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リリフォリア世界と常識

 結局、保健医との話はお流れになった。


 みんなが揃ったところで、ジンタの今後についての話が行われる予定だったが、昼休み終了のチャイムにミリア達三人が泣く泣く教室へと戻ってしまったため、その話も放課後となり、その間にジンタはイヨリとミトの二人に、このリリフォリアの世界の話を色々教えてもらうことになった。腹の足し程度にイヨリの持っていたクッキーを食べつつ。

 ついでに、この保健室の主でもある、保健医も一緒だったが……。


「つまり、この世界の住人には大きく分けて二種類が住んでいるってことか?」

「はい、まずはミリア達エルフ族、この種族がこの世界での上位種族といえますね。それ以外は獣人石を持つ、私達です」


「で、エルフは召喚の儀式でエルフ以外のこの階層に住む住人を召喚して、家族を作ると?」

「そそ、ジンタ飲み込み早いな」

「いや、あの遺跡内でもミリア達に多少の話は聞いてるしな、これぐらいはもう驚かないけど……」


 イヨリとミトの二人と話すことでそれなりに掴めてくるが、それでも大きな疑問がジンタに残る。その疑問をジンタは二人に尋ねた。


「それよりなぜ『召喚されし者』つまり君達は、喚んだエルフを自分の命より大切に守るんだ?」


 ジンタの疑問にイヨリとミトはキョトンと顔を見合わせ、それから笑った。


「そう面と向かって言われると、困っちゃいますね」

「ああ、小さい頃から『召喚されし者』に選ばれるのは幸せで幸運なことだって教えられるのもあるんだろうけどな」


 二人は、それぞれの昔を思い出したのか、さらに大きく笑う。


「それで、結局は何でなんだ?」

「ん~、まずはおれ達の胸の『獣人石』って生まれたときからあるもんだけどさ、これは普通に生きていくと、三十才ほどで輝きを失い、獣人化できなくなっちまうらしいんだ」


「それをマスターであるエルフに喚ばれ、『召喚されし者』になることで、エルフときずなで結ばれ、マスターにしか見えないと言われる赤い糸から魔力をを分けてもらい、輝きを失わずに済むようにしてもらえるんです」


「へ~、じゃあ、獣人化出来なくなることに違和感がなければ、別にマスターがいなくても平気ってことなのか?」


 ジンタは平然と言ったが、ミトが困った顔で答える。


「ああ、それはそうなんだろうけど……。まあ、生まれたときから胸にあって、物心がついたときから獣人化してるおれ達からしたら、獣人化できなくなるってことは半身以上を失うに等しいって感じだからなぁ」


 ミトに言われ、ジンタは自分が軽率すぎる言葉を口にしていたこと理解した。

 自分だって今は繋がったが、左腕を一本失い掛けただけで、相当なショックを受けたのだ。それを、人の何倍ものチカラを普通に使っているミトやイヨリ達からすれば、それが使えなくなるということだ。それこそ、今まで普通に出来ていたことの半分以上のことが出来なくなるということに他ならない。片手一本の比ではないと、鈍感なジンタにもさすがに分かった。


「……ごめん、俺が軽はずみだった……」


 謝るジンタに、イヨリは慌てて両手を振る。


「謝ることではありませんよ。だってジンタさんは始めから獣人石を持ってないですし、もし私自身がそうだとしたらやっぱり同じように感じてしまうと思いますから」

「ああ、そうだな。おれだってそう思うぜ、きっとな」


 二人は落ち込み掛けたジンタを慰めてくれた。


「それ以外にも、エルフと召喚されし者を繋ぐ赤い糸には色々な特典があるのだよ」


 今までだまってお茶を啜っていた保健医が口を挟む。


「それは?」

「もう一つの大きな効果で言えば、不老の効果だ」

「不老……?」


 ジンタは、あれ? と頭の中で首を傾げた。

 なんかどっかで聞いたような? と思いながらも、保健医の話に耳を傾ける。


「ああ、我々エルフは、召喚の儀で唱えてる通り、一生を共に生きていける相手を求めて召喚をするんだ。それが永遠を生きると言われる我々エルフより早く死んでしまうのは悲しいだけ、だから自分の中の不老のチカラをも分け与え、自分と同じように、二十才ほどで体の成長を止め、それからの永遠の時間を一緒に生きていけるようにするんだ」


