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挑まれた戦い

長い間お待たせしてすいませんでした。

また、まったりと再開していきます。

どうかよろしくお願いします。

 夏本番前、ミリア達が通う中学校。

 今は、その学校の中で一番騒がしい時間帯。

 昼食の時間。


 ジンタ達家族、それに一緒に住むエルファスやロンシャンとその家族達全員も食堂に来ていた。


 そこには当然のようにベンジャミン達もいて、それこそ至る所で騒がしい食堂の中、一番騒がしいテーブルになっていた。


「何でベンジャミンが隣に座るんだよ!」

「べ、別にいいじゃないですかですわ」

「あーちゃんいっぱい食べるお~~」

「うん、リゼットもいっぱい食べるよ!」

「ねえねえロンシャンくん、後で宿題写させてね」

「エルちゃん、宿題は自分でやらないと……」

「ジンタ殿、これを食べた後少し自分を踏んでくれぬか?」

「いや、そんな普段から踏まれてるようないい方しないで下さい……、イヨリ、俺ラーナさん踏んでないからね」

「へぇ~~……」

「雪目さん、どうしたんです? そんな羨ましそうにジンタさんを見て?」

「いえ水音さん、私も頼めばジンタさんに色々、それはもう色々としてもらえるのかなあと思いまして……」

「うおおおぉぉぉぉ、松には負けねえ!」

「ならおれっちはミトには負けねえ!」

「ま、松さんにミトさん、そんな噛まずに食べるのは……」

「わ、わっちも竹さんの言う通りだと思うだ、ご飯は良く噛むべきだす」


 大きなテーブルを全員で囲み、制御不能な勢いで進んで行く食事と会話群。



 まだまだ続きそうな食欲と話題の権化と化したテーブルで、ジンタはふと気付いた。


「あれれ? そう言えばリカさんは?」


 つい三日ほど前、やっと完全復帰したリカの姿がない。


「リカでしたら、保健医の先生の所に行って、まだ戻って来てませんよ」


 リカのマスターであるロンシャンが答えた。


「ふ~~ん、そうか」


「リカ殿のことが気になりますか、ジンタ殿」


 ラーナの問いに、


「そりゃあ一時は死に掛けてたからな、一応完治してるとは言え、やっぱ姿が見えないと心配にはなるさ」


 口に出す言葉を選びつつ答えたつもりだ。


 なにせジンタが「リカさんは?」と問いた時、ほぼ全員がジンタを見た挙げ句、手が止まったからだ。


 今あまり迂闊なことは言わない方がいいと、いくら鈍いジンタでも分かる状況だった。


 特に、口にはしないがイヨリの視線は痛い。

 ここのところ、ちょっとしたことでふて腐れる、そんな仕草が増えてきている。


 少しの間の後、みんなが食事を再開し、ふぅっと内心で安堵したジンタが、皿の料理に手を伸ばしかけた時、横に人が立つ気配がした。


 誰だろうと向いた瞬間、


 パシッ


 ジンタの顔に、白い手袋が投げつけられた。


 再度、テーブルに静寂が訪れる。


「……お前に決闘を申し込む」


 低く怒りを抑えるような男の声が聞こえた。


「はい?」


 意味がまったく分からず、そう言葉を発したジンタの顔から手袋が落ちた。

 訳の分からないジンタは、手袋を投げつけた男を見上げた。


 男と目が合う。


 優男と言うべきか、普通に格好いい部類に入る金髪ロン毛、如何にもモテそうな感じの男だ。


 そして、その男を見たジンタは、まったく見覚えのない男だ、とも思った。

 しかし、その男の瞳は確かにジンタへと向け、激しい闘志をぶつけていた。


 ――はて? 俺は何か、この格好良さげな男に恨まれることをしたのだろうか?


 もう一度会った事ないよなと記憶をほじくり返し、それからどうしていいのか分からず小心者のジンタはその場で何度も記憶を思い返しながら固まっていた。


 数秒、周囲のざわめきと無縁になったテーブル上。その無言で見つめてくる家族や友達の好奇の視線と、目の前の男の痛い視線に体のあちこちを突き刺さされ、それでもジンタには、どう考えてもこの男に恨まれるような記憶がまったく思い出せないでいた。


 とりあえず「一体どうして自分が決闘を申し込まれたんでしょうか?」と本気で尋ね返そうとして口を動かし掛けた時、


「僕とあなた、二人にとって大事な人を掛けて勝負しろ!」


 男が再度口を開いた。


「え…………?」


 ジンタの開きかけた口から声が出た。


 ――今こいつなんて言った? 俺の一番大事な人を掛けて勝負だって? それって……。


 二度ほど、口をぱくぱくと動かすが声が出てこない、いやどう出していいのか分からない。しかし頭の中はそんな口とは裏腹に高速回転で思考が駆け巡った。


 大事な人って、イヨリの事か? それとも『召喚されし者』として大事なマスターであるミリアのことか?? それとも家族として大事なあーちゃんの事なのか???


