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宮西は様々な情報を整理していき、道化の奇術師から離れていくように足を動かす。道化の奇術師から目の付きにくい建物の影に隠れて、『輪廻の三銃士』と『防御』の数式魔法を組んでいく。
が、目の付かない建物に隠れたのにも拘らず、音もなく道化の奇術師が宮西の右隣に現れた。
「逃げられると思わないでよ! どこまでも追いかけ回してあげるから!!」
しかし、宮西は冷静だった。ペンを持った左手はひとりでに道化の奇術師の胸元を強く押しのけ、宮西は一歩後退し右手に持ったトランプを投げ付け、彼女の前で音を立て爆発した。
「痛っ――――!!」
宮西の心を読み取ったのか、一歩退くことによりダメージを軽減させた動きを見せたものの、道化の奇術師は魔法による衝撃によって身体を薙ぎ倒された。|愛しの魔女によって受けた胸のダメージに手を当て、唸り声をあげた彼女。
(やっぱり魔女の勝手な動きは読めないのか……)
宮西は道化の奇術師とは距離を置きながらも、足りなくなった『気まぐれな振る舞い』を、トランプを触ることで充填する。そして十メートル強の距離を置き、背後の彼女と攻撃範囲を確認しながら小走りで距離を取っていく。
(そもそも攻撃範囲内でも、道化の奇術師に僕の心が読めない時間が存在する)
それは道化の奇術師が具体的な作業を伴っている時間。人間同士の会話時を想像すると分かりやすいかもしれない。単純に人同士が向かい合って話をすれば、会話内容の難易度はさておき内容はスッと頭の中に入り会話のキャッチボールが可能だ。しかし、もしコンピュータの前で書類を作成していたり電話で第三者と会話していたりするときに、果たしてそれは可能だろうか? 答えはノーだ。要するに、心の声を聴くのにも集中することが必要なのだ。
(さっきは攻撃範囲内で僕は次の手を考えたけど、道化の奇術師は気が付かなかった)
なぜならば、道化の奇術師が上から降り注ぐ瓦礫を相手にしていた時間だったから。
再び背後を見れば、道化の奇術師が痺れを切らしたように歯を食いしばった表情で、
「この程度、ひとっ跳びなんだから!」
そう叫び、道化の奇術師は手に持ったレイピアを地面に思い切り叩きつけ、素早く宮西に飛んでいく。だが、宮西はトランプを乱暴に背後に投げ捨てた。
「――――ハァァッ!」
道化の奇術師がレイピアを構えトランプを叩き切った次の瞬間、ボンと音を立ててトランプが爆発した。
大きなダメージを背負った様子を見せない道化の奇術師。しかし、
「……狙い通り!」
彼女はそれによって減速し、再び宮西との距離を離されてしまった。
「チッ!」
小さく舌打ちした道化の奇術師。今度はレイピアを宮西に向かって投げつけた。
だけれども、
「『気狂いの拳闘士』にだって弱点は存在しますよ!」
宮西はレイピアが飛来するのを確認し、そうして焦ることなく横に逸れた。たったそれだけの動作でレイピアは当たらない。
ここまで見てきたことをまとめれば、レイピアは野球の変化球のように曲がることなく直線状に飛んでくるだけ。スピードだって速いとはいえども光、いや、音にすら敵わない速度。運動神経の悪い宮西でも、ある程度のコツを得てしまえば避けることなど容易。
足を動かすことを止め、その場に立ち止まった宮西。そうしてお返しと言わんばかりに、『輪廻の三銃士』を用いて『気まぐれな振る舞い』を道化の奇術師に、素早く一直線に飛ばしていく。
トランプが飛んできたことを察知した道化の奇術師は、レイピアを振り抜くことで飛んできたトランプを風で吹き飛ばすように避ける。
けれども宮西は不敵に微笑み、
「逃げても無駄ですよ。なんたって、僕が操っているのですから」
宮西は道化の奇術師から離れるように足を退いて攻撃範囲を調整。吹き飛ばされたトランプは風の動きを逆らうように大きく右に逸れ、再び空気に乗るように飛来する。そうして斜め前方に移動した道化の奇術師にトランプは飛んでいき、火花を散らせてトランプは爆発した。
目を強く瞑り両腕で顔を遮り、ロングの茶髪を闇夜にまき散らしながら道化の奇術師は地面を転がるように吹き飛んだ。
宮西は思う。
(いくら道化の奇術師が強くても、努力してきても、才能があっても、絶対に弱点がある。焦らずに、的確にその弱点を狙って……)
宮西は気を緩めることなく、ボロボロの姿の道化の奇術師に視線を追った。
「なかなかしぶといですね……。今ので気を失ってもおかしくないんですよ?」
ゆらゆらと起き上がる道化の奇術師。そして鋭い眼光で宮西を捉え、
「ああもうっ! 邪魔すんな! たかが十年ちょっとしか一緒に過ごしてないクセに! あたしは愛しの魔女と一緒になりたいだけなんだから!! イジメてやって、罵倒してやって、いーっぱい可愛がってやりたいんだよぉ!!」
「愛しの魔女――僕の夏姫を自分勝手なあなたに奪わせることなんて絶対にさせません。それに、僕だって死にたくありませんし」
宮西は今にも崩壊してしまいそうな少女に向けて、力強い口調で言い放った。
「……………………」
グッと押し黙り、目を細めて強い視線を投げかけた彼女。
「……チッ、もうどーにでもなーれ」
突然肩の力を抜いた道化の奇術師、そして彼女は標的を宮西ではなく――ビルに変えた。
宮西の周囲にあるビルを、規則関係なく滅茶苦茶にレイピアで壊しまわる道化の奇術師。それにより当然、コンクリートの破片が雨のように宮西に降り注いでいく。
(一つでも大きいのに当たるとマズイ……!!)
魔法『防御』、そして左手の指示に従い、的確に大きな破片を躱していく宮西。先ほどのように『防御』でも防ぎきれないような、巨大なビルそのものが倒れてこないのが幸いだった。
「とにかくここで決着を!」




