初勉強会です。ー1
勉強会編、スタートです!
苦手な三人称でいきます。
心花ちゃんと新しい友だち三人の穏やかな日々!
なるべく甘さを目指して、ほのぼの穏やかに描いていきます!
月見心花は、とてもご機嫌だった。春の陽射しを浴びる窓際の席。そこに座る心花の周りに、三人の生徒がいる。
窓枠に腰掛けているのは、天才と呼ばれている和泉彰弘。少々人間性に欠けていてロボットのように無表情で怖いと評判の彰弘は、一枚の紙を険しい顔で見つめている。
前の席の蓮田杏も、心花と向き合うように座り、一枚の紙をしかめた顔で見つめていた。
しかし、心花だけは笑顔だ。
にこにこにこにこ。
例え三人が険しい顔をしていようが、心花はそばにいることが嬉しくてたまらないからだ。ここ毎日頬が緩んでいる。
そして、もう一人。
窓とは反対側に座る矢田圭太郎もまた数枚の紙と睨み合っていたが、心花の緩んだ顔を見るなり怒り出す。
「にやけてんじゃねー!!」
パシンッ、と紙を机に叩き付けて怒鳴る。心花はビクリと震え上がった。
「見ろよこれ! 赤点じゃねーか! どうやってアンタこの学校の入学した!?」
「ひうっ、ごめんなさいっ!」
圭太郎が指差す紙は、返されたはがりのテストの答案。月見心花の名前の隣に書かれた点数は全て赤点だ。
「信じられねぇ! この学校で追試するが生徒が実在するなんて……」
追試を言い渡された心花に、圭太郎は疑いの眼差しを向ける。
心花はすっかり恐縮した。
「……君にはガッカリだよ」
はぁ、と溜め息をついて答案用紙を返す彰弘も、呆れた眼差しで心花を見下ろす。
また心花は恐縮した。
「中学も寝てばかりだったんでしょ? 成績大丈夫だった?」
「……ギリギリ」
杏も答案を返すが、特に怒った様子もなく心花に問う。少しほっとする心花は、苦笑しながら答えた。
中学の成績はかなりギリギリではあったが、無事に入学出来た。
「なんでこの学校選んだんだよ?」
圭太郎は目を疑う赤点を睨みながら、夢を見るために居眠りばかりする心花の志望理由を問う。
「あ、お母さんの母校なんです。伯父さんが高校には必ず行けって言うから、他に行きたい高校もなかったので、頑張りました」
へにゃ、と顔を緩ませて心花は答える。
亡き母の母校。
それを聞いて、圭太郎も杏も少し顔色を変えた。
心花が居眠りばかりをするようになった原因。両親の事故死。
居眠りをするため、学力も下がった。しかし偏差値の高い母親の母校に入学したために、健気に頑張ったらしい。
「あー……えっと……」
圭太郎は怒りすぎた口を押さえて、謝ろうとした。しかし、謝罪の言葉より、他のいい案を思い付き口にする。
「追試はいい点とれるように、勉強教えてあげるよ。月見さん」
「えっ!?」
その提案に、心花は驚き目を見開く。
「そ、それって、勉強会をしてくれるってこと!? わた、わたしと!? 初めての勉強会を!?」
「アンタどんだけ友だちに飢えてるんだ!?」
キラキラと大きな目を輝かせた心花に、圭太郎はギョッとする。
成績の危機よりも、勉強会に食い付く。追試を言い渡されても、杏達がいるだけでもにこにこしてしまう。
両親を亡くして以来、初めての友人に勉強を教えてもらえることは心花にとって輝かしいものだ。
「はぁ、まぁいいけど。図書室でやるか」
ただ勉強を教えるだけで大袈裟に喜ぶ心花に、投げやりな態度を見せて圭太郎は立ち上がる。
「わたしはパス」
「は!? なんで!」
次に立ち上がったのは、杏。断るため、圭太郎は信じられないと問い詰める。心花を見捨てるのかと言わんばかりに指差す。
「なんでって。わたしは部活だもん。ダンス部終わったら、用事あるし」
鞄を肩にかけながら、杏は淡々と答えた。
「用事ってなんだよ。カレシもいないくせに。月見さんが心細い思いしてもいいのか!?」
「いや、カレシならいるけど」
自棄になって噛み付く圭太郎に、杏は顔色を変えずに返す。
その回答に、圭太郎は絶句した。
「なっ……う、嘘、つくなよ……。アンタ、男嫌いだろ?」
動揺しつつも、圭太郎は杏が嘘だと認めることを待つ。
美人に分類される顔立ちの杏は、あまり異性と関わらない。時折近寄るなと言わんばかりのクールな雰囲気を纏う杏を、圭太郎を含めたクラスメイトは男嫌いだと認識していた。