 色々疑問が駆け巡るが、どれにしてもジンタには断ることが出来ない、断れない申し出だった。


 だからジンタはゆっくりと一呼吸し、同じテーブルに座るイヨリとミリアとあーちゃんを順に見てから立ち上がった。


 そして、


「分かった、あんたの申し出を受けてやる」


 男を睨み返し、そう返事をした。


 この決闘のことは、瞬く間に食堂中へ広まった。




 男は、名をブラン。


 ブランは、早急の決闘を所望してきた。

 ジンタは、分かったとそれも受託し、ブランについて行く。


 場所は、学校内の闘技場。


 ここは、エルフであるマスターが使うための場所ではなく、主に『召喚されし者』達が各自での自主練に使う場所。

 砦にもあった闘技場と作りはほぼ一緒で、少し深めの砂場を二メートルほどの高さの壁を円の形で囲い、その外側から中の砂場を見下ろしながら見れる形にしたモノだ。


 闘技場内は広さは約三十メートル程の円。

 まあ野球の内野スペースと同じぐらいの広さだ。


 かなり広く感じるが、それは普通の人同士が戦う場合、ミトなどのスピード型の獣人と戦う場合はこれでも狭すぎると感じる。


 ジンタは、いつも身に付けている剣と盾を確認し、同じくいつも持ち歩いている右腰のボストンバッグの留め金を外し、闘技場の外、客席で見守っているイヨリにバッグを手渡す。


「あのジンタさん、本当に大丈夫ですか?」


 闘技場の観客席から、ジンタのバッグを受け取りつつ、心配そうな顔でイヨリが尋ねてくる。


「どうだろ? 相手は普通に考えても獣人化出来るし、もしかしたら第二段階や進化だって出来るかも知れないからな」


「そ、それじゃあ――」


「でも、止められないさ。なんせ相手は俺の一番大事な人を掛けて勝負しろって言ってきたんだ。止められるわけないさ」


 ジンタはくるりとイヨリに背を向け、闘技場の中心で待つブランの元へと歩き出した。「気を付けて下さい」と心配げなイヨリの言葉と、やたら興奮したみんなの声援が背中から聞こえた。


 ブランから五歩ほどの位置で止まったジンタは、腰の剣を抜き、盾を構える。


「待たせたな」


「いや、こちらこそこんな無茶なことに付き合ってくれて申し訳ない」


 ブランが、すこぶる丁寧にお辞儀する。

 そして数秒後、下げていた頭を戻そうとしている最中、獣人石が輝き出す。


「しかし、これは互いに大事な人を掛けての決闘だ。手加減はしない!」


 直立姿勢に戻りジンタと目を合わせた時、ブランの両腕は太くそして地面に届きそうなほど長い真っ黒な毛で覆われたモノになっていた。


「それは……まさか、リカさんと同じ……?」


「ああそうだ、僕はリカ嬢と同じ種族大熊だ」


 ブランの回答に、ごくりとジンタはツバを飲む。

 今まで、幾度となく共に戦ってきたから分かる。リカの種族大熊のパワーとその爪の鋭さ。しかも、ブランのその大熊の腕は、ジンタの知るリカのそれよりも数段太い。まるで種族ゴーレムであるイヨリの腕のように。


