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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第二章

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16/19

充の訪問

 謹慎が明けて登校した希恭が昇降口で靴箱を開けると、結構な数の手紙が入っていた。

 男子部なので当たり前といえば当たり前だが、差出人は皆男だった。

(うちの学校って結構居るんだ……)

 希恭がそう思いながら手紙を鞄にしまっていると、不意に後で声がした。

「男にもなかなかモテるようだな?」

 驚いて振り向くと、佐理が嘲るような眼差しで希恭を見ていた。

「佐理……」 

「まぁ、精々後ろに気を付けることだ」

「どういう意味だ?」

「鈍いな、男に襲われないように気を付けろと言ってるんだ」

「佐理ッ!!」

 少し焦った様子の希恭をよそに、佐理は「フフン」と嘲るような笑いを残して先に教室へ向った。

あの夜の優しさはもう何処にも見当たらない。 

(また……突き放された……)

 希恭は佐理の心を計りかねて、また自分の気持ちを持て余しそうな気がした。



「えっと、グランドコーポはと……ここか、意外と近いんだ……」

 充は綺麗なマンションの門前から最上階を見上げながら呟いた。

佐理の住むマンションが自分の家から意外と近い事を改めて知ったのだ。

 アーチ形の門をくぐって大きな玄関へ入ると、左手に管理人室が有った。

正面にはガラスのドアがあってその奥にホテルのロビーのようなエントランスとエレベーターが見える。

 充は取手を掴んで開けようとしたが、ドアはビクとも動かない。

充が戸惑っていると、突然横手で声がした。

「そのドアは開かないよ」 

「えっ!?」

 充が声のした方を見ると、管理人室の手前に有るカウンターの内から制服を着た少し年配の男性がこっちを見ていた。

「どなたかに面会かね?」

「はい。篠宮さんに会いたいんです」

「待ってなさい、今連絡してあげるから」

 管理人がカウンターの内側の内線電話を取ってから充に言った。

呼び出しをしている間に管理人が充に尋ねる。

「君、名前は?」

「椎名、椎名充です。学校の後輩の」

「あ、篠宮さん、管理室です」

電話が繋がったようだ。

「面会の方がお見えになってます。はい、椎名君という学生さんです……はい……分かりました、お通しします」

 管理人は受話器を置くと充に向って頷いた。

「確認が取れたからドアを開けるよ、どうぞ」

 充は取手を掴むと、様子を見るようにゆっくりとドアを引いてみた。

今度はスムーズにドアが動いて充の前に大きな口を開けた。

「ドアを閉めると自動でロックが掛かるから気を付けて」

 管理人が充に注意を促した。

「有難う御座いました」

 充は管理人に礼を言うと、中へ入ってエレベーターに乗り込んだ。

 10Fのボタンを押す。

重力に逆らって押し上げられる体を引き戻そうとするように床に向って押しつけられる感覚を内臓に感じながら、開閉口の上を移動する赤い表示ランプに目を凝らした。

 エレベーターが停止する寸前に一旦フッと浮き上がるように体が軽くなるのを感じると、今度は逆に降りていく錯覚に陥って胸が悪くなる。 

それが直ぐに収まって重力が正常に働きだすと、完全に停止したエレベーターのドアが開いた。

 降りてみると正面に一つだけドアが見えた。

横の壁には篠宮と書かれたプレートか有る、どうやらこの階はワンフロアらしく、他にドアは見当たらなかった。

〔ピ〜ンポ〜ン〕

 充がインターホンのボタンを押して暫く待っていると、ドアが開いて佐理が顔を出した。

「意外な事も有るもんだ、そんな所に突っ立ってないで入れよ」

 佐理は充を招き入れたが、充が訪ねて来た事が余程意外だったようだ。

 マンションの玄関は想像以上にゆったりとしていたが、中はそれ以上に充を驚かせた。

 見事にコーディネートされたLDKはワンフロアのかなりを占めていて広々としているし、最上階だからかメゾネットになっていた。

しかしそこには全くと言って良いほど生活感が感じられなかった。

「まさか……ここに一人で住んでるんじゃ……無い……ですよね……?」

 充はリビングをぐるりと見渡しながら尋ねてみた。

「親父と一緒だよ、もっとも……滅多に帰って来ないから独りみたいなもんだけど……俺も却ってそのほうが良い、顔見てると……殺したくなるからな……」

「えっ?」

 充は驚いて佐理を見直った。

横から見る佐理の瞳はどこか暗く沈んでいて、宙を見詰めていた。

「そこへ座れよ」

 佐理は充をソファーの所へ連れて来てから、自分はキッチンへ入って行った。

 充が言われるまま座って待っていると、珈琲の仄かな香りが漂ってきた。

 キッチンで何かゴソゴソしていた佐理がカップを二つ手にしてやって来て、前に有るテーブルに置いてから充の横に来て並んで座った。

 制服の上着を着ている時は気付かなかったが、シャツの袖を少したくし上げた佐理の左手首にはハッキリとした傷痕が有って、充をドキッとさせた。

「気になるか?」

 佐理が物憂げな眼差しで尋ねた。

「あ……いえ……」

 充は思わず視線を逸らせた。

気にならないと言えば嘘になる、佐理の言葉を思い出すと気にならない訳はないが、そう答えるしかなかった。

「嘘つきめ」

 佐理は充の心を見透かすように皮肉っぽく笑みを浮かべて言った。

「そんな……」

 充は返す言葉が見つからない。

(一体……恭兄と篠宮先輩の間に何が有ったんだろう……?)

 充がそんな事を思っていると、佐理が突然妙な事を言い出した。

「怖くないのか?」

「え……?」

 充は佐理の突飛な言葉の意味が理解出来ずに戸惑った。

「俺と二人っきりで居て怖くないのか?他に人が居ないと何をするか分からないぞ……」

 怪し気に輝く佐理の瞳が食い入るように充を見詰めている。

「そんな事……」

充は完全に呑まれていた。

「それで……?何か用が有ったんだろ?」

 佐理は先程とは打って変わった優しい目を細めるように笑って言った。

 コロコロと変わる佐理の態度は充の思考を引っ掻き回す。

さっきまでの怪し気な輝きはどこかへ影を潜め、切れ長の目が今はとても穏やかで優しく充に向けられている。

 それなのに時々ゾッとするような冷たい眼差しを他人に見せるのだ。

 充はそれが何故かとても不思議な気がして佐理の顔に見入っていた。

男でさえ見惚れるほど佐理は綺麗な顔をしている。

「どうした?用が有るから来たんじゃなかったのか?」

 そう言われて、充は急にここへ来た目的を思い出したのだった。










 




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