旅行 最後のミッション
「ロンシャン、どうした?」
イヨリと一緒にロンシャンの所へと向かったジンタが問うと、ロンシャンはこう返した。
「ジンタさん、魔力は回復してますか?」
言葉と裏腹に、笑みでそう返したロンシャンに、ジンタは一瞬躊躇った。が、ゆっくりと首を振り答えた。
「いや、疲れた体は回復してるが、どこかしっくりこないというか気だるさが残ってる。これはきっと魔力が回復してないからのかもな……」
正直に、今の身体状態を口にすると、
「やっぱりそうですか! 実は僕もなんです。しかもそれが事実なようで、昨日同様強化魔法を使うのすら今はきつい状態です」
満面の笑み。なぜそんな状態でその顔を出来るのか分からないが、ロンシャンは嬉しそうに説明した。
「えっと、ロンシャン君。なぜそんな嬉しそうに、そのことを話すんです?」
隣のイヨリも、ジンタと同じことを思ったのだろう、それを口にした。
「え? だって魔力って寝たり自然に回復していくものじゃないですか? それがここでは回復しない。きっと僕達が思っている以上に魔力というのは解析されていないんじゃないですか」
本当に嬉しそうだ。実に嬉しそうにそう言ったロンシャンは、今もジンタとイヨリの前で、「もしかしたら~~」とか「いや、それだと……」など、色々と仮説と否定を語っている。
さすがに朝一から、ロンシャンのこのご高説を聞くには、些か脳の動きがしんどいジンタはイヨリを見ると、イヨリも少し困ったようにジンタを見ていた。
高いに苦笑した後、頷き合い、
「ロンシャン悪い、俺達――――」
「そろそろミリアとあーちゃんを起こさないといけませんから――」
息ピッタリに逃げの口実を口にした。
「あ、そうですよね。はい、分かりました。僕は今しばらくここで色々見て考えています」
素直にペコリと頭を下げるロンシャンに、逃げるような言動をしたことにいくらか罪悪感を感じたが、ジンタはイヨリと一緒に「じゃあ後で」とロンシャンと別れた。
「しかし、ここでは魔力が回復しない、かぁ……」
歩きながら独り言のように呟くき、ジンタはイヨリに向かい強化魔法を掛けた。
「対象は「イヨリ」、効果は「五分」、魔法は「プロテクト」」
イヨリの体が淡い青色に包まれる。
それと同時に、ジンタは頭がクラクラしてイヨリの肩に掴まった。
「だ、大丈夫ですか?」
驚きと心配を乗せた声で、イヨリがジンタを支える。
「ああ、大丈夫。……でも、こりゃあホントだな、魔法を使いすぎた時と同じ症状だ……、昨日とまったく変わってない」
戦闘中であれば、気を張っているのもあり多少は我慢出来る。しかし今は、寝起きで気が緩みっぱなしの状態だ。軽度とはいえ貧血を起こしたように視界が揺れている。
「そんな……、つまりここって魔法が使えない場所ってことですか?」
「いや、正確には、その時自身の中にある魔力なら使えるって感じかな」
「でも、それじゃあ回復は……」
「されないみたいだな……」
深刻そうなイヨリの肩から手を放し、貧血症状から出したジンタは、ぽんぽんとイヨリの頭を軽く撫でるように叩く。
「ま、とりあえずうちの寝坊助さん二人を起こしに行こう」
「そうですね」
不安な気持ちを払拭させて、笑顔でイヨリが答える。
そうして二人が昨日長老から使って下されと言われ、今は寝坊助さん二人が眠っているだろう家へと目を向けると、その寝坊助さん二人と半魚人のさゆ、それとマーメイドのフロレの四人が家から出て走って行くのが見えた。
「あ、あいつらが早起きしているだと…………‼‼‼」
ジンタが強烈な激震に震える中、イヨリがはっとなる。
「そ、そうだわ、これは旅行の一環。つまりあの二人からすれば遊びの一環なんだわ」
ジンタもそれではっとなる。
休みの日や遠足、そう言った時は何故かいつも以上に早く目が覚めるのだ。そしてそれは子供の時ほど顕著に表れる。
「つまりあれか。特別な休日扱いや旅行扱いか……」
確かに今、ジンタ達は海に旅行に来ている。しかしだ、昨日の戦闘は普段よりもしんどかった。超の付く大型モンスターの相手をし相当にキツく、ジンタとて今が旅行中だと忘れてしまっていたぐらいだ。
それなのに、あの二人はそこを忘れていなかったのだ。
驚きと感心で、走って行く四人を見つめていたジンタに、イヨリが呟く。
