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《数式》により構築される魔法に満ちた仮想世界  作者: azakura
3章 哀苦しく愛狂す  DEEP_LOVE_HEART
25/52

3-5

 取り残された冬森凛檎。


 けれども、そんな彼女に退屈する間は与えられなかった。


『――衣巧くんの邪魔をするなら、私があなたの邪魔をする』


 青髪の少年と宮西が走り去って、いざ冬森も動き出そうとしたところだった。どこからか女の声が廊下に響く。声の主を探そうと首を動かすと、ぞろぞろと床を踏み鳴らす足音が冬森の耳に入った。――――ざっと五十人強の人間が、冬森一人を囲っていく。


『みんな私の可愛い可愛いペットだから。それに、私の魔法でみんなの魔法を強化してあげてるの。さっきの階段のみんなと同じように考えない方がいいよ?』


 声の主は冬森を囲っているキューブの面々の中にはいないらしい。マイクのように何かを経由して冬森と話をしているのか?

 冬森は彼女を囲う操り人形たちは一旦置いて、声の主に返事した。


「特殊な電波の元はあなた?」

『分かるの? ……だからあなたたちに私の魔法が利いていないのね……。あなたには電波の知識があるの? 電波だって分かったのなら』


 不明慮にぼやく少女の声は聞き取りづらい。しかし、冬森は聞き取れる範囲で彼女に返す。


「ええ、基本的な電磁波の性質くらいは知っているのよ? いくら私の専門が解析学だからってね。あんまり私を舐めないでちょーだい」

『……そ、どうでもいいけど。そうね、あなたの言う通り、電波を張り巡らしているのは私。『手に撮る世界の命運(ハードラック)』でこの建物に存在する人間の記憶を弄ってるの。――全てはあなたという存在をみんなの心の中から消すために』


 操られているとも知らずに、彼らのリーダーを取り囲む|『キューブ』のメンバー《あやつりにんぎょう》たちは、冬森に威圧感を与えるように一歩を同時に踏み出した。


「――――言葉は世界そのもの、言葉をかたちづくるものは揺れ動く感情そのもの」


 その中の一人がポツリと唱えた。それに合わせるように、バチバチと掌で電気を起こしたり、身体から眩い光を放ったり、中には手に持った凶悪な武器で冬森に構えたり……。

 そして。


『――――ねぇ、『キューブ』のみんなに襲われるのはどんな気持ち?』


 その一言が引き金になった。

 冬森凛檎は敵の中心に立っているはずなのに、あろうことかゆっくりと目を瞑る。


「――――廊下一体の電気抵抗を零に」


 瞬間――バヂヂヂッ!! と青白い稲妻が目にも止まらない速度で廊下一体を走り抜ける。

 その稲妻は当然のように『キューブ』の面々をも襲い、黒焦げの彼らは音を立てて崩れた。


「……どんな気持ち、ですって?」


 数々の屍が廊下を埋め尽くす中、その屍たちに囲まれるように一人の少女が凛と立ち尽くしていた。少女は静かに歯を軋ませ、


「そんなの決まっているじゃない。これが私の答えよ」

『こっ、これって……。い、いいの? 大事な仲間なんでしょ? いくら操られているからって、簡単に傷つけるだなんてどうかしてるからっ……!』


 冬森は鋭く前を見据えて、


「『キューブ』を取り戻すためには駄々を捏ねてるだけじゃダメ。キレイごとを言わずに、たとえ『キューブ』が敵でも立ち向かわないと……って。それを気づかせてくれたのはアナタたちじゃない」


 脳裏に浮かぶのは銀の十字架で貫かれた五人の少年少女、そして黒川望未。そして、あの茶髪の少年が駄々を捏ねる彼女に掛けてくれた優しい言葉。

 冬森は二歩三歩、床に転がる屍を超えるように歩き出す。


「電磁波は電場と磁場が交互に織りなすベクトル。電磁波を構成する電気的なパラメーターはともかく、ベクトルの解析は私の得意分野。この空間を埋め尽くすベクトルの逆探知くらいはさせてもらうわよ」


 そうしてとある部屋の前まで足を運んだ冬森。ガチャリと扉を開ける。


 一人の、冬森に比べて一段幼さを見せる少女が部屋の真ん中でペタンと座り込んでいた。

 黒を基調としたゴシックロリータ、首元に掛かる程度の銀の髪に付けられた、大きな白と黒のチェックのリボンが服と相まって可愛らしく少女を彩る。切れ長の目は伏せがちで、色合いも兼ねて少女の全体的な雰囲気は暗い。


 冬森は鋭く目を細めて、一歩ずつ少女に近づく。


「私たちにしたこと、全部覚えているでしょうね? 全部吐かせてもらうから。泣いても吐いても、もがき苦しんでもね。覚悟しなさい」


 ゴシックロリータの少女は小刻みに唇を震わせ、冬森とは対照的に二歩三歩後退していく。


「……なっ、何を格好つけてるの? それがリーダーの気質ってもの? 強い魔法を持っているからそうやって振舞えるのよね? そっ、そう……。それじゃあ、もっと確かめないと…………」


 引きつらせた頬、震えた声で、彼女はパチンと右の指を弾いた。それに呼応するように、冬森によって倒された『キューブ』の面々が続々と、ゆらりと部屋に侵入してくる。

 しかし、冬森凛檎は動じない。そしてたった一言、


「何度やっても、何度確かめても無駄よ」

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