行間3
「イヤ! 離してよ! 離してってば!」
白々しい光を灯した街頭の下で、一人の少女が甲高い声で喚く。
付近にある中学校のセーラー服を着用していた、中学生とは思えないような発達の良いその少女。背中にまで掛かる茶髪を振りまいて、掴まれる胸ぐらを必死に振り解こうとしていた。
「うっさい、抵抗するな」
バチンと少女の頬が叩かれ、甲高い声が一瞬止む。
女子中学生の胸ぐらを掴んでいるのは、これまた少女と歳が近そうな金髪の少女だった。
その金髪の少女には見覚えがあった――――憎たらしいほどに。絶対に忘れもしない顔が揺れる瞳に映り込む。
「そんなか弱い女子中学生を演じてないでさぁ、ロジックを使うなり抵抗しなよ。それとも、十五年間のぬるま湯生活で闘い方忘れちゃった?」
金髪の少女は女子中学生の胸元から手を離したと思ったら、鋭角に曲げた右膝を彼女の鳩尾に鋭く差し入れた。げほっと大きくせき込み、茶髪の少女は膝から崩れ落ちた。
「…………ちゃん、……助けて……」
蚊の鳴くような声で、目の焦点を合わせることなく上の空で呟く女子中学生。
その一言に強く反応した金髪の少女、悔しそうに奥歯を強く噛み潰した。
「ナニしおらしく助けを求めてるんだよ! 魔女だろ! 非力で何もできない弟に助けを求めるなんて……」
その後も『弟』に助けを求める言葉を、鉄分の含んだ口から弱弱しく漏らす茶髪の少女。
「うっさい! うっさい! うっさい! 素直にあたしのものになればいいものを!」
横たわる女子中学生の腹部を何度も蹴り倒す金髪の少女。女子中学生はやがて涙を流し、
「……うえぇえん……京ちゃん……、愛海ちゃん……、離れたくないよぉ……」
金髪の少女――――道化の奇術師は絶句した。やがて、呆れたように乾いた笑いが漏れた。
「ははっ、あたしの知ってる魔女ってこんなに弱かったっけ? 『私だけの図書館』で整理した知識は? 『達人の腕鳴らし』であたしを殴らないの? ちょっとぬるま湯に浸かりすぎでしょ……。それに、そんなに弟を連呼して!」
這いつくばる女子中学生を、恐怖を与えるように睨みつける道化の奇術師。それでも、その名を呼ぶことを止めない茶髪の少女の腹を思いきり踏み潰し、彼女の意識を完全に飛ばした。
そして数度渇いた笑いを街頭の下で繰り返し――――口元が避けるようにニタリと笑った。
「あっ、そうだ、いいこと思いついちゃった……、そんなに弟が好きなら――――」




