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クラーケン 四

 思い返せば、この戦いが始まる前、確かに居たはずのリゼットの姿を、戦いの間一度も見ていないことにジンタが気付いたのはその時だった。


 ドヤ顔で、目一杯に両手を振りながら近づいてくるリゼットの後ろには、地上の砂浜で心地よさげに寝ていたはずの三人、雪目と水音とラーナの姿があった。


「こ、これは…………」


 現実なのか夢なのか、今この状況に居て欲しいとジンタが願ったがために見えている願望か分からずジンタがあ然とするその横で、ロンシャンが安堵したように言う。


「良かった、リゼットがみんなを呼んで来るのが間に合ったみたいで」


 その場の全員が、え、リゼットにそんなこと頼んで大丈夫なの? と驚きとも信じられないとも取れる表情をロンシャンに向ける中、ロンシャンは自信あるように頷いて答えた。


「リゼットは、幸運だけの持ち主みたいに言われるけど、実はそれだけじゃないと僕は思っているんだ」


「え? 幸運? リゼットってお馬鹿なだけじゃ……」


 我が主であるミリアに、そう認定されている不憫なリゼットに全員が哀れむ中、ロンシャンも苦笑する。


 ちょうどその時、手を振りながらこちらに三人を引き連れ、大喜びで走ってくるリゼットが盛大に転んだ。


 全員がやっぱりお馬鹿なだけじゃ、と呆れたような素振りをする中、


「ミリアちゃん、それだけというのはさすがにリゼットに悪いよ。僕はこう見えてリゼットの直感力というか、感じる力はかなり当てにしてるんだよ」


 全員が、ああ、そう言えばと顔を上向ける。


「確かにですわ、たま~にリゼットさんは何かと交信してるかのように、あのアホ毛をぴこぴこさせた後、突拍子もないようなことを言いますわね」


「うん、リゼットがすっごく晴れてるのに、もうじき雨降るから帰ろうとか言うと、その後よく降ってくるよね」


「そう言えば、ここから先は危ないから帰ろうとか、突然言う時あるよね」


 よく遊ぶベンジャミン、エルファス、ミリアが思い出すように上向き言う。


「うん、それにね。リゼットってあれだけ教えても、道とか覚えられないのに、迷子になっても絶対戻って来るんだよね」


「「「「ああ!」」」」


 それにはジンタを始め全員が確かにと同意した。


「僕はね、リゼットには僕達には見えていない何かを感じているんじゃないかと思っているんだ。もっと言えば僕達の『家族の絆』である『召喚されし者』とマスターの間に生まれる『赤い糸』を感じる力があるんじゃないかとずっと思ってたんだ」


「『赤い糸』を感じる……」


『召喚されし者』とマスターに間にある『赤い糸』。それはマスターだけが見ることが出来る証みたいなものらしい。自信の右手薬指から伸び、それらは『召喚されし者』達へと繋がり、距離が伸びれば途中の糸は見えなくなるが、それでもマスターは自分の家族である『召喚されし者』が生きているのかどうかを、その指の糸が指から伸びているかどうかで判断出来るらしい。きっと今も、エルフのマスターである四人には、それぞれの家族の意図が見えていることだろう。


 ロンシャンは、そのマスター達が自分の家族だけに繋がっている『赤い糸』をリゼットが見るのではなく、感じていると言っているのだ。


「うん、リゼット自身はあんなだから理解してないけど、僕はそう思っていてね。だから頼んだんだ、上にいる三人を呼んで来て欲しいってね」


「そして、連れてきた、と」


「はい」


 話の間も、走り近づいてきたリゼットを入れた四人は、もうすぐそこまで来ていた。



           ※※※※※※※※



「あなたは、私の一番手を出してはいけないモノに手を出しました。よって私はあなたを許しません!」


「私もです、あなたを許しません!」


 洞窟内に雪目と水音の低く冷めた声が、木霊のように響く。


 白い長襦袢姿に草履、白い肌に氷を印象づけるような美麗な顔立ちに怒りを含ませた獣人化した雪目。


 同じく獣人化し、腰まである長い髪を半透明の流れる水流と化し、それを両腕に纏い、さらに怒りではみ出す髪の水流を左右に揺らめかせる。


 二人は今、話を聞いたジンタ達の元を離れ、クラーケンに近づいていた。


 後ろでは、エルファスを始めマスター達とジンタが、遠ざかっていく二人を動けず見送っていた。


 到着したリゼットを入れた三人に、ロンシャンとジンタがここまでの話をしたのだが、結果、雪目と水音は自分達がマヌケな面をして照りつける太陽の下、寝ていた時、マスターであるエルファスが自身の決意と行動、そして今だ回復しきれないほどのダメージを負っていたことに、怒りを露わにした。


