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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第一章
5/10

希恭の決断

「…ょう、恭」

「え、ああ、何?」

「聞いてなかったのか?」

 何を話し掛けても上の空の希恭に、佐理は責める訳でもなく静かに言った。

「ごめん…」

希恭はおどけるように顔の前で手を合わせてみせる。

佐理はそれに釣られることなく冷静に

「恭…どこか具合悪いんじゃないのか?」

と尋ねた。

「え、そんなこと無いよ…」

とは言ったものの、佐理の質問に少し動揺した希恭は無意識に視線を逸らせていた。

佐理がそれに気付かない訳はなかったが

「それなら良いけど……」

と言って微笑んだ。

 佐理はここのところ、希恭の元気が無い事が気になっていた。

何をしていても上の空だったり、時折、物思いしている様にぼんやりと遠くを見ていたり、それでどこか具合が悪いのではないかと内心心配していたのだ。

(恭は俺に嘘は吐かない…だとしたら……)

 佐理は他に思い当たるフシが無い訳ではなかった、希恭の様子が変わったのは米倉の課題をクリアした頃からなのだ。

そして…それが的中していたことをこの数日後に知ることになる。


 金曜の放課後、葉月が集会の終わりを告げた時、それは起こった。


「他に無いなら今日はこれで解散する」

 葉月がそう言った時、不意に希恭が

「あの、お話しが…」

と言いながら歩み出た。

「何だ?」

葉月が怪訝な面持ちで尋ねた。

「あの…ビジルを脱けさせてください……」

静かに問い掛けた葉月に、希恭が意を決したように言った。

「恭……」

 佐理は突然の事に一瞬目を見張ったが、直ぐにまた何時もの顔に戻っていた。

「俺…メンバーを抜けたいんです、お願いします」

希恭は葉月に向かって頭を下げた。

「星河、お前…自分が何を言っているのか分かってるのか?」

皆川が希恭を窘めるように言った。

「分かってます。でも…これ以上メンバーとしてやっていく自信が無いんです、自分が…自分のやっている事が許せなくて……」

希恭はそう言って俯いた。

「許せない?大層なことを言ってくれる、じゃあ…俺達のことも許せないって訳だ、お前は一体何様のつもりだ?」

葉月はそう言いつつも至極冷静だ。

「俺は別にそんなつもりじゃ……」

「じゃあ、どういうつもりだ?」

葉月はそう言うと、希恭を見詰めたまま意識だけを佐理に移して

「佐理、聞いてたのか?」

と尋ねた。

「いえ、何も…」

佐理が短く答えると、葉月は一度だけゆっくり瞬きをしてから希恭に意識を戻して

「佐理にも相談無しか?」

と、皮肉を含んだ口調で言った。

それには、お前なんか“佐理の付属品に過ぎないんだぞ”という葉月の思考が含意されていた。

「これは俺自身の問題です」

希恭はキッパリと言った。

「分かった。それならお前に課題をやろう、それがクリア出来たら脱けさせてやる」

「課題…?」

「そうだ、こちらとしてもタダで脱けさせる訳にはいかないからな、でないと他の者に示しがつかん」

「クリアすれば脱けさせて貰えるんですね?」

「但し、カードは無しだぞ」

「分かりました、それで課題は?」

「そうだな…“自殺”でもして貰おうか、と言っても未遂だが」

 頬杖を付いた葉月が悪びれもせず答えた。

「なっ…!!」

それを聞いた希恭は驚いて葉月をにらみ付けた。

「ビジルを脱けるからには其れなりの事はして貰う、勿論、命は必ず助けてやるから心配する事は無い」

葉月は平然として言った。

「お断りします!!いくら何でもそんな無茶な課題承けられません!」

希恭は、いとも簡単にそういうことを言ってのける葉月に怒りを覚えて、思わず語気を強めていた。

が、葉月は相変わらず冷淡で

「なら諦めるんだな」

と、せせら笑うように言った。

「話しにならない、とにかく俺は…課題も承けないし、ビジルも脱けます。では…これで失礼します」

希恭は最後の礼を尽くす意を込めて深く頭を下げると、直ぐさま部屋を出て行った。

 葉月は希恭の後ろ姿を黙って見送っていたが、希恭が居なくなると佐理を側へ呼んで

「本当に何も聞いてなかったのか?」

と尋ねた。

「はい」

佐理は葉月の問いに短く答えただけだった。

「そうか、それならお前に時間をやろう、そうだな…お前に一週間やる、その間に星河を説得しろ、出来なかった時は星河を制裁する、いいな?」

葉月は頬杖を付いたまま佐理を見上げて言った。

「分かりました。では、僕もこれで失礼させて頂きます」

佐理は軽く会釈をしてから部室の隅にある棚に置かれた鞄を二つ取り出すと、その足で希恭の後を追ったのだった。






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