「何か、悪いことを考えてないといいですね…………」
その言葉に、すこぶる楽しそうに走って行く四人を見る目が少し変わった。
「ああ、確かにそうだな……」
ジンタも不吉な気持ちになった。
誰もいないがらんどうになった家に戻り、とりあえず借り物の布団を畳み、テーブルを置く。
備え付けのように置かれていたヤカンから、ぬるくなったお茶を湯飲みに移す。
「「はぁ~~~~~」」
湯飲みに口を付け、二人揃って和む。
「そう言えば出発はまだ先ですよね?」
「うん、引き潮で道が出来るのがお昼頃になるらしいから、それまではゆっくりかな」
もう一口湯飲みに口を付けてからジンタは続ける。
「長老達が朝食もご馳走してくれるらしいぞ?」
「そうなんですか……」
二人揃って、湯飲みを口に持って行く。
たっぷりと1分以上無言の後、
「では、もう一度一緒に温泉に入りませんか?」
浴衣姿にやや頬を赤らめたイヨリの提案。
ジンタには断る理由は一切ない。
思い返せば、ここに来てイヨリとはなかなかうまくいってなかった。
それを考えれば、これは十分にご褒美と言って良いだろう。
一応、浴衣の下には二人共水着を着ているのだから、やましいことは何もない。
そうだ、これは普通だ。
普通の混浴だし、昨日だって人が一杯いたしそうだった。
そう自分に言い聞かせ、ジンタも答える。
「そ、そうしようか」
何故か畏まって。
気恥ずかしさとドキドキ感で胸を一杯にしながら、イヨリと二人、タオルを持ち温泉に向かう。
着いた先で、イヨリが恥ずかしげに言う。
「脱いできますので先に入ってて下さい」
と。
「分かった」と了承すると、イヨリは近くの岩場に身を隠した。
一つ息を吐いたジンタは、気合いを入れ浴衣をガバッと抜ぐ。
そして、無造作といって良いほどに、躊躇わず海パンに手を掛け脱ごうとして、止めた。
――あ、あれ……?
全裸になる勢いが一気に止まるほどの難問が、ジンタの頭に浮上した。
イヨリは脱いできますと言っていた。それは聞き間違いではない。
しかし……、しかし、だ。全部脱いでくると言っただろうか? 答えは「ノー」だ。
これはつまり、浴衣だけを脱いでくるのか、それとも全部を脱いでくるのか、そこが分からない。
まさかそのことを、今岩陰で脱いでいるだろうイヨリに聞くことも、出来ようはずもない。
――俺は全部を脱ぐべきか、それとも海パンを履いたままでいるべきか……。
激しい葛藤をくり返し数秒、ジンタが出した答えを出す。
――とりあえず、海パンを履いたまま入ろう。そしてイヨリが全部脱いで来ていたら、即座に脱ごう。
せこい考えだが、それが一番安パイだと踏んだのだ。
やや熱めの湯に浸かり、ふ~~っと体が弛むような息を漏らす。
しゃりっと、イヨリの隠れた岩場側から足音が鳴った。
――来るっ!
背を向けた状態で、ぐるりと頭を振り向かせ、その時を待つ。
しゃり、しゃり、と岩場を踏む音が響く。
岩場から出るのはあと一歩だ、とジンタが息を飲んだ時、
「あ――――っ! ジンさんもお風呂入りに来たんだ!」
「あ――――っ! ジンさだ!」
洞窟内に響く、聞き慣れた二つの声。
振り向いたまま、見なくても分かる相手、我がマスターにして家族であるミリアと、最近ではミリアなどに触発され一番やんちゃになってきたあーちゃんの二人だ。
対して、あと一歩で出て来そうだった、イヨリの足音は止まっている。
なんとなく、最悪なことにならずに済んだと思いつつ、ジンタは頭を正面に戻しながら二人に声を掛けた。
「えっと……、二人も風呂に――――」
そこまで言って、ジンタは絶句した。
何故なら、そこには全裸で立つ二人と、人魚であるフロレ、そして半魚人であるさゆまでもが、全裸で立っていた。
「え……何故みんな全裸……?」
「だって、ここはお風呂だよ?」
「だよぉ?」
言ったジンタに対し、首を傾げ答えるミリアとあーちゃん。
「い、いや、一応俺も男で……」
何故ジンタが戸惑うのか分からないが、戸惑いながらもジンタは口を動かそうと試みるが、
「だって、ここにいるのってジンさんとロンシャンくん以外は、みんな女の子だから」
「だから」
あ、そう言えばそうか……。俺とロンシャンが入ることを言っておけば、それ以外は普通にみんな全裸でいいのか。
