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立ち回り 一

明けましておめでとうございます。


遅くなりましたが、今年もまったりとスタートします。


よろしくお願いします。


『左右に展開し、攻撃の手を緩めるな!!』


 ゴブリンの森の中、凜と響くのは隻腕のエルフ、カインの声だった。


 返事とも雄叫びともとれる声が周りから響いてくる。


 そんな中をジンタもまた、刃渡り五〇センチの直剣を握り締めていた。


「うおぉぉっ! とおぉぉぉぉりゃあぁぁぁっ!」


 振り回し、十字に切りつけ、突き刺す、一通りの攻撃をドラゴンの右前足に叩き込む。


 が、すべて強固な鱗に弾かれる。


「か、硬えなあ、おい……」


 あまりの硬さに腕の方が痺れた。


「来るぞーーっ!」


 ドラゴンの動きを見るため、後方に下がっていた者の注意を促す声が響く。


「せえっいっ!」


 ジンタはドラゴンの後方、尾っぽの動作を見ながら、目一杯にジャンプする。


 っっっっっっずん!


 ドラゴンが叩き付けた尾っぽの地面から激しい砂埃が舞い上がり、震度五ほどの揺れが起きる。


 地面に足を付けていると、振動でバランスを大きく崩されるほどの揺れだ。


 それを回避するためのジャンプだった。


「いやいや、さすがにこれはしんどすぎだな」


 なんとか揺れを回避し、ジンタは汗を拭う。


 ドラゴンがどんなつもりで攻撃しているのかは分からないが、とりあえずまだ口から炎を吐いてはいない。


 しかし、繰り出される尾っぽの攻撃と地面に立つ四本の足の踏みつぶしと振り払い、それだけでも十分脅威といえるほどだった。


 しかも今は夏。


 普通に立っていても汗が出るのに、この緊張感、そして大量の人による熱気は、辺り一面を五十度以上の気温へと上げているんじゃないかと思えるほどだ。


 拭っても拭っても溢れ垂れてくる汗。


 ジンタは、とりあえず息を整えため、安全圏だろう位置まで下がった。


「ジンさんおかえり~」

「ジンさおかえり~~」


 待機する形で待っていたミリアとあーちゃんが出迎えてくれる。

 差し出された水袋で、カラカラに乾いた喉を潤す。


「いやぁ~~、これはしんどいなぁ」


 水分を補給したため、ぶわっと噴き出た汗を袖で拭う。


「やっぱりジンさんの武器でも無理そう?」

「ジンさもダメか~?」


 二人が残念そうに、眉を顰める。


「ん~~、きついなぁ。鱗を切ることすらできんとはなぁ~」


「見てると、リカさんはなんとか切りつけているけど、松さんも切ると言うよりはイヨリと同じで、ぶつける感じだからあんまりダメージ与えられてなさそうだし、竹さんとラーナさんの槍攻撃もあんまり深くは刺せてない感じなんだよねぇ」

「ねぇ~~~」


 ミリアとあーちゃんの二人が、ドラゴンの足元それぞれの場所にいるみんなを指差しながら説明してくれた。


「そっかあ、と言うことはイヨリもやっぱ?」


「うん、殴るの類いに関してはドラゴンにはあまり効果がないみたい」


「そっか……。で、そのイヨリは?」


「あそこだよ」

「あそこだぉ~」


 二人が指差す先は、ドラゴンの左前足。その脛の位置にイヨリがいた。


 数人がかりで攻撃している中、構え体をギリギリと深く捻ったイヨリの姿が見えた。


 動作を見ていたせいか、声がジンタの耳にも聞こえてくる。


「ハッ!」


 鋭い掛け声と共に、イヨリのゴーレムの手の平が、ドラゴンの脛へと触れる。


 ッズン!