「私が男嫌い? 違うわ、私は大のイケメン好きよ」
杏はきっぱりと言い放つ。
「俳優は佐○健がタイプだし、アーティストの○クトも好きよ。海外の俳優だと」
「わかったよ! アンタの面食い度はわかった!」
杏の好きなイケメンなどどうでもいい圭太郎は止めた。
「カレシもイケメンよ」
「うるせーよ、もうっ! 行けよリア充!!」
「あはは、おめでとう。これで君も正式に非リア充よ。矢田くん」
鬱陶しくなった圭太郎は追い払おうとすると、杏は面白がって笑った。
「ごめんねー、心花ちゃん。学年トップとツーに教えてもらって、頑張ってね」
心花の頭を撫でて笑いかけると、杏は部活に向かう。教室から出るまで、頬を赤く染める心花は手を振って見送った。
「くそー、アイツはリア充かよ。俺は別れたばっかなのによー……」
「正確には交際を解消された、でしょ」
「うるせ、和泉。黙ってろ」
心花の机に突っ伏すると圭太郎は涙声を出す。彰弘の指摘は一蹴する。
圭太郎は心花の予知夢を確認するために、交際相手に詰め寄った。結果、もとからいた本命の恋人を選び、圭太郎と交際を解消。
圭太郎は浮気相手だった上に、フラれてしまい、プライドはズタボロ。
デートの予定がなくなった圭太郎はこの通り。心花グループに入り浸っている。
突っ伏する度に、心花は励ますために頭を撫でてくれる。それが密かな目的だということは、圭太郎自身まだ自覚はしていない。
「……」
小さな手で頭を撫でられた圭太郎は、少し気持ちよさを感じる。
心花も天然のブロンドに触れることができて、にこにことした。
そこで、ぺしっ。
心花の手を彰弘が掴んで、撫でることを止めた。
「早く行こう」
「あ、そうですね! よ、よろしくお願いします!」
急かす彰弘と圭太郎に頭を下げて、心花は改めてお願いする。
しかしもう片方の心花の手を、圭太郎が掴み止めた。
「待て。なんで和泉は当然のように行こうとしているんだ?」
圭太郎は立ち上がり、軽く睨み付ける。
「……僕は君より頭がいいから」
少しの間考えて彰弘は簡潔に理由を答えた。
今回の試験も、彰弘は満点をとり学年一位。圭太郎は負けて学年二位。
当然、腹が立つ圭太郎は、ギロリと鋭く睨み付ける。
間に挟まれた心花は、オロオロと二人を見上げた。
「どう考えても、お前は他人に勉強をわかりやすく教えること、不得意だろ!」
わかりやすく、を強調して吐き捨てる。
その圭太郎に、彰弘は顔色を変えずに言い返す。
「確かに僕には、赤点をとる月見さんに勉強を教えようとしても、彼女の頭は理解できないだろう。だが、君の間違いなら正せる。誤って君が間違いを月見さんに吹き込まないように見張る」
「!!」
更に頭にくる発言に、圭太郎はわなわなと震える。
「俺がっんなこと吹き込むわけないだろ!」
「間違えないなら、試験で減点しないはずだろ?」
「黙れロボット!」
「二人とも落ち着いてくださいっ!」
今にも掴みかかりそうな圭太郎を止めて、心花は慌てふためく。そんな涙声に、圭太郎は必死に怒りを抑える。
「あの、あのっ……あのぉ、喧嘩は……どうか……。勉強会は無理しなくてもいいのでっ」
涙目でオロオロとする心花を見て、圭太郎が更に顔を引きつる。
このままでは、心花が泣いてしまう。更には追試も落ちる。
ここは圭太郎が寛大になるべきだと、自分に言い聞かせた。天敵、和泉彰弘が一緒にいることは、大した問題ではない。そう暗示をかけた。
「いや、俺と……わ、和泉と……勉強会をしようぜ、図書室で」
怒りを鎮めて、無理矢理笑顔を作る。すると、心花の顔に花が咲いたように笑みが浮かんだ。また目を輝かせて喜ぶ心花を見て、圭太郎は癒された。
「全く、時間の無駄だ。行くよ」
その癒しを粉砕する彰弘の余計な一言。
心花は彰弘に先導されて教室を出た。心花のもう片方の手を握る圭太郎も続く。
「なんでお前が当たり前のように手を引いてるんだよ!」
「無駄話が多い君に任せていたら夜になる。急ぐよ」
再び喧嘩腰になる二人に挟まれていたが、勉強会で頭が一杯になった心花は笑顔のままだった。
そんな心花を、男子達は勇者だと心の中で思う。
しかし、女子達は全く別のことを心の中で思っていた。
20141224