7話 虹に消えた光鳥
「野菜工場の少女アグネス」
7話 虹に消えた光鳥
森を越えると、西の都が見えてきました。
メイリーはアグネスとネオールを都に待たせて、一足先にマーザお婆さんの家に行きました。
「マーザお婆さんの孫のメイリーで御座います
お婆さんにお会いしたいのですが?」
「聞いて参りますので、暫くお待ち下さい」
門番は戻って来ると、マーザお婆さんの部屋にメイリーを案内しました
「メイリーよく来てくれましたね、お母様はお元気ですか?」
「はい お婆様、母も元気に過ごしております」
「それにしても急に一人で来るなんて
メイリー!? 何かあったのですか」
メイリーはアグネスとネオールに助けられたこと
そして伝承の書をに刻まれた手掛りを知るマーザお婆さんに会うために来たことを話しました。
「アグネスさんのお母様のおっしゃる通り、
ここでは王様のお許しがないとお会いする事ができません
でもアグネスさんは、私の可愛いメイリーの命の恩人・・・
・・・あ!そうだわ!メイリー 裏の洞窟は知っていますね!?
陽が沈んだら裏の洞窟で待って居て下さるように伝え下さい」
「はい お婆様!そのようにお伝えします」
メイリーは都で待つアグネスとネオールのもとへ戻り夕暮れを待ち洞窟に向かいました。
暫くすると身を隠すようにしてマーザお婆さんが洞窟に入って来ました。
そしてアグネスの指に輝く指輪と2人の胸に輝くぺンダントが、水と地の精霊の使者と認められた証だとマーザお婆さんは直ぐにわかりました。
「お話は孫のメイリーに聞きました
伝承の書に書かれている西の精霊について私の知っている事をお話しましょう
アグネスさんのお母様が言っておられた妖精の都のはるか西にあると言われる精霊の手掛りの場所は伝承の書に霧の滝と書かれています
そして滝から昇る虹の先に西の精霊達が住んでいると言われています
ただし霧の滝への道は一年中濃い霧に包まれ、一旦濃い霧の中に入った者は迷い二度と生きては出れぬ所です
もし運良く霧の滝にたどり着き虹を見る事が出来たとしても、精霊の証がない者は虹を渡ることが絶対に出来ないのです
でもすでに水と地の精霊の証を受継いでいるお2人なら、その精霊達がきっと西の精霊の地へと導いてくれるはずです
伝承の書に刻まれていた霧の滝までの地図を思いだし、描いておきました
これで迷わず霧の滝までたどり着くことが出来るでしょう
けれど一つだけ気がかりな事があるのよ・・・
お城から消えた伝承の書の行方が今だに解からないのです
もしかすると、お2人の事を知った何者かが伝承の書を盗み出し、
精霊を捜し旅するお2人から今ある精霊の証を奪い取ろうとしているのかもしれないのです
アグネスさん!もう夜も更けてきたわ
夜道は危険なので今宵は都に泊まり、明日明るくなってから霧の滝に旅立つ方が安全でしょう」
「お婆様! 大変です!!」
「メイリー どうしました!?」
「警備の者がお婆様を探しています
ここで見つかると大変です、急いで戻りましょう」
マーザお婆さんは地図をアグネスに渡し、メイリーと見つからぬように家に戻りました。
アグネスとネオールが洞窟を出で歩いているとアグネスの電話が鳴りました。
「メイリーです、都にチャチャホテルと言う
お婆様の娘チャチャの宿があります
連絡をしておきましたのでお泊り下さい、私も後で伺いますね」
2人の身の危険を感じたお婆様が、メイリーに今宵の宿を手配させたのでした。
「いらっしゃいませ!」
「アグネスと言いますが・・・チャチャさんですか?」
「はい、メイリーの命の恩人のお2人と久しぶりにメアリーに会えるのを楽しみにお待ちしていました
夕食のしたくが出来るまで部屋でゆっくりくつろいで下さいね」
チャチャは2人を部屋に案内すると、夕食の用意に戻りました。
部屋に入り、マーザお婆さんの書いてくれた地図をネオールがテーブルの上に広げました。
「ねぇネオール!?