 腹に重くのし掛かるような音を響かせる。


「グアァァァァァァァッッ!」


 戦闘が始まって以来、初めて聞くドラゴンの悲痛な声が響く。


「お、おぉ~~~~」

「おぉ~~~~」

「おぉ~~~~」


 ジンタとミリアとあーちゃんの三人が、感心したように声を上げる。


 激しい声を上げたドラゴンが嫌がるように左前足を持ち上げ振っている。


「あれは効いてるな~」

「うん、嫌がってるよねぇ~」

「うんうん、イヤイヤしてるぉ~」


 三人が嬉しそうにハイタッチしていると、


「喜んでいるところ申し訳ありませんが、よろしいでしょうか?」


 厳しそうなキビキビとした聞き覚えのある声が後ろからした。


「た、竜女さん……」


 振り返ったジンタが、なんとなーく後ろめたそうに名を呼ぶと、キッと目の端が少しつり上がったような気がする。


 恨まれる、と言うよりは、ラインのことで目を付けられているのは女の勘というのだろうか、男の嘘が下手なだけなのか、間違いではない。

 やっと念願叶い一緒になれたラインに浮気を進めに来たのだから、ひどい男でもあるわけで……。


 が、そんなサイテーな奴にでも、この程度(睨む程度)で済ませ話を進めるのだから、やっぱり竜女さんは出来た人なのだと思う。


「ミリアリタ様、総指揮をしているカインからの伝令です。今掛けている範囲強化魔法『スピード』を『パワー』に変えて欲しいとのことですが、よろしいでしょうか?」


 ミリアに聞いたためか、幾分優しげな印象だ。


「うん、今すぐ変える?」


「いえ、こちらで指示を致しますので、少しお待ちを」


 にこっと笑みを浮かべ、竜女が振り返り大きく両手を振る。

 当然、カインに向かってだ。

 ジンタから見ても分かるほど、カインは大きく頷いた後、


『今から範囲強化魔法を『スピード』から『パワー』に変えるッ! みんな変化に注意してくれッ!』


 良く通る声でカインが言った後、大きく手を振ってきた。


「ミリアリタ様」

「うん、分かったよ」


 頷いたミリアが小さく呟く。


「『対象は範囲』『効果は継続』『魔法はパワー』」


 今まで感じていた風のような流れが一度消え、別の風が体を吹き抜けていく。


 それと同時に、自身に掛けていた単体強化魔法である『パワー』に範囲強化魔法の『パワー』が上乗せされ、今まで淡く黄色に輝いていた自身の体が赤く輝く。


「ありがとうございます」


 にこやかにお礼を言って竜女さんは戻っていった。


 当然、ジンタのことなど見もせずに……。


(ダブルパワーか……、そういえばあまり自分で使うことはないよなぁ~)


