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プロローグ

読んでいた方いたらほんとすいません。

再度、プロローグ後半から、ストーリーを変えましたので、

また、新しい気持ちで読んでくれると幸いです。

 高校二年の秋、宮間ジンタは学校帰りの電車を降り、悪友ともいえる数人の友人と改札を出た。


「じゃあ、今日も帰ったらあっちでな」

「そうだな、向こうでまたな」

「分かったぜ、またな」

「……………………」


 最近流行っているVRMMO。

 その仮想現実世界で、飛んだり跳ねたりして仲間と共にモンスターを倒し、喜びを共有し合う。

 学校から自宅に帰り、みんなとその世界で落ち合う、というのがジンタの日課だった。


 しかし、そんな生活も数年。

 ジンタは徐々に、そんな生活に疑問を抱き始めた。


 家に帰り、布団に横になってすっぽりとマスクをかぶる。

 そして自分の体を寝かしたまま、精神だけをゲームの世界へと飛ばす。

 ゲーム内では確かにすごいことが出来た。何メートルものジャンプをし、現実の自分では出来もしないバク転で攻撃を躱し、目一杯の踏み込みでモンスターに近づき一気に切り裂く。そして一時的とはいえ、背中から翼を生やし空まで飛ぶ。


 始めは楽しかった。ずっとこの世界に居たい、ずっとやってたいと思ってもいた。

 でも今は……


「これでいいのか?」と思っている自分がいた。


 ジンタは、自分のことを決してスポーツマンとは思っていなかったが、それでも運動神経はそこそこ良い方だと思っていたし、身長百七十にそこそこの体格。体力だってある方だと思っていた。


 しかし、近頃は家に帰ればVRMMOをやり続け、休みの日はほぼずっとだ。自分でもだんだんと自覚していく。


 俺すっげー体力落ちてないか? と……。


 体育の授業や駅の階段、今まで普通に感じてたことが最近ではきつくなった。体力が落ちてきたように感じるし、それを感じると心の中に何か分からないモヤモヤとした感情がこみ上げてくる。


