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クラーケン 二

強化魔法について、

大変申し訳ないですが変更します。


自分でもよく間違えているようで、強化魔法『アタック』の呼び名を、『パワー』に変えさせて頂きます。


どうもこちらの方が、自分の中でもしっくりくるので、以後『パワー』とさせていただきます。


これからもよろしくお願いします。

 クラーケンの攻撃範囲外である最後方から、ジンタ達を含め、戦いに参加し始め協力してくれている半魚人とマーメイド達にも、範囲強化を与えていくミリア。


 そして、同じく力を貸してくれている二種族に、単体での強化魔法を掛けていくロンシャンとベンジャミン。


 同級生であり友達でもある三人の頑張る姿に自分も早くみんなの力になりたいと、焦る気持ちを押さえながら時を待つエルファス。


 友達の勇姿を少し離れた位置で見ながら、エルファスは左手に持つ合成弓コンポジットボウの手触りを確認し直す。


 弓の全長は、エルファスの身長の半分ほど。

 素材は、しなり反発力のあるイチイの木と、要所要所に金属を使い強度と弾力性を上げ、威力を上げている。

 何より、持ち運びに便利なように組み立て式だ。


 ジンタと武器屋のオヤジさんが、エルファスのために考案し、持ち運びにも威力的にも十分エルファスに扱えるようにと作ってくれた組み立て式の合成弓コンポジットボウだ。


 エルファスは、援護を頑張るミリア達に向けていた視線を前線へと向け、右手で弦の張りを確かめる。


 この戦いに参加させて欲しいと、自分から頼んだ。

 泣くほど嬉しそう(大泣きしていた)に頷いてくれたミトを見て、嬉しくて思わず一緒に泣きそうになってしまった。


 そして初めてだろうエルファス自身の意思で決めた参戦に、全員が頷いてくれたことが何より嬉しかった。


 もっともエルファス自身は、戦いが始まってから出来るだけ安全圏の後方から矢を射っていくつもりでいたしそう言ったのだが、ミトがそれを断固としてダメだと言い放った。


「エルファスの初陣なんだから、一番の見せ場を用意してやってくれ」と、鼻息荒くジンタに指を突き付けたのだ。


 その時のジンタの困った顔は、今思い出しても少し可笑しくて笑ってしまう。


 そしてそんなミトの無茶ぶりに、必死に頭の中を総動員し振りしぼって、ジンタが出してくれたのが、クラーケンの目を射貫くことだった。


 エルファスが扱い威力が出せるようにされているといえ、エルファスのコンポジットボウは近距離から中距離用に作られている。


 つまり、エルファスは時が来たら、その場で射るのではなく、まずは近づき、そしてクラーケンの目を射らなければならない。


 そのタイミングは、クラーケンの十一本ある足、それの内六本が切り落とされた後だとジンタに言われた。


 戦い当初こそ、全然クラーケンの足が切れず、焦ったジンタがクラーケンの足攻撃で海に叩き落とされるというシーンもあり、エルファスも焦り心配したが、それ以降この地に住む半魚人とマーメイド達の力もあり、クラーケンの足を半魚人達が引っ張り、その引っ張り伸びた足をマーメイド達の鋭利なヒレで何度も切りつけて、切り落とす作戦が功を成し、順調に進んでいた。


 そして今、緊張するエルファスが見つめている先で、ジンタが半魚人達と叫んだ。


「ヨッシャァッ!」と雄叫びを上げ、切り離されたクラーケンの足を放り投げた。


「次だ次だ!」


 声を張り上げ、海面から浮かんでいる別の足を寄こせと催促し興奮するジンタ達。


 そんな嬉々としたジンタ達を遠目で見ていたエルファスには、それが六本目のクラーケンの足であることを確認していた。


 実際、ジンタ達が切り落としたのはこれで二本目だったが、ジンタ達からはちょうど岩場を挟んで見えない離れた位置ではリカと半魚人達が、より見事な動きで四本の足を切り落としていたのだ。


 二つのグループでちょうど六本。


 そして二つのグループが七本目と八本目に取り掛かり、イヨリとあーちゃんと竹と梅の四人がそれぞれ一本ずつ、計四本の足を引っ張っている。


 ――今だ!


