ピースの海から
男は自転車を、彼女のアパートへ向かって走らせた。
彼女が何日経っても大学に来ず、メールの返事も無ければ電話に応答する事も無いのだ。
「ったく、もしかしてまだあのパズルに嵌ってんのか……?」
ぽつりと漏らし、焦燥感を覚えつつ男はアパートへ着く。
彼女の部屋の郵便受けには、郵便物とチラシが無理矢理押し込まれていた。
「大丈夫かあいつ……?」
男はチャイムを押すが、相変わらず彼女が出ることは無い。
男は、妙な胸騒ぎがあった。
合鍵を使い、急いで彼女の部屋の中へと入っていく。
いつも通りカーテンが閉まりっぱなしの、パズルが大量に置かれた彼女の部屋。
そして、組み立てたばかりと思われる大きなパズルを見ると、
「……え?」
そこには、笑顔の彼女が描かれていた。
「な、なんでこんなパズルが……冗談だろ?」
男は、彼女の名を呼ぶ。
彼女の部屋は、男以外誰もいない。
ふと、男はパズルに描かれた彼女を見て、パズル屋の店主が言った事を思い出す。
『完成すると、その人の『心』がパズルに写されるのです』
「心が写されたから、彼女の絵が……待てよ」
もしやと思い、ハッとする。
「心が……写されたんじゃなくて……移された?」
愛する恋人の魂は、自分が贈ったパズルの中に……。
「う……うわああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫しながら彼女が描かれたパズルを叩き、裂き、破壊した。
バラバラと、彼女が描かれていたピースが床に落ちていく。
「あっ……さ、探さなきゃ……そうだ、別の場所にいるかもしれない」
男は急いでアパートから出て、半ば発狂気味で自転車を走らせる。
デパートのパズル売り場へ。
玩具屋のパズル売り場へ。
あちこちのパズルが売っている場所を回ったが、彼女はいない。
「そうだ……あそこなら!」
男は以前、ミルクパズルを買った不思議な雰囲気のパズル屋を思い出す。
あそこに彼女がいなくても、あの店員なら何かわかるかもしれない……そんな希望を抱いて。
「そん……な……」
パズル屋があった場所は、空き地になっていた。
むしろ、建物があった痕跡すらない。
空き地の隣の駄菓子屋に駆け込み、男は切羽づまった様子で問う。
「この隣に、パズル屋はありませんでしたか!?」
「何、パズル屋? 昔からここでお店やってるけど、お隣にはなぁんにもないよ」
「嘘だ……」
「嘘も何も、この近くの店の事はなんでも知ってるけど、パズル屋やってる人なんて今まで一回も聞いたことないよ」
「……! そう……ですか……」
男は落胆し、おぼつかない足取りで店を出た。
そしてよろよろと自転車を漕いで、彼女のアパートへ向かった。
外は暗い。
部屋の中に入るが、彼女の姿は無い。
「くそ……」
あるのはバラバラに砕いてしまった、彼女が描かれていた大量のピース。
「俺は……あいつに……」
「あいつに、会いたい……」
男は、初めて自分でバラバラのパズルの前に向かい合った。
そして愛する彼女がやっていたように、ピースの海から1つ1つ探していく。
彼女の断片を、繋げ合わせるかのように。
長い時間、それを続けた。