 押し寄せる感情の激流。

 情けなさ、悔しさ、自分を無視し作戦に及んだみんなの行動、そして何よりそんな時にのんきにしていた自分の馬鹿さ加減に、激しく感情が揺さぶられ体の中で踊った。


 雪目は我慢出来なかった。

 このままここで話を聞いていては、きっと溢れ出す怒りにマスターであるエルファスを始め、仲間であるみんなを傷つけてしまうと感じた。


 だから精一杯の抑え込む声で告げたのだ。


「もう、これ以上はいいです」

「後の話はコレを倒した後で……」


 雪目の言葉の後を水音が続いた。

 その声音、それには自分と同じモノを感じた。

 きっと、自分と同じ心境なのだろうと、雪目は理解した。


 そして、見つめてくる面々に、精一杯、出来うる限り笑みを浮かべた。

 その顔が、とんでもなく歪に引き攣っているのを自覚しながら。


「ジンタさん、ミトさんとエルファスちゃんも、後で色々言いたい事がありますので、あしからず」


 抑えながらもやや震えた声で言い、ジンタ達の返事を待たずにゆっくりと振り向き、目指す真っ赤タコの怪物を見据えると、すっと視界が狭められた。

 まるで、スコープのように。


 それからゆっくりと歩を進める。

 慎重に慎重に、自分の中に膨れあがり溜まった感情がこぼれ落ちて割れてしまわないようにゆっくりと。


 近づく、真っ赤なタコを睨むように目を細めながら、雪目は自分に言い聞かせる。


 ――まだ……、まだですよ。まだ開放してはいけませんよ。今だとまだ、皆さんを巻き込んでしまう。


 自分の中に止めどなく湧き出でる激流の如き激情は、体中を今にも飛び出しそうな勢いで走り回っている。それは今まで感じたことのないほど激しいブリザードと化していた。

 きっと一度開放してしまうと抑えきれなくなる。それが分かっていたから堰き止めていた。

 まだです……まだですよ……


 言い聞かせ、ゆっくりと慎重に進む雪目の狭まった視界に、同じ家族であるミトの姿が入った。


 振り向いたミトと目が合った。


 目が合った瞬間、ミトの顔と体がビクッと驚いたように後退った。


 それから、何かを叫ぶように左右に向け叫んでいる。


 それが何を叫んでいるのか、今の雪目の耳には届かなかった。


 ふっと、ミトが視界から逃げるように消えた。


 以降、雪目の目に映るのはクラーケンだけとなった。


 っざっざっざっざっざ


 聞こえるのは、自分の草履が岩の地面をゆっくりと進む音。

 その音と感触が一気に変わる。


 砂浜の砂へと。


「はあぁぁぁっ」


 後ろから、水音の合図のような怒りの声だけが聞こえた。


 ああ、もう私もコレを解放してもいいのですね。


 気を抜けばすぐ飛び出しそうなその力を抑え付けるのを雪目は止めた。



           ※※※※※※※※



「おいおいおい、雪目と水音のあの顔。ありゃあ普通じゃねえぞ」


 半ば泣きそうな顔と震えた声で、戻ってきたミトがジンタに言った。


 そんなミトの後ろには、それまでクラーケンと戦っていたリカや松、竹や梅やあーちゃん、イヨリの姿もあった。


 戦いの最中、ミトがゆっくりと歩いている雪目と水音の顔を見て、全員に向け叫んだのだ。


「待避! 急いで全員後ろに戻れ――ッ!」


 と。


 そして、全員を引き連れクラーケンから安全圏にいるジンタ達の元へと戻ってきたのだ。


「確かにすごい形相と雰囲気でしたが、しかし、こう言っては何ですがあの怪物相手にあの二人を置いていくというは……」


 戸惑いながらリカの言うことももっともだった。


 雪目に水音、どちらも実戦の戦闘タイプと言うよりは補助タイプ。水と氷であり二人の相性がよいことは分かるが、それでも二人に任せて全員が戻って来るなんてしてもいいのだろうか、と。