 そう思いながら、ジンタは赤く輝く自分の右手を見た。


 グッ、パッ、と何度か手を開いたり閉じたりする。


 ふむ、これならもしかしたら……、試しにもう一度行ってくるか……。


「ミリアにあーちゃん、俺ちょっと――――」


 言い掛けたジンタの言葉が止まる。


「あ、あれ?」


 さっきまでそこに居たはずの二人の姿が消えていた。


「あ、ありゃ? ミリア? あーちゃん?」


 慌て周りに目を向ければ、


「あーちゃん、ちょっとだけだからね」

「わかってるお、ちょっとだけだぉ~」


 獣人化し、新緑色の長い髪を深緑の蔦へと変えたあーちゃんが、数本の蔦をバネのようにさせて飛ぶように走る。

 そして別の蔦でミリアを持ち上げ、ドラゴンに向け走って行くところだった。


「お、おい、二人とも、危ないって!」


「あ、ジンさん、ちょっとドラゴン触ってくるね」

「くるねぇ~~~~」


 止まる気配を一切見せず、二人は両手を楽しそうに上げ、ドラゴンに向け一直線に走って行った。


「はぁ~~、イヨリが戻って来る前に連れ戻さないと、まずいよな……」


 ジンタは、大きく空気を吐き出した後、二人を追い掛けるように走り出した。



           ※※※※※※※※



「これは時間が掛かりそうですわね」

「おれっちの蹴りじゃ、多少歪ませられても、壊せねえ」

「私のランスも貫き通せないです。まさかここまで硬いとは想像以上でした」

「わ、私の槍も多少刺さりますが、やはり貫き通すまでは……」


 ドラゴンの右後ろ足を攻撃をしていたリカとラーナ、松と竹が、安全圏ほど離れた位置で待っているロンシャンとベンジャミン、梅とリゼットの元へと戻って来る。


「みんなお疲れ様」

「だ、大丈夫か? リゼット羽で仰ぐか?」

「松、竹、どんな感じです?」

「見るからに硬そうだども、わっちも行くべきだすか?」


 汗だくの四人に汗拭きのタオルと水の入った革袋を渡し労っていく。


「やっぱり相当きついね」


 見ていた感じと、実際に攻撃していたリカ達の話を聞いて、ロンシャンはそう結論付ける。


「で、でも、それでもなんとかリカさんぐらい攻撃を通している人もいますし、きっと倒せますよね?」


 不安げに、それでもなんとか縋り付くように竹が聞いてくる。


「僕が指揮をしていたとしたら、この状況を打破するためにミリアちゃんに頼んで範囲強化を『スピード』から『パワー』にしてもらいますけど……」


 顔を上げ、指揮をしているだろうカインのいる方へと目を向けたロンシャン。


 そこでカインの声が響いてくる。


『今から範囲強化魔法を『スピード』から『パワー』に変えるッ! みんな変化に注意してくれッ!』


「「「「「「あっ」」」」」」


 あまりに絶妙なタイミングで、全員の声が揃った。


「同じことを考えていたようですわね」

「だね」


 なんとはなしに笑顔が溢れる。


「さって、おれっちダブルパワーは初めてだけど、どれ位効果あるのかちょっくら試してくらぁ」


 ずっしりと腰を下ろしていた松が、その場で身軽に飛び起きる。


「そうですねわ、早く終わらせてこんなジメジメとおさらばして、お風呂に入りたいですわね」


「た、確かにそうですね」

「うむ、男か女か、分からず無念ではあるが、あんな大きさに踏まれてはとても気持ちが良いようには見えないですからね、早く終わらせましょう」


 松に続くように四人が歩き出す。

 その背に向かい上書きするように強化魔法を掛けるロンシャンとベンジャミン。


「わっちも皆さんを応援してますだ」

「リゼットも、しっかり応援するぞ、みんながんばれ!」

