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異世界とスマホ

 一体どうなっているのか?

 どうしてここに戻って来れたのか?

 あの目を眩ませた光は一体?

 あの場所はなんだったのか?


 口にすれば、色々と尽きない話題となりそうだが。とりあえずジンタ達は、その部屋を、そして遺跡を出ることを優先させた。


 また同じ目に遭うのが嫌だったから……。


 また変なことが起きないようゆっくりと部屋を出て、今にも崩れそうなひび割れた壁のボロボロの遺跡を静かに歩いて外へと向かう。

 遺跡なんて言ってはいるが、ほんとに子供だまし程度の場所にしかジンタにも見えなかった。


 ゆっくりと歩く道は部屋を出てから真っ直ぐ歩き、突き当たりを右に曲っただけ、迷うことなんて一切ない一本道。


 最初にミリアとエルファスに出会った時に聞いたが、宿題として教師に言われた遺跡ってぐらいだから、調べもついていて、簡単かつ危険のほとんどないなものだったのだろう。

 なんせ二人はどう見ても小学生ぐらいなのだから。


 実際、外に出るまでの道をジンタ達は迷うこともなければ、何かに襲われる気配もなく、当然モンスターに出会うこともなかった。

 遺跡から一歩外に踏み出すと、空はもう真っ赤に染まっており、辺り一面はジャングルのような森に囲まれていた。



「なんじゃ……こりゃあ……」


 ここがリリフォリアと聞いていて、いくらかの覚悟はしていたが、それでもつい口から出てしまう驚きの声。

 見たことのない木や葉。たま~に上空を飛んでいる大きな鳥の姿を見かける。


「やっぱジンさんは、ここじゃないところから来たの?」


 遺跡を出て、森の中の獣道を街へと続く街道に向け歩いてる途中、隣で手を繋ぎ歩くミリアが見上げてくる。


「ああ、うん。俺も自分の居た世界をすべて見てきた、とは全然言えないけど、多分……、いやきっと違うと思う、かな」

「あう……、なんかわたしがむりやり喚び出してごめんなさい……」


 ミリアがすまなさそうに頭を垂れる。


「ほんとに、ジンタさんすいません」


 ジンタとは、ミリアを挟んで反対側を歩くイヨリまで頭を下げた。


「い、いや。なっちゃった事はしょうがないし、なんかここまで来ちゃったし。……それよりこっから先のことの方が問題というか……」


 ジンタは、困ったように口を濁す。


「ん? そういえばジンタって色々あったから忘れがちだけど、今日ミリアに喚ばれた訳だもんな? じゃあイヨリさんとこはジンタのベットとか用意出来てるの?」


 ジンタ達の前をエルファスと手を繋ぎ歩くミトが振り返る。


「いえ、まさかこんなところで召喚をするなんて当然思ってませんでしたから、用意は……」

「それなら私のベットでご一緒に――」

「それは遠慮しますっ!」


 エルファスのもう片方の手を握る雪目が、グルンと妖怪やお化けのように首を回し言うが、ジンタは即答で切り捨て断った。


「それで、ここからみんなの住む街があるところはどれ位かかるのかな?」

「大体普通に歩いて二時間ほどですわ」


 一番前を歩いているリカが前を見たまま答える。


「とりあえずこの獣道を抜ければ、後は見通しの良い大きな街道に出ますから、そこまで進みましょう」


 イヨリの言葉に全員が頷き、また歩みを進めていく。


 十分ほどの獣道を出て、ジンタ達は街道にでた。

 イヨリが言ってた通り、街道は車の三車線ほどの広さがある大きくそれなりに整った道で、少し進んだ先からは森も途切れ、見渡しの良い平原になっていた。


「ここいらで一度休みましょう。お腹が空きましたわ」