 まともに一撃もらえば、自分では耐えきれないと一瞬で理解出来た。


 ――これは、一瞬たりとも気が抜けないな。


 ジンタは剣と盾の握り具合をもう一度確かめ、構える。


「君は獣人化をしないのか?」


 怪訝そうにブランが言ってくる。


「気にしないでくれ。俺は獣人化出来ない『召喚されし者』なんだ」


 ジンタの回答に、面を喰らったような顔をするブラン。


「まさか、そんな事が……?」


 素直に驚いているブランを、今度はジンタが怪訝そうに見て、


「おいおい、俺に決闘を申し込んでおいて、そんな事も知らなかったのか?」


「す、済まない……。しかし、獣人化出来ないのでは、それでは……」


 素直と言えばよいのか、礼儀正しく頭下げ困惑するブランに、ジンタの方も面を喰らい一度構えを解いた。


「はぁ~、本当は少し意表を突こうとしてたんだけどな。あんたのバカ素直すぎる態度を見てたら、バカバカしくてこっちも隠すのは止めたよ」


 ジンタは剣を持つ右手を胸前に持って行き、唱える。


「対象は俺、効果は十分、魔法はスピード」


 ジンタの体を、薄い緑色が包む。


「それは……強化魔法……」


 再度、驚きに目を見開くブラン。


「ああ、俺は獣人化出来ない代わりに、いくらかの魔法が使える」


 ジンタはブンッと一度直剣を振るい、構える。


「さあ、これで分かったろ? 俺も一応ちゃんと戦えるんだって」


「なるほど、それではこちらも遠慮なく行かせてもらう」


 ブランは腰を落とし、まるでレスリングのような構えでジンタに向き合う。


 ――リカさんとは、構えがまったく違うんだな……。


 ちょっと意表を突かれた感じで、ジンタが苦笑する。


「では、行きます!」


 気迫の篭もった低い声でブランが言い、その言葉通りにジンタへ向け突進して来た。



        ※※※※※※※※



「おいおいイヨリさん、ジンタの奴マジで始めちゃったけど大丈夫なのか?」


 視線を闘技場に向けたまま、ミトが心配げに聞いてくる。


「大丈夫、と言いたいですが……」


 聞かれたイヨリ自体、ジンタの事が心配で胸の前で組んだ両手にチカラが入っている。


「見ている限りでは、ジンタさんは躱すことに集中していますし、リカと同じ種族大熊のパワー型なら、スピードの強化魔法を掛けていれば、そうそう捕まらないと思いますが……」


 そう信じるようにロンシャンが答える。


「うぅ……、でもなんでジンさんがいきなり決闘なんて申し込まれたんだろう?」


 さすがに心配なのか、チカラが入っているように眉根を寄せて戦うジンタを見ているミリアが別の疑問を口にする。


「それは私も思っておりました」


「確か、あの男の人は「大切な人を掛けて」とか言ってましたよね?」


 ラーナが頷き、水音が小首を傾げ思い出すように言うと、


「んだ、わっちもそう聞いただ」


 梅もこくりと頷いた。


「つまりあれだな、あいつはジンタのことが欲しくて、決闘を申し込んだんだな」


「おぉ~、あ―ちゃんもジンさ欲しい」


「あーちゃんに悪影響が出るから、松さんはちょっと黙ってて下さい」


 松のボケにあ―ちゃんが乗っかり、エルファスが疲れたように眉間を揉む。


「リゼットもジンタ欲しいぞ?」


「ええ、ええ、分かりますよリゼットさん、私もジンタさんのことがずっと欲しいと思ってましたから……」


 数秒遅れてリゼットが言えば、雪目が懇願するように答える。


「とりあえずですわ、ジンタさんに申し込んだと言うことは、その家族の方々に起因しているのではないですか? ですわ」


 最後にベンジャミンがイヨリとミリアとあ―ちゃんに尋ねるが、三人はジンタと戦う男性、ブランを「見た事ない」と言い切った。


 そうなると、


 一体ジンタはなぜ決闘を申し込まれ、なぜ今戦っているのだろう? と全員が頭の上に「?」を浮かばせた。



        ※※※※※※※※



 ジンタがブランと『大事な人を掛けて』戦っている最中、完全に回復したが一応最後にもう一度保健医に状態を見てもらうようロンシャンに言われ、嫌々ながらも保健医の元を訪れていたリカは、ロンシャンとの合流場所である食堂に来ていた。


「これは一体どういうことですの?」


 閑古鳥が鳴くほどがらんとした食堂を見渡し、リカは食堂の時計を見つめた。


「まだお昼休みの時間ですわよね?」


 呟き、もう一度食堂を見渡してから、


「困りましたわ、ロンシャン様と皆様はどちらに行かれたのでしょう?」


 どうしようかとふうっと溜息を吐き、腕を組む。

 そんなリカの耳に、今食堂に入ってきた者達の声が届く。


「なんか、闘技場で決闘してるみたいなんだって」

「私もそれ聞いたけど、種族大熊の男の人と獣人化出来ない男の人の戦いって言ってたけど、そんなの勝負になるの?」

「さあ? もしホントならもう終わってるんじゃない?」


 種族大熊と言えば同族、そして獣人化出来ない男とは一応一緒の家に住む者であるジンタの顔を思い浮かべ、今度はより深く息を吐く。


「またあの方達が原因ですの……、ロンシャン様はまた巻き込まれてるんですのね」


 リカは、くるりと食堂に背を向け、廊下を歩き出す。


「皆さんも一緒ですわね、きっと」



        ※※※※※※※※



 何度も襲い来る一撃必殺の攻撃を躱し、ジンタは細く長く息を吐き出す。


 ――参ったな、攻撃に回る隙がほとんどない……。


 純粋なパワー型相手に、スピードの強化魔法で対抗しているが、それでも攻撃の隙を縫って安全圏に近い場所まで移動し、そして再度躱すのがやっとだった。


 ――やっぱ、第二段階の相手、まともにやり合えるわけないか……。


 相手が一呼吸入れる間に、完全な安全圏まで下がりジンタは汗を拭う。


「どうしました、そんな逃げているだけじゃあ私は倒せませんよ」


 構えながらブランが言う。


「まあ、確かにそうだよなあ」


 ジンタも構え直しながら答える。


 互いに睨み合う中、やはり最初に動くのはブランだった。


 レスリングのタックルのように低い体勢でジンタに向かい襲いかかる。

 しかし、その掴み倒すような突っ込み方に反し、ブランは左右に広げた大熊の長い腕の射程に入ると同時に、その爪を伸ばし振り回してくる。


 その攻撃は、ジンタからすれば全くの射程外、右手に持つ直剣を目一杯に伸ばし振っても届くかどうかだ。もっとも、そんなただ伸ばしただけの攻撃では相手に傷を負わせる事は出来ない上、最悪それを待たれ、返す攻撃でやられるリスクが高すぎる。


