいませんでした」」
ドラゴンとの戦いから明けた翌朝、全員が揃った朝食の席で雪目と水音の二人が深く頭を下げた。
「いや、だからそのことは昨日も言ったけど、しょうがないって……」
口元と言うよりは鼻を押さえてジンタが言う。
あんまりに見事な水音の頭の下げっぷりに、ちょうどテーブルを挟んで正面に座る格好のジンタには、水音の頭よりその下に見える大きく垂れ下がった谷間に目がいってしまう。
ゴキン!
完全にニヤケ顔のジンタの首が、一五〇度ほど後ろに捻られる音が響き、ジンタがイスから崩れ落ちる。
「もう良いですから、頭を上げてください二人共」
白目を剥いて力なく体をぶらつかせるジンタの側頭部を両手で掴んだまま、頬とコメカミをヒクつかせてイヨリがにっこりと二人に言う。
「いやイヨリさん、昨日のことはもっと怒ってくれえねえと二人も困るぜ。それにこの二人は先日のクラーケンの時だってバカンスとはいえ寝ていて遅れてきたんだ。一応二度目だからな」
二人の横に座るミトが、怒ったように肩を怒らせて腕を組んでいる。
「そんなに怒ったってもう昨日には戻りませんわよミトさん」
「そうだぜ、二人だってエルファスを守ろうとして追い掛けてってばてたんだろ? そりゃあしょうがないぜ」
朝食を口に運んでいたナイフとフォークを置きリカが口を挟むと、同じく口一杯に頬張っていたのを飲み込んで松がニッと笑む。
「いや、しょうがないじゃ済まないだろ。エルファスに追いつかないだけならまだしも、二人揃って疲れて横になってそのまま寝ちまうとかよ」
ふんっとミトが鼻息を荒くする。
「で、でも、二人共走るのは苦手な種族ですし……」
「んだ、わっちもきっと走ったエルファスさんには追いつけないだ」
「そうだよミト、私も言ったじゃん。あの時は私もパニックで走っちゃってたからしょうがないって」
「いいや。追いつけないだけならまだしも、こいつらは二人共寝ちまったんだぞ?」
恐らく昨日からずっとこんな調子のやり取りなんだろう、ゲンナリした顔になるエルファス。
「じゃ、じゃあ、ミトは二人にこれ以上何をさせたいんだ?」
側頭部を押さえ付けられたまま、目を覚ましたジンタが問う。
「そ、それは……、でも、このままって言うのは何か悪いってーか、違うって―かよ」
「いや、悪く――「フンッ」グキッ」
ミトに向けていた視線が本能に負け、正面でいまだ頭を下げ続けている水音の方へと向いた瞬間、ジンタの首がさっきとは逆方向に一五〇度捻られた。
再度ぐったりと力を無くしたジンタを無視し、
「でしたら、昨日の話で決まりましたが、明日からのドラゴンとの戦闘で頑張ってもらうということで皆さん良いのでは?」
リカが、やれやれと言った感じでみんなに提案する。
全員がそれでいいと言った返事で頷く。
ミトだけがいまだ納得していないように眉間を寄せて顰めっ面だったが、全員が頷くのを見てどうにか納得してくれたようだった。
「さて、ミト達が終わったなら、次はおれっちの方なんだけど……ジンタちょっといいか?」
話に区切りが付くと、間髪を入れずに松が口を開いた。
当然、全員の視線がジンタに向くが、当の本人はいまだにイヨリに頭をホールドされ、間抜けに口を半開きにさせて白目を剥いていた。
「ジンさ、話あるって。葉っぱ食べるぉ~~」
ジンタから見ればイヨリの反対側に座るあーちゃんが、獣人化し髪を蔦へと変え、その葉を数枚とりジンタの口に押し込む。
ジンタのアゴをあ―ちゃんの蔦が咀嚼させるように何度も押し上げる。
全員が見守る中、ごくりと喉を鳴らしたジンタが目を覚ます。
「お、おおう」
呻き、と言うよりは驚きの表情で辺りを見渡すジンタ。
「あ、あれ? えっと、水音さん達の話は……」
側頭部をロックしている手に力が入り、ジンタの頭が強い力でイヨリの方へと向けられる。
「もう、その話は終わっていますよ」
笑顔だが、氷のように冷たく低い声と眉間がピクピクしているイヨリ。
「あ、ああ、そうですか、もう終わったんですね」
なるべく平常心、そして無表情でジンタは答える。
「でだジンタ、おれっちも聞きたいことがあるんだがいいか?」
何とか頭をホールドしていた手を退かしてもらえたジンタに、松が話を続ける。
「実は昨日の戦いで、おれっちの今の攻撃じゃ、ほとんどダメージを与えられなかった感じでよ、ジンタなんかいい案はねえか?」
含みのある、というよりはどう見てもなんか言わせたいような松の言い方。
「えっと、その言い方って……」
「いや~~、実は昨日竹達に聞いちまったんだよ。ジンタと武器屋のおやじが何か色々とおれっち達の武器とか防具を考えて作っているってよ」