 きっとゲーム内での、常人を越えた動きをする自分と、現実の自分を照らし合わせている部分もあるのかも知れない。

 だから余計に思うのだ。


 本当にこれでいいのか? このままでいいのか? と。


 そんなやるせない気持ちが、ジンタの中では大きくなっていった。

 だから、ついジンタは散り散りに離れていく悪友達に向かい、やや声を張り上げた。


「ゴメン! 俺、今日ログインしないわ」


 全員が一斉にジンタに振り向く。


「まじかよ~~」

「まあ、用事があるんじゃしかたねえなあ」

「ま、今日レア物出たらジンタの分配なしだかんな、泣くなよ」


 友人達はしょうがないという顔で手を振り、家へと向かい歩いていった。


 ジンタは友人達の姿が見えなくなった後、無駄にでかいショルダーバッグを担ぎ直し、ゆっくりと歩き始めた。


「あ~あ、俺なんでログインしねえなんて言っちまったんだろう……」


 みんなには、ログインしないなんて言ったが、別段何か用事があるわけでもない。

 かといってこのまま家に帰って何をするわけでもない。


 そんなやることがまったくないジンタの足は、無意識にある場所へと向かい歩き始めた。



 そこは、今は寂れた街のゲームセンター。



 暇つぶしにはなるか、と溜め息交じりに中に入る。


 騒音のような派手な音達がジンタの耳を刺激していく。


 音ゲー、プリクラ、クレーンゲーム。取り分け主流となっているブースを通り過ぎ、ネット通信対戦も見て回る。


 そんなただ暇つぶしに歩いてたジンタの目に、一つの筐体きょうたいが目に入った。


 寂れたゲームセンターの本当に片隅の片隅。

 そこにヒッソリと置かれた、たった一つの筐体。

 筐体は箱形、大きさはかなりあり、恐らく三人ほどが中に入れくらいだろう。


 ジンタの目はなぜかそれに釘付けになった。


 ごくりとツバを飲み、一度目玉を引っ剥がすように筐体から目を離し天井を見上げた。

 それから深呼吸を一度し、ジンタはもう一度筐体を見た。


 そして、無意識のように足取りでゆっくりとその筐体に近づいていく。


 筐体のサイド側にある入り口に手をかけ、ゆっくりと扉をスライドさせ、筐体内部へと入る。


 扉を閉めた内部は、前後左右そして上部から床までも立体画像のフルスクリーンになっていた。


 風景として画面に映るはコロッセオ風の場所。

 空はよく晴れた天気。

 地面は乾いた茶色の土。


「ほへ~……」


 間の抜けた声を上げながら内部の景色を眺めているジンタに、筐体の正面と思われる方向から女性の声が流れた。



『ようこそ、階層伝説リリフォリアへ』



 ジンタが声の方に向き直ると、フルスクリーンの一部が引き出しのように開き、中にいくつかのモノが入っていた。


 「これは……、リストバンドにレッグバンド、それにベストと棒が二本?」


  リストバンドとレッグバンドは肘や膝まで包み込むような二十センチほどの大きさ、ベストには肩パットまでついている。

 それらは全部マグネットで装着するタイプのようだった。


 さらに棒が二本。

 一つは竹刀ののような三〇センチぐらいの長さ、もう一つは十五センチほどのただの掴む棒のような感じだ。


 ジンタはとりあえず担いでいる大きめのショルダーバッグを部屋の隅に置き、冬服のブレザーを脱ぎワイシャツの袖を捲った。


「とりあえず、なんか分かんねえけどいっちょやってみるか」


 そう声に出し、気合いを入れリストバンドを手に取ると、女性の声でガイダンスと取り付け方が画面に流れていく。


「へ~~、つまりこのリストバンドやレッグバンドを付けて、ベストを着て、その後にこの三〇センチの柄を持つ、こっちの小さい棒は……盾代わり?」


 声に出しながら、不親切に意味が分かりづらいガイダンスに従いながらも、ジンタはそれらの装着を進める。

 装着が終わったジンタに、今度はガイダンスが百円玉を入れてくださいと促してきた。


 一応両替してポケットに入れていた百円玉を、装着道具が出てきた箱の右側にある投入口に入れる。

 すると、画面はいきなりコロッセオの風景から、古い石畳風の一室へと切り替わり『装備の選択をして下さい』と、新しいガイダンスが急かすように促してくる。


 やっぱり不親切だな、と愚痴をこぼしながらもジンタはガイダンスに従う。

 画面に映るのはまず片手剣、バスタードソード、大剣、片手持ちのアックス、両手持ちのバトルアックス、その他メイスや弓など、まあ俗に言う武器系が色々とある。


 とりあえず、ジンタはバスターソードを選ぶ。

 直後、ズシッと柄を握る右手に負荷が掛かった。


「うおっ!」


 不意打ち過ぎる加重に、思わず声を張り上げた。


「って、そうかこのリストバンドで重量分の負荷をかけるのか……」


 画面に目を向ければ『武器はよろしいですか?』と表示してきている。


 二度、三度、負荷の掛かる右手で柄を振ってから、


「まあとりあえずこれでいいか」


 ジンタは『OK』を押す。


 次に画面は防具へと代わり、頭の装備から体を守る防具となり、盾、腕、腰の装備と進み、最後に足装備と移っていった。


 ジンタはバスターソード、プレートヘルム、鉄の盾、プレートメイル上下、プレートレッグガードと、防具をプレートメイル一式で揃えた。


 全部終えたとき、ジンタの体には、恐ろしい負荷が掛かっていた。


「……これは結構しんどいぞ……」


 総重量三〇キロオーバーほどだろうか、その重量を自身の体全体で感じながら、ジンタは画面正面を見据える。


 装備を行った部屋から、画面は最初に映っていたコロッセオの闘技場内へと変わる。

 辺りの景色を見渡してると、画面の正面、向こう側の入口からショートカットの小柄な女の子が現れ歩いてくる。


 右手にショートソードを持ち、クルクルと軽く振り回し、左手にバックラーを構えている。

 体にはシャツの上に皮の胸当てをして、足には皮の脛当て。


「ああ、なんかあっちは身軽そうでいいなぁ……」


 ジンタは後悔の声を漏らすも、不親切なゲームはそれを無視して『開始』の合図がでかでかと画面に現れた。


「ムッ」と思わず出た声を漏らしながら、ジンタはとりあえず鉄の盾を構える。


 画面の正面に立つ少女が「いっくよ~」と勢いよく走り出す。

 少女はかなりの身軽さで、ジンタの目の前までやって来た。


「はっ!」


 短い掛け声と共に、少女はショートソードを振り下ろした。


「うぉっ!」


 情けない声を上げ、ジンタは咄嗟に両手を上げガード体勢。

 キィンッと金属のぶつかる音を響かせる中、ジンタの腕に衝撃のような加重が掛かる。


「おいおい、相手の攻撃の重さまで実体験かよ……」


 体に掛かる負荷のせいもあるのだろうが、ジンタの心の中で何か熱いモノがせり上がってくる。


 向かって来る少女の攻撃を躱すというより防具と盾で受け、反撃にバスターソードで切りつける。防具の性能が高いせいか、それをくり返すことで筐体のドーム状の視界正面、左上にあるジンタのHPはほとんど減らず、右上にある相手の少女のHPは半分程まで減っていく。