 それでも、ブランの攻撃に対し、ジンタは今回躱さずにその場で構えていた。


 力強さとスピードを表すように、ブウンッと風を纏い振られるブランの右腕の攻撃を、ジンタはギリギリのタイミングで右後ろに飛び躱し、次に振られてくる左腕の攻撃に対して、今度は左に飛び躱す。

 ジンタの革鎧、その右側面をブランの左腕の爪が擦り削り取る。それほどギリギリで躱し、ジンタは腕をクロスさせたブランの右側に向け突っ込む。


 自分の射程内に入ったジンタは一気に自身の最大の武器である直剣を振り上げ、そして振り下ろす。


 同時に、


「対象は俺、魔法はアタック」


 と唱える。


 強化魔法スピードで加速していた体が一気にズシッと重くなる。


 しかし振り始めていた右手の勢いは落ちる事なく、そのままの勢いで振られていく。そこに一瞬、本当に一瞬だけブランの体に直剣が当たる瞬間、強化魔法パワーの効果が重なる。


 ザシュッ


 ジンタの振り下ろした直剣が、低く突っ込んで来たブランの右わき腹を数センチ切り裂く。


 ――くっ、ブランの爪が鎧を引っ掻いた分、体が押されて離れたか。


 地面の上を両足の裏で滑らせ、ジンタは体の向きをブランへと向ける。


「くっ……」


 ブランの顔が痛みに少し歪む。

 しかし、それで怯む事なくブランは再度構えを取りジンタに向かって来た。


「対象は俺、効果は五分、魔法はスピード」


 ジンタは即座に強化魔法を唱える。

 体が薄い緑色に輝き、ジンタは距離を取るために飛び退く。


 こうしてまた、一方的とも言える攻防が続いていく。



        ※※※※※※※※



「今のジンタさんの攻撃は……」


 心配ながらも、戦いに目を逸らす事なく見ていたイヨリが呟く。


「スピードで剣を振り、インパクトでパワーを乗せる、といったところですか? ですわ」


「強化魔法の重ね掛けとは違うけど、限定的な状況と条件、一瞬だけのダブル強化魔法だね」


「ああ、そうだろうな、自分自身で強化魔法を扱える、あいつならではの使い方だな」


「強化魔法にあんな使い方があったんだ……」


 ベンジャミン、ロンシャン、ミト、エルファスとそれぞれ口にする。


「ジンさんさすがだよ!」


「ジンさ、さすが!」


 興奮して来たのか、立ち上がってミリアとあーちゃんが腕を振り上げる。


「で、でも、今のはそう何度も扱えるモノでは……」


「んだ、竹さんの言う通りだす。あれは使うと強化魔法が消えるだすから……」


「だな、おれっちなら使った直後を狙う」


 竹梅松と弱点を告げれば、


「そうですね、それでもジンタさんは、妻である私のためにきっと勝ってここに返ってくるわ!」


「雪目殿、落ち着いて下さい。まずは勝ってこのラーナを踏みに帰ってくるのが先なのですから」


「ジンタ、雪目の所行くのか? ジンタ、ラーナ踏むのか?」


「い、いえ、多分ジンタさんはどっちもやらないと思いますが……」


 雪目、ラーナが言いたい放題しゃべり、リゼットの疑問に水音が困った顔をする。


 全員が見つめる先では、いまだジンタはブランの攻撃を必死に躱している。

 時々訪れる危ないシーンに、全員が息を詰めるも、戦いは続いていた。




「あら、皆さんやっぱりここに居ましたんですの?」


 全員がジンタの試合に見入っている最中、後ろからの声。


「リカ!」


「はぁ~、心配しましたわロンシャン様、待ち合わせの場所にいないのですから……」


「ごめんリカ、実はジンタさんが決闘を申し込まれた後、すぐに決闘を行う事になってしまって……」


「なるほど……。それにしても、すぐに始まった割に良くこれだけの観客が集まりましたわね」


「まあおれ達はともかく、その時食堂に居たヤツ等もほぼ全員来てるだろうからな。昼飯の時間を考えれば、今この学校にいる奴のほとんどがここにいるんじゃねえか?」


「皆さん、本当にお暇なんですのね」


 やれやれと首を振るリカ。


 そこで「あっ」と、何かを思い出したようにイヨリがリカに振り返った。


「リカさん、今ジンタさんと戦っている方は、リカさんと同じ第二段階のパワー型ですよね?」


「ええ、そのように見えますが、それが?」


「なぜ同じ種族で同じダブルパワー型なのに、獣人化した際の腕がリカさんのとあんなに違うんです?」


 言い終え、やはり心配なのかチラリとイヨリはジンタに視線を向ける。

 リカは試合をしている種族大熊の男を見ながらふんっと鼻で笑い、


「そんなのは決まっていますわ。私は確かに力が欲しいと願いましたわ。ですが、私は常にどんな時でも、欲するモノの上に『美しく』が付きましてよ」


「は?」


