表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《数式》により構築される魔法に満ちた仮想世界  作者: azakura
4章 愛しの魔女 LOVELY_WITCH
33/52

4-4

 しばらく二人で話をしながら歩いていると、昨日『キューブ』の説明会が行われた公園に辿り着いた。本日も色々なチームが説明会を開いているらしく、賑やかな様子を見せている。

 時間の経過とともに空もほとんど青さは見られず、一面がオレンジ色に染まっていた。しばらくしたら上空は暗闇で染まるだろう。


 宮西と冬森は公園の一角で売られていたクレープを購入し、近くのベンチで腰掛けともに頬張ることにした。


「う~ん、おいしいわね。やっぱりこれくらい甘さがないとダメなのよ。甘さ控えめって言葉は本当に夢の無い響きだこと」


 冬森が頬張るのはチョコクレープ。バナナと生クリームがたっぷりと入っていて甘さ全開のスイーツになっている。そしてベンチの傍にはブラックコーヒーの缶が据えられていた。


「あっ、意外とおいしいですね。これだけ甘いのにくどさは感じませんし」


 宮西が頬張るのはあんこクレープ。白玉と生クリームとあんこの食感がたまらない一品だ。

 ふと、宮西は目の先で開かれているチームの説明会に関心を持った。


「冬森さんと出会ったのも昨日のことですか……。なんだかずっと昔のことに感じますね……」


 しみじみと、クレープを頬張りながら宮西は呟いた。


「そうかしら? あっという間、というのが私の感想だけど? まあ、初心者の宮西くんなら慣れの問題で、R4(ここ)で過ごす時間が長く感じるでしょうけど。私は何年もここで過ごしているから、そこまで一日が長くは感じないのかも」


 最後の一口を最後まで満足気に咀嚼し、唇に付着した生クリームやチョコソースを、妖艶に舌を使って拭い取る。


「なんだかおばあちゃんの一言みたいですね……」

「うっ……、言ってから私も思った……」


 冬森が苦笑いするので、宮西もそれに釣られて笑う。そしてチーム説明会を遠見する宮西はある疑問を持った。


「そういえば冬森さんのR4を始めた経緯って何ですか? やっぱり魔法に興味があって? チームのリーダーになりたいと思ってとか?」


 冬森はその言葉を否定した。


「どっちも違うわね。まー、聞きたいなら聞かせてあげてもいいわよ?」

「話してくれるのなら、ぜひ聞かせてください。もっと冬森さんのこと知りたいです」


 意外な食いつきに驚く冬森だが、開かれている説明会を細目で一望し、


「分かったわ、そこまで聞きたいなら聞かせてあげましょう」


 そうして彼女は思い出に浸りながら、宮西に自分の生い立ちと『キューブ』の創設、黒川望未との一件について話をしてあげた。宮西は一言一句聞き逃さずに、冬森の話に耳を傾けた。


「……、これまた意外でしたね……。まあ、ブラックな冬森さんってのも面白いかもしれませんけど……」


 宮西は昨日のことを思い返した。たしか最上階で冬森とバッタリ会った時のことを。思いがけないときに彼女に絡んできたあのガタイの良い少年を倒したときの眼光は、かなり怖かったような気がする。ブラックな冬森さんが醸し出す雰囲気を変えるために、なごやかにパチパチと拍手をしたら、なぜだかさらに怒られてしまったが……。


「いやー、でも同い年なのにそういった貴重な経験をしているだなんて、やっぱり凄いですね」


 宮西が感嘆すると、なぜだか冬森が訝しげに彼を覗き込んだ。


「……同い年? どっからきたのよ、それ……。あれ? 宮西くん、高校組でも高二から始めたの?」


 あれ? 何だか会話が噛みあってない? 宮西は思った。


「あ……、冬森さんって僕より一個年上でしたか……。先輩だとは思わなかった……」


 冬森がぷっくりと頬を膨らまし、


「ったく、根拠がないわよ、それ。どうみても私、先輩として接してたでしょ? 宮西くんだって敬語でしゃべってたから、てっきり……」

「僕は誰にだって敬語でしゃべってますから。というか、どう考えても先輩としては接してなかったでしょ。僕に怒ってばっかりだったし」

「ムっ、聞き捨てならないわね…………。ははーんひょっとして、年上のお姉さんと接したことがないんでしょー? だから気づかなかっただけかもね」


 イタズラっぽく嘲笑う冬森。

 けれども、宮西の動きが止まった。そしてどこか沈んだ装いを見せる。

 予想外の反応に、思わず心配になったのか、


「どうしたの? 怒らせるようなこと言った? 気分を悪くさせるような発言なら謝るけど……」


 彼女の声にハッと、伏せていた顔を戻した宮西は、大丈夫ですよと言いたげに、それでも明らかに無理をしているように顔の形を作って微笑んだ。


「なっ、何でもありませんよ。ちょっと過去(むかし)のことを思い出しただけですから……」


 冬森は振動音が鳴るナビを確認し、そうして視線の先を宮西から真正面に移して、


「無理に話さなくてもいいけど、優しい先輩に話してみれば意外と楽になれるかもね」

「うーん、何か無理矢理話せって言ってるようなもんですよー、それ」まいったな、宮西は苦笑いを浮かべたが、「そうですね、冬森さんも過去を話してくれたし、僕も語りましょうか」


 だが、冬森は両脚を小さく振りかぶり勢いを付けてベンチから腰を浮かす。スカートがフワリと舞うようにクルリと、金の髪を靡かせながら振り向いて、


「宮西くんに見せたいものがあるの。だから、目的の場所(そこ)に行きながら話してちょーだい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=954037592&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