「後、半分か」


 額から噴き出す汗をそのままに、ジンタは呟いた。


 直後、目の前の少女が一度大きく後ろに飛んで距離をとった。


「ん?」


 ガードを固めたまま待つジンタの正面で、少女はショートソードとバッグラーを放り投げる。


「なんだ?」


 少女の行動の訳が分からず、怪訝に見つめるジンタ。


 手ぶらになった少女が、力を溜めるように身を屈める。


「なんだ?」


 いまだにさっぱり意味の分からないジンタの再度の呟きの中、少女の体が爆発したかのように光り出す。


 正面の画面一杯に『獣人化!』と表示がでかでかと現れる。


「ええっ!」


 驚くジンタの前で画面内の少女、その両手と両足が斑模様の猫のようなモノへと変化していた。


「何が起きたんだ?」


 困惑と動揺するジンタは、相手のHP下、そこに書かれているネームに目が向いた。


 ネーム欄に『ミカリ』と書かれ、その下に種族『猫又』と書いてあった。


「はぁ~? 猫又?」


 画面内の少女、ミカリなる少女にもう一度目を向け直すと、その意味がなんとなく分かった。


 肘と膝から下を猫の手足にし、お尻には二つの長い尻尾、さらに三角耳が頭の上にぴょこっと飛び出している。


 対応に困る顔で引き攣るジンタに向かい、空気を読むはずもない画面内のミカリは、


『いっくにゃん』


 と、にゃん口調で叫び突進してくる。


 猫の俊敏性か、今までも十分速かったミカリの動きがさらに磨きをかけて速くなり、ジンタの前まで突進してきた。

 そしてジンタの顔の前でパンッと猫と化した両手を叩き合わせた。


 一瞬目を閉じてしまったジンタが、「しまった」と慌てて目を開けた時、ミカリの姿は目の前から消えていた。


「ね、猫騙しかよっ!」


 今までテレビを見たり、聞いたりしたことがあるが「こんなの引っかからないだろ……普通に……」と、どこか高を括っていたそれに、見事引っかかっている自分が恥ずかしくもあり、こんな簡単に引っかかるのかと感心と驚きも感じつつ、ジンタはフルドームの左右に目を走らせた。


「いない?」


 そう思ったとき、上空から真っ赤な炎が落ちてくる。


「ぬおぉぉぉぉっ!」


 見た目は熱そうだが、熱くはない。しかしジンタのHPゲージはみるみる減っていく。

 横に必死に動き炎を回避、しかしジンタのHPは一気に減り、三割ほどに。


「クソッ! なんなんだこのクソゲーめっ!」


 叫びつつも、視線だけはミカリを探す。


「いたっ!」


 ミカリは元の位置から言えば後ろに当たる位置にいた。ジンタはプレートメイルを着たまま全速力でミカリの元へと走って行く。


「でああああっ!」


 ドタドタと重装備で走るジンタを尻目に、余裕綽々で猫のように顔を拭いて待っているミカリ。


 爆発しそうなほど早く鳴る心臓の音を聞きながら、ジンタはバスタードソードをぎっちりと握り絞め、渾身の力で振り下ろす。


 が、「にゃん」と可愛い声をだし、当然のようにあっさり躱され、反撃の爪、その引っ掻き連打をプレートメイル越しに体中に浴び、ジンタはあっさりゲームオーバーとなった。


「な……、なんなんだこのゲーム……。一面の最初から、これ……だと? クソゲー過ぎる……」


 体に重く巻き付く疲れを抱きつつ、未だ息切れをしたままのジンタが呟く。


 その日、ジンタは汗だくになったまま制服で家へと帰った。


 クソゲークソゲークソゲーと心の中で叫びながらも、寝るときにジンタの口からでた言葉は、


「明日はあいつを倒すっ!」


 だった。




 次の日、ジンタはジャージ姿で学校を出た。


 悪友達に今日もログインしないことを伝え、朝から考えていたミカリの攻略方法を何度も想定し、武器や装備も自分に合いそうな物を考え、あのゲーム「階層伝説リリフォリア」の筐体へと向かった。