「つまり、あんなただ太くて長いだけの腕は美しくありませんわ。やはり私には、スラッと細く優雅に見える腕でなくては似合いませんわ」


「え? …………ああ、そう、なんですか……、美しく、ですか……、ああ、なるほど。よく、分かりました……」


 おーほっほっほっと高笑いを上げるリカにイヨリは絶句しかけ、それでも一応お礼を述べ試合中のジンタに目を戻した。


「ですが、ジンタさんはなぜ彼に決闘などを申し込まれたんですの?」


 高笑いを止めたリカが、そこでやっと思い当たったように尋ねた。


「いきなり手袋を投げつけられて「僕と君にとって一番大事な人を掛けて勝負しろ」って、ジンタさんは言われたんですよ」


「まあ、一番大事な人ですか?」


「ええ、でも、私もミリアもあーちゃんもあの男性の方にまったく思い当たる節がなくって……」


「まあ、そうなんですの? あの方は私がまだ集落に居た時から、本当にしつこいほど私に声を掛けて来ていたんですが、結局は誰でも良かったんですのね」


「これだから男の方は……」とリカが心底呆れたように首を振る。



「「「「……………………え?」」」」



 かなりの間をあけて、全員が一斉にリカに振り返った。


「ちょ、ちょっとリカそれって一体?」

「り、りりり、リカさん、あの方を知ってるんですか?」

「あの人に告白された事あるんですか! リカさん?」


 ロンシャンがリカの赤いドレスのような服を掴み、イヨリが振り向き立ち上がり、エルファスがミトの顔を押し退け、リカに顔を近づける。


「な、なんですの一体、確かに彼には私がまだロンシャン様に喚ばれる数年前から、集落で何度もお誘いを受けましたが、私は全部お断りましたわ。いい加減うんざりしていた時に彼が召喚されて、私はほっとしましたが……」


「えっと、それってつまりは何だ?」


「つ、つまり、あ、あの人が言っていた「大事な人」って――」


「んだ、竹さんの思っている通りだと思うだ、わっちもリカさんの事だと思うだ」


 松と竹と梅が口にする。


「じゃあ、ジンさんはどうして戦ってるの?」


 ミリアの疑問に、


「それはあれですね。きっとジンタ殿はご自分のご家族、つまりミリア殿とイヨリ殿とあ―ちゃん殿の三人のうちのどなたかと思い――」


「ええ、きっとジンタさんは私と他の家族達のことだと思って戦っているんですね」


「今の雪目さんの話の中で、雪目さんご自分のお名前を入れてましたが、きっと実際には入っていませんよ?」


 ラーナと雪目、そして水音が答える。


「リゼットも入ってないのか?」


「あーちゃんは?」


 話が良く分かっていないリゼットとあーちゃんが首を傾げ、


「つまりあれですわね」


「結局、ジンタが必死に戦ってる意味がないってことか?」


 ベンジャミンが溜息をし、ミトがエルファスを押し返して結論を言う。



        ※※※※※※※※



 何度となく躱した大熊の腕、慣れるというには余りにも凶悪的なパワーの前に、ジンタの疲労は極限まで溜まっていた。

 ちょっとでも気を抜けば、すぐに意識が遠のいて行きそうなほど、追い詰められていた。


 それでもジンタが地に足を張り付け、一撃必殺の攻撃を躱し、自分の生命の境界ギリギリで相手に攻撃を仕掛けているのは、自分にとって大事な家族、ミリアとあーちゃん、そして最愛であるイヨリ、そのどれかを掛けた戦いだからだ。


 それは、誰にも汚されたくない、裂かれたくない、ジンタにとって一番大事な部分。

 だから、例え己が命をすり減らし寿命を縮めて(不老であるが)も、圧倒的不利な命のやり取りの狭間でありながらも、攻撃をしていけるのだった。


 何度目か、もう覚えてない中、ジンタは強化魔法スピードから一瞬だけ強化魔法パワーも乗せた、一人瞬間ダブル強化魔法でブランに攻撃を仕掛ける。


 相手のほとんど通常攻撃に近い圧倒的不利な中の攻撃は、必死に攻撃を繰り出すジンタより受けるブランの方が防ぎやすく躱しやすい。

 が、全体的にパワー強化であるブランでは、スピード強化を扱うジンタの必死の攻撃を躱しきるの難しいようで、分かっていてもジンタの剣はブランの体を擦っていく。


 もっとも、その攻撃の後の反撃をブランはキッチリとしてくるため、ジンタも攻撃だけに集中出来ないでいたが。


 今の戦いを例えるならば、闘牛士と闘牛の戦いだろうか。


 ほぼ無傷のジンタに対し、体中にかすり傷を負うブラン。

 だが、戦いはどう見ても傷ついたブランに分があるのは明白。


 ジンタは、扱う魔法を強化魔法と瞬間強化魔法(別名失敗魔法)だけに絞っているとはいえ、相手の攻撃を躱すためと、一発で沈む恐怖に向かって行くための精神力をすり減らしている。