言われて納得してしまう。
互いに顔を見合わせ続けること数秒、後ろから慌てたように叫ぶ声が響く。
「四人共、早くお湯に浸かりなさい! ジンタさんもいつまで見てるんですか!」
それが引き金だった。
ばしゃりと四人がお湯に浸かり、ジンタは首がもげるほどの勢いで後ろを向いた。
振り向いた先では、真っ赤な顔をしたイヨリが、水着姿で立っていた。
顔が赤い理由が、怒っているからなのか、それとも恥ずかしさからなのかは、ジンタには分からないが。
とりあえず、腰に手を当て、イヨリは叫ぶ。
「早く四人とも水着を着なさい! ジンタさんは向こう見ない! そのままこっちを向いてて下さい!」
「「「「は~~い」」」」
と答える四人に対し、ジンタは「ハイッ!」と屹立し、ビシッと答えた。
そして数分後、家族四人とさゆとフロレを入れた計六人で輪になるように温泉に浸かっていた。
「はぁ~~、温泉いいねぇ~~」
「気持ちいいぉ~~~~」
ジンタから見て左に座るわんぱく二人娘も、いたずらより温泉の良さにご満悦のようだった。
「そう言えばミリアは体の調子大丈夫か?」
自身も、そして先程合い話をしたロンシャンも言っていたが、魔力が回復しない、その影響がミリアにも出ていないか気になったのだ。
「ん~~~~、はっきり言うと、あんまり良くないかなぁ……」
「チカラが出ない感じか?」
「うん、体はちゃんと休めてるんだけど、なんかいつもと違う。いつもはもっとこう……、辺りの空気もチカラをくれるような感じなんだけど、ここはそれがないかなぁ……」
ミリアはキョロキョロと洞窟内を見渡した。
確か、ミリアの『エターナルエルフ』のチカラは、辺り一面の魔力を吸い込んでそれを無尽蔵に使うとかどうとか、前にリゼットの体を使った、恐らくだがこの世界の『神』という存在が教えてくれた。
そしてそんなミリアが、ここではそのチカラを感じないと言うことは、恐らくここには魔力がない、と言うことだろうか。
ジンタは視線を正面に座るフロレとさゆに向ける。
マーメイドつまるところ人魚であるフロレの真っ白い肌の胸元にも、半魚人である緑色でガサガサしたような肌のさゆの胸元にも『獣人石』が存在していない。
つまり二人は、いやこの集落の者はすべて『獣人石』を持っていない。
それじゃあ、ここのみんなが表に出て暴走する理由というのは、もしかして魔力が影響しているのか?
自分の中へと没頭し、意識を潜らせていたジンタだったが、
「え、えっと、ジ、ジンタさん……」
「へ?」
「そ、そんなに胸元をジロジロと見られると私も恥ずかしいんですが……」
真っ白い肌に適度な膨らみを見せているマーメイドのフロレが恥ずかしそうに胸元を隠す。
どうやら、意識を考えにボッしている間、目だけはずっとフロレの胸元を凝視していたようだった。
「あ、ご、ごめん」
謝り目を右に逸らすが、そこには完全に平目になったイヨリがいた。
――あっ、何か俺またやっちまったっぽい……
そうジンタが思ったと同時に、イヨリがプイッとそっぽを向いた。
――やっぱりだ……
ジンタは、がっくりとうな垂れた。
「それでねジンさん」
背中越しに、ミリアが少し怒ったように声を掛けてくる。
「はへ?」
考え込んでいたせいか、全く聞いていなかったジンタが、変な返事をする。
「だからね、わたしは思うんだけど、私達はここにあまり長くいちゃいけないように思うの」
頬を大きく膨らませたミリアが言う。
「そう、なのか……?」
「良くは分からないけど、何かそんな気がするの」
む~~っとミリアは難しい顔をした。
「僕も、ミリアちゃんの意見に賛成です」
突然の相づちに全員が目を向けると、ロンシャンが満足そうな顔でリカを連れ歩いてきた。
輪になるように湯に浸かっているジンタの左側にロンシャンがすいませんと言い、入ってくる。
当然そのロンシャンの隣にリカが入る。
肩まで浸かり、はぁ~~~っと気の抜けるような息を漏らした後、ロンシャンは続けた。
「僕の見解でも、ここは魔力を遠ざける仕組みになっているのではないかと思います」
「魔力を遠ざける、か」
やっぱりそうなのか、とジンタが呟くと、
「あ、その言い方、やっぱりジンタさんもそう思ったんですか?」
同じ答えにほっとしたのもあるのだろう、ロンシャンは嬉しそうだ。