 しかし、ミトは怯えたようにゆっくりと首を振る。


「リカ、お前の言うことはもっともだ。でも、今だけははっきりと分かるから言わせてくれ……」


 ミトは全員が見ている中、一度大きく息を吸った。


「おれはこれから何が起きるのか分からないけど、とりあえずあの二人の近くにはいたくない!」


 断言したミトの横で、エルファスまでもが腕を組んでうんうんと激しく頷き同意している。


「えっと、私は一度も見たことがないんですが、あのお二人って怒るとそんなに、なんです?」


 手を上げ、イヨリが聞くと、


「おれだって、ほとんど見たことはないけどよ~。なんつーかあるじゃねえか、こう普段静かな奴ほど――って、まさしくあれでよ。雪目の奴もそうだけど、水音の奴も時々そういう雰囲気っていうのか、なんとなーく顔色とかで話掛ける事自体はばかれる、そういうのがあるんだ」


「うんうん、私も普段悪い事して怒られてもそんなではないんだけど、時々なんか逆鱗っぽいことに触れたなぁ~みたいな時があって、どうしても言い訳出来ないぐらい怖い時があるよ……」


 そう言い合ったミトとエルファスが互いに目を合わせた。


「「そして今が、今までの中で一番それ‼‼」」


 互いに指を指し示しつつ答えた。


「確かに、二人が相当怒っているのは俺にも分かるけど、だからって――――」


 ジンタが言い掛けた時、



『あなたは、私の一番手を出してはいけないモノに手を出しました。よって私はあなたを許しません!』

『私もです、あなたを許しません!』



 二人の、低くも芯の通った凜とした声が響いた。


 直後、


 ピシイィィィィィ――――ッと、鼓膜を激しく揺さぶるような高音が響き、ジンタは両耳を押さえ身を捩った。


「――――ツゥッ!」


 長いような一瞬の痛みに声が漏れた。

 収まった後、辺りを見ればそれを受けたのがジンタだけではないことが窺えた。

 特に耳の良い、マスター四人とミト、リカ、松はそれがひどかったようで、耳を抱えて蹲っていた。


「一体今のは何が――」


 雪目と水音に目を向けたジンタの声が止まる。


 ジンタの見つめる先には輝きが見えた。

 いや、もっと具体的に言えば、白銀に輝く半球のようなモノが見えていた。


 大きさは、その先に見えるクラーケンの姿と比べてみて、ちょうどクラーケンの半分ほど、おおよそ五メートルほどだろうと推測出来る。


 全体的に白銀に見えるその半球は、時々光の加減のせいだろう七色の輝きを見せる。


 もっと目を凝らし見てみれば、それが吹き荒ぶ吹雪を一定範囲内に押しとどめ、その中で拘束するように荒れ狂わせているのが分かった。


「あれって、まさか……」


「どうも、二人の力であそこにとどめているようですね」


 まだ耳を押さえているも、立ち上がったロンシャンが答える。


「あれって一体どうやって……」


 中で吹き荒れているのが雪目の影響なのは分かるが、それをどうやってあそこまで見事にコントロールしてるのかが、さっぱり分からない。


「恐らくですが、水音さんが薄い水の膜を張って壁で弾き反射するような形で中に閉じ込めているのでしょう」


 言われてみれば、吹き荒ぶ内部の風とは別に、時々パキンと音が響き、キラキラと結晶が砕け輝いてるのが見える。それが七色の正体だった。


「あんなのの中にいる二人は大丈夫なのか?」


「どうなんでしょう……」


 さすがのロンシャンもそこまでは答えられない。


 ジンタとロンシャンが沈黙したのが合図だったように、見ている先で動いたのはクラーケンだった。


 四本の完全に回復させた大タコの足を大きく振り上げ、半球と化した雪目と水音に向けて振り下ろした。


 足のしなり具合、勢い、精度、どれも今までの中でも最高クラスの威力なのがジンタにも分かった。


「雪目、水音、あぶないっ!」


 後ろから、起き上がったのだろうエルファスの叫びが聞こえた。

 しかしジンタは、戦いから目を離さなかった、いや離せなかった。


 半球の中心部目掛け、振り下ろされた四本の足はしかし、足が半球の中入りきった位置でピタリと止まった。


「ギシュアァァァァ――――ッ!」


 止まった直後から、クラーケンは声に聞こえない声を叫び、雪目達に向け振り下ろした四本の足を引き抜くように上体を仰け反らせた。


 が、引き抜いた足は見事なほど半球の外側部分からパキンと音を響かせ砕けただけで、半球の中に入ったタコ足は、中でミキサーに掛けられたように砕け消え去った。


「あれは……」


「まさか、一瞬で凍り付かせて、砕いた、んですかね……」


「そんな馬鹿な……、それじゃあ、あの中は一体どれだけの冷気が渦巻いてるんだ?」


「分かりません、でもいくら軟体のタコの足だとしても、あの大きさを一瞬で凍てつかせる威力、相当な冷気だというのは分かりますが……」


 ここまで来ると、ジンタもロンシャンも正確な状況が分かりかねてしまう。


 痛みに叫んでいたクラーケンが気を取り直すように半球へと上体を向ける。


 直線的な位置から見ているせいなのもあるだろうが、ジンタ達から見ると、遠近感がはっきりとしないため、クラーケンと雪目達の残り距離が正確には分からない。しかし、半球と化した雪目達は、未だにクラーケンへと向け歩を進めているのだろう。