 結果、無傷ながらも体中は水を被ったように汗をかいていた。


 ――限界が近いな。これ以上長引かせるともう後がない……。


 少しの膠着の中、相手を睨めつけジンタは思う。


 相手の挙動を見逃すまいと見つめているが、その視界がブレて霞む。


 ポタポタと、おでこに張り付いた前髪から流れ落ちる汗を拭き取る余裕もなく、ジンタ息だけを整える。


 攻撃直後には、強化魔法の効果が消えている。

 失敗魔法は一瞬の魔法。

 その後は強化魔法の効果が消えるからだ。


 再度唱え発動させるのだが、それが戦いの再開の引き金となる。


 気を抜くわけではないが、膠着は精神をすり減らすも体を休ませる間を作れるのだ。

 だから、戦いが長引くにつれ、強化をすぐに行わず、一度動きを止める。


 射程距離にして数歩の距離にいるブランもまた疲れが溜まっているのだろう。

 攻撃というのものは当たった時よりも、躱された時の方が消耗が激しい。

 一撃で勝てるとはいえ、ここまですべての攻撃をジンタは躱している。

 きっとブランの肉体的消耗はジンタ以上だろう。


 腕が鉛のように重いのか、息を整えているブランの腕が幾分最初よりも下がっている。


 戦いを申し込まれ、言葉を数度交わし、こうして面と向かって戦ってるから分かる。

 この人は真面目で真っ直ぐな人だ、と。

 きっととんな時でも、油断しないでいるのだろうと。


 しかし、それでも相手が獣人化も出来ない者ならば、無意識に近いレベルですぐに決着が付く、すぐ倒せると思ってしまっていたのだろう。

 ジンタが見つめる先で、荒く息を継ぎをし動揺を露わにしているブランの顔を見て、それが分かる。




 二人の戦い動いている時間より、膠着し睨み合う時間の方が長くなる。

 戦いの終盤というのもは、大概こういう時なのだろう。


 射程距離まで数歩の距離にいる相手の荒い息遣いが、同時に鎮まる。


 闘技場内の雰囲気が、何十度目かのピーンと張った緊張感を醸し出す。


 ジンタの見つめる先のブランが息を吸い込むを見つつ、ジンタも同じタイミングで息を吸い込む。


 最初に動いたのはジンタ。

 吸い込んだ息を止め、五角形の小さい盾を構え最初の一歩をブランに向け踏み出す。


 それから口を動かす。


「対象は俺、効果は三分、魔法はスピード」


 二歩目を踏み出す時、ジンタの体は薄い緑色に輝いていた。

 初動の一歩より速い動きで二歩目がグンッと加速する。


 見つめる先のブランは、上体を低く構え両腕を広げ待ち構えている。

 その構えはもう何度も見ている、見慣れている。

 しかし、それは相手も一緒のはず。

 もう何度も、その構えからの攻撃をジンタに躱され反撃されている。


 互いに疲れがピークに近い、――いや少なくともジンタの方は近い。


 あと何度攻撃に回せる余裕があるか、分からない。

 出来るだけ早くの決着を望む。


 数歩の距離を踏み込み、ジンタがブランの射程まであと一歩まで踏み込む。

 同時に、ブランが低い姿勢のまま最後の一歩分を詰め、左腕をジンタに向け振るってくる。


 何度も見てきた攻撃。


 ジンタは冷静に、相手の振るった左腕の動きと射程を見つつ、右腕の動きを見る。


 ――右腕はまだ動いていない。


 確認し、ブランの振り回した左腕を躱すように左前にステップを踏む。


 見慣れた動き、射程を寸分違わず見極め躱す。


 躱しきったと思った右脇腹に鋭い痛みが走る。


「グッ」


 声を漏らし、躱したと思ったブランの左腕を見れば、爪が今まで以上に長く伸びている。その爪先が、ジンタの革鎧を切り裂き脇腹を撫でた証拠のように、赤い液体を張り付かせていた。


 ――まだ伸びたのか、あの爪は!


