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平安ROCK FES!  作者: 優木悠
第四章 たたかうやつら

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四ノ二 偸盗

 暗夜。

 雲間に浮かぶ三日月。

 肌を刺す秋風。


 豪奢な公家屋敷。

 塀を乗り越える、いくつかの影。

 邸にはいよる。


 ひとつ。

 ふたつ。

 みっつ……。


 影が邸のなかに消えていく。


 目覚めた住人が、


「きゃっ」


 短い悲鳴をあげる。


 短い悲鳴しかあげられぬ。


 刹那、気絶している。


 この盗賊達、けっして人は殺めない。

 この盗賊達、けっして庶民から銭はとらない。

 火はつけぬ、人はさらわぬ、女を凌辱せぬ。


 おのおのが持てるだけの戦利品を持ち、ふたたび塀をこえる。


 風のように襲来し、風のように去る。


 路地にある、かねて用意の馬にまたがる。


 頬かむりをとった男達の、先頭のひとりの髪の毛が、燃えるように赤い。


 赤髪の男、茨木が手をふると、一斉に馬は走り出す。


 五匹の馬に、七人の盗賊が乗る。


 カッカッカッカッカッ!


 馬は駈ける。


 四条の通りを西から東へ。


 平安京を抜け、鴨川に出、細い粗末な橋を渡る。


 と、前方に黒い山。


 いや、人の群れ。

 騎馬の群れ。


「世をみだす、盗賊ども、今宵こそは貴様らを一網打尽にしてくれるッ!」


 叫ぶ、先頭の白駒にまたがる青年武者。


 その姿を見、鞍上で牙のような八重歯をむき出しに、にっと笑う茨木。


「仇敵、見つけたり!」


 茨木、一本しかない腕で太刀を抜き、脚で馬を操り突き進む。


 攻め来る盗賊に、青年武者渡辺綱(わたなべの つな)も駒を進める。


 すれ違いざまに切り結ぶ。


 一合。


 夜の虚空に煌めく火花。


 綱の馬がよろめき、路傍の草むらにつっこむ。


 突き進む盗賊達の五匹の馬。


 あまりの大胆な突撃に、囲む軍勢尻込みして、思わず道をひらく。


「ええ、うろたえるなっ!」

「態勢を立て直せっ!」

「追えっ、追えっ!」


 隊長格のもの数人が叱咤し、騎馬武者十数騎が馬首をめぐらし、後を追う。


 ドドドドドッ!


 逃げる盗賊。


 ドドドドドドドッ!


 追う軍勢。


 盗賊の一団、遅れて離れる一騎。


 遅れたと見せてしんがりについた。


 その一匹にまたがる小柄な人影。


 虎丸。


 体をひねり、百八十度後ろに振り向く。


 矢を射る。


 一射、二射、三射。


 矢継ぎばやに放たれる、矢。


 刺さる肩、腕、かすめる手の甲。


 武士達の叫声が風に流れて遠ざかる。


 決して人は殺めない。


 それが、この男の流儀。


 武士達のよろめく先頭の馬達に、後続がぶつかり、混乱をきたす。


 盗賊達は去る。


 暗闇にとけていく。


 行き先は、いずことも知れぬ。




 賀茂川と高野川がYの字に合流するポイントの、ずっと東。


 東山の森に囲まれたなかに、突如としてあらわれる瀟洒な建物。


 まさか盗賊の根城にも思えぬ、貴族の別荘のようなその屋敷に、五匹の馬にまたがる七人の盗賊がすいこまれるように消えていく。


「あいかわらず、みごとな手並みであったのう、茨木」


 出迎えた、土蜘蛛女頭首あやめ。


 その前で馬をおりた茨木、


「ふん」


 鼻をならし、笑いもせぬ。


 今日の戦果に満足もせぬ。


 ただ、貴族にひと泡ふかせて、多少の溜飲をさげたにすぎぬ。


「こんなことばかりやっていても、いまの世を覆すことはできん。もっと派手にやらせろ」


 奪った金銭を、仲間の持ってきた壺に投げ入れて、茨木が言った。


「まあそうあせるな、こうして軍資金もずいぶん集まっている。人もじょじょに増えている。決起の時はそう遠くはない」


 あやめは、白い肌の、切れ長の目を、きゅっと細めて笑った。


「酒だ、酒だ」


 茨木は、出された徳利を受け取って、グビグビ呑みながら、自分の部屋へと去って行く。


 数人で集まって酒を呑みかわす者達。


 ひとり離れて、庭の石に座ってちびちびやる、虎丸。


 それを眺めながら、満足そうにほほ笑むあやめ。


 偸盗(ちゅうとう)達の夜が更けていく。

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