 淡々と、だが今までとは違い、どこかここではない遠くを見つめながら保健医は教えてくれた。


「つまり、俺も不老だと?」

「ああ、そうだ」

「そっか……、それならあんな腕一本切られて血がドバドバでても、少しぐらい解剖されたって、俺って全然平気だったのか……」


 真剣に呟くジンタに、その場の三人が「何を言ってるんだ? こいつ」と言わんほどのシラけた目を向けてきた。


 かなりの沈黙の後、


「なんだな、その言葉を私と二人きりのときに言ってくれれば、二つ返事で私は君を解剖しただろうが……。今ここでそうしても、きっとこの二人に止められるのは明白だからな。代わりに、残念だがこう言わせてもらおうか――君はおバカか?」


「へ?」


 これ以上ないほど間の抜けた顔でジンタが保健医を見つめる。


「いや、済まない。なんというか、なぜ私と二人のときにこれぐらいみごとにボケてくれなかったのかと、本当に腹立たしさがあったものでな。つい、本音でその恨みを君にぶつけてしまった」

「い、いや、それでなぜ俺がおバカ?」

「……まだ気付かないのか? 私は君に不老だと言っただけだ。不死とは言ってないぞ?」

「へ?」


 不老がイコール不死ではない……。言われてみれば当然のことだ。


「つまり、だ。君達『召喚されし者』は年をとらなくなり、永遠の時間を生きられるかも知れないが、死なないわけではない。むしろそれだけ生きられるのに、剣の一刺し、鈍器の一撃で当たり所が悪ければ死んでしまうほど、いたって普通な体なんだ」


「え? つまり俺は解剖されても、あのまま血がドバドバ出てても……」

「うむ、普通に死んでたな」


 ボー然とするジンタに、悔しそうに唇を噛みしめる保健医。


「つまり、永遠の普通の人ってことか……」

「まあ、それだけ生きれるんだ。体を鍛えればそれ相応に、知識を得ればそれなりに普通よりは良くなると思うぞ」

「そっかあ……。そういえば他にも色々な特典がっていうのは?」

「ふむ、それはな。一応回復力や少しではあるが筋力などの強化がなされるんだが……」


 保健医は、そう言いながらも、なぜか首を傾げている。


「なんか中途半端な言い方だよね……?」


 ジンタが胡散臭げに保健医を見ると、


「いや、それがな。これは色々と判断が難しいんだよ、君」


 腕を組み、うんうんと頷きながら返してくる。


「よく考えて見たまえ。君の傷の治りが少しよくなったとどうやって判断する? 普通の人が直るまで一週間も掛かるであろうケガを、二日で治るほど顕著なら証明も楽でいいが、一週間掛かるであろうケガが六日で治ったとして。君はそれを赤い糸のお陰だと認めれるか?」


「いや、そんなの……、たまたま調子がいいというか、治りが早い人だったとか……」


「だろ? 種族や、もっと言えば個人個人のその時の状態や治りの早さだってあるだろ? それを実証するのが難しいから、これはあまり言われていないんだよ」


「なるほどな……。チカラとかにしても、今までより五キロほど重いモノが持てるようになったとか言われても、やっぱ「今日は調子がいいなぁ~」ってなるもんな」


「そうなんだよ。いくらそこを説明してもそんな微々たる効果を実感出来ず、実感出来ないことは感謝もないし認めきれない。だからうやむやになるんだ」


「難儀なことだな……」


「ああ、そういう訳で、その辺りを調べるためにも君を解剖――――」


「で、さっきミトが言ってたけど、選ばれることは幸せで幸運だとかって言うのは?」


 保健医のどうでもいい言葉をガン無視し、ジンタはイヨリ達に向け話を次へと進めた。


「それはですね、エルフの数と召喚できる数に比べて、圧倒的に私達、獣人石をもつ者が多いからなんです」


「そそ、つまりさ、おれ達やマスターであるエルファス達が望む望まないに関わらず、召喚の儀は人を喚ぶんだけどさ、それって目の前の人を召喚って出来ないんだ。だから目の前に召喚したいヤツがいても、エルファス達だってそいつを召喚出来ない。つまり召喚する相手を自由に選べない。しかも召喚出来る人数には制限があるから、余計になんだよ」