霧の滝まで歩いて行くには10日ほどかかりそうですね」
「そうですね・・・テンが居てくれたら早いのですが・・・
西の国にテンを連れて来ることは許されないので歩くしかないです
西の国の妖精達には羽があるから簡単に霧の滝近くまで行けるのになぁ」
「そうね、でも仕方が無いわ
私達の国にはホタルのテンやリンが居るんですもの」
「あ! そうだアグネス姫!
ダイエットだと思えば丁度いい機会かも知れませんよ!?」
「そうね??・・・
もぅ ネオールったら!どうせ私は太ってますよ!!」
「あわぁわぁ・・・ダイエットは一般論で
・・・あくまで健康のためですから」
「じゃぁなによ!いい機会って!
そんな言い訳は、今更遅いわよ! プン!プン!!」
アグネスは怒って部屋から出て行ってしまいました。
そして暫くすると笑いながら戻ってくる、アグネスとメイリーの声が聞こえてきました。
「ネオールさん こんばんわ
アグネスさんと喧嘩したらしいですね?」
「え! 聞いたのですか
・・・メイリーさん 助けて下さいよ?」
そう言うとメイリーの後ろに隠れました。
「アグネスさんは、もう怒ってはいないみたいですよ!
いつものことらしいので・・・ねぇ?」
「ネオール もういいわ
そんなことより夕食の用意ができたので呼びにきたのよ、行きましょう」
それを聞いてホッとしたネオールのお腹の虫がグーグー鳴りました。
食事を済ませアグネスとネオールが先に部屋にも戻ると、メイリーとチャチャが大きな箱を持ってきました。
「アグネスさん お婆様からこれを預かってきました
これは私達妖精の羽を集め、作られた空飛ぶ羽です
私の国では自分の羽が傷つき、飛べぬようになるとこの羽を着けるのです
お2人が向かう霧の滝までは遠く険しいので、お婆様がお渡しになったのですよ」
「メイリー ありがとう助かりますわ!
マーザお婆さんに宜しくお伝え下さい」
「アグネス姫! これがあれば10日も歩かないで済みますね
でもせっかくのダイエッ あっ!健康がダメに・・何でもないです・・・あはは」
「もぅ! ネオールったら!!」
あははは・・・皆の笑い声とともにチャチャホテルの楽しい夜が更けていきます。
翌朝アグネスとネオールはメイリーとチャチャに別れを告げはるか西にあると言われる霧の滝を目指して飛びたちました。
「アグネス姫!霧がかかって来ました
霧の滝の入口に着いたようです、ここからは歩いて行くしかないでしょう」
「そうね、陽もかげろうとしているし
今晩はここで寝て明日、明るくなったら探しましょう」
2人は霧の手前の森の中で一晩を過ごすことにしました。
翌朝、霧の滝までの地図をたよりに深い霧の中を歩いて行くと急に霧が薄くなり空が明るくなり始めました。
そして目の前に新緑に輝く高くそびえる山々とその山の谷間から雄大に流れ落ちる幾千本もの滝が見えてきました。
「アグネス姫! ここが霧の滝に間違いなさそうです
それにしても不思議ですね、ここだけが霧が晴れているなんて?」
「ネオール?・・・マーザお婆さんが言ってらしたわ
霧の滝は精霊の地に行く唯一の道だと
しかも撰ばれし者だけが進むことを許される道だって!
きっと深い霧に包まれて出来る虹は、精霊によって守られているのよ」
「あ!そうか!精霊が消える時、深い霧も精霊の地に行く道もすべて消えてしまうのですね!」
「えぇきっとそうよ
それにしてもマーザお婆さんの言っていた虹はいったい何処にあるのでしょうね?
たしか私達の受継いだ水と地の精霊の証で虹を渡ることが出来ると言っていたわ」
虹を求め2人は別々に滝の廻りを探すことにしました。
「キャー ネオール!助けて~!!」
ネオールの耳にアグネスの悲鳴が聞こえてきました。
「誰だ! アグネス姫を離さないと許さないぞ!!」
「オォーッホホホ! 坊や、その胸のペンダントを渡しなさい!
