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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第二章

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充との遣り取りと綾の笑顔

「充、恭ちゃんが来てるわよ」

 郁恵が二階へ上がって来て声を掛けると充の部屋のドアを開けた。

「今誰とも会いたくないんだ、寝てるって言ってよ……!!」

充はベッドに身を投げ出してボーっとしていた。

こんな気分で希恭と会う気にはなれなかった。

「何言ってるの、変な子ね……?」

「とにかく会いたんないんだ!」

充はいぶかる郁恵に反発するように答えた。

「誰に会いたくないって?」

 不意に声がして郁恵の後から希恭が顔を覗かせている。

「おばさん、勝手に上がらせて貰いました、ちょっと充と話しが有るので……」

希恭は断りを入れてからサッサと部屋の中へ入り込んでベッド脇に立った。

「恭兄ッ!!」

充は驚いてガバッと跳ね起切ると、ベッドの上で座り直した。

まさか希恭が二階に上がって来るとは思っていなかったのだ。

「じゃあ冷たい物でも持って来るわね」

郁恵は普段通りの様子で機嫌よく階下へ降りて行った。

「それで?」

 希恭は勉強机の椅子を引き出して跨がるように腰掛けてから話を切り出した。

「課題、出たんだろ?」

「出たよ……」

充はボソリと答えて顔を背けた。

「話せよ、何か手伝えるかもしれない」

「手伝えないよ」

充は枕を抱き抱えて顎を当てがったが、やはり視線は逸らせたままだ。

「どうして?話してみなきゃ分からないだろ……?」

希恭は優しく微笑わらった。

その顔には、ただ充の手助けをしたいという何の邪念も無い思いが表れている。

「ひとりで出来る事だよ……だから……」

「そうか?だったら何故話さない?」

「課題を知られちゃいけない事は恭兄も知ってるんでしょ?」

「知ってるよ。だけど俺が話さなきゃ誰にも分からない……だろ?」

「駄目だよ、監視されてるから」

「監視!?佐理がそう言ったのか?」

「形として残らない課題だから立会人の代わりだよ……」

「形に残らない?どおゆんだそれ……?」

 希恭は顎に手を当てて、ちょっとの間考え込んだ。

「そんな課題、今まで出したこと無いのに……」

希恭は呟くように言ってハッとした。

充を見るとさっきまでとは違いじっと自分を見詰めている。

「充、俺……」

 希恭が言いかけた時〔コンコン〕とノックの音がしてドアが開いた。

郁恵が冷たい飲み物を乗せたお盆を手にして入って来て、テーブルに置きながら愚痴をこぼす。

「恭ちゃん、充に少し言ってやって。この子入学してからちっとも勉強しなくて……もう少し身を入れて貰わないと、いつ落第するか分かったもんじゃないわ……結構厳しいんでしょ?紫苑って」

口ではそう言うものの、まだ余裕が有るのは見ていて分かる。

「ええ、まぁ……」

希恭は言葉を濁した。

「じゃ、ここ置いとくから、恭ちゃんゆっくりしてってね」

 郁恵が部屋を出た後、二人の間に暫しの沈黙が流れた。

希恭は話のキッカケを失くしてしまったようだ。

「今日はもう……帰ってよ……」

 充が静かに沈黙を破った。

「充……」

「いいから僕の事は暫く放っといてよ!」

充はベッドに突っ伏してそれっきり何も言わなくなってしまった。

「分かった……だけど何か困った事になったら、必ず俺に相談しろよ?」

希恭ほ充の背中に優しい言葉を投げ掛けたが、答えは返ってこなかった。

「フッ」

希恭は小さな息を漏らすと

「じゃ……今日は帰るよ……」

と部屋を出て行った。



「おはようございます」

 希恭が玄関で声を掛けると、奥から郁恵が出て来た。

「あら?恭ちゃん、充ったらあれほど言ったのにちゃんと言ってなかったのね……何か用が有るからって、今朝も早く出たのよ、ごめんなさいね」 

申し訳無さそうな郁恵に、希恭は

「気にしないでください。明日また迎えに来ます」

と告げて玄関を出た。

(今日で三日置いてけぼりか……) 

 充が自分を避けているのは明らかだ。

何となく沈んだ気分で歩いていると、不意に後から〔ポン〕と肩を叩かれた。

振り返ると綾が立っていて

「朝っぱらから何黄昏てるの?」

と、ニコニコしながら言った。

「あ、綾……何で?」

綾の笑顔に少しだけ救われる思いがした。

「うん、ちょっとね、買い物が有ったからついでにこっちの道に出ちゃった。会えるかな〜って思って……」

そう言うと、綾は希恭と並んで歩き始めた。

「今日は充君一緒じゃないんだね?」

「ああ、先に行ったみたいなんだ……」

「へぇ~、喧嘩でもした?」

何時も一緒に登校する事を知っている綾は少し不思議なようだ。

「別にそういう訳じゃないけど……ここんとこ俺のこと避けてるみたいなんだ……」

「そうなんだ、どうしたんだろうね?何時も仲が良いのに」

希恭はおおよその見当は付いていたが、綾には何も言えなかった。

「綾、今日一緒に帰ろうか?」

「本当!?じゃあ放課後校門で待ってる」

 綾が嬉しそうに笑った。

笑顔が生々と輝いている。

あの事以来、佐理としっくり行かなくなった後で綾と付き合うようになってから、この笑顔にどれだけ救われたことか……

とびっきりの美人ではないけれど、こんな時、希恭は綾がとても愛おしく思えるのだ。

「じゃ、待ってるからね!」

 男子部の校門前まで来ると、綾は手を振りながら女子部の方へ歩いて行った。

 私立紫苑学園はミッション系で、共学とはいえ男子部と女子部に分れていて、同じ敷地内に有りながら校舎も校門も別々に分けられていた。

 希恭は綾が女子部に入るのを見届けてから自分も門を潜った。

「相変わらず仲が良いな」

 不意に後から声がして振り向くと、いつの間に来たのかそこに佐理が立っていた。

「佐理……」

「あんまり仲が良いと妬まれるぞ」

佐理が何時ものように物憂げに言った。

他人ひとの事よりお前はどうなんだ?誰かいないのか?」

「俺は女にかまけてるほど暇じゃない。それに……今は他に興味があるんでね」

「ビジルか?」

 希恭の声が急に低く籠もる。

「さぁ……そんな事お前には関係無いだろ」

薄らとぼけるように答えた佐理は、小首を傾げてまとわりつくような視線を希恭に向けた。

この眼で見詰められると、大抵の者は良い意味でも悪い意味でも目を逸らせられなくなる。

「今度の課題……お前だろ?傾向が変わったのか?」

「何か聞いたのか?」

 佐理の目付きが鋭くなった。

「いや、形に残らないって事だけ……」

「だったら充に言っとけよ、余計なおしゃべりはするなって……いけない子にはお仕置きが必要だ……お前も充が可愛いなら余計な事は訊かない事だ」 

佐理は今度は薄笑いを浮かべている。

「佐理、充には手を出すな!!」

「それは充君次第だな……」

「佐理!!」

佐理はニヤリと笑うと、希恭に構わず校舎に入って行った。

 後姿を見送った希恭は胸が締め付けられた。

何時からこうなってしまったのか……?

その責任が自分に有る事は重々分かっている、分かっているからこそ今のこの佐理との関係が辛かった。

















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