 その証拠に、牽制するように声に聞こえない叫びを発し、威嚇するように大タコの腕を振るいながらも、後退るクラーケンが見て取れた。


「まったく、一体全体あの二人は何やってんだ?」


 復活したミトがおでこに手を当て、遠くを見るように目を細める。


「ミト、あれは一体?」


「ん~~、一応二人の合体技とか何とかをじゃねえか? いつも二人であーだこーだと夜話をしているのをよく見かけていたし、その中の一つじゃないかな?」


「うん、多分そうだよね」


 エルファスもミトのマネをしておでこに手を当てている。


「それよりジンさん。ジンさん雪目さんと水音さんに後で話がありますって言われてなかったっけ?」


 隣に立ったミリアに言われ、ドキリと体が跳ね上がった。


「おいおい、それはマジかよ。あんな状況の二人に話って、どう見ても説教じゃねえか? ジンタ三言ぐらい小言聞いた段階で凍り付いちまうんじゃねえか?」


 ミトがケタケタと腹を抱え笑うが、


「あれ? 確かミトも一緒にって言ってたよね?」


 ロンシャンが付け加えると、ミトも腹を抱えたままピタリと動きを止めた。


「あ~らら~、ミト~~ご愁傷様~」


 ジンタを笑った時のミトとまったく同じようにケタケタとエルファスが笑うが、


「あれ? 確かエルファスさんも一緒に話しがありますよって言ってませんでしたか? ですわ」


 ベンジャミンの言葉で、エルファスまでもビクリと動きを止めた。


「い、いや、あれだろ? 当然話をする時は冷静に、きっと普通にだな……」


「そ、そうだよな。まさかいくら何でもあの状況のまま説教とかはなぁ……」


「うんうん、あんな状況のままお説教なんてされたら、ミトはともかく私はきっと死んじゃうもん」


「いや待てエルファス。ジンタはともかく、おれだってあれはさすがに死ぬぞ?」


「いやいや、エルファスにミト。俺だってあんなんどうしていいのか分からんからな?」


 三人が三人とも、それぞれに言い合う、輪になって。


 三人から少し離れて立っていたラーナが、


「しかしあれですね。私は雪目さんや水音さんと一緒に遅れてここに来ましたが、出番が一切ありそうにないですね」


 家族であるリカとロンシャンに向けて呟いたつもりだろうが、なすり付け合う三人がぐるりとラーナに顔を向け、


「じゃあラーナが俺の代わりに!」

「じゃあラーナがおれに代わって!」

「ラーナさん私の代わりに!」


「「「説教受けてくれ(ください)‼‼」」」


 三人が揃えて叫んだ。



          ※※※※※※※※



 後ろで、戦い以後の説教についてをわいわいとなすり付けあっている中、実は一番混乱していたのは、雪目だった。


 今、自分に何が起きているのか、どうなっているのか、それは気付いていた。


 しかし、気付いていたからといって、必ずしもそれを受け切れていると言うわけではない。


 ――どどど、どうしましょう。こんな時に私ってば……


 雪目は、自身の変化を認識していた。だが、それに対して全てを受け入れ対応出来ているわけでなかった。


 ――――しかし、これが私の第二段階ですか……。


 振り下ろされるクラーケンの真っ赤なタコの足なぞ、さきほど見た通り、今の雪目にはもう脅威ではない。