「松に竹、無茶は絶対にダメですわ」

「みんな無事に帰りましょう」


 声援を受けた四人は、それぞれ任せろと言うように、手を上げたり振ったりしながらドラゴン討伐の戦場へと歩いて行った。




「エルちゃ~~ん、待って下さいぃ~~~」


 息も絶え絶えで掠れ声を上げる雪目、その十メートル後方には雪目以上に息絶え絶えの水音がいた。


 雪目が伸ばした手の先には、大泣きしながら走っていくエルファスがいる。


 元々種族エルフだけに軽く、その身軽さもあって走るのは速いのだが、そこに輪を掛けてエルファスはここ一年以上ミトと一緒に体を鍛えている。


 結果、通常時でも走ったら追いつかない雪目と水音は、更に持久力でもまったくエルファスに勝てなくなっていた。


「ミト~~~~、どこいるの~~~~~~」


 完全に我を失い、親を探す小さい子供のようなエルファス。


「エ、エルちゃ~ん、ミトさんならもうじき戻ってきますから~、とりあえずもう走らないでぇ~~~~」


 体力の限界というよりは、生命の危機レベルで呼吸困難に陥っている雪目だが、それでもエルファスを必死に追い掛ける。


「あ、あの雪目さん、エルファスさんのあれって一体ぃ~~~~」


 雪目ほどではないにしろ、とりあえず限界近い水音が問うと、


「エルちゃんって、普段はしっかり者のお姉さんぶってたりしますけど、実はミトさんっ子なんですよ」


「そ、そうなんですかぁ?」


「ええ、ああやって極度に緊張したり怖がったりすると、ミトさんにしがみつかないと落ち着かないんです、ガハッ」


「ゆ、雪目さんっ!」


 乾燥しきった口の中、吸い込んだ空気が気管同士を張り付かせ詰まったのか、雪目はまるで吐血したかのような声を上げ、転がり倒れた。


 走り去っていくエルファスと倒れた雪目をオロオロと交互に見た水音は、とりあえず獣人化し、大量の水を雪目の口の中に流し込む。


「がぼごぼげぼっ!」


 渇ききった状態の口の中、痛いほど咳き込んでも咳が収まらない雪目だったが、今度は大量の水によって溺れたようにもがきだした。


「はぁはぁはぁはぁ……」

「あ、あの雪目さん大丈夫ですか?」


 心配そうに背中をさする水音に対し、雪目は両手を地面に付いて俯いたまま答える。


「私、息が切れし過ぎて死にそうになるのと、溺れて死ぬのを同時に体験したのは生まれて初めてですよ」


「本当にごめんなさい。遠ざかるエルファスさんを目で追い掛けていたら、つい……」


「まあ、しょうがないですね」


「でも、エルファスさん大丈夫でしょうか?」


「心配する気持ちは消えませんが、ああ見えてミトさんもエルちゃん想いですから、きっと会えると思います」


「ほ、本当にですか?」


「ええ、だってあれだけ混乱したように泣きじゃくって走ってるのに、エルちゃん全然迷いなく走って行ってるじゃないですか」


「そうなんですよねぇ……、まるで知っている道を走っているかのように行っちゃってましたよねぇ……」


「ええ、きっと本人も全然気付いてないだけで、ミトさんの位置が分かっているんでしょうね」


「そうかもですねぇ」


「とりあえず、私達は少し休んでいきますか……」


「はい……、私もう走れません……」


「私もですよ」


 雪目と水音は、とりあえず体を倒し横になった。



           ※※※※※※※※



「急げ、急げ、チックショー」


 獣人化し、全力で走りながらミトは笑みを作っていた。


 ドラゴンが動き出したことの連絡を伝えるため、東の砦に赴いたまでは良かったのだが、何故か伝えた後、南東の砦に戻ろうとしたら、一緒に行こうではないかと砦の隊長に言われてしまったのだ。