「つまりは、召喚の儀っていうのはミリア達が選んで喚ぶんじゃなくて――」


「目の前の事象ではなく、これから運命を共にすることのできる最良の相手を、儀式の魔法陣が喚び出すんだ」


「じゃあ、俺もそうだったけど、ミトやイヨリも?」


「はい、私達はあの子達がここに連れてこられ、最初の召喚の儀のとき、それぞれ喚ばれた最初の『召喚されし者』なんですよ」


「最初のって? まるでやることが義務な様な……」


「ああ、マスター達は小学生にあがる年の四月始めに、どういう訳か親と住んでいた場所の記憶を消されて、このリリフォリアの第一階層唯一の街であるこのラペンの、さらに唯一の学校に集められるんだ。そして一番始めの授業として、自分の家族になる『最初の召喚されし者』を喚び出すんだ」


「え? 本当の親の記憶も住んでた場所も?」


「はい、あの子達はこのリリフォリアの上の階層で生まれているのは私達の間でも分かってはいるんですが……、それがどこなのかも、親の名前が何というのかも覚えてないんです。ただ、眠って目を覚ますとこの学校の寮にいた、と」


「そうなんだよな……。これの真相を知ってるのはエルフの大人である教師連中と役所のエルフ連中だけだけど……」


 ジンタ、イヨリ、ミトの目が保健医に向くが、保健医は窓の外に目を向け関係ないとばかりにお茶を啜るだけだった。


「まあ、こんな感じで何も教えてくれねえんだ、これが……」

「そっか……、脅迫しても無理か?」


 ジンタが呟くと、保健医はジンタにきつめな目を向け、


「それはやめておけよ、君。これはこの世界のルールみたいなもんだ。君はこの世界の外からやってきたのだろう? つまり部外者だ。そんな君が不用意にこの世界のルールを曲げると、この世界の秩序が崩れることになる。それはきっと、君も、そしてここにいるすべての人が不幸になり望むことではない、と私は思うぞ?」


 淡々と、それでいて決意ある言葉のように場の空気を重くしながら保健医は告げ、最後に「もっとも、どんな拷問を受けても、私達は口を割らないだろうがな……」と付け加えた。


「ま、まあつまりあれだな。その最初の召喚のときは毎年日付が決まっていてだな。三日掛けて行われるんだが、その間は各種族の集落では、召喚される権利のある十才~三十才までの者が一箇所の集まって、自分が喚ばれるのを心待ちに祈りながら待ってるんだよ。なははは……」


 ミトが話を戻し、場の空気を和ませるように説明してくれた。


「へ~~、じゃあミトやイヨリさんも、そうやって?」


「はい、私は今でも覚えてますよ。祭りの中、一生懸命選ばれますようにって祈っていたら、急に光に包まれて落ちるような感覚の後、目を開けたら、困ったような怯えるような顔で口をぽかーんとさせたミリアが目の前に立っていたことを……」


 その時の喚ばれた感動を思い出したのか イヨリは溢れ出した目尻の涙を拭った。


「イヨリさんはそうだったのか。おれなんか十才のときだったからさ、一応権利のことは聞いてたけど、最初の年から喚ばれることはないって聞いてて、集合場所にも行かず遊んでたんだけどさ。そしたら急に目の前が光って真っ暗なところに入って、気付いたらエルファスの顔面を踏んでたんだよな」