 先頭で立ち止まったリカが振り返り、イヨリを見る。


「イヨリさん、早く簡単で美味しモノを作って下さいまし」


 イヨリは一瞬顔を顰める。


「たまにはリカさんも協力してくれますよね?」

「私が? 私はロンシャン様を護衛するという任務がありますわ」

「それなら私だってミリアを――」

「イヨリ~~、それはもう諦めて~~、わたしもお腹空いた~~」


 リカとイヨリの言合いにうんざりしながら、ミリアがイヨリのシャツを引っ張る。


「分かったわ。少し待っててねミリア」

「私、少し濃いめのシチューがよいですわ」


 そっぽを向いてリカが料理の注文を投げつけた。


「はぁ~~、分かりました。少し待っててください」


 イヨリは、遺跡から出た先に置いていた荷物である大きなリュックを下ろし、てきぱきと料理の用意を始める。

 その間にミトとリゼットとジンタが火を起こす準備、枯れた枝を拾い集め、雪目は大きな鍋に新鮮な雪を積もらせていく。


 包丁を器用に使いイヨリが手慣れた手つきで料理を作っている間、ミトとリゼットが周囲を見回り、雪目は受け皿の準備、ジンタは薪の管理と火加減の調整。リカはエルフでマスターでもある三人の子供達とウトウトとお昼寝中……だった。


「出来ましたよ~~」


 イヨリが料理が出来たことを大きめな声で言いながら鍋の蓋とお玉を叩き合わせると、巡回中のリゼットとミトが木々を押し退け、走って戻り、三人のマスター達も目を擦り、リカも大きく伸びをした。


「「「「「いただきま~~す」」」」」


 全員で元気に声を合わせ、食事が始まった。


「ちょっ! リゼット! それはおれんだっ!」

「ちがうっ! こっちの多い方がリゼットのっ!」

「はぁ~~、ほんっとイヨリさんの料理美味しいです」

「うん! うん!」

「ありがとうございますエルファスさん。――ミリアあなたはもう少し落ち着いて……」

「あなた。私の愛の料理を――あ~~ん・し・て」

「結構です! ありますからっ! 自分で食べれますっ!」

「ちょっとイヨリさん? これ少し味が濃くありません? これじゃあロンシャン様がしょっぱいと思いますわ」

「そんなことないよリカ。僕も美味しいよ」


 ワイワイガヤガヤと、全員がイヨリの用意した食事を楽しんだ。


 食事の満足感、その余韻に浸りながらも、ジンタ達は日が沈み真っ暗になった街道を街へ向け歩き始めた。


「本来なら夜の行動は避けた方がいいのですが、今日は毎年の恒例行事のような日帰りのつもりだったので、キャンプの用意をまったくしていませんでした」


 というイヨリの言葉に全員が頷いたのだ。


 それほど、さっきの遺跡は危険度のまったくないただの遺跡だったそうで、ほぼ毎年来ていたイヨリ達は「ここに来てモンスターと遭遇したことだってなかった」とも言ってたほどだった。


 ただ毎回、数グループがこの街道でヘビなどに噛まれるぐらいの事故的遭遇をするぐらいだそうだ。

 つまり、この街道と獣道の方が本来気を付けて歩くべき場所なんだそうだ。

 普段なら遺跡より危ない夜の街道を、タイマツの火だけでジンタ達は歩いてる。


 未だに分からないことだらけだが、あの何にもないような遺跡であんな目に遭ってしまった。

 自慢するつもりではないけれど、それでもこの三つの家族が一緒に行動していたからこそ全員が無事で済んだのだとロンシャンは言っていた。それほどイヨリやリカ、ミトに雪目は『召喚されし者』の中でも強い部類なのだそうだ。もし、ただの低学年の小さいエルフのマスターが一人と、その『召喚されし者』が一人の二人であんな目に遭ったら、到底無事生きていられるとは思えない、とも言っていたが、それにはジンタも頷くしかなかった。