 何度か断ったのだが、これがなかなかにしつこく結局一緒に移動する羽目になってしまったのだ。


 全員の用意を待ち、移動を開始し、しばらく大人しく歩きタイミングを見計らって、ミトは隊列から離れこうして走っていた。


「いや~~、これじゃあ松が行ったカナンの方に行けば良かったなぁ~~。まさかこんな足止め食っちまうとはよ~」


 流れる森の景色、迫る木の根や倒れた木々を、バネの利いたアルミラージのウサギのような白い足で飛び越えながら疾走する。


 ドラゴンが動き出したと報告を受けた時、ミトは嬉しさのあまり武者震いした。

 できれば報告係なんてせず、その場に残って一番手で攻撃したかったぐらいだ。


 しかし、そうは言っても仕事は仕事。

 ポニーテールの後ろ髪を思いっきり引かれながらも、報告をしに向かったのだ。全力疾走で。

 そして伝えて即戻ろうとして足止め。タイミングを見ての抜けだし、わずか数時間だろうが、ミトからすればもう何十日も経っているかのように長く感じていた。


 やっと抜けだし走り出した時、溜まっていたかのように武者震いが体を駆け巡った。


「はやく、早く、速く――――」


 ずっとそう呟き、思いながら疾駆した。


 そんな時だった、頭の上にある長く白い耳が声を拾った。


「ん???」


 聞き間違えるはずもない声。

 これは間違いなくエルファスだろう、と確信できた。


 ミトの頭の中は、なぜここにエルファス? どうしてエルファス? アイツがここに居るわけないだろ? と問い掛け問答をくり返した。


 疾駆する足をそのままに、ミトの頭はある意味でフル回転。


 とりあえず、意識的と言うよりは無意識的に足が声の方へと向いている。


 そして、あまり賢くないミトの頭の考えが纏まる前に、飛び出した先にミトは人影を見た。


「あぶねぇっ!」

「ミ――ぶっ!」


 ちょうど飛び上がったタイミングでの出来事、ミトは正面の相手を躱すことができず、咄嗟に足を前に出し、肉球のある足の裏を相手の顔面に置き、踏み台にして飛び上がった。


 生い茂るゴブリンの森の木々、その半分ほどの高さまで飛び、ミトは踏んだ相手が誰だか気付く。

「あれ~? エルファスじゃねえか」




「う、うぅ……、なんでミトはいきなり人の顔を踏み台にしてるのよぉ~~~~」

 ミトに踏まれ、座ったまま鼻を押さえてエルファスが口を尖らせる。


「いや~~わりいわりい、ってか、お前こそなんでこんなところにいるんだ?」


「あ、う、そ、それはミトが遅いからちょっと迎えに来てあげただけだよっ!」


 さっきまで泣きじゃくっていたエルファスだったが、なぜかミトにその姿は見られたくなく、そう言ってしまう。


「そっかぁ~。まあこっちも色々足止め食っちまってな。今全力で戻ってるところだったんだぜ」


「そ、そうなんだ」


「ああ、だからもう行くけどよ、エルファスお前立てるか?」


「う~~~~、もう疲れたからおんぶ」


 両手を目一杯にミトに差し出し、エルファスは拗ねたようにそっぽを向く。


「はぁ~~? おんぶってお前なぁ~~~~」


 なんてこったと、手の平をぱちんとおでこに当ててミトが言う。


「い、いいでしょ! た、たまにはこういうこと言っても……」


 まるでミリアの如く、大きく頬を膨らませて抗議するエルファスに、ミトは頭を掻く。


「まあ、しゃあねえか。でもお前強化魔法は掛けてくれよ?」


「それ位は掛けてあげるよぉ~」


 嬉しそうに甘えたようにエルファスは言い、背中を向けしゃがんだミトに飛びついた。



           ※※※※※※※※



「え、ええ~~~~~。あの子達また勝手にそんなことを…………」


「ご、ごめん。気付いた時はもうかなり遠くで。追い掛けたんだが、ドラゴンの尾っぽ攻撃で砂が舞ったら見えなくなっちまって……」


 滴る汗を拭うイヨリに、平謝りするジンタ。


「いえ、私も少しムキになっていたかも知れません。あの二人からこんなに長い時間目を離すなんて……」


 今二人は、ドラゴンの手足尾っぽの攻撃範囲から少し離れた安全な位置にいた。


「強化魔法は掛かっていますし、まだミリアに何かあったわけではないと思いますけど……、でも早く探さないと」


「ああ、そうなんだが……、一体どこに行ってるのか……」


「あの子達はドラゴンを触りに行くって言ってたんですよね?」


 イヨリが考え込むようにアゴの下に指をとんとん触れさせる。


「ああ、そう言っていたけど……。だからドラゴンのすべての足元を調べたんだが、いなくって……」


「獣人化したあーちゃんが、ミリアを掴んでいたんですよね?」


 もう一度確認するようなイヨリの言葉。


「ああ、蔦でグルグルと掴んで、器用に持ち上げていたけど……それが?」


「そうやって二人が移動していたということは、きっと行く場所は、あそこですっ!」


 日頃からあの二人に振り回されているからか、長年の母親代わりとしての直感か、イヨリがビシッ! と指差したのは、小山のような大きなドラゴンの長い首の天辺、頭の上だった。


