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【相愛・二人の物語】  作者: motomaru
第二章
10/10

充の課題

〔コンコン〕

 静かなビジルの部室のドアを叩く音がした。

「誰だ?」

側に居るメンバーが問い掛ける。

「ナビです。椎名充を連れて来ました」 

直ぐにドアの向こうから返事が返ってきた。

「入れ」

佐理が答えると、ドアが開いてナビと言われる案内役と充が入って来た。

 部屋の中は薄暗く、充は何か嫌な雰囲気を感じた。

暗い中で目を凝らしてよく見ると、中央に椅子が置かれていてその向こうに佐理が立っていた。

その奥に有る大きな机に誰か座っている様だが、暗くて顔が見えない。

両脇の壁際にはメンバーズと呼ばれる者たちが並んで立っている。

 暗幕が完全に引かれ一瞬、暗闇に包まれたが、直ぐに天井からダラリと下がった裸電球が点けられ椅子を照らし出した。

「そこへ座りたまえ」

佐理か椅子を示して充に命令するように言った。

充は言われるまま椅子に腰掛けた。

暗闇の中で自分だけを照らす裸電球の光が少し眩しく感じられた。

「さて椎名君、僕を知っているか?」

 佐理が改めるように尋ねた。

「はい。恭兄の所で時々会いましたよね、お久し振りです」 

充は何気なく答えた。

「そうじゃなく、僕はビジルの参謀という事だ。ここはビジルの部室でここに居る者はそのメンバーだ。ビジルの事は既に聞いていると思うが、毎年年度始めには新入生が洗礼を受ける、そこで……と、今年は君が選ばれた訳だ」

佐理は後の机に腰を預けて言った。

充は〔ゴクリ〕と唾を呑み込んだ。

「ビジルの出す課題をターゲットは速やかに実行しなければならない。それで……今回のターゲット、つまり君への課題だが……」

佐理はゆっくりと充の側に来て身を屈めると、耳元で囁くようにしかしハッキリとした口調で課題を告げた。

そしてまた元の位置に戻って机の端に腰掛けて充を見た。

「そんな!!そんな事出来ません!!篠宮先輩は恭兄の友達じゃないんですか?」

 充は思わず声を荒げた。

「それがどうした」

佐理は鋭い眼差しでじっと見据えている。

「だったらどうしてこんな課題を出すんですか!?」

充も佐理を睨みつけた。

佐理はスッと立って充の前を二、三度ゆっくり往復した後、正面に向き直ってから

「友人という事とビジルの課題とは何の関係も無い、全くの別問題だ。僕は公私混同はしない」

と言った。

佐理の視線は冷ややかに充へ向けられていて、充が知っていた以前の佐理のイメージとはかけ離れて見えた。

「僕はこんな課題承諾出来ません!!」 充は強く拒否の意を示した。

「充君、ビジルに“NO”という言葉は通じないよ、ここに居るメンバーでさえ課題を拒否する事は許されない。勿論この僕も……だ、分かったね」

「…………」 

そう言われると充は返事のしようが無い。

しかし佐理はそれだけ言ってしまうと脇へ避てしまった。

 すると、今度は他の者が歩み出てあのルールを説明する。

「課題には二つのルールが有る。あ、僕はビジルの会計を受け持っている不可ならずだ、それでと……ここに5枚のカードが有る、1枚だけジョーカーであとは普通のカードだ。今回の出題者の篠宮と君が1枚ずつ引いてどちらかがジョーカーなら、逆に自分の出した課題を篠宮が実行する」

「課題の行き過ぎを抑える為だ」

 暗闇から低い声が響いた。

声の主は机に向って座っている人物のようだ、多分それが会長なのだろうと推測出来る。

「もう一つは、ここに居る者以外の何人なんびとにも“課題”を知られてはいけない、知られた時は課題を中止する、勿論……懲罰ものだ、ルールはそれだけ。じゃあ篠宮からカードを引いて」