 そう判断したエルファスは、一度汗に湿り、額に張り付くクセッ毛を退かすように拭き取り、自分が成すべきこと実行するために行動を開始した。


 そこにおかしな矛盾があるのを見逃しつつ。




 エルファスの体は今薄い黄色に輝いてる。自身に掛かっている強化魔法の影響だ。

 一つはミリアの範囲強化魔法である『パワー』。

 もう一つは、自身で掛けた単体強化の『スピード』。


 元々マスターであるエルフは、良く言えばスレンダー、言い方を変えれば痩身だ。それだけに瞬間的な身軽さはかなりのものがある。

 しかも、エルファスはここ一年半ほどほぼ毎日のようにミトと一緒に走り、体を鍛えている。


 その鍛えた体に強化魔法が加われば、スピードタイプの『召喚されし者』であるミトや松には及ばないにしろ、その身軽さ、俊敏さはかなりのものだった。


 事実、動き始めたエルファスの姿に、気付いた者はいなかった。


 物陰に隠れ、緊張しながらも素早く移動するエルファス。

 移動中、視界は激しく暴れるクラーケンのやっと姿を見せた両目に釘付けとなっていた。


 クラーケンは、見るからにイヤそうに一際長い二本の足で、長い頭の上を縦横無尽に飛び蹴り裂くミトと、それよりも効果は薄いが、同じぐらい動き切り裂く松を追い掛けている。


 そして砂浜では、ジンタを始めとする面々と集落の人達がクラーケンの足を今も必死に引っ張り、切っている。


 ――みんながここまでやってくれてるのなら、自分がやることは一つだけ。


 稽古中にもよく言われていたこと、そしてこの戦いが始まる時にもミトに言われたこと思い出す。


『いいかエルファス。初めての時、そして責任が重大な時ってえのは、おれでもすげえ緊張する。そういう時は、今からやろうとしていること、その成功結果を頭の中に思い浮かべるんだ。そして信じるんだ、きっと自分は成功して相手はこうなるってな』


 クラーケンヘ向け、走りながらエルファスの頭の中には、ミトのその言葉が何度もくり返される。


 徐々に近づくクラーケンの姿。


 エルファスの頭の中には、自分がクラーケンの目を射貫くビジョンがゆっくりとしかし明確に浮かんでいく。


 ――できる、出きる、出来る!


 そう何度も、自分の中で呟く。


 自分の足が固い最後の岩場を蹴り、クラーケンの蠢く足へと着地する。


 ――あと三歩――


 より前傾姿勢になり、体を前に突き出すように踏み込む。


 ――二歩――


 左手の合成弓コンポジットボウの握りを確かめ。


 ――一歩――


 腰の後ろにある矢筒から矢を抜き取る。


 ――ゼロ――


 弾力のあるクラーケンの足を、トランポリンのように高く飛ぶために踏み込み、蹴り飛ばす。

 ふわりとした空中独特の浮遊感を味わいながら、胸前で番えた弓側を前に押し、矢を引っ張る。


 限界まで引き絞った感覚。

 何度も練習で射ってきた弓の感触。


 この合成弓を使うことになってから、より一層何度も何度も、この弓を正確に押し引っ張る練習をさせられた。

 いい加減、矢を持つ手にマメも出来、矢を引っ張る手が弦で切れて、何度も痛い思いをした。それでも矢を射させられて、いい加減ふて腐れながらミトに聞いた時、言われた言葉を思い出す。


『気の遠くなるほどの反復練習で掴んだ体の感覚だけが、実戦で一番信用出来る自分の感覚だ』


 それが今、よく分かり、そして一番信用出来た。


 空中をゆっくりと舞う中、目一杯に構えた弓の感触。

 それは間違えようもなく、今まで練習してきた感覚そのものだった。


 ――この感覚はいつもの感覚。これならいける!