そしたらこの娘を、返してあげるわよ!!」
「なにぃ~ あ! お前達だな!!
お城から伝承の書を盗んだのは! 何をたくらんでいるんだ!!」
「坊やは知らないのかい!?ならば教えてあげるわ!
4つの精霊の力があればこの国や、お前達の国もそして人間をも支配することもできるのよ!
さぁ早く寄こしなさい! さもないと この可愛い娘の命はないわよ!!」
「ネオール!!渡しちゃダメよ!
私の命より精霊との約束のほうが大切なの!
しかも精霊の力を悪に利用するなんて許せないわ!!
だからネオールだけは逃げて~!!」
「オォーッホホホ 坊や後ろを見てご覧!
お前はもう袋のネズミだよ! あきらめな!!」
ネオールはいつの間にか大勢の手下達に囲まれ逃げることさえできませんでした。
その時です!取り囲んでいた手下達の上に雨のように矢が降り、手下達がバタバタと倒れていきました。
そして掛け声とともに大勢の騎士が押し寄せてきました。
悪人達の武力では鍛えられた大勢の騎士にはかないません、悪人達は慌てふためき逃げ出して行きました
ネオールもアグネスを捕らえていた手下を追い払いアグネスを助け出しました。
「ネオールさ~ん!」
「あ! メイリーさんにマーザお婆さんじゃないですか!」
声に振り向くとメイリーとマーザお婆さんの姿が見えました。
マーザお婆さんは必ず天承の書を盗んだ者達がアグネスを追ってくると思い
天承の書の行方を捜していた騎士隊をお城に呼び戻し急いでアグネスの後を追って来たのでした。
悪人達の話をしていると、騎士隊長がマーザお婆さんに近寄ってきました。
「マーザ様、捕らえた悪党どもの持ち物から天承の書が見つかりました!
しかし身軽な悪党どもの逃げ足が速くて捕らえることができませんでした」
「隊長さんご苦労様!悪党どもの心配はいらないわ
天承の書がなければ生きてこの森を越えることは出来ないのですから
それよりも天承の書をお城に届け、王様をご安心させて下さい!
私はもう暫くここに用事があります、皆を連れ先に戻って下さいね」
「かしこまりました、マーザ様もお気をつけてお戻り下さい」
マーザお婆さんは騎士達を先にお城に帰し、無事に虹を渡るアグネス達を見届けてから帰ることにしました。
けれどマーザお婆さんにもいつ虹が出るのかは解かりませんでした。
虹は太陽光線が朝夕近くにあり、雲がなく空中に水滴があると反射して出来るのす。
廻り中深い霧で覆われ真上からの太陽の光しかあたらない霧の滝にはできません。
「マーザお婆さん!?霧の滝に着いてからネオールと虹を探してみましたが見つかりませんでした
この地で虹が本当に出るのでしょうか?」
「私にも解からないわ・・・
けれど伝承の書には間違いなく、そう書かれているのです
暫く待つしかありませんね。」
アグネスの心配をよそに、ネオールとメイリーのお喋りと笑い声が聞こえてきます。
「今度見に行きませんか!? 結構ロマンチックなんですよ!」
「見てみたいわ! ネオールさん是非連れてって下さいね」
「了解です そうだ! メイリーさんのメルアド教えてくれませんか?」
「ネオール!? 何してるの!!
