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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第二章

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マンションでの出来事

「あの、どうしてあんな事したんですか ……?」

 充の口調が少しキツくなった。

「あんな事……?ああ、写真の事か……そんな事を言うために来たのか?」

佐理は惚けるように言った。

「僕はちゃんと課題をクリアしました」

「分かってるよ」

佐理はそう答えると、コーヒーを口に運んで一口飲んだ。

「だったら何故……!?」

「お前じゃ無い!」

 充の言葉を遮った佐理の眼が、またあの冷ややかで怪し気な輝きを放ち始めた。

「僕じゃない?」 

「希恭だよ、希恭が……課題を拒否した」

佐理は目を伏せてカップを置いた。

「え……何時?いつ恭兄を呼んだんですか?」

「月曜だ」

「月曜……知らなかった……」

充が呟いた。

「でも……僕は自分がやった事だから仕方ないけど……恭兄の事であんな写真貼り出すなんて酷すぎます、それでなくても綾さんに誤解されて……」

「お前も希恭と同じだな、他人ひとの心配より先に自分の心配をしろ。うちの学校……結構多いからな、現に希恭にも何通か手紙が来てたし……まぁ希恭は年下から慕われるタイプだから別に心配する事も無いだろうけど……お前はな……」

佐理は抗議する充を見直って薄ら笑いを浮かべている。

「僕は……何なんですか?」

充はムッとして聞き返した。

「襲われるタイプだから……気を付けたほうが良い……」

佐理が冗談とも本気ともつかないように言った。

「しっ、篠宮先輩!!」

 充はカッとなって思わず立ち上がった。

「どうした?耳まで真っ赤だぞ……想像したのか?」

「ちっ、違います!!」

充はムキになって答えた。

「なんなら……」

 佐理はそう言いながらテーブルを押し退けて立ち上がると、充の肩を掴んで後ろを向かせた。

それから充を抱きすくめて耳許で囁く。

「なんなら……俺が試してやろうか……?」

 ハッとした充に佐理の反応は速かった。

気付いた時には佐理の手が充の手首を掴んでいて、逃れようとする充より一瞬速く腕を後へ捻り上げた。

「くあっ……!!」

 痛みに体を仰け反らせた充に息つく間も与えず、そのまま押し下げていとも簡単に跪づかせ、床にねじ伏せるように押し倒してその上に馬乗りになった。

「は、放して下さい……!!」

充はジタバタともがくが、どうにもならなかった。

「だから言っただろ、他人が居ないと何をするか分からないって……君が油断するからいけないんだよ、人間……後ろはまるで無防備なんだから気を付けないととんでもない事になる……」

佐理は小馬鹿にするような口ぶりだ。

「こ・れ・く・ら・い……」

 充は歯を食いしばって空いている手で片肘を付いて体を起こそうとしたが、佐理に腕を強くねじ上げられると、否応なしに床に伏さざるを得なかった。

「あうっ……」

充は床に頬をすり付けたまま拳を握り締めた。

 佐理は馬乗りのまま充の喉元へ手を伸ばす。

「暴れるな、殺すぞ……」

低く静かな声は充を震撼させるには充分だった。

「あぐっ……くる……し……」

充はゾッとした。

「お前を絞め殺すくらい……簡単な事だ……」

そう言いながらも、佐理は充の喉元から手を引いた。

「う、ゲホッゲホッゲホッ……ハァハァ……」

充は激しく咳込みながら大きく息を吸い込んだ。

(この人絶対変だ……イカれてる……)

