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真っ白なミルクパズル

男は2つの箱の入った袋を持ち、彼女が住むアパートのチャイムを押す。

1つはショートケーキが入った箱、もう1つは先日買ったジグソーパズルが入った箱。

そう、今日は男の彼女の誕生日だった。

その日は、彼女の家で一緒に過ごす約束をしていた。

しかし、彼女は一向に出てくる様子が無い。

「全く……よいしょ」

2つの袋片手に持ち、男はドアの鍵を開ける。

お互い、合鍵を持っているのだ。

もっとも彼女が男の家に行くことは少なく、男が訪問するばかりだったのだが。

「入るぞ、生きてるかぁ?」

男は靴を適当に脱ぎ、部屋に入る。

昼間だというに、カーテンはわずかな隙間を残して閉まっている。

パズルの箱や額に入れられたパズルが、乱雑に広がる狭い部屋。

そして部屋の中心には、ジグソーパズルに集中する男の彼女の姿があった。

絵は、既に完成間近だった。

「もしもーし、聞こえてる?」

「あと1枚……あと1枚埋めれば……」

震える手で、彼女が最後のピースを嵌める。

「やったぁーできたー!!」

両手を万歳して立ち上がり、覗きこむ男の頬に予期せぬ手刀が叩き込まれる。

「痛ぁっ!?」

「あれ、いつの間に来てたの?」

「全く……お前はほんとパズルの事になると回りが見えなくなるな」

「えへへ、ごめんごめん。でも見てよ、ついに完成だよ!」

男が絵を覗く。

完成した絵は、リアルな宇宙写真といったところか。

星屑はラメで出来ているのか、窓から差しこむわずかな日光でもキラキラと光っている。

「綺麗だなぁ……えっと、これは何ピース?」

「これは少ないよー、450ピース! でも、すごく楽しかったよ!」

心から楽しそうに朗らかな笑みを浮かべる彼女。

それを見た男は、無意識のまま彼女の頭を撫でた。

「お前はすごいなぁ……ところで、今日は何の日か覚えてるか?」

「え、なんだっけ……えっと、燃やせないごみの日?」

彼女は、見当違いな答えを述べる。

毎年、むしろ毎回、こんな調子で自分の身の回りの事よりもパズルに熱中していた。

しかしそんなふうに一生懸命パズルをする姿が、そして完成して子供のように喜ぶ姿が、男は好きだった。

「はは、どうせ忘れてると思った。お前の誕生日だよ、ほらプレゼント!」

「あ、そっか! うわー毎年ありがとー!」

「ケーキの皿用意してくるから、プレゼント開けてもいいぞ」

「うん!」

男は包装紙に包まれた箱を彼女に渡すと、台所へ向かっていった。

「今年もパズルかな、どんなのが入っているんだろ……楽しみだなぁ」

彼女の方はというと、期待に胸を膨らませながらリボンを解き、包装紙を丁寧に剥がしていっていた。

そして、真っ白な箱に辿り付く。

「あれ? もしかしてこれって……わぁぁ!」

その白い蓋を開け、彼女は感嘆の声を上げた。

「ほら、ケーキ用意できたし一緒に食お……」

「ねえ、これってミルクパズルだよね! ありがとう! 今までの中で一番嬉しいよ!」

「うおっ、びっくりした」

彼女の声で両手に持ったケーキを落としそうになり、慌てて体勢を立て直す。

小さなテーブルの上にケーキが乗ったを置き、男は彼女の元へ近づく。

「ミルクパズルって、なんだ?」

「あれ、知らないで買ってきたの? こういうなんにも柄が無いパズルの事、ミルクパズルっていうんだよー」

「へぇ、そうだったのか。そういえばこのパズル、完成した人の心だかがパズルに写るらしいぜ」

「わぁ、なんだかお伽話みたい」

彼女は無邪気に笑う。

それにつられて、男も笑い出す。

「そうだな、魔法のパズルって事だな。お前が作れば、それは綺麗な風景が写るんじゃないか?」

「まったまたーそんな冗談!」

「冗談なんかじゃねーよ。それより……誕生日、おめでとう」

「……ありがと」

彼女は自然と、朗らかな笑顔になる。

何よりジグソーパズルは大好きであったが、それと同様に、むしろそれ以上に男を愛していた。

「ほら、ケーキ食ったら早速そのミルクパズルをやってみたらどうだ?」

「うん!」

そして男と彼女は、ケーキを食べながら幸せの中で語り合った。


食後、彼女は早速ミルクパズルに挑戦した。

染み1つない真っ白なピースは、組み立てるのに相当な時間がかかるだろう。

しかし、彼女はその時間さえも楽しみにしていた。

「まず端っこを全部見つけて……ふふ、絵が無いからこれは大変かも」

「俺も手伝おうか?」

男は横から眺めながら、手伝う気もないのにそう言う。

「ううん、こういうのは自分で完成させたいな!」

「だろうな。じゃあ俺は冷蔵庫の物で適当になんか作っとくよ」

「……」

既に、彼女から返事は無い。

早くも集中モードに入ったのだろう。

「さて、今日は何作ろうか……」

男は何品か料理を作りながら、時たま彼女がミルクパズルのピースを探す姿を眺めた。

彼女の目に、男は映っていない。

しかし真剣に、そして幸せそうにパズルのピースを埋める姿は男にとって、とても愛らしいものに感じられた。

「パズルに集中するのもいいけど、飯だけはちゃんと食えよー」

男が言うが彼女は応えず、パズルに夢中だ。

「……全く。それじゃあなー」

そして男は彼女のアパートを出て、鍵をかけた。

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