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突撃開始

「なんですって! 今回の戦闘ではあなた達も前に出ると?」


「ええ、なんかみんなやる気と言いますか、ヤル気になっちゃってると言いますか……は、ははは……」


 ジンタが、困ったように頭を振るカインにごめんと苦笑すると、


「ちょっと、カインをこれ以上困らせるようなら私があんた達を燃やすわよ」


 麗火が怒ったように目を鋭くさせた。


「おいおい麗火、別にいいんじゃねえのか。前に出るって言うならおれ達と一緒の所にいればいいだけだろ?」


「でもライン、いくら何でもまだ第二段階や進化も出来ない若輩の子達を一番前にって言うのは……」


「何言ってんだ逆に考えてみろよ竜女。範囲強化魔法はミリアちゃんだけが扱えるんだぜ、そのミリアちゃんが一番近くにいる方がおれ達にとっても守りやすいってもんだろ?」


「それはそうだけど……」


 自分では判断がつかないと、竜女はカインに視線を投げた。


「カイン、あなたはどう思ってるの?」


 ジンタを始め、全員がカインを見つめる中、


「僕は……、出来れば後ろにいて欲しいと思っている。――けど、近くで見ていて欲しいとも思っているし、逆に僕が見てみたいと思っているかも知れない」


 カインの視線はロンシャンへと向いていた。


 ここ数日の中で、もっとも仲が良くなったのは実はこの二人かも知れない。短い時間の中、互いの聡明さもありよく深い所で話が弾み周りが苦笑していたほどだ。カインにべったりと付き添っていた麗火でさえ、二人の話に歯止めが利かなくなると唇を尖らせて悔しそうに退散していたのをジンタも覚えている。


「僕も、カインさんの先導するチカラを間近で見ていたいです、だから同行の許可をお願いします」


「うん、分かった。一緒に戦おう」


「はい!」


 話は決まった。

 このカナン救出のための戦闘において、ジンタ達は先頭で戦うと。



 作戦は至って簡単。カナンの街の城壁に張り付き、攻撃をしているゴブリンとオークを横からから切り裂き分断して殲滅すること。

 もっとも、まだ出て来るであろう後続のゴブリンとオークに警戒しつつではあるが。


 東砦から共に移動してきた延べ三百人以上となるマスターエルフの中学生とその家族達、その先頭に立ち、ジンタ達も隣にいるカインの号令を待つ。少し勾配のきつめな坂の下方、燃え盛るカナンの街を見据えながら。


「おいおいジンタ大丈夫か、足震えてねえか?」


 ジンタの隣で抜き身のバスタードソードを肩に担ぎ、まだリザードマンの獣人化をせず、人の姿のままのラインが声を掛けてくる。


「ケッ、バカ言え、もうガクブルだぜ」


 ジンタは盾と直剣の握り具合を再度確認し直しながら、正面を見据え素直に答える。


「おーおー、素直じゃねえか」


「うそぶいても分かっちまうだろ?」


「まあな、こんな戦闘はそうそうあるもんじゃねえしな、とりあえず死なねえようにしろよ」


「お前もな」


 互いで互いの背中をポンと叩き合い、ラインは更に一歩前に踏み出した。


「ジンタさん大丈夫ですよ、私が守りますから」


 横に並んだイヨリが優しく微笑み、ジンタの前へ。


「今回は守るつもりはないですが、もし安全でいたいのならば、私の後ろをついてくると良いですわ」


 リカが立派な胸を持ち上げるように腕を組み、イヨリの横に立つ。


「へへっ、ジンタモテモテだな。でもな、おれも今日はやるぜ」


 パキパキと指を鳴らし、ミトも出る。


「おれっちもたまには体を目一杯動かさないとな」


 松も、首をコキコキと鳴らしミトの横へ。


「いざとなったら、この私を踏み台にして下さい」


 ラーナが幾ばくかの踏まれる期待を口にし、ジンタの前へと。


「はぁ~~、うちの家族と仲間達って、結構好戦的だよな」


 ヤレヤレとジンタが呟けば、


「あーちゃんも、あーちゃんも前へ出るよ!」


 鼻息荒く、前へ駆けて行こうとするあ―ちゃんを、後ろの全員が必死で止める。


「あーちゃんはダメだよ!」

「そうだよ、あーちゃんはこっちで私達と一緒にいないと」

「あ―ちゃん、リゼットを守るの忘れたか」

「あ、アリディアさんは、まだこっち側に」

「無理だすよ」

「勇ましいと無謀は違いますよあーちゃんさん」

「はいはーいあーちゃんさんは、私が抱っこしてあげますね」


 前に出たいとぶーたれるあーちゃんを全員がなだめている間に、


「突撃ッ!」


 カインの号令が響いた。



 総勢三百人を越えるエルフ軍が一斉にカナンの街へ、ややきつめの勾配を駆け降りていく。

 ジンタも、前方と足元を見つつ駆け降りた。


 一番最初にゴブリンとオークに相対したのは、ジンタの目から見てやはりと言うべきかミトだった。

 同じタイミングで駆け降りだしたはずが、そんなものはほんの一瞬。気付けば一気に数十メートル以上先を走り、ミトはそのまま跳び蹴り一閃でカナンの城壁に群がるゴブリンとオークの中へと切り込んでいった『ダブルスピード』の強化魔法を受け緑色に輝きながら。