「僕達の回復しない魔力。そして周囲の魔力を吸収出来るはずのミリアちゃんが魔法を使えなくなったことも考えれば、ここには集めるだけの魔力がないってことになりますもんね」
同意を求めてくるロンシャンにコクンと頷く。
「どうして、そんな現象が?」
イヨリのもっともな質問に、ロンシャンは待ってました笑みを称え、フロレとさゆの胸元を指差す。
「これは大雑把な仮説ですが、フロレさんもさゆさんもそしてこの集落の皆さん全員が、胸元に獣人石を持っていません。これはつまり召喚されることがない、と言うだけじゃなく、もしかすると大気中の魔力がうまく吸収出来ない、そしてそれが暴走の原因なんじゃないでしょうか?」
「えっと、それってつまり……?」
小首を傾げるミリア、
「つまり、ここの集落の方が暴走する理由は、魔力制御に関係しているのでは? と僕は思ったんです。ジンタさんはどうですか?」
話を振られ、ジンタも頷く。
「俺も正確には分からないけど、そうじゃないかと感じたんだが……」
そう言いながら、自分の胸元を見る。
このリリフォリアが今の世界なら、ジンタは当然異世界から来たと言うことになり、そして当然ここで生まれた者にある『獣人石』などない。
獣人石を持たない者が暴走するのであれば、なぜジンタは平然と普通に生活出来ているのか、そこが疑問になる。
ふっと我に返り、全員を見れば、全員がジンタの胸元を見ていた。
思わず、つい恥ずかしく胸を隠してしまう。
「まあ、ジンタさんについてはまだ色々と分からないですが、とりあえずここの方が外の世界に出られない理由は魔力にあると僕は推測しています」
「俺もそれには同意かな」
ロンシャンとジンタ、二人の意見に全員が「「「「「なるほど~~」」」」」と頷く。
「だから、さっきミリアちゃんが言った僕達がここに長居するのも、僕は危険だと思う。数日ならいいけど、何十日もになると枯渇したまま魔力が補充が出来ないで体調がおかしくなるかも知れないからね」
「うん、わたしもそう思う」
それには、ミリアも同意した。
「そ、それじゃあ、ミリアちゃん達は……」
「モウ ココニハ ……」
悲しげな顔のフロレとさゆ。
「大丈夫だよ。また来るよ」
「来るよぉ」
みりあとあーちゃん二人が、友達になった二人に笑顔で答える。
「本当、に?」
「ホントウ?」
小首を傾げる二人に、
「うん、何十日もずっとここには居られないだけで、数日ここに居て、数日外に行けばいいだけだもん」
「そっかあ!」
「ソウダヨネ!」
二人の顔にも笑顔が浮かぶ。
「今年はもう来られないが、来年は少し長めに来ても良いかもな」
ジンタが言うと、
「そうですね。来年もまた来ましょう」
イヨリも相づちを打ってくれた。
「さって、そろそろ長湯になってきたし、上がるか」
そうしてジンタ達は、また長老宅で朝食を頂き、少しくつろぎ、引き潮で道が出来るまでを待った。
時刻にしてお昼過ぎた頃だろう、海面が大きく下がり、洞窟内の脇に道が出来ている。
クラーケンが鎮座していた海辺には、帰るジンタ達を見送りに、集落総出で来てくれていた。
「モウ オワカレナノハ サビシイガ オキヲツケテ」
「ありがとうございます。ここまでしてもらって」
握手を交わすジンタと長老。
「ジンタサマヨ ヤクソクオワスレデハナイ デスジャナ」
手が痛くなるほどギュッと握ってくる長老に、
「お、覚えてます、覚えていますよぉ」
ジンタはははは、と苦笑を浮かべる。
その隣では、マスター四人とあ―ちゃんとリゼットが、さゆとフロレに別れの挨拶をしていた。
「来年もまたきっと来るからね」
「私も、きっと来るよ!」
「僕もまだまだ色々知りたいことが一杯だから」
「私も、皆さんと一緒に来ますですわ」
「リゼットご飯美味しかったぞ!」
「あーちゃんも美味しかった!」
「うん、待ってるね」
「ズット マッテルヨ」
見守る全員の目にちょっと涙が浮かぶ光景を、子供達はその時醸し出していた。
遂に出発の時、集落全員が手を振り見送る中、ジンタ達も地上への進行方向に背を向け、後ろ足に歩きつつ、両手を振り返していた。
その時だった。
「わたしはこの時を待っていたんだよ!」
聞こえた瞬間だった。
ズッと音が響き、ジンタは得も言われぬような開放感を味わった。