「……ああやっぱりか」
へへへ、と頭を掻いて松が吐露したのでジンタも納得が言った。
「一応考案はしているし、試作品程度のモノならおやじさんと話をして作ってもらっているけど」
「まじか⁉」
「ああ、でもそもそもその武具もおやじさんもラペンにいるから……」
ドラゴン討伐への出発は明日。
今からラペンまで行って戻って来るとなると、いくら足の速い松でも間に合うかどうかの距離がある。
「そうか~、そうだよなぁ~」
腕を組んで、どうすっかなぁ~っと考えるように松が唸る。
どうしようもないとは思いつつも全員が一応松のように考え込んでいると、
「お~いたいた、やっと見つけたぜ」
男の野太い声、いやに聞き覚えのある声が聞こえ、ジンタの肩にポンと手が置かれた。
「え?」
振り返ったジンタを始め、全員が一度動きを止めて、声の主を見た。
「お? いや、おい、なんだよ? なんでみんなしてそんなお化けを見るような顔しやがるんだ? おれはまだ生きてるし、当分死ぬ気もないぞ?」
クリクリお目々を目一杯に見開き、つるつるのハゲ頭に手を滑らせて声の主が言う。
「「「「お、おやじさん⁈⁈⁈」」」」
ほぼ同時に、全員が口を揃えた。
「お、おぉ! そうだけどなんだ?」
「いや、何だって、ソレはこっちのセリフというか……」
イスから立ち上がり、ジンタが武器屋のおやじと向き合う。
「何言ってやがんだ。お前が作れって言ったんだろ?」
「え? 何を???」
ジンタがキョトンとする。
如何にも何も覚えてませんってジンタの顔を見て、おやじは大きな溜め息を一つ。
「お前、あれからまだ一〇日も経ってねえのにそれはねえだろ? お前が俺に言ったんだろゴーレム用の武器を作っておいてくれって」
「あっ!」
思い出したのか驚いた顔をしているジンタに向け、おやじは続ける。
「お前に言われた通り作って見れば、当のお前はもうカナンに向かったって言うじゃねえか。正直マスターがまだ中学二年生であるお前達が行くなんてって、俺も驚いたけどよぉ~実際行っちまったって言われたら、やっぱお前が言っていた通り、ゴーレム用の、つまりイヨリちゃん用の武器は必要だろうと思ってよ。こうして届けに来てやったんだよ、俺がな」
がっはっはっと大仰に笑って見せるおやじさん。
「私の……武器ですか?」
「ああ、こいつに種族ゴーレム用の武器を作っておいてくれって言われたら、そりゃあイヨリちゃん用ってことだろ?」
「確かに、如何にもゴツくて大きそうで物騒そうなモノをブンブンと振り回せそうなのは、そうなりますわね」
口元を拭きつつリカが相づつ。
「そんな訳でよ、約束通り飯もろくに食わずにこうして持って来たんだ、とりあえず俺にも飯を――」
「おやじ、おれっちの装備出来そうな武器ってあるか?」
「ん? 松ちゃんのか?」
「そうだ、俺っちが使えそうな武器だ」
「ん~、一応試作段階にもなっていねえヤツなら持って来てるが……」
「本当か!」
「ああ、イヨリちゃんの武器を持ってくるついでにな、みんなも一緒だろうと思ってな、こいつと話をして作ってみた武器もいくつか持って来てるぜ」
「よっし、それじゃあ早速行こう!」
空いている席からイスを持って来て、テーブルの、と言うよりはジンタの目の前にある皿の料理をつまもうとしていたおやじの腕を掴んで、松が引き摺るように歩き出す。
「お、おい、松ちゃん俺は飯が……」
「それどころじゃねえって! 急いで武器を見せてくれ!」
悲しそうな顔で松に引き摺られていくおやじを見送っていた面々だが、まだ食事に目と口がいっている数名を残して、席を立った。
「私の武器もあるんですよね? なら私も行かないとですね」
「俺が頼んだモノでもあるからな、俺も行くよ」
「一体どんな武器なのか興味ありますわ、私も行きますわ」
「昨日色々考えて、やっぱ戦力、主に切れ味のある攻撃が足りないと思っていたので、僕もすごく興味あります、ご一緒します」
「松に装備出来るなら、おれにも出来そうだからな。ちょっと見ておくか」
「ミトが行くなら私もいくよぉ~」
「エルちゃんが行くのなら私も、もう離れないようにしますと誓いましたから」
「私も雪目さんと同じです」
「ま、松さんの武器があるなら、私にも扱える武器があるかも知れませんし、い、行きます」
「わっちも、ちょっと見てみたいだ」
「私も、手持ちのランスでは大きすぎてどうにも融通が利きませんので、良いのがあれば助かりますから、行きましょう」
残った面々、ミリア、あーちゃん、リゼットの三人を残して全員が席を立った。




