葉月
「今朝の騒ぎは本当に傑作だったな、教頭のやつ『3日以内に名乗り出るように』だってよ、まるで茹で蛸みたいになって…おかしいったらないね、そう思うだろ?」
何時ものように月曜の放課後の集会の後で、呼び止めておいた佐理に向かって葉月がニヤニヤしながら尋ねるように言った。
佐理はそれには答えず
「また葉月さんが名乗り出るんですか?」
と聞き返した。
すると葉月は
「ああ、俺だって言えば教頭のヤツ何も言えなくなるからな、親爺様々ってやつだ」
と、鼻で笑いながら言った。
「ところで…」
話題を改めるように葉月がそう言った時、葉月の表情がガラリと変わった。
楽しげな笑みは消え、感情の無い、それでいて鋭い眼差しが佐理に向けられた。
「お前だろ?」
「何がですが?」
葉月の質問に佐理はごく自然に答えた。
「惚けるな、米倉が暗所恐怖症だって事は分かってるんだ、アイツが独りであの課題をやれる訳がない」
葉月は机に両肘を付いて、顔の前で指を組んでからもう一度
「お前がやったんだろ?」
と聞いた。
「いいえ、米倉はちゃんと課題を実行しました」
顔色一つ変えずに答えた佐理を見て、葉月は少し間を置いてから
「お前は……綺麗な顔をして平気で俺に嘘を吐くんだな?」
と言った。
「そんな、嘘なんて…」
佐理の表情は穏やかだ。
「まぁ良い、今回はそういう事にしておこう…佐理…」
「はい」
「俺はお前が可愛い、だから…一つだけ言っておく、俺が会長でいる間は俺の意に背くような事はするな、でないと…お前の大切なものが傷つく事になるぞ」
葉月は真っ直ぐに佐理を見詰めたまま、低くしずかな声で脅しとも取れるように言った。
佐理は“ハッ″として葉月を見直ったが、葉月は意に介さなかった。
そして何時ものように
「帰っていいぞ」
と言って立ち上がると、佐理をそこに残したまま先に部屋を出て行った。
それから暫くの間、何事も無く穏やかな日々が過ぎていった。
一つの気になる事を除けば……