 昨日同様、ゲーセンのヒッソリとした片隅にそれは当然の如くあった。

 まるで、誰の目にも映らないかのようにその筐体はそこに佇んでいた。


「まあ、こんな疲れるクソゲー誰もやらんか」


 ジンタは呟きながら百円玉を用意し、筐体の中へ入る。


『階層伝説リリフォリアへようこそ』


 女性の声と同時に、昨日同様リストバンドなどが入った箱が出てくる。

 ショルダーバッグを隅に置き、ジンタはリストバンドなどを装着し、百円玉を入れる。


「昨日は動きが制限され過ぎた! バカみたいな重装備がいけなかったんだ」


 反省を踏まえた言葉を口にしながら、ジンタは切り替わったコロッセオの準備室で片手剣に盾のバックラー、革の鎧に革の腰ベルト、皮の脛当てを選ぶ。


「へへ、これならかなり楽に動けるぜ」


 総重量にして一〇キロもない重さ。軽くジャンプしてもそんな負荷にはなっていないように感じた。


「さって今日は倒してやるぜっ! ミカリよッ!」


 意気揚々のジンタがガイダンスの表記にある『準備はよいですか?』に『OK』を押す。

 ドームの画面が光り、コロッセオ内の画面へと切り替わる。


 画面の奥から歩いてくる女性の姿に、


「お前のパターンは何となく分かってるぜ」


 自信満々に呟くジンタだったが、向かって来る女性の姿がハッキリ見えるようになると言葉を失った。


 相手が、ジンタの七歩ほど手前で止まる。


 女性は、大柄な体躯でジンタを見下ろしてくる。

 無骨すぎるほどの大きな両手剣を持ち、不敵に微笑む筋骨隆々の女性。


 ジンタは何度か目をしばたたかせた後、相手のHPゲージ下を見る。


「ネームはベティ。種族はグリズリー……」


 ――え? これって相手ランダムなの?


 一日掛けて考えた攻略方法が一気に瓦解したジンタは『開始』の表示と音声に気付かず、不敵に笑いながら振るうベティの大剣の一撃をもろに喰らい、その攻撃の重さをリストバンドやベストでの負荷で味わい劇的な悶絶を浴びせられ、悶え中にさらにもう一発を喰らってあえなく轟沈した。


「く、クソゲーめ……」


 あまりに重いベティの反則的な負荷に、本当の痛みさえ感じつつジンタはヨロヨロと立ち上がった。


「よーし、こうなったら何でも来やがれっ! 全部相手しやるぜっ!」


 そう画面に指を突き付け、ジンタは百円玉を取り出した。





 ジンタが『階層伝説リリフォリア』をやり始めて五ヶ月。

 VRMMOはこれのせいで無事卒業し、それに伴い悪友達との仲も希薄になった。

 さらに昨日、めでたく高校三年生になった。


 だが、この五ヶ月間の生活は変わっていない。

 休みの日までも、『階層伝説リリフォリア』をやり続け、気付けば体はあり得ない程、引き締まっていた。


 未だによく分からないが、コロッセオの中を縦横無尽に走り回っているにもかかわらず、ジンタは一度として筐体にぶつかったことがない。

 武器を振り回しても同じだ、ぶつけたこともない。


 そんな不思議なことも多いが、クソゲーなのはそれ以上だった。


 ジンタは今、八階層まで行けるようになっていたのだが……。

 このゲームにセーブなどという生易しいモノは一切なく、毎回常に第一階層から始めるという仕打ちだった。


 一階層ごとに五人と戦い、勝つとその階層のボスが現れる。それを倒してようやく一階層クリアだ。


 階層をクリアすると、武器と防具の選び直しと無料ショップが現れ、三つあるアイテムから一つを選べる。まあ大概は回復用のアイテムである薬草、ポーションを選ぶが、たまに出る毒薬などは剣に塗ることで相手を毒化させ大きなダメージを与えられる。


 階層ボスは大きめのモンスターだが、最初に戦う五人はそのほとんどが女性で全員獣人化と呼ばれる半モンスター化、手や足を変化させることが出来るようだった。


 階層の切り替わり、ローディング中に現れる『リリフォリアうんちく』なる情報によれば、そもそもこのリリフォリアでは圧倒的に女性が多く、比率は九対一以下でほとんど女性しか生まれないらしい。

