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《数式》により構築される魔法に満ちた仮想世界  作者: azakura
2章 恋すれば廃人  LIMIT_LOVE
20/52

2-10

 少年は硬直した。


 そして冬森はキョトンと真顔で胸元を見下ろす。そして、少年の指が胸元を押さえている真実を確認すると、顔を真っ赤にし、わなわなと肩を震わせ、


「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 甲高い女の声が、ロビー全体に響き渡った。

 当然、その階にいた十数人の学生たちの視線は一点に集中される。無意識に自分が大声で叫んだことをハっと我に返って確認する冬森は、その集中する視線に堪らなくなったのか、宮西の左腕を乱暴に掴み上げた。そして周囲の視線を振り払うように一気に目にも止まらぬスピードで走り抜け、そして階段を駆け上がっていく。


「ちょっと、冬森さん!!」


 あまりの足の速さに足をもつれさせそうになりながら、宮西は叫ぶ。


「うるさいうるさいうるさい!! うるさーい!!」


 宮西の言葉までも振り払うように、冬森は一心不乱に階段を駆け上がっていく。そして三階に到着し、近くの休憩室に駆けこむ二人。幸いその休憩室に人の気配はなかった。

 息を荒げた冬森は、連れて来た宮西の身体を壁に押し付け、真っ赤な顔を見られたくないからか、下を向きながら右の人差し指で彼の胸をツンツンと強く付き、


「な、ななななっ、何すんのよっ!? どうしてむっ、胸を触らせたのよ!!」

「…………」


 返答は帰ってこなかった。そのことに腹を立てたのか、ギロリと少年の顔を視界に収めると、ぐるんぐるんと目を回してふらふらの状態になっている光景が目に入った。


「バカバカッ! この変態ッ!! 息を切らせてないでさっさと弁解しなさいよォッ!!!!」


 壁に背中を預け俯きながら、必死に呼吸を繰り返すことに専念する宮西。そして息を整え、


「ふむふむ、どうも彼らは冬森さんのことを『キューブ』のリーダーだとは認識していないようですねぇ……。先ほどの彼の視線、冬森さんのことなんか単なる一人の人間としか見ていませんでしたし……」

「んなことは訊いてないのっ!! どうして私の胸を触らせたのか訊いてんのよォォ!!」

「えーとですね、たぶんそれは彼の反応を見るためだと思いますよ? 彼は取り乱しただけでした。怖がることなくですね。おかしいと思いません? 普通は自分らのリーダーの胸を触るようなことがあったら怖い、とまず思うでしょう?」


 冬森はむすぅ、と口を窄め、


「……むぅ……、もっと他の方法はなかったの……?」 

「……ドキッ☆元リーダーと出会いがしらの突然のキス! ……なんちって……」

「キッ……キス……!? バカッ、もっとマズイでしょ! ……というか、『たぶん』ってナニよ。まるで他人事みたいな言い方だけど……?」


「さっきのあれは僕じゃなくて、もう一人の人格がやったものですから、そこは誤解しないでくださいね? あんな反紳士的な行動はしませんから。あ、でも申し訳ありませんでした……。僕がもう少し周りを見ていれば起きなかったことですし……」

「デリカシーの足りない宮西くんが紳士的だなんて言えるかしら? 強いて紳士的だとギリギリで言えるのは顔だけよ。この、残念紳士!」


 腰に手を当て、眉をピクピクとさせる冬森。だが、そんな彼女に反して宮西はクスリと微笑んだ。


「……ナニ笑ってんのよ……、人がこんなに怒ってるのにぃ……」

「いやー、冬森さんが元気になったなーって。よかったよかった」

「どこが元気に見えるのよ……。デリカシーのないキミに怒ってるだけなんですけどー」

「まっ、いいじゃないですかっ」


 怒るのも疲れたと表情(かお)で見せつけた冬森は、はぁと一息ついた。


「ったく、どこまでも呑気なんだから……。ほらっ、他に推測できること教えてちょうだい」

「うーんと、他に……、皆さんの記憶がおかしい原因でしょうか? やっぱり魔法、ですね……? たくさんの人の記憶を変えてしまうような、そんな魔法?」

「さっきキミが言ってた『不正』ってヤツではないの?」

「ロジックは心に作用する超能力みたいなものですからね……。でも強力な能力なら、僕らにも能力が干渉するはずじゃ……」


 ふふっと冬森は、ほくそ笑むように口の端を動かした。


「普段は呑気なクセに、推理に関してはイイ線いってるのね、初心者の割にはだけど……」


 冬森の言いぐさに疑りを持った宮西。


「僕はロジックの初心者ではありませんけど?」

「いーえ、宮西くんが言った、『私たちにも能力が干渉するはず』という考え方のことね。この考え方は、初心者の割にはイイ考え方ってことよ? 魔法は発動する範囲が大きいほど精密性が失われていくものなの。だから、こんな大きい範囲の魔法なら私たちにも能力が干渉してくるはず。でも、今の私たちは無事。さーて、どうしてだと思う?」

「……わかりません」


 宮西の困り顔を伺い、うっすらと笑う冬森。


「干渉してくる特殊な電波を私が弾いたからよ」

「…………はい?」

「この建物に入ったときに分かったの。この建物全体には特殊な電波が張り巡らされているってね。詳しいことはともかく、敵の攻撃だってことは分かったの。私の魔法で電波を弾けたのだから、経験から言わせてみればこれは魔法の範疇だと思うわ」

「……全然気が付きませんでした……」


 この建物に入るとき、冬森は宮西の頭にデコピンをした。それが電波を弾いたのだろう。

 冬森の端正な顔つきには怒りという感情はすでに見当たらない。代わりに宮西を捉えるのは妖艶な笑み。


 彼女は上目使いで、白く細長い人差し指をピンクに艶を放つ唇にそっと当て、


「ふふっ、これが魔法なの。だから、特殊なチカラを持っているからって油断はしないでよ?」

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