 だからこそ、今は急ぎ戻って学校の先生方にその報告をして、以降の被害をださないように手配しないといけなかった。


「いや~~、星ってこんなに一杯見えるもんなんだなぁ~」


 タイマツを持ちながら歩きつつ、ジンタは真っ暗な空一杯に瞬く星々と月を見上げた。


「うん、ジンさんの居たところも星一杯だった?」

「ん~~~~、正直ここまで真っ暗になることがなかった場所だからなぁ~。あまりここまで星が一杯あるのを実感したことはないかなぁ~」

「夜なのに明るいの?」

「うん、エルファスが使ってくれた明かりの魔法、あれよりももっと明るい光を出す道具が一杯あってさ、それが夜でも街や道を照らしてたから、明るかったんだよ」

「へ~~~~、その道具をジンさんも持ってる?」


 興味津々のミリアが目を輝かせる。


「いや~明かりがつくものは今はさすがに――――……」

 言葉を途切れさせ、ジンタは記憶を辿る。


 ――あれ? 俺ってスマホ……、どこやったっけ?


 ジンタは立ち止り、ショルダーバッグの中をガサゴソと探し始めた。


「どうしたんです?」


 ミリアの隣に立って歩いていたイヨリが、心配そうにタイマツをかざす。


「いや、ちょっとこのバッグの中に捜し物が……」


 バッグの中に押し込んだままの制服。そのポケットを探る、スマホはすぐに見つかった。


「あった」

「ほんとっ!」


 ミリアが喜びの声をあげる。


 気付けば、ジンタの周りに全員が集まっていて、


「一体何なんですの?」

「どうしたどうした?」


 と、興味深げにジンタを覗き込んでいる。


 ジンタはバッグの中からスマホを取りだし見せた。

 見たことのない画面に、全員が我先に見ようと顔をくっつけ画面を見つめる。


「これ、俺の世界のスマホという道具で、遠くの人と話しができる機械なんだけど」


 ジンタの言葉に、


「おぉ~」

「へ~~」

「すっご~~い」


 など声が上がる。


 その中で一人、


「じゃあ、あの遺跡のとき、どうして使わなかったんだ?」


 考えなしだが、実にシンプルに遠くの人と話ができるという部分を理解しクリーンヒットな突っ込みをいれるリゼットに、


「ん~~、これを持ってる人いなかっただろ?」


 と、これまたシンプルにジンタは答えた。


 そして、もう一度自分で画面を見て、圏外なのを確認する。


「やっぱ圏外か……」

「圏外?」


 ミリアがジンタの手を掴みスマホの画面を覗き込む。


「うん、これだと知り合いに連絡できないんだ」


 ジンタが答えると「へ~ほ~」といいながらも画面に興味を持ち、触ろうとしているので、ジンタはミリアに見せるように画面を操作する。


「「「「「おぉ~~~~っ」」」」」


 小さい画面がジンタの指の動き合わせて動くのを見て、全員が声を上げた。


「ん~~、今時スマホいじってここまで驚かれると……、こっちが照れるな……」


 ジンタの手の中にあるスマホに群がる全員の興味の視線と、恐る恐るに伸びる手に、ジンタは少し優越感を感じてしまった


 適度にみんなに触らせた後、ジンタはスマホを返してもらう。

 歩き始めてすぐ、ジンタの持つスマホに着信音が響いた。


 全員が驚き、ジンタから飛び退くように遠ざかる。

 緊張した顔と構えをとり、全員が遠巻きにジンタを見ている。

 ジンタはそんな全員の行動より、むしろスマホの着信音にだけ意識が向いていた。


 ――ありえない……、なぜ圏外なのに俺のスマホは、メールを受信してるんだ?


 画面を見ると、やはりメールが届いたことを告げる画面になっている。


 ゆっくりと、戸惑いながらも左手に持つスマホへとジンタは右手を近づけていく。


 ジンタの意識、そしてそれを見守る全員の目と意識が、ジンタのスマホへ近づけていくジンタの右手一点に注がれた瞬間だった。



 ヒュンッ



 空気を切り裂く音が響いた。

 それと同時にジンタの左腕、その肘から下のスマホを持つ左手が地面に落ちた。

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