 矢を番え引き絞ったまま、エルファスは海面から浮き出ているクラーケンの大きな目、その右側目掛けて矢を向ける。


 ――シュッ――


 何度も何度も練習し、体に手に残っている感触。

 その時の中でも威力が高い時によく感じた、軽く抵抗のない音と感触が体を撫でる。


 ――最高の感触だ。


 そうエルファスが感じた時、エルファスの弓から放たれた矢は見事にクラーケンの右目に突き刺さった。


「キガガガガガシャアアアアアアアアアアァァァァァァァ――――――――ッ!」


 形容しがたい叫びが洞窟内に響き渡り、今まで以上にクラーケンが身悶え始める。


「やった……の?」


 自分の放った矢を受け、激しく体をくねらすクラーケンを見てエルファスがぼう然気味に呟く。


 ふぅっと止めていた息を吐き出すと、それまで緩やかに感じていた自身の体内時間が、一気に加速したように動き始める。


 暴れるクラーケンの足に見事着地したエルファスの耳にミトの声が響く。


「エルファスっ! ――ッ!」


 少し、いや相当有頂天になっていたのだろう、ミトの言葉の意味が最後まで理解出来なかった。

 てっきり、ミトが褒めてくれているんだと思ってしまっていた。

 だから最高の照れ笑いを向けた、声を掛けてきたミトに向かって。



           ※※※※※※※※



 ――おかしい……。


 ジンタは、順調にクラーケンの足を切り取っていっている順調そうな今の状況で、そう思った。


 何がおかしいのか分からない。しかし、何かがおかしいと自身の中で警鐘が鳴っていた。


 右腕と脇の下でガッチリとクラーケンの足をホールドし引っ張る。自分の前後には自分と同じようにクラーケンの足を引っ張ってくれているこの集落の半魚人達がいた。

 全員、パワーのダブル強化を受け、濃い赤に輝いている。


 そして海からは、ジンタ達が引っ張るクラーケンの足の一箇所へ向け、華麗なジャンプと空中でのターン、そして強化魔法のパワーとスピードを受け、淡く黄色に輝いたマーメイド達がその勢いを付けた鋭い尾ひれで、見事にクラーケンの足の切り口を広げていっている。


 もう少しで三本目の足が切り落とせる。


 マーメイド達の切っている箇所を見ながらそう思った時、ジンタはふと違和感に気付いた。


 ――あれ? 今切っているこの足……、これは一体何本目の足なんだ……


 と。


 今自分達が切り掛かっているのが、三本目なのはジンタにも分かっていた。


 しかし、だ。


 この戦闘で今、ジンタ達がやっているようにクラーケンのうねうねした足を切っているのは、もう一グループ存在しているはずなのだ。


 そして、そっちで切り裂いているのは、圧倒的力と鋭い切れ味の爪を持つリカなのだ。


 あの人が、俺達より切り取るのが遅いとは到底思えない……。


 今までのリカの勇姿を思い出し、ジンタは考える必要もなく即座にそう確信出来た。


 ――それならば、今クラーケンから切り落とされそうな足は、一体何本目なんだ?


 そこに思い至った時、ジンタは足を引っ張りつつ、後ろを振り返り叫んだ。


「ロンシャンッ! これは何本目の足だ?」


 それだけでよかった。


 全体を見渡せる最後方の位置にいるロンシャンは、一瞬ハッとなり、そしてすぐに全体を見渡すように顔を左右に動かした。


 そして驚愕した顔をジンタに向けた。

 その表情だけで、ジンタにも分かった。


 先程、死に掛けたせいもあるのだろう。

 そして、長老に助けられ、今集落のみんなが手伝ってくれていることに喜びと感謝の気持ちで一杯なのもあったのだろう。

 ジンタは、忘れてしまっていたのだ。


 クラーケンの足がその見た目通り、イカと一緒で十一本だと思い込んでいた。

 過信、それは作戦を立てる中で一番やってはいけないミス。


 そして、以降の自分の立てた作戦。

 初陣であり、重要な役目を負っているマスターがいることを……。


 ぞわりと、背中に悪寒が駆けずり回る。

 即座に、目を合わせていたロンシャン共々、待機しているはずのエルファスの場所へと目を向ける。


 そこにはもう、エルファスの姿がなかった。


 ――どこだ!


