行間1
始めは二人とも、何の変哲もない人間だった。
けれども、時が経つにつれて二人は愛しの魔女、そして道化の奇術師と呼ばれるようになっていった。いつの間にか二人は人間ではなく、人外とも呼ぶべき存在となっていた。
なぜなのか、それは千年近くも生き続けられればそう呼ばれるのも当然のことであろう。二人は時代の流れに身を任せ、この世界を転々としながら生き続けていた。
普遍的な人間を神に近い領域に踏み込ませてしまうことのできる概念――『ロジック』。
両者は当然のように、過程は異なるがこの奇妙な超能力とも呼べる概念を身に着けていた。
愛しの魔女と道化の奇術師は対照的な人間だった。
愛しの魔女は知識を蓄えることに貪欲で、知識の吸収を怠るようなことは決してなかった。語学、数学、歴史……様々な知識を得ることが彼女の生きがいになっていた。愛しの魔女のロジックも、そんな彼女を後押しするものばっかりだった。
対照的に道化の奇術師はどんな人間よりも、どんな生物たちよりも上の存在――神に近い存在になりたいと思ってロジックを習得した。それは世界を支配したいだとか、滅ぼしたいといったことではなく、単純に上に立って世界を見回してみたいという想いによるものだった。
――――しかし、道化の奇術師に転機が訪れる。
道化の奇術師は図書館で健気に勉強をしていた愛しの魔女に出会った。はっきりとした目標を持ち頑張るその姿は、漠然とした目標しか持っていなかった道化の奇術師の心を深く貫いた。次第に、魔女に対する溢れんばかりの感情を押さえられなくなってしまった彼女。
そして教会の上、互いがロジックについて議論しているとき――道化の奇術師は愛しの魔女の柔らかな唇に、己の唇をそっと重ねた。
深く、深く魔女の唇を貪るように味わう道化の奇術師。
だけれども、愛しの魔女は彼女の行為を許してくれはしなかった。涙目で道化の奇術師の頬を叩き、道化の奇術師の元から逃げ出してしまった。
明確な拒否を示されてしまった道化の奇術師。だが、それでも――欲しい、愛しの魔女が欲しい――その想いだけはずっと変わらない。
そして――ついにはロジックを用いて愛しの魔女の心を己の心の中に閉じ込めてしまった。
「――――やっと一緒になれたね、魔女ちゃん」