 しかも、生まれてくる全員がモンスターの能力を持った獣人石と呼ばれる物を胸の真ん中にはめて生まれてくるらしく、生まれたときから獣人化出来る種族だと言うこと。

 さらに人化と呼ばれる人の姿の状態でも、それぞれの種族の特性は表れ、スピード型の獣人なら動きが早いとかパワー型なら力がすごいなどが現れる。


 もう一つとして、階層は全部で十階層まであること、などが分かった。

 今、ジンタのいる八階層ほどの相手になると、人化の姿でもかなり強く、獣人化も龍や白虎、アークデーモンなんてのもいるぐらいだ。


「ここだっ!」


 相手の鋭いかぎ爪攻撃を躱して、ジンタは相手ののど元に白銀に輝く剣を突き刺す。


 断末魔の声を上げる間もなく、相手は崩れ落ちた。


「なんか、今日は調子いいな」


 八階層の四体目までをほぼ無傷で倒し、ジンタは自分自身でも驚いていた。


 次の五体目もあっさりと倒し「おいおい……」と思っていると、ジンタは遂に最後の敵第十階層のボスの前へと来ていた。


 待っていたのは、フルドームの半分、百八十度ほどを覆うほどの大きな悪魔っぽいヤツ。

 HP下の名前はバグっている。種族は悪魔になっているが……。


「最後の最後に名前バグかよ……、ほんっと最後までクソゲーだな……」


 呆れながらも、ジンタは最後のショップで手に入れた聖剣を振り、最強の盾で重い攻撃を防ぎ、相手のHPを削っていく。


「これならいけるか?」


 そう呟けるほど、今日のジンタには余裕があった。

 相手のHPの最後の一ドットが消えるのを目で確認しながらのフィニッシュ。


「やっとクリアか……」


 ふぅっと体の中の篭もった熱い空気を、ジンタは一度大きく吐き出した。

 正面の画面に目を向けると、おかしな言葉が目に映った。


「『クリアおめでとう、そしてリリフォリアにようこそ』――って?」


 最後の最後までクソゲーで意味が分からないなと、目元を揉み、もう一度溜め息を吐く。


 体に付けたリストバンドやレッグバンド、ベルトを外し、正面の開いた箱に戻す。

 それからいつものように、筐体の隅に置いている使い慣れたショルダーバッグを担いだ。


 筐体の外に出ようと取っ手に手を掛けたジンタの耳に、小さいがはっきりとした声が届く。



『我はエルフ、我が名はミリアリタ。我が歩む道を共に歩く者を我は願う、新しき運命、その出会いを私は求む』



 画面の正面、エンドロールも流れず勝利の言葉も消えた黒い画面の真ん中。

 そこに丸く小さく写る画像。まるで昔のテレビの伸びた画面を見ているような感じで、小さく一人の女の子の姿が見える。


 ジンタは、ゆっくりとその画像に顔を近づけた。


 長い銀髪に、細く白い両腕がこちらに向かって伸ばされているのが見える。


「髪が長い……? 女の子かな……」


 何となく口に出した瞬間、画面の向こうの女の子がジンタの呟きを聞き取ったようにジンタへと顔を上げた。


 そして、目が合った。

 金色に光って見える瞳。

 ジンタは、もっと少女に近づこうと右手と額をフルスクリーンの画面に押しつける。


「あれ?」


 本来触れるはずのスクリーン部分の反応が……ない。


 ジンタの手と頭はまるで画面では無い、空洞の中に吸い込まれるように入っていく。


 ――な、なんだ⁉


 焦りながら、ジンタが右手と頭を引き戻そうとするが、まるで強大な何かに引っ張られるように画面の中へと引き摺り込まれた。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉ――――っ」


 真っ黒な世界の中、ジンタは唯一映像として見える金色の瞳でこちらを見上げている少女のいる場所目掛け落下していく。


 それがどれ位の速度で落ちているのかは辺りの景色がまったくの暗闇のため分からない。だが、確実に少女との距離は近づいていく。


 そして、ジンタが落下していることを裏付けるように、視界に映る少女の顔が困ったようにしかまっていく。


 ――やべええよおおおぉぉぉっ、俺なんかバグってるよおおおおぉぉぉっ‼


 完全にパニクっているジンタは、近づく少女にそのまま頭からダイブした。


 ガッシャ――ン!


 何かにぶつかった衝撃、それにともない乾いた何かが砕ける音を、咄嗟に身を丸めたジンタは感じていた。


「うわっ! ミリアちゃんホントに喚んだの?」

「う、うん。喚べたみたい!」


 視界一面もうもうと煙る暗闇の中、ジンタの耳に二人の少女の驚いた声が響いた。

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