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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第二章

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12/19

課題のクリア

 佐理は校舎に入ると、そのまま廊下伝いに反対側へ歩いて行く。

(どこ行くんだ?佐理の奴……)

直ぐ後に来ていた希恭は少し気になったが、そのまま自分の教室へ向ったのだった。

 佐理は角を曲って南校舎の一階に有る一年の教室を訪れた。

「充君」

廊下側の窓から中に居る充を手で招く。

その途端、教室の中に緊張が走った。

彼がビジルの参謀であることを皆よく承知しているからだ。

 充は呼ばれるまま廊下に出て佐理と対峙した。

佐理は充の耳許へ顔を寄せると

「今日の放課後、小椋が校門で希恭を待ってる、チャンスを逃すなよ」

小声で囁くように言った。

それだけ告げると、又あの薄ら笑いを浮かべながらもう一度充を見てからその場を立ち去って行った。

(今日……) 

 充は呆然とした。

もうどうして良いのか分からなかった。

クヨクヨと思い悩んでいる間にも時間は容赦無く過ぎていく。

しかも心做しか何時もより時間の経過が早く感じられるのだ。

普段なら早く終われば良いのにと思うような退屈な授業でさえ、今日に限っては延々と続いて欲しいと思えてしまう。

(このまま時間が止まれば良い……放課後が来なければ良いのに……)

充はそう願った。

しかし、無情にも時は刻一刻と過ぎ、とうとう放課後を迎えてしまったのだった。

 充が重い足取りで教室を出ると、視線の向こうに又もや佐理が姿を現した。

〔ギョッ〕として立ち竦む充に佐理が声を掛ける。

「どうしたんだ?なにもそんな顔しなくても、取って食おうという訳じゃあるまいし……僕はただ迎えに来ただけなのに……さぁ行こうか、希恭が待ってる……」

佐理は引きつったような顔をしている充の後ろへ回って、促すように肩を押して歩きだした。

 校舎を出た充達の視線の先には門柱にもたれた綾の姿があった。

充の少し前に希恭の姿も見える。

希恭が門の手前から声を掛けると、綾が振り返って手を挙げて応る様子が見えた。

「僕はここで失礼するよ。じゃあ、成功を祈ってるからね」

佐理がそう言って一瞬立ち止まった充の肩を〔ポンッ〕と押し出した。

 肩を押された充は、半ば茫然自失になってフラフラと希恭達の方へ近付いて行った。

ビジルが何か指図でもしたのか、下校時だというのに何故か人が居ない。

いつの間にか佐理の姿も消えている。

そのせいで希恭も自分の方へやって来る充に直ぐに気付いた。

「恭兄……」

「充、一緒に帰るか?」

 声を掛けられた希恭は充の方へ向き直って微笑みながら尋ねた。

その途端、充は希恭の肩に手を掛けてキスをした。

希恭と唇を合わせるには爪先立ちしなければならない。

おまけに“課題”である1分間は充にとって余りにも長すぎた。

「バッ、いきなり何してんだッ!!」

希恭は充を突き離して咎めるように喚きながら〔ハッ〕とした。

(形に残らないもの……)

 そう思った矢先だった。

「あなた達……そういう仲……最ッ低……」

綾がボロボロと涙を流しながら吐き捨てるように言って駆け出した。

「綾ッ、違うんだ綾ッ!!」

希恭は咄嗟に綾の腕を掴んで引き止めようとしたが、綾はそれを振り払って希恭の頬を引っ叩くとバタバタと走り去ってしまった。

 希恭は諦めたように小さく溜め息を吐くと、改めて充に尋ねる。

「これが課題なのか……?」

希恭の声は穏やかで優しかった。

充は小さく頷いた。

「出題者は佐理……だな?」

希恭はそう尋ねて、充が再度小さく頷くのを見ると酷く悲しそうな顔をした。

「ごめん……ごめんよ恭兄、僕……僕は……」

胸が詰まって言葉が出てこなかった。

充の眼から涙が溢れ落ちる。

「バカ、こんな所で泣くなよ……」

希恭が優しく宥める。

「だって……」

希恭が優しい分、充は自分が情けなくて仕方がなかった。

「いいんだ……綾には後でちゃんと話すから……とにかく課題はクリアしたんだし、帰ろう……涙拭けよ」

 希恭は充を促して歩き始めた。

「恭兄……怒ってないの?」

充はハンカチで涙を拭いながら尋ねた。

「充のせいじゃない、みんなビジルが悪いんだ、あんなものが在るから……」

希恭は眉を顰めて視線を落とした。

「恭兄……」

 こんなに優しい希恭がビジルのメンバーだったと言われても、やはり充には信じられなかった。

「それより……明日からはちゃんと待ってろよ、3日も置いてけぼりにして、もう俺を避ける理由も無くなっただろ?」

希恭は気を取り直して微笑み掛けて言った。

「うん。恭兄……あの、最近……篠宮先輩恭兄んに来なくなったよね、何か有ったの?」

 充は二人の仲がどことなくギクシャクしているように思えてならないのだ。

それに加え、先日佐理が言った事がどうしても気になってさり気なく尋ねてみた。

「まぁ……色々な……」

 希恭ははぐらかすように答えると、それから何も言わなくなった。

(佐理……まだ俺のこと……許してはくれないのか……)