 痛みを感じながらジンタが舌打ちする。


 ズキッと走る痛みに歯を食い縛るジンタ。しかしその意識とは別に、意識していなかった鋭い痛みを嫌うように体がひねれる。


 そこにブランの右腕が振るわれる。


 踏み込んだ左足で右にステップを踏んで躱そうと試みようにも、体がブランの爪の痛みに対し反応してしまったがため、右側に踏み込む力が追いつかない。


 ――にゃろうッ‼


 ジンタは右に躱すのを諦め痛みに捻れた体のまま、左足になんとか力の入る方向、前に向け踏み込んだ。


 一瞬にして近づく互いの顔。


「なっ!」と驚くブランの声がジンタの耳にも届いた。


 ジンタは、次の一歩である右足を持ち上げる。


 不意の一撃と痛みで無意識に体が反応はしたが、ジンタとて戦闘経験は豊富だ。

 ちゃんと痛みに対し向き合えれば、それを押さえ込み動くほどには覚悟は出来ている。


 何より、この一戦に掛かっているのは大切な家族達。

 動かせないはずはない。


 チラリと右足を置く位置を確認する。

 そこはブランの振り切った左腕。


 持ち上げた右足を、振り切り動きの止まったブランの太い左腕へと置き、階段を上るというよりは、踏み台のように踏み込んで飛び上がる。

 ブシュッと脇腹の傷から血が噴きだすが、唇を噛み堪える。


 宙に飛び上がったジンタの足の下を、ブランの右腕が轟音を響かせ通り過ぎて行く。


 右腕を振り上げようとするも、予想以上に深手なのだろう脇腹が鋭い痛みと共に突っ張った。

 ジンタは剣での攻撃を諦め手放す。

 代わりに左腕を持ち上げる。


 手にある盾を、受けるための平行の構えから垂直に向きを変える。


 見下ろす先には、驚き間抜けに見えるブランの顔がある。

 そこ目掛け盾を振り下ろす、


「喰らえ! シールドスタンッ‼」


 目一杯に振り下ろしつつ、同時に唱える。


 ――対象は俺、魔法はパワー


 振り下ろす腕から風を纏っているような感覚が消え、代わりに漲るような力が溢れる。


 ――当たる。


 確信した。


 瞬間、ブランとジンタの盾の間に茶色に輝く毛に覆われた細い人の腕が伸びて、ジンタの盾を受け止めた。


「なっ!」


 強化魔法スピードの勢いに、強化魔法パワーのインパクトが乗ろうとしていた盾をあっさりと受け止められジンタが絶句する。

 同時に着地に失敗し、そのままひっくり返るジンタ。


「そこまでですわ」


 いてて、と顔を歪め上体を起こしたジンタは、聞き覚えのある声でシールドスタンを受け止めた相手を見上げた。


「リカさん」


 呟いたジンタに、茶色い毛で覆われた細い腕を差し出すリカ。


「ジンタさんの勝ちのようですわね」


「え、そうなのかな?」


「私が止めなければ、あのままこの方の頭を叩いておりましたでしょうから、そうですわ」


「そっかあ、俺……勝てたのか……」


 リカに引っ張り起こされ、勝ちを口ずさむが、どこかまだ実感が追いつかない。


 ボー然と自身の両手を見つめるジンタ。そんなジンタ以上にシールドスタン発動時からボー然と宙を見上げていたブランが我に返る。


「はっ、リ、リカ嬢!」


「お久しぶりですわね、えっと……」


「ブランです。集落に居た時からあなただけを想い、見つめ続けてきた男です」


 まるで自然体のように、スッと片膝を付きリカの手の甲に口づけをするブラン。


「はぁ……、私も何度も言うようで申し訳ありませんが、私は貴方のこと何とも想っていませんわ」


 ジンタから見ても、恐らく心底本心と思える言葉を口にするリカ。


 さすがにそこまでは……、と二人の間に立つ形のジンタがブランに同情を示しかけたが、


「分かっております。しかし僕は諦めません。リカ嬢貴方のことを、僕は喚んでいただいたマスターと同等にお慕い申し上げております」


「そのお心遣い痛み入りますが、私は我が主ロンシャン様のことの方が、貴方のことなんかよりも圧倒的にお慕い申し上げておりますので」


 見事な即答でばっさり切り返すリカ。

 さすがに堪えたのか、ぐっと言葉に詰まったブランだが、スッとジンタを指差し、


「で、では、この殿方のことは……、今ご一緒に生活され、最近よくご一緒に歩いているのを何度もお見かけしておりますが……」


 指を差され、少しうっとするジンタをリカが一瞥し、


「この方は良き友人であり、良き仲間ですわ。今まで共にマスターを守るため戦った、そしてこれからも戦うための」


 サラリとウェーブ掛かった髪を後ろになびかせ、リカは答える。


「では、想い人では――――」

「あり得ませんわ」


 冷静に、鋭く冷たい目でばっさりと言い切る。


 会話がピタリと止まり、試合場に風が吹く。


 押し黙る三人。


 何気に、分かっていた答えとは言え、こうもばっさりと言い切られるとジンタとしても多少のショックを感じてしまう。