 不可はジョーカーが入っている事を充に確認させてからカードを丹念に切ると、扇状に広げて佐理の方へ差し出した。

佐理は充を見てニヤリと笑って

「安心しろ、今のところ連勝だ」

と言いながらカードを引くと、チラリと目をくれてから皆んなの方へ示した。

 カードはハートのクイーンだった。

「1枚引け」

佐理が充を促す。

 充は祈る様な思いで1枚のカードを恐る恐る引いた。

そっと裏返して見ると、それはスペードのキングだった。

不可がそのカードを受け取って皆んなに示しながら

「では、課題は椎名君が実行する事に決定した」

とハッキリ告げた。

 充は目の前が真っ暗になるような思いがした。

「では君に一週間の猶予をやる。それ迄に課題をクリアしろ、出来なかった時は……懲罰を与える、いいな」

脇に避けていた佐理が静かに言った。

「それで、立会人は誰にする?」

不可が尋ねると佐理は

「立会人は必要無い」

と答えた。

「え?」

不可が不思議そうに見ると、佐理はどこか宙を見ているような表情の無い顔で

「立会人は小椋……綾だ……」

と呟いた。

それからまた充の側にに来て

「この課題は形として残らないものだからクリアするまで君には監視を付ける、以上だ」 

佐理がそう言うと、充はビジルから解放された。


「いくら何でも綾さんの前でそんな事出来る訳ない……」

 充は校門へ向かいながら呟いた。

課題の事を考えると自然と溜め息が口をついて出て、気が重くなる。

(恭兄と顔合わせられない……)

ガックリと肩を落としトボトボと歩いていると、不意に

「充君」

と呼ばれた。

顔を上げると、門柱にもたれ掛かって腕組をした佐理が充を待っていた。

 充は気を引き締めるために大きな息を一つしてから

「何か御用ですか?」

と答えた。

「君に言っておくことが有って待ってたんだよ」

佐理は門柱から離れて充の前に立ちはだかるとじっと見据えた。

如何にもきつい性格を表している様な切れ長の目が鋭く光っている。

整い過ぎた顔立ちは時に他人に冷たい印象を与えるものだが、佐理も例外では無いようだ。

(以前はこんな印象じゃなかった)

そう思いながら、充は気遅れしそうな自分を奮い起たせるように殊更ことさら肩をいからせて

「何でしょうか?」 

と答えた。

「いや、もしかしたら君が故意に課題を漏らして中止に持ち込むかもしれないと思ったものだから忠告に来たんだ」

(あ、その手が有ったんだ)

充は内心ほくそ笑んだが、それも佐理の次の言葉を聞くまでの束の間の事だった。

「そんな事を考えているなら止めた方が良い、そんな事をすればもっと悲惨な懲罰が待っているし……その為に学校へ出て来られなくなった奴だっているんだから……他人を陥れる事なんて大して難しい事じゃない、数人の協力者がいれば尚更ね……どういう意味だか分かるだろ?」

 佐理は威圧するように充の顔を覗き込んで、態と優しい声で言った。

彼は凄味が有る訳でもないのに、他人にある種の恐怖心をいだかせるのがすこぶる上手いようだ。

それは佐理が持つ独特の妖艶な雰囲気がそうさせるのかもしれない。

 今になって思えば、充が紫苑を受けると言った時、希恭が強く反対したのも納得がいく。

希恭はこういう事態に陥る事を危惧していたのだ、そんな事とは知らず充はただ希恭と同じ学校に通いたい一心でここを受けたのだ。 

「貴方はそれでも恭兄の友達なんですか!?」

充はムキになって叫んだが、佐理は 「フフン」

と笑って

「何も知らない癖に偉そうなことを言ってくれる、あいつだって同じ穴の狢だったというのに……」

と言った。

「なッ!恭兄は貴方とは違う!!」 

充は佐理を非難するように強く言った。 

「希恭がビジルのメンバーだったとしてもか?あいつも同じ事をしていたのに“自分だけは違うんだ”って善人面してるのを見てると吐き気がするよ……あいつの為に僕は死んでたかもしれないのに……」

佐理の不気味なほど物憂げな口調は却って真実味を帯びていて、充をゾクッと身震いさせた。

「何の事ですか……?そんな事言ったって信じませんよ……」 

精一杯虚勢を張ってはいるが、動揺は隠し切れない。 

「嘘だと思うなら直接本人に聞いてみればいい……あいつは何て答えるんだろうな?アッハッハッハ!」

佐理は声高に笑ってもう一度充を見ると、ニンマリと笑ってからその場を立ち去って行った。

 その場に残された充は、何とも言えない嫌な気分に陥っていた。

〔パンパン〕

それでも気を取り直そうと両手で頬を叩いて歩き始めたが、やはり気分は晴れなかった。


 


















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