 ジンタは、視線をエルファスが作戦を実行する為、通るであろう道筋に沿って動かしていく。


 心臓が高鳴っていく。

 どうか気付いていてくれ。

 そう願う。


 ジンタの追う視線が岩場の端へと着いた時、クラーケンが奇声を発し、今まで以上に激しく暴れた。


 右腕の脇に抱える、もう切れかかりかけていたクラーケンの足がブツリと切れ、ジンタは半魚人達と一緒に尻餅をついた。


 ちょうど、そのタイミングだった。

 ジンタの耳にミトの叫びが届いた。



「エルファスっ! 躱せッ!」



 ドキッと心臓が跳ねた。

 心臓が口から飛び出そうな感覚を味わいながら、ジンタの視界は一気に動きそれを捉えた。


 大きく振られたクラーケンの何本目か分からない足が、小柄な少女を吹き飛ばした瞬間を。


 その光景、以降の光景が、ジンタの中でゆっくりと流れる。仰向けに寝るように吹き飛ばされる少女の手から、合成弓コンポジットボウが離れる。


 気を失っているのか、まるで眠るように目を閉じたまま、緩やかな弧を描いて少女が海の中に落ちていくのを、ジンタはただただ目だけで追い掛けた。


 パシャと少女が小さな音を響かせ海の中に消えた瞬間、時が正常に戻った。



「エルファ――――――スッ!」



 悲痛な叫びを響かせ、白い影が落ちた少女を追い掛けるように海に飛び込んだ。


 それがミトなのだというのは、すぐに分かった。分かりはしたが、これからどうしたらいいのかジンタには考える余裕が出来なかった。



           ※※※※※※※※



 親友であるエルファスが、クラーケンに一矢を与え、そして強烈な一撃で吹き飛ばされるのをミリアは呆けたように口を開けて見ていた。


 頭が真っ白になり、自分が今何をしているのか理解出来なくなっていた。


 エルファスが落ちた水面を見つめたまま、一体何分? 何時間? ぼう然としていたのか自分でも分からなかった。それほど長くも短くも感じた。


 そんな、自我を呆けさせていたミリアは自分の腕が激しく揺すられているに気付いた。ロンシャンだった。


「――――ミリアちゃんッ!」


 きっと何度もミリアの腕を揺すって、それ以上に何度も叫んでいたのだろう。

 ロンシャンの声は幾分枯れ気味だった。


「…………ロンシャンくん?」


 まだハッキリとしない頭を、やや傾げてミリアがロンシャンの名を呼んだ。


「しっかりして、エルちゃんは大丈夫! ミトが追い掛けているから! それよりミリアちゃん強化魔法が切れてる! 早くかけ直して!」


 早口に捲し立てられるロンシャンの言葉を、数秒遅れて理解したミリアはハッとなり、いつものように、範囲強化魔法を使った。


「ミリアちゃん、早く!」


 急かすようにもう一度言ったロンシャンに応えるように、ミリアはもう一度、いつものように強化魔法を使う。


 しかし……。


「……ミ、ミリアちゃん……?」


 ミリアの異変に気付いたのか、ロンシャンが声を掠れさせてミリアを見た。


「…………なんか、魔法が使えない…………」


 ミリアは、今にも泣きそうな顔でロンシャンに答えた。



           ※※※※※※※※



「ジンタさん、しっかりして下さい」


 パシッと、やや強めに頬を叩かれ、ジンタの頭は再度動き出した。


「イ、イヨリ……?」

「しっかりして下さいジンタさん!」


 ジンタの両肩を掴み、ガクガクと揺すりながら、イヨリは続ける。


「エルファスさんは、大丈夫です! ミトさんが助け出し、今ロンシャン君が治療しています!」


 激しく揺すっていたジンタの肩から手を放し、イヨリが指差す。

 目を向ければ、ロンシャンが砂浜で横たわるエルファスにヒールを掛けていた。その隣では、ミトがエルファスの手を握りエルファスの名を呼んでいた。


 ジンタは視線をすぐにイヨリに戻し、さっきのお返しとばかりに、イヨリの両肩を掴んだ、


「エルファスは……、エルファスは助かるのか?」


 乾ききった喉から声を絞り出すようにジンタが尋ねると、イヨリは一瞬眉根を寄せ視線を外した。

 それからすぐにジンタを見て、


「正直まだ分かりません。ですが、ロンシャン君が今一生懸命ヒールを掛けているということは、きっと助かります」


 イヨリの言葉を聞き、もう一度エルファスとロンシャンを見てジンタは呟く。


「ほ、本当か……?」

「私はそう信じています!」


 頼りなく消え入りそうなジンタの問いを、イヨリは吹き飛ばすように力強く答えた。


「そうか……」


 人に助かると言ってもらえたこと、それが愛する人からの言葉のせいだろうか、ジンタの中にわだかまっていたモヤモヤとしたモノが、いくらか体の外へと出て行った感じがした。