 それに続くように、スピード系の獣人化した『召喚されし者』達が雪崩れ込む。その中には松の姿もあった。


 さらに数十秒遅れ、リカやイヨリ、そしてジンタ達も雪崩れ込んだ。

 場所的に最後方ではないため、やはり混戦状態となる。


 カインやミリア、ロンシャンやエルファスやベンジャミンを後ろに庇いつつ、ジンタも前ヘ前へと突き進む。


 後方からも戦闘の音と怒声が響く。その中でも隻腕のリーダーカインの声は良く通った。


「そのまま突き進み相手をきり崩し分断させるんだ! それから各個撃破をっ!」


 先頭を突き進むミトや松達スピード系の『召喚されし者』が、相手を適度に分断し進んで行く。

 その分断したオークやゴブリンをパワーやバランス型のイヨリやリカ、ラーナやラインが倒していく。

 さらに、洩れた敵をジンタや竜女や麗火が討っていく。


 そしてそれでも洩れる敵を、マスター達を守る竹や梅、雪目や水音やあーちゃんが倒す。もっとも、ここまで残れるような敵はそうはいない。突撃の号令の時、ジンタ達は一番前にいたが、気付けばカイン達マスターの居る場所も、もう勢いよく押し進むエルフ軍の塊の中間手前の位置にまで下がっているのだから。


 突き進むジンタ達が、カナンを攻めるゴブリンやオークの塊、その七割の位置まで切り裂いた時、ラインがジンタの横へとやって来た。


「おいおいおい、お前んとこの仲間、あれは一体どうなってんだ?」


 辺り一面に響く仲間達の雄叫び、ゴブリンやオークの断末魔、切り裂き叩き潰し互いの攻撃をぶつけ合う剣戟の音が響く中、それらに負けない声でラインが叫ぶ。


「あぁ? どういう意味だ?」


 隣り合うというよりは背中合わせになり、ジンタがラインに問い返す。


「いやよ、東の砦を奪還する時も思っていたが、種族ゴーレムっつうイヨリちゃんが強いのはまあおれも知ってはいたがよ。それ以外の……、あのイヨリちゃんの横でイヨリちゃんと倒し方のタイプが違うが対等に戦ってるクマのリカちゃんか? それとあの先頭で見事に縦横無尽に蹴り飛ばし進むうさぎのミトちゃんと、あれはサルかな松ちゃんと言ったっけか?」


「ああ、松は大リスだ、立派な尻尾があるだろ? それにミトはうさぎじゃなくてアルミラージな! それがなんだって?」


「そっか、大リスにアルミラージか……」


 背中合わせで呟いたラインが一度チラッと反対側、後ろのカイン達を見たように感じ、それから続ける、


「それに後方のうまく連携のとれたあの子達の動き、一体全体お前の家族と仲間達はどうなってやがんだ?」


「だから何がっ?」


 ラインの言いたいことが分からず、ジンタは再度聞き返す。


「いやだからよ、どうしてそんな戦い慣れてやがんだって! どう見ても、戦い慣れってだけなら俺達より上じゃねえかよ!」


「あぁ、そのことか……」


 ラインの言葉を理解し、ジンタの中で色々と過去のことが思い浮かぶ。


 もう二年以上前になる初めての出会いから、夏の川遊び、そして今でも思い出すだけで身が震えるイヨリとの対戦とその後のトレントとの戦い。さらにこの第二階層に来てからの、第一の街である第一階層の街と同じ名と形を持つラペンの街にいた時の数々の修行という名の無茶っぽいクエストの狩り、良く今まで俺無事だったなあと、今更ながらに感心してしまう。