「は、はぁ~~? い、いやいくら何でもそれ……は?」


 眩しい夏の太陽光を手で塞ぎ、見上げながら呟いたジンタの言葉が止まる。

 亀、と言うより乾燥地帯に生息するトカゲに近い、トゲトゲしてひび割れたような頭をした土色で真っ赤な瞳のドラゴン。

 その頭の上には、一番トゲトゲした角ともとれる二本の長いトゲがある。

 そこに見たことのある深緑色の紐のようなモノが、まるで飛び道具のパチンコを引っ張ったように伸びていた。


 その蔦のちょうど真ん中、見忘れるはずもないキラキラと輝くプラチナ色が、夏の光に反射し輝いている。


 ――いやがった、マジであんな所にいやがった……。


 呆気にとられたようにぼう然とするジンタ。


 戦闘中、しかもかなり距離があるにもかかわらず、あれがミリアとあ―ちゃんの二人だと分かると、不思議なことに聞こえるはずもない二人の会話する声が聞こえてくるように感じる。


「むおおぉぉぉぉ、あーちゃんここすっごく高いねえ」

「むおおぉぉぉぉ、みりあ、ここすっごくおもしろいぉ~~」


 などと、大笑いしている姿が遠目からでも分かってしまう。


 はぁ~~っと隣で魂が抜けるほどの溜息が聞こえる。

 イヨリが疲れたように首を振っていた。


 そんなイヨリが頭を上げ、ザッと一歩前に出る。

 そして、抜けた魂を再度吸い込むように大きく息を吸ったイヨリが、ピタリと動きを止める。


 ジンタは即座に両耳に栓をした。


「二人ともッッッ! 降りて来なさ――――いッッッ!」


 カインの良く通る声が、まだ小さく聞こえるほどの大絶叫が戦場に響き渡った。


 耳に指で栓をしていたジンタは、ドラゴンの頭の上にいる二人を見やった。

 イヨリの大絶叫。

 怒りの叫びが聞こえたのだろう、二人の形がビクッと跳ね上がり、深緑色の蔦が素晴らしく器用にドラゴンの鱗と鱗の隙間を通り、絡めて、下へ下へと二人を下ろしてくる。


 ああやって移動していたのか。と感心してしまうほど、あ―ちゃんは器用に蔦を操っていた。


 凄まじい息切れをした二人が、ジンタ達の前にやって来たのは、ものの三分ほどだった。


「あなた達は遊びじゃないんですよっ!」


「「ごめんなさい」」


 同時に頭を下げた二人だったが、


「だってあーちゃんが――」

「だってみりあが――」


 ここから相手に矛先をなすり付け始めようと、相手を指差したが、


「二人共悪いんですっ!」


 ッゴゴン! と分かったように、二人共イヨリにゲンコツをもらっていた。


 ずずずっと半泣きで鼻を啜っている二人の頭を撫でながら、ジンタは戦場へと目を向ける。


 眼前に広がる戦闘は、とても見ていてうまく進んでいるようには見えなかった。


「こんな調子で、本当にドラゴンを倒せるんだろうか?」


 ジンタが呟く先では、小山ほどのドラゴン、その四本の足の周りに『召喚されし者』達がこぞって武器や爪を振るっている。


 その攻撃にどれ程の効果があるのか分からないが……。


 見れば、何人かはさっきのあーちゃんではないが、ドラゴンの背まで上がり、攻撃を仕掛けているが、それもどこまでか、という感じだ。


「んっと、んっとねえ、ドラゴンさんそろそろ怒り始めてたよ」


「「え?」」


「ドラゴンさん、痛いから~ってちょっと怒ってたぉ~」


「……痛い? 怒っていた?」


 涙目で頭をさする二人をきょとんと見てから、ジンタはイヨリと目を合わせた。


「どう思う?」

「どうって言われても……」


 イヨリと二人、首を傾げ合った時、


「来るよっ!」

「くるおっ!」


 ミリアとあ―ちゃんが同時に発した。


「「え?」」


 イヨリと一緒に二人を見た瞬間、後方が真っ赤に染まった。


「何が――――っ!」


 振り返った先の視界は、オレンジに染まっていた。

 深い緑に覆われた森が、縦に一直線の真っ赤な道を作っていた。


「こ、これが……」


 イヨリの呟きと重なるように、


『全員ブレスに注意をッ! ドラゴンの炎に気を付けろッ!』


 カインの注意喚起する声が響いた。

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