 少し、本当に少しだけ心の中に冷静さを取り戻したジンタは、その部分を広げようと軽く目を閉じ、二度ゆっくりと深呼吸をした。


 目を開けると、深呼吸を終えるまで待っていたイヨリと目が合った。

 大丈夫と言うように軽く頷くと、イヨリも大きく息を吐いた。


 それから、イヨリは口を開いた。


「ジンタさん。落ち着いて聞いて下さい」


 え? と言い掛けたジンタより早く、イヨリは続けた。


「ミリアの範囲強化魔法が使えなくなりました。そして現状クラーケンの足の数が何本なのか、いや何十本なのかも、分からない状況です」


 そこまで言われて、やっとジンタは周りへと視線を向けた。


 ジンタが自己の殻に閉じこもり半ば呆けていた間に、状況はかなり変わっていた。悪い方へと。


 クラーケンを海に逃がすまいとして行っていた足の引っ張りは、海中からわらわらと現れたクラーケンの無数の足により、破綻していた。


 手伝ってくれていたマーメイドと半魚人も危険と判断され、浜辺から待避させられ、今は、松とリカが牽制程度に攻撃をくり返している状況だった。

 あーちゃんと竹と梅は、クラーケンの足の届くだろうギリギリのラインで待機している。


 そして、ジンタが一番驚いたのは……。


 白いイカだったはずのクラーケンが、今では真っ赤なタコへと変わっていることだった。


「イ、イヨリ……、クラーケンのこれは……一体……」


 あまりの変わりように、どう解釈していいのか分からず数度口をパクパクさせた後、ジンタがイヨリに尋ねた。


「エルファスさんが目を攻撃した後、荒れ狂っていたクラーケンの体が、まるで激昂しているように徐々に赤くなっていって、真っ赤に染まった後、膨張してこの姿に……」


 イヨリの説明を聞いて、ジンタの頭の中はフル回転で色々なことを考え出した。


 これは変化ということなのだろうか、それとも獣人化のような、どちらにでも成れると言うことだろうか? そもそも一個体の中に、イカとタコの二つの体があるのだろうか? そうなると意思も二つあるのか? 


 ジンタはフル回転で混乱し始めた頭を、強く目を瞑り激しく振って振り払い止めた。


 ――今は、あいつの生態を考え照る場合じゃない。あいつをどうするかを考えないと……


 ジンタは頭を空っぽさせ目を細め、まずは海中から姿を現した足の数を数えようとしたが、すぐに諦めた。


 ――あかんなこれは、多すぎる……


 ざっと見てゆうに二十本はあったのだ。


 イカとタコの総数の足より多い……。

 それに今も浜辺に目を向ければ切り落とした足が三本転がっていて、それなのだ。


 さっきまでみたいに、悠長に足を切りながら引っ張るというのは無理そうだった。そもそもミリアの強化魔法がない状況。大雑把に見てもさっきまでの半分の戦力になったと言っていい状況でそれは有効ではない。


 ではどうする……。どうすればいい……。


 数秒の沈黙をした後、ジンタはチラリとイヨリを見た。


 ジンタが何か言うこと待っている、期待している目だ。


 そう思うと、つい目を逸らしたくなる。と言うより逸らした。


 ッガン!


 直後、かなり大きめの石がジンタの頭に直撃した。


「な、なにっ⁉」


 よたつきながらジンタが石を投げてきた方向を見れば、頬を引き攣らせ汗だくになったリカが睨んでいた。


「早くこれをどうするのか指示を出しなさいな‼」


 荒い息継ぎと鬼の形相でそう言われ、ジンタはごくりとツバを呑んでから、


「……えっと、とりあえず全員撤退で……」


 完全に負けを認めて、そう指示を出した。

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