そして黙ったまま歩きながら、心の中でそう呟いていた。


〔トゥルルルルトゥルルルル……ガチャ〕

『はい。小椋で御座います』

「もしもし、星河と申しますが、綾さんお帰りでしょうか?」

 家へ帰ってから希恭は直ぐに綾の家に電話を入れた。

『綾〜ッ電話よ〜!!』

『誰から?』

元気の無い綾の声が受話器の向こうで小さく聞こえた。

『星河君からよ、早く出なさい』

『あんなヤツ……居ないって言ってよ!!』

綾の声が急にヒステリックになる。

(あからさまに居留守の催促か……)

保留になっていない受話器の向こうの遣り取りは丸聞こえで、希恭は溜め息を吐いた。

『何言ってるの、聞こえてるわよ』

綾の母が咎めるように言うのが聞こえた。

『もう……』

綾が何かブツブツと言いながら受話器を受け取る。

『もしもし……』

受話器の向こうから無愛想な声がした。

「綾、さっきの事だけど……」

希恭は何と言って説明すれば良いのか迷って口籠った。

『何か?』

綾はぶっきらぼうに聞き返す。

「あの……あれは誤解なんだ、その……ちょっと訳が有って……」

『何が誤解よ、どんな訳が有るか知らないけど、目の前であんな事されて、はいそうですかって信じられると思うの?充君が恭を避けてたのだって自分の気持に気付いたからでしょ!?』

綾の興奮した声が耳許で響いた。

「綾ッ、聞けよ綾!!」

『聞きたくない!!自分の彼氏が目の前で男とキスしたなんて……もう何も信じられない、誰も信じない……』

「何でそうなるんだよ、俺の話も聞けよッ!!」

希恭の声にもついつい力が入る。

『何を聞けって言うの?追いかけても来ないで、どうせ私なんかより充君のほうが大事なんでしょ?汚いわよ、浮気よりもっと最低よッ……』

声が震えていた。

受話器の向こうで綾が泣いている……。

「綾、聞いてるか……?俺が好きなのは綾なんだ……今はそれだけしか言えないけど、もし俺のこと信じる気になったら電話くれよ……待ってるから……じゃあ……」

 希恭はそう言って静かに受話器を置いた。

今は何を言っても無駄なようだ、綾の気が静まるのを待つしかない。

希恭はやるせない思いで溜め息を吐くのだった。


「どうしたの綾?元気無いなぁ……昨日は星河君と一緒だったんでしょ、デートしたんじゃなかったの?」

 元気の無い綾の様子に気付いた友人の吉岡睦美が休み時間に声を掛けてきた。

「あんなヤツ……!!」

綾は眉を顰めて不貞腐れたように言った。

「どうしたの、喧嘩でもした?」

睦美は少し呆れたように言って綾の前の席の椅子を引き出すと、向い合せになって腰掛けた。

「別れたわよ、あんな奴!!」

綾はブスッとしたまま答えて頬杖をついた。 

「えぇ―――ッ!!別れたぁ、何でッ!?」

睦美が大声を出したので、教室に居た生徒達の眼が一斉に綾達に向けられた。

睦美はそれに気付いて小さく

「あ……」

と後悔の念を表すように手で口を塞いでから急に小声になって尋ねる。

「それ本当なの?何か有ったの?言ってごらんよ、相談に乗るからさ」

「ありがと。でももういいの……言ってもしょうがないもん……」

 綾は先程とは打って変わった淋し気な様子だ。

「だって綾、あんなに星河君のこと好きで憧れてて……やっと念願叶って付き合ってたのに……」

「だって……私より大事な人がいるみたいだから仕方ないよ……」

綾は目頭が熱くなるのをおぼえた。

じわじわと瞳が勝手に潤んでいくのを止めることが出来ない。

それでも必死に堪えて、涙が粒になって零れ落ちるのだけは辛うじて食い止めていた。

「星河君に?信じられない、そんな人には見えないけどなぁ……」

「もういいよ、元々私と恭じゃ釣り合わないのは分かってたし……」

「そんな……許せない。綾と付き合っていながら、それじゃ二股掛けてたって事でしょ?」

「いいんだってば、もう終わったことよ……」

「綾……」

(いくら睦美でも本当の事言えないよ……もしかして恭が男同士でなんて……)

 希恭を信じたい気持と、目の前でキスシーンを見せつけられたショックとが入り乱れて、綾の心には梅雨空のように重々しい暗雲が垂れ込めていた。













 





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