しかもメイリーさんのメルアド聞いてどうする気なのよ!」
突然ネオールの後ろからアグネスの怒声がしました。
「あ!姫!! それはその・・・あわぁわわ・・・」
しどろもどろしているネオールの代わりにメイリーが弁解しました。
「アグネスさん、ネオールさんが夜も虹が出るって教えてくれたのです
そして今度、夜の虹を見に連れて行ってくれるって言うのでお願いしていたの
きっとそれでメルアドを聞いたのだと思いますわ!?・・・」
「ネオール ほんとうにそれだけなの!?」
「やだなぁ もちろんですよ 姫! 虹鑑賞の連絡ようにですから・・・あはは」
虹は条件がそろう場所であれば、月の明かりでも見ることが出来るのです。
「あっ!? ネオールそれなら!? この霧の滝でも見れるかもしれないわね?」
「そうですね! 滝から落ちるシブキは絶える事なく空まで繋がっていますし
もしかすると虹は夜なのかも知れませんね!!」
「きっとそうよ! 私、マーザお婆さんを呼んできますね」
アグネスはその事をマーザお婆さんに話し、皆は夜になるのを待つことにしました。
そして陽が暮れて月が昇り、やがて月も消えていこうとしています。
「おかしいわねぇ?虹がでそうもないわ・・・」
アグネスは消えていく月を見ながら呟きました。
そして月明かりで虹が出ると期待していたアグネスは勿論のこと
メイリー、マーザお婆さんの視線までもが、ネオールにはヒシヒシと感じました。
「あ~ヤダなぁ・・・僕のせいじゃありませんよ
・・・ほんとうに月明かりでも虹は出来ることがあるのですから・・・」
「待つしかないわね・・・」
マーザお婆さんが言いました。
皆の顔に不安がよぎり、沈黙が続きました。
「アグネスさん!? あれを見て!」
メイリーの指差す先の森の木々の間に何やら小さな灯りが舞始めました。
木々の間の小さな灯りは次から次と増えて霧の滝を囲むように増えていきました。
そして灯りが次から次へと滝のシブキから舞上がる霧の中へと吸い込まれていきます。
数え切れぬほどの小さな灯りは霧の水滴に反射し七色に輝きを増しながら天高く伸びていきました。
小さな灯りが一つアグネスの指輪にとまりました、すると指輪が淡い水色に光始めたのです。
「ねぇ皆!? 見て! これはホタルよ
小さなホタルが集まり虹を作っているのよ!!」
アグネスは興奮しながら皆に言いました。
伝承の書に書かれた霧の滝のすべての謎がマーザお婆さんには見えてきました。
「そう言えば精霊はその地を離れることが出来ない代わりに他の物質や生物をあやつる力があることを忘れていましたわ
精霊へと導く虹は精霊にあやつられたホタルが作り出す虹だったのね!
アグネスさん!
あなたの指に輝く龍の指輪と胸に輝く大蛇のペンダントの星が、お2人をホタルとともに精霊の地に導いてくれるでしょう
虹が消えぬうちに! さぁ早く! 急いで行くのです!!」
2人はマーザお婆さんとメイリーに別れを告げ、空に舞い上がりました。
「ネオール!行くわよ」
「はい!姫様」
「龍よ大蛇よ! 私達をホタルとともに導きたまえ!!」
アグネスの声に指輪が更に青く輝き2人を包み、ペンダントの星の光が2人を白銀に染めていきました。
「お婆様!?お2人の姿が・・・まるで!虹の中に溶けてゆくようです」
「西の精霊達に会うことが認められた証、お2人の姿が虹と一つになられたのよ!
けれど4つの力を受継がないと戻る事の出来ない空間でもあるのよ」
「お婆様!そうなのですか?」
「伝承者となれぬ者を精霊達は生かしては返さないでしょう
もう自分の力で虹を作り戻るしか道は無いのです」
メイリーはとても心配になりました。
「幸せと笑顔を待っている皆のためにも、2人力を合わせ1日も早く戻ってきて下さ~い」
虹に届くよう大きなメイリーの声にネオールの元気な返事が聞こえた様な気がしました。
そしてマーザお婆さんとメイリーは、願いを込め虹が消えるまで2人を見送っていました。
こうして無事に霧の滝を渡ることが出来たアグネスとネオールは、まだ誰も知らぬ西の精霊達が住む未知の世界に足を踏み入れたのでした。
「ネオール!? あれは何かしら?」
「あ!アグネス姫 あれは!!
・・・
次回 8話・・・浮かぶ2つの球・・・
お楽しみに