 佐理は充の様子にはお構い無しに充の耳元へ顔を寄せた。

体重が一気にのし掛かってくる。

「どうだ、男にレイプされる気分は……?なかなか屈辱的で素敵だろ?さあ……心の準備をしろ……」

低い声でそう囁くと、佐理は充の首筋に唇を這わせていった。

「うわあああぁぁ――――ッ!!」

 腕をねじ上げられているのと佐理の体重で身動きが取れない充が、それでも必死で逃れようともがいた時、スッと体が軽くなった。

 体が自由になった充が反射的に身を起こして振り返ると、佐理は腕組をした手の片方を口許へ添えた格好で充を見下ろすように立っていた。

「クックックッ……冗談だよ、冗談……俺にその気が有るなんて本気で思うなよ、悪いけど俺は出掛けたいんだ、遊びは終わりにしよう」

佐理は自分を見上げる充を眺めながら苦笑して言った。

「遊び……!?」

 充はそれを聞くと、カッとなって立ち上がるや否や佐理の顔めがけて思いっ切り拳を振るった。

が、やはり何につけても佐理の方が一枚上手だった。

体を開くように片足を引いて難無く身を躱し、スカを食らって体勢を崩した充の腹をめがけ引いた脚の膝を蹴り上げる。

「グワッ!!」

 充は唸りをあげ、腹を抱えて体をおり曲げた。

その充の髪を鷲掴みにして無理矢理顔を上げさせた佐理は、あのギラギラとした冷ややかな目で

「お前なんかに殴られるほど俺はヤワじゃない。俺に手を上げようなんて生意気にも程が有る……俺は暴力は嫌いだが……俺に逆らう奴は許さない、よく憶えておく事だ」

と言った。

 充は苦し気に顔を顰めたまま佐理を見詰めている。

「今日のところは希恭に免じて許してやる、希恭の悲しむ顔は見たくないからな……」

 そう言った後で佐理はふと、希恭を一番悲しませているのは自分ではないかと、内心自分を笑った。

 佐理は充にそこまで言うと、手を離して解放した。

充が体を起こして佐理の顔を見直ると、その目はもう穏やかな眼差しに変わっていた。

「俺は出掛ける。服直せよ、ほらネクタイが曲がってるぞ」

 ネクタイを直してやろうと差し出した佐理の手を、充は払い除けて睨みつけた。

佐理はそんな充にニヤリと笑い返してから、ソファーの背に掛けてあった上着を手に取った。

「早くしろ、出るぞ」

そう言いながら、早くも玄関へ向っている。

 充は慌ててネクタイを直し、服装を整えると、鞄を掴んで後を追った。

佐理は既に靴を履き、ドアを開けたまま充が出てくるのを待っている。

充も気忙しく靴を履いて玄関を飛び出した。

 ドアを閉めて二人でエレベーターに乗り込むと、佐理が急に思い出したように口を開く。

「どこかで何か食べてくか?未だなんだろ?お昼」

土曜の帰りの事なのでもっともな話したが、充は

「遠慮しときます」

と、ブスッとして答えながら(この人一体どういう神経してるんだ……?)と少し腹が立った。

「どうして?腹減って無いのか?育ち盛りなのに……」

 表示ランプを見上げていた佐理が横目で充を見遣って優しい声で尋ねた。

(この言い回し……恭兄と似てる……)

 充は何故かふとそう思って、つい佐理の顔を見てしまった。

佐理は優しく微笑んでいたが、さっきの出来事を思うと充の顔は強張らずにはいられない。

「帰って食べますから」

充は無愛想に答えて俯いた。

「そうか……それは残念だな……」

 そう言って少し俯いた佐理の声は心持ち淋し気で、人の良い充の気を引いた。

充はもう一度佐理の顔を見たが、佐理が横目で充を見て微笑んでいるのを見ると、また元の顰めっ面に戻ってしまう。

「そう怖い顔するな、もう何もしない。希恭が大切なものは俺にとっても大切だからな……あれでも一応手加減したんだぞ」

「えっ?」

 充はまた佐理の顔を見遣った。

(優しい目をしてる……)

充がそう思った矢先だった。

「怒った顔もなかなか可愛いかったよ、ミ・ツ・ル・君」

佐理がそう言って充の頬に軽くキスをした。

充は(あつ!!)と思ったが、それとほぼ同時に一階に着いたエレベーターのドアが開くのを見越していたのか、佐理はニッコリ笑いながら 

「じゃあな」

と言い残してサッサと降りてしまった。

「一体……何なんですかッ!!」

充が怒ったように叫ぶと、佐理は振り返ってまたニヤリと笑った。

そして通りへ出て歩き始めると、充の視界から見る間に姿を消してしまった。

(なんて人だ、どうかしてる……何を考えてるんだか……もう絶対信用なんかするもんか!!)

 充はこの日生まれて初めての酷い屈辱を味わった。

今まで恥ずかしい思いをした事は何度か有ったが、こんなに酷い思いをしたのは初めての事だ。

それにも増して、佐理に少しでも気を許した自分が情け無くて自己嫌悪に陥りそうだ。

 そんな思いを抱きながら、独り取り残された充は、エレベーターを降りてトボトボと歩き始めるのだった。









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