 頭を掻き笑っているミトに、ジンタは呟く。


「思い出もへったくれもないな……」

「ああ、その後大変だったぜ。エルファスは泣き止まねえし、教師連中には延々と説教されてよ~~~~」


「それは自業自得だな……」

「いやいや、まだ十才の乙女に、一箇所でジッとしてろって言うのは無理だろ」

「いや、乙女ならできるんじゃね?」

「ほ~~、じゃあおれは何なんだ?」

「少年じゃね? ――むぐっ」


 ミトの獣人化、肉球のある足の裏で顔面を蹴られたジンタ。しかし、踏まれるときのぷにぷに感にちょっと幸せを感じた。


「で、三十才まで選ばれず獣人石を失った人は、自分の集落で一生を?」

「そういう人がほとんどですが、中にはこの街に来て仕事を覚える人もいます――、けどそれはこの街の一部の人で、この街のほとんどの人は自分のマスターだった人を失い『召喚されし者』じゃなくなった人達なんです」


「……失う?」


「はい、さっきの話ではないですが、エルフも不老であるけれど、不死ではないんです。むしろ物理的な体の脆弱さは、見た目通りに弱いんです。だからエルフであるマスター達は家族として、そして自分を守ってくれる戦士として、私達を召喚するんです」


「そっか、なんか前にエルファスが「自分達は無力だ」って言ってた意味が何となく分かった気がする。すごい魔力と回復や攻撃の魔法使えて。そして召喚なんて出来て、しかも喚んだ相手に魔力や不老を与えてすごそうだけど、それでも自分は弱く無力か……」


「魔法は驚異のチカラではあるけどさ。ぶっちゃけ、おれぐらいのスピードがあれば、集中している間にかなり近づけるからな」

「私でもガードした後なら相当詰め寄れますからね」


 ミトとイヨリの言葉に、ジンタは昔友達とやっていたゲームを思い出した。


 ――確かに盾職だけでは、死なないけど倒せない。魔法職だけでも、倒せるけど防げない。結局はバランスか……。


「でもさ、命を失うって正直なところあまり危険なことをさせたりはしないんだろ?」

「そうですが、だからといって過保護にどこにも出さない訳ではありません。この間の遺跡探索もそうですが、一応安全を確保しつつも色々学んでもらうために行かせますから、やはり突発的な事故や、運悪くモンスターに出会ってしまってなど、色々とあるようで……」


「……そっかぁ」


 ――確かに四六時中見ているわけではないだろうしな。


 そこまで話が終わったとき、学校のチャイムが鳴った。


「さって、話はここまでかな。すぐに三人も来るだろうし、おれ達も少し休憩だ」


 それから程なくして、やって来た三人を交えジンタの今後の話となった。


 話では、もうジンタの部屋は用意され着替えなどもある、とイヨリが言っている。

 全員が、じゃあもうジンタはここではなくミリアとイヨリのいる家で休んだ方がいいんじゃないか? とまとまる中、ただ一人だけがんとしてここで寝かせている方がいい、と言い張る人物が一人いた。


 考えるまでもなく当然保健医だったが、多数決の結果六対一と言う大差で敗れた。


 出ていくジンタに、まるで捨てられた昔の彼女のように倒れ込み白衣の端を噛み、手を伸ばす保健医。

 だが、そんな保健医に同情できるほどの余裕がジンタにも無かった。


 なぜなら、この穏やかな春の午後の日射しの中、ジンタは獣人化したイヨリにお姫様のように布団ごと抱っこされて、ミリア達と今後自分の住む家へと向かっていたのだから。


「大丈夫ですか?」


 道中、心配そうに覗き込んでくるイヨリに、ジンタは真っ赤な顔で頷くしか出来なかった。

 新しいジンタの住居に到着し、用意されていたジンタの部屋に寝かされる。


 部屋は八畳ほどの広さに机とイスが一組、そしてジンタの寝かされているベットと、クローゼットがあるだけのシンプルな部屋。ベットの右側には大きめの窓があり、木々に囲まれた外の景色がよく見えた。


 イヨリが作った食事をベットで食べた後、ジンタは疲れから再度寝ることにした。


 なんせ、気になる女性にお姫様抱っこされるなど、ジンタの人生で経験したこと、――いや、考えたこともなかった事態を経験したのだから、予想以上の緊張に疲れてしまったから……。

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