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《数式》により構築される魔法に満ちた仮想世界  作者: azakura
2章 恋すれば廃人  LIMIT_LOVE
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2-8

 ピクピクと口の端を痙攣させ、今度は自主的に、力づくで笑みをつくりあげる冬森。こめかみにも三本の大きなしわができ、眉は吊り上っているのかいないのかの瀬戸際の状態だった。


「……ふっ、うふふふふふ……。しょっ、初心者が何を偉そうに……、何が分かるのかなぁ?」

「いっ、息を吸って吐いて、まずはそうしましょう! そうしないと殺され……いやっ! 何もないです! ほらっ、肺に空気を十分に送り込んで! 深呼吸、深呼吸!」


 宮西の言う通りスーハー深呼吸を繰り返し、溜まったモノを外に吐き出す冬森。


「……で、そう断言できるからには理由があるのよね? はっきりとした理由が?」


 冬森は訝しげな目で宮西をジーっと恨み節を含めて睨む。宮西はその視線を潜り抜けるように腰を小さく浮かして、お尻にあるポケットからトランプを取り出した。


「……?」

「今から簡単な手品をします。少しの間ですが付き合ってくれると助かります」


 言葉に詰まる冬森だが、ポリポリと頬を掻き、


「……はぁ、分かったわ。付き合ってあげる」


 宮西はニコリと笑うと、手に取ったトランプを数回切る。そして切ったトランプを裏返しに扇型に冬森に見せ、


「好きなカードを一枚取ってください。僕には絶対に見せないようにね?」


 言われた冬森は宮西に従い、適当に真ん中にある一枚のトランプを抜き取った。


「それじゃあ冬森さん、そのトランプを僕に見せないように触らせてください」


 抜き取ったトランプを、彼に従って表の絵柄を見せないように彼に触らせる。宮西はトランプの端をつーっと指でなぞっただけだった。


「抜き取ったカードを好きな所に戻してください。どうせ切るのでどこに戻しても関係ありませんけどね」


 なぞっただけ? 疑問を浮かべる冬森は、宮西と同様に彼が触った箇所を指でなぞってみたが、疑問が解消される様子は見せなかった。裏返しで扇型に並べなれたトランプに、今度はやや右寄りの箇所に抜き取ったトランプを戻す冬森。戻したことを確認した宮西は念入りにトランプを切り、左手の親指を使ってトランプ全体の端をなぞっていく。


 そうして彼が取り出したのはハートのキング。


「……うそ! なんで!」


 冬森は身を乗り出し、思わず目を丸くする。彼女は背後を素早く振り向きあちこち確認するが、満足いかない顔をした。


「タネも仕掛けもない手品です。いや、本当のところタネはありますけど、この手品は僕にしかできません」

「でもっ……、魔法を使ったようには……」


「そうですね、僕の自分の魔法(オリジナルマジック)は爆発の能力ですから。もちろんこの手品には応用できませんし。タネは別のチカラですね。――あの青髪の少年と同じような」

「……えっ?」


 トランプをベンチにそっと置き、宮西は話を続ける。


「さっき言いましたよね? 冬森さんは絶対に勝てないって。こういうことなんですよ。あの少年は特別なチカラを使っています。言い換えるなら、一種の不正をしてこのR4に参加しているのです」

「不正って……!? 〈アールクイーン〉はどうなるのよ!? そんなチカラなんて〈アールクイーン〉が一発で弾いておしまいでしょ!」


 完全制御システム〈アールクイーン〉。R4をあらゆる外敵から守る自立型コンピューティングシステムを利用した、人と変わらない知能をもったシステム。このシステムによって、外部からウイルスなどの外敵によってシステムに危害が加えられることはまずない。このシステムを突破できるのは開発グループにいる中でもごく少数の人間だけだと言われている。


「ここで言うチカラは、コンピュータで造り出したものではありません。現実世界でも使えてしまう、いわば超能力です。正式名称は『ロジック』、特定の人間にしか現れないチカラです」

「……なに、言ってるの? そんなもの、あるはずが……」

「まあ、知っている人はまずいないでしょう。僕だって、自分が発現しなかったら一生知らなかったでしょうし。えーっと、彼がロジックの使い手だって言える理由はあります。それは、このR4の中でもかなり上位の使い手である冬森さんの魔法が一切通用していなかった点、そしてあの能力が僕たちに働きかけたのは『心』にある点だと考えられます」


「……ここ、ろ?」

「彼の能力が、言ったことを強制的に従わせる類のものだというのは推測できますよね?」

「……ええ、『伏せろ』って言われたら私の意志に関係なく床に伏せられたわ。他にも……」


 黒川望未の、銀の十字架を用いた自殺。あれが特に顕著な例だった。あの十字架は黒川望未の魔法『白銀の封殺剣(シルバーソード)』で作り出したもので、あの場にいた『キューブ』の面々を傷つけたのも直接的には黒川だが、間接的にはあの青髪の少年の命令によるものだろう。


 冬森は露出した膝元を見るように俯きながら眉を寄せ、


「でも、『動きを止めろ』って言われてもキミの身体動いたわよね……? あれはどうしてよ?」

「彼の言葉が僕の心に投げかけたモノであることはあの時点で、直感で分かりました。そこでこう思いました、僕の身体の動きを別の人格に任せればどうなるか、ってね?」

「……さも二重人格でもあるような言い方だけど?」


 宮西はやや下方に目線を落とした。言葉を詰まらせて、


「それが僕のチカラです」


 本気で言ってるのか? 頭のねじでも吹っ飛んじゃないのか? と冬森は言いたげだった。

 彼女の予想通りの反応に、やれやれと苦笑いで肩をすくめる宮西。


「胸ポケットにあるトランプを取り出してみてください」宮西が冬森の右の胸元を指摘し、「表側を見てくれませんか?」


 トランプ? と口に、疑問符を顔に浮かべながらも、冬森は右の胸ポケットの中を弄る。たしかに彼の言う通り、トランプが入っていた。

 指で摘まんだトランプの表側をさっと観察する冬森、三つのハート模様を塗りつぶすように、何やら黒い点で一面が埋め尽くされている。


「ナニよこの黒い点は……?」


 トランプを目の高さに近づけて、彼女は凝視し――――


「まさか、これ!? ――――ぜんぶ数式魔法!! ……、これ全部手で書いたの? そんな、まさか……!?」

記述用紙(スペース)以外に数式を書きこんでも魔法が発現できることは知ってますよね?」

「だからってこんなに細かい数式をたった数秒で…………」

「未だにその正体は掴めていません。誰が僕の心に住みついているのか、そのヒントになるようなものを探し出すためにR4(ここ)に来たんですけれどね」


 冬森は宮西の顔と、手の持ったトランプを交互に眺める。


「結局のところ、冬森さんが不正なチカラに挑んで返り討ちにされるのはしょうがない、ということが分かってもらえたと思います」

「……じゃあ、どうすればいいのよ?」


 宮西はベンチを立ち上がった。そして穏やかにクルリと冬森を向いて、


「――――不正に立ち向かうためには、不正で立ち向かえばいいだけです」

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