 ただ、ゆっくりとクラーケンに向け歩を進めながら自分の変化をなんとか認識し受け入れようと必死だった。


「おめでとうございます雪目さん。その姿はやはり第二段階なんですね?」


 そんな雪目に、後ろに立ち同じ歩幅で歩く水音の声が届いた。


「ありがとうございます水音さん。どうやらそのようですね。そして本当にすいません」


 雪目は、お礼と同意、そして最後に謝った。


 理由は簡単。


 水音と二人で考えたこの陣形、何度も練習を重ね、ちゃんとした形には成っていた。しかし、雪目の初めての第二段階、制御しきれない冷気の力が、今まで練習を重ねてきたパワーバランスを大幅に崩していた。


 第二段階に成った見た目こそ、腰近くまでだった透き通る銀髪が足元付近まで伸び、無地だった白襦袢が、本当に薄く桜の紋様が浮かんだ白襦袢へと変化しているだけなのだが、それは見た目なだけで、扱う氷の質、冷気の跳ね上がり方に自分が制御し切れていない、つまり暴走気味なのを自覚していた。


 先程までの怒りの感情が引き金となったのだろうが、今はその怒りの感情さえもすっ飛んでいた。

 何とか冷気を抑えようと必死試みているが、体の中から溢れ出る力の本流を抑えることが出来ない。


 ――これ以上長引くのは、暴走する私より、水音さんがきついですね。


 制御を意識しつつも、抑え込むことを諦め、雪目は次の段階へと進めることを選んだ。

 近づくために急ごうとする歩みを何とか落ち着かせ、雪目は正面で必死に逃げようと後退るクラーケンを睨む。


 そして後ろにいる水音に向け伝える。


「水音さん、大変でしょうがそろそろいきます」


「はい」


 やや辛そうな返事を後ろから聞き、雪目はゆっくりと右手を前にかざした。


 二人で考えたこの複合技は、結界で守るだけではなく、その後攻撃に転ずることを念頭に置いて作った技。つまり、攻防一体の技なのだ。


 かざした手の平の先には当然クラーケンがいる。そのクラーケンの体すべてを手の平に収めるように、雪目は指を目一杯に広げる。


「いきます!」


 凜とした声を発し、雪目は左手で右手の手首を押さえ、


「すべてを凍らせてしまいなさい!」


 叫び、グッと目一杯に開いた手の平を握り絞める。


 それが合図だった。


 雪目と水音を中心に半球状内に閉じ込まれる形で荒れ狂い暴れていた氷雪達が、雪目の閉じた腕の先、半球の中で唯一となる出口となるようにポッカリと開いた拳大の穴から一斉に吹き荒れ、轟音と共に真っ直ぐとクラーケンの体に叩き付けられた。


 高音が耳をつんざき、風切り音が洞窟内に響いた。

 方向性を与えられた暴風と化した氷雪達をその身に叩き付けられたクラーケンは、触れたその場で凍結、そして氷の飛礫により破砕、砕けると共にまた凍結と、連鎖で削られていき、氷結の暴風が収まった時、大タコである半身を粉々に砕かれ、残りの半身を氷漬けにされ絶命していた。


 ヒュ――――っと最後に満足したような冷たい風が洞窟内に響いた後、まずは後ろにいた水音が、ふぅ~~と力が抜けるような声を出し、どさりと地面に座り込んだ。


 そしてそれを聞いた雪目も、ほぅ~~、と安堵し肩の力を抜いた。


 こうして、海の怪物クラーケンの討伐は終了した。

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