「は、はへ?」
思わず声が漏れてしまう。
まるで生まれたてのような清々しさと開放感。
それが一体何なのか、ジンタが理解するより早く正面で見送っていた集落の面々が教えてくれた。
「キャアァ――――――――――ッ‼‼‼」と、黄色い叫びと同時に、両手で顔を覆いながらも指の間が開き、どう見ても見る気満々だぞと、ガン見している状態。
それが自分に向いているのを自覚した時、その視線の先をジンタが理解した時、
「ミ、ミリアッ! あなたなんてことをっ!」
イヨリの困ったような恥ずかしそうな叫びを放った。
ジンタも堰を切ったように動いた。
体中の筋力を最速で動かし、うんち座り、そして下がりきった布を引っ掴み直立不動へ。
怖々と左右を見れば、仲間達のほぼ全員が、顔を真っ赤にしてジンタの視線を逸らした。
ほぼ全員と言うのは数人においては別の行動を取っていたからだ。
一番は、動けずミトにおんぶされていた雪目だった。
あまりのことにブパッと盛大に鼻血を吹き出し、おんぶされた体勢のまま一人スープレックスのように頭頂部からひっくり返り。その鼻血の影響で、ミトの体は真っ赤に染まっていた。
後の面々の中、リゼットはボー然とし、あーちゃんは指を咥え見つめ、エルファスが嬉々とした笑みを浮かべているが分かった。
ジンタは泣きたいのか怒りたいのか自身でも分からないまま、この惨状現場を作ったであろう一番の人物へ、ゆっくりと振り返り視線を向けた。
そしてズリ下げしゃがんだままのミリアと目が合ったのだが、ここでジンタは一番戸惑った。
なぜなら、これだけのいたずらをした当の本人であるミリアが、ジンタを見上げながら一番泣きそうな悔しそうな顔をむけていたからだ。
「な――――」
何で、こんなことをしたお前がそんな顔をしてるんだ、とジンタが怒るより先に問おうとしたが、
「み、みえなかった……、見れなかった……」
潤んだ金色の瞳に涙をぽろぽろと流し出し、ミリアが漏らすように呟いた。
「は?」
ジンタが、何を言ってるんだと困惑した声を発した時、
「うわ~~ん、後ろから脱がしたらわたしだけ見れなかった! だからジンさん今度は前から脱がすからわたしにも見せてっ‼」
立ち上がったミリアが再度ジンタの海パンを掴むが、当然もうそんな事はさせない、 させる気もない!
ガッシリ海パンを掴み合ったままの二人の目が火花を散らす。
「もう、みんなに見せたんだから、今更わたし一人に見せたって減らないんだからいいでしょ、ジンさん!」
「色々自分の中の何かがすごい勢いで減ったわ! もう二度とこんなことにならないように、これからはミリアは俺の前に立て!」
「立つから脱がさせてよ!」
「バカ言え! もう脱がん! 脱がさせねえっ!」
ギリギリと二人で海パンを掴み言い合うが、それもここまで、
っっっっごん!
盛大な音を響かせ、ミリアの頭頂部にゲンコツが落ちた。
「ミリア! いい加減にしなさい!」
怒ったのは当然イヨリだ。
ッズンと、ジンタとミリアの間、仁王立ちに立ったイヨリは、頭を押さえ痛さにしゃがみ込むミリアを見下ろし、
「ミリア、あなたは一体なんてことを! 昨日あれほど怒ったのに!」
「うぅ~~~、だってわたしだって見たいもん!」
「「見たいもん」じゃありません!」
ぎゃあぎゃあと言い合う。
結局最後は、大泣きしたミリアがイヨリに腕を引っ張られ引き潮で出来た道を帰ると言う、ハッピーエンドにしては何ともしまらない形だった。
こうして長いようで短かった海の旅行は幕を閉じた。
地上に出たジンタ達は、そのまま帰路につくべく帰り支度の用意をし、むくれたままのミリアも馬車に乗せ、我が家のある第二階層の最初の街であるラペンへと向け、出発したのだった。
その時何が起こっているのかも知りもせず………………。
何か、海旅行編、当初思っていた以上に長くなってしまいました。
本当は、読んで頂いた方には分かる通り、最後のジンタがミリアに丸裸にされるシーンだけが頭に浮かび、ただ、そのシーンのためだけに書き始めた海旅行編だったんですが、クラーケンやら色々と追加して、これだけ長引いてしまいました。
次はいよいよ、第二階層というか、第二部の最後、にしようと思っている話を書くつもりです。
まったりですが、どうかよろしくお願いします。