「おい、このバカ! おめえ何ホッとしたように気を緩めてやがんだ!」


 背中からの罵声に、ジンタが我を取り戻す。


「お、お前が変な事言うからだろ!」


「俺がか?」


「ああ、お前が変なことを言うから……、つい今までのことを思い出して、俺よく今まで無事だったなあと、ついほっとしちまっただんだよ!」


 気を抜くと、ほろりと涙がこぼれそうになるジンタ。


「ほほぉ~、それほどのことがあったのか」


「獣人化出来ねえ俺があの中に混じって戦ってたんだぞ! どれ程の無茶があったと思ってやがる!」


「うむ、確かにそれはすごそうだな、さすがにちょっと同情するわ」


「そうだろ?」


 今までの苦労の数々をラインに認められ、少し嬉しくなったジンタの後ろから、


「ちょっと、その前にいる仕事もしないで役立たずな二人のバカ、まだくだらない話をしているだけならゴブリンと一緒に焼き殺すけどいいかしら?」


 麗火の容赦ない言葉が振り注ぐ。


「役立たず……」

「バカ……」


 麗火に目を向ける二人。


「そこでくだらない話をしていて、手を動かしていないんだから本当の事でしょう?」


 獣人化し、より真っ赤に見える麗火がその姿とは真逆に冷たく言い放つ。


「鬼だ、鬼がいるぞジンタ!」


「ああ、確かに頭真っ赤っかで揺らめいている鬼だな、この人は!」


 ラインとジンタ、二人が容赦のない麗火の対応に聞こえる程度の声で悪口を言い合うと、


「……焼くわ!」


 二人に向かい、炎の塊が飛んできた。


「うおぉぉぉっ!」

「ぎゃあああっ!」


 互いの背中を押し合い、勢いよく離れた二人の間を火球が突き抜けていく。


「ほんとに撃ちやがったよこいつ……」

「マジで焼かれる所だった……」


 あ然と、飛んでいく火球を見つめながらボー然としている二人に、


「ほら何休んでるの? そんなだと次は本当に当てるわよ」


 ためらいなく麗火が言う。


「「う、うわあああああっ!」」


 ジンタとライン、二人は即座に動き出し前線に向かい走り出す。

 本当の敵は、後方にいたんだと噛み締めながら。




 ジンタとラインが麗火に焼き殺されそうになっていた頃、最前線にいるイヨリ達にも大きな変化があった。


「イヨリさん、あの鎧を着たオークは私が倒しますので、手出しは無用でお願いしますわ」


 こと戦闘に対し、いつも相手を見下している(よく言えば冷静に対処している)リカが熱を帯びた震える口調でイヨリに言った。


「え? あの大きなオークをですか?」


「ええ、私がロンシャン様を守らず、こうして前へ出ると言っていたのは、アイツを倒す為ですわ」


 襲い来る通常のゴブリンとオークを眼中にも収めず軽々と切り裂きながら、鎧オークを射殺さんほど睨むリカ。


 リカが睨む鎧オーク、それをイヨリもしっかり見定めようと見つめる。

 瞬時に分かった。それは今まで出会った中でもかなりの強敵だと。その雰囲気を持っていると。恐らく、イヨリ自身が一人で相手にしても、どこまで戦えるかどうかの相手だと。


「あのリカさん――」


「分かっていますわ、私一人ではあれには勝てないだろうと仰りたいのでしょう?」


 言い切るリカに、イヨリは少し躊躇いながらも、


「……はい」


 答える。


「それでも、あれは私達の獲物です。誰にも譲る気はありませんわ」


「では私も――」


「イヨリ殿」


 せめて手伝おうとイヨリが言い掛けた時、今まで二人のフォロー役に回っていたラーナが口を挟んだ。


「あのオークが、我らの砦の亡くなった先輩やその家族達を何人もほふっていたのは私もリカ殿同様知っています。ここは我々があのオークを討たねば気が収まりません」


 普段、それこそリカ以上に冷静に物事を見つめているように見えたラーナの声にも怒りが篭もっている。


 声を返せずにいるイヨリの元を、リカとラーナが離れていく。

 視線を、鎧を纏った大きなオークに向けたまま。




「ん? あれは……」


 呟いたミトは、剣を振り上げ向かって来る三匹のゴブリンの一体を下段蹴りで転ばせ、次を回し蹴りで吹き飛ばし、最後の一体の振られる剣をバク転で躱し、逆立ちの体勢のまま蹴り飛ばす。


「おい松、アイツに見覚えないか?」


 逆立ちしたまま、さらに向かって来るゴブリンを蹴り飛ばしミトが叫ぶ。


「んあ? どれだミト?」


 ミトの気持ち後方から、ミトの倒したゴブリンにトドメを刺しながら、キョロキョロと辺りを見渡すように松。


「アレだアレ!」


 逆立ちのまま、足を一体の豪華な装飾の鎧で着飾った大きなオークへと向ける。


「あ、ああ、あれかぁ~」


 おでこに右手を当て、遠くを見るようにしながら松が頷き答える。


「あれって、おれ達の砦を攻めてきた時一番偉そうにしてたヤツだよな?」


「ああ、確かに確かに、あれだったな!」


 うんうんと頷く松に、ミトがニッと笑む。


「やっぱ、仕返しはしっかりやらないとだよなぁ?」


「ああ確かに、仕返しはしないといけないよなぁ」


 松もニッと笑みを返す。

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