 見れば、ブランも色々と葛藤があるのだろう、顔の表情が色々と変化をくり返している。


 リカの方を見れば「もういい加減うんざりですわ」と言わんほど、虚ろなでどうでも良さげな目をブランに向けている。


 場の空気が微妙になり始めた頃、


「ブラ――ン」


 掛け声と共に数人の女性が駆け寄ってくる。


「む。みんな」


「もう終わったんでしょ。脈なんてないんだし、もうそんな女のことなんて忘れちゃいなよ」


「うん、ブランの良いところは私たちがよく知ってるんだから、それでいいわよ」


「そうだよ、ブランは格好いいし強い、私たちの家族なんだから」


 優しい言葉をブランに掛け、目線だけを睨むようにリカに向ける女性達。


 一人は、活発そうで如何にも元気ッ子な言葉と格好、短パンにシャツを着たショートカットの女の子。

 もう一人は、長身で腰まである長い土色の髪の女性。


 最後に肩に掛かる程度で揃えた金髪のエルフ女性。


 きっとブランの家族達なのだろう。


「むぅ……しかし、だな……」


「ほら早く立って、体中に傷一杯あるんだから早く直しましょう」


「い、いや、だがだな……」


「ほら早く早く」


「む、むぅ……」


「もうお昼終わっちゃうんだから」


 三人の女性にグイグイと背を押され、ブランは闘技場を出て行った。


「やれやれ終わりですわね」


 ジンタ同様、ブランを見送っていたリカがくるりと背を向け、逆方向に歩き出す。

 ジンタも思いだしたように、リカの歩く先に目を向けると、イヨリ達がジンタの名を呼び、手を振りながら走ってきているのが見えた。


「終わったのかな?」


 呟いたジンタに、歩き出していたリカが立ち止まり振り向く。


「ええ、終わりましたわね」


「そっかぁ……」


「一応言っておきますが、あの方はどうも今回勘違いをなさっていたようですわ」


「勘違い?」


「そうですわ。どうも、私がジンタさんと歩いているのを見たらしく、それで私を賭け勝負しろと言っていたようですわ」


「え? じゃあ、イヨリやミリアやあーちゃんのことでは……」


「ないようですわね」


「そ、そんなぁ……」


 さすがに、一気に気が抜けたのかクラッと上体が揺らぐ。


「ですが、まさか第二段階相手に、ジンタさんがあそこまで戦えるとは、私思っていませんでしたわ。これからは少しあなたの評価を変えなければいけませんわね」


 ふむ、と頷くリカに、ジンタはちょっと嬉しそうにはにかんだ。

 そして、一つ思い出したように首を傾げ、疑問を口にした。


「そう言えば、ブランさんもリカさんも同じダブルパワー型の第二段階だったのに、どうしてその見た目の形態があんなに違ったんだろう?」


 それにはリカが溜息を吐き、


「皆さん同じようなことを聞きますのね」


 と言い続けた。


「私はどんな状況であっても、必ず想い願い口にする言葉の上に『美しい』が付くのですわ」


「えっと、つまり、リカさんは力を欲したけど、その欲した想いの上に『美しい』が付いたからこそ、その普通の人型の腕になったと?」


「ええ、そうですわ。あんな無駄に太くて長い腕など、美しくありませんもの」


 そう答え、リカが組んでいたいた腕を広げわざわざ獣人化しその茶色い毛に覆われた人型の腕をジンタの前で優雅に広げて見せる。


「へぇ~~~~」


 感心したように声を出した後、ジンタが続ける。


「ただ異様に毛深いだけの腕に見えるけど――」


 しゃぁっしゃぁっ!


 ジンタが「なぁ~」と言い終わる前に、リカの両腕がクロスした。


「へ?」


 クロスしたリカの両腕を見て、ジンタが声を漏らした瞬間、


 ブシュッと、ジンタの顔面から血が噴きだした。


「ぐおおおおぉぉぉぉぉ……」


 引っかかれた顔の傷が一気に痛み出し、噴きだす血が乾いた闘技場の砂の上に舞い落ちる。


「言葉を慎みなさいな!」


 フンッとそっぽを向いて歩いて行くリカと入れ違いに、みんながやって来る。


「ジ、ジンタさん大丈夫ですか?」

「ジンさん大丈夫!」

「ジンさ、あーちゃんの葉っぱ食べるか?」

「ジンタさん、なんで決闘してる時よりダメージ広がってるんですか!」

「私がダーリンを氷漬けにして直します」

「氷漬けはだめですよ雪目さん」

「ちょっ、リカお前なんでジンタにこんなことを!」

「美しさを分かってらっしゃらないようでしたから、つい、ですわ」

「リカ、だからってこれは……」

「ジンタ殿、まるで化粧のようですな」

「ジンタ顔赤いぞ? 熱か?」

「おれっちも聞こえたけど、ジンタはあれだな」

「お、女心を少し分かってないですね」

「んだ、わっちも竹さんの言う通りだと思いますだ」

「ちょ、ちょっと皆さん待って、ですわ」


 こうしていつも通り、ジンタ達の平穏な一日は過ぎて行く。

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