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平安ROCK FES!  作者: 優木悠
第二章 たすけるやつら

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二ノ五 猫、這いよる

 ――まずい、まずいぞぉ。


 朱天の脇にも背にも額からも、どっと汗が流れ落ちる。とめどなく。


 ――さっきの猫は、おそらく星たちの誰かが向こうへと引き寄せてくれたんだろう。しかし、東側の猫が二連続で寄って来る。手はあるのか。たのむ、どうにかしてくれっ。


 茶色の猫は朱天の不安などおかまいなしだ。

 すました顔して、橋のヘリをてくてく歩いて近づいてくる。


 朱天は目を見開いて、眼力をとばして、猫を追い払おうとする。


 が、そんなもの、通じるはずがない。


 さらに猫は歩を進める。


 彼我の距離、すでに十メートル!


 と。


 ぱたり。


 猫が倒れる。


 何が起きたのか、朱天も、茨木も、孝安も、鮫九郎も、瞠目してその姿を凝視した。


 猫が起き上がる。

 ふらり。

 ぱたり。

 ふらり。

 ぱたり。

 起きては倒れ、倒れては起き上がり、また倒れる。


 やがてその場で猫が悶えるようにもがきはじめた。


「なんだ、どうしたのだ、あれは!?」鮫九郎が叫んだ。


 ――マタタビだ。


 朱天はやがて察した。


 猫は、マタタビにやられて、酔ったような様子になっているのだ。


 そう。


 この時、橋のヘリづたいに虎丸が忍んで猫に近づき、そこからマタタビを振って匂いを振りまいていたのだ。

 ちなみに、しばらく虎丸が姿を消していたのはこのマタタビを探していたからだ。


 やがて、猫は、


 ドボン。


 ヘリから鴨川に落ちて、流れて行った。

 しばらく流れると、猫は目が覚めたのか、川から突き出した大きな石の上に飛び乗り、同じように川面から顔をだしている大石へと跳ね移りながら、川の向こうへと去って行った。


 ――ははは、やったぞっ!


 朱天は跳びあがって手を叩きたいような気分であった。


「ぐぬうう」鮫九郎がくやしそうにうなった。


「おい、俺達の勝ちが近づいて来たな、鮫九郎さんよう」茨木が見下すように言う。


「へっ、まだ一匹いるぜ。もう勝った気になるのは早いんじゃあないか、あんさんたち」


 皆が振り返って、西にいる、黒猫一匹に目をやった。


 それに反応するように、猫が立ちあがり、伸びをひとつすると、こちらを見た。

 しばらくすると、黒猫はそろりそろりと足を動かし歩き出した(じつは鮫九郎が寄って来るように合図をおくっていた)。


 ――ま、まずいぞ。


 どうにも手のほどこしようのない一匹がついに動き始めた。


 朱天がふりかえると、東のほうのヘリから、虎丸の頭がみえた。

 あそこから、橋のヘリに隠れて移動していては、さすが俊敏な虎丸でも、猫がここに到達する前に、標的に近づくことができそうもない。


 朱天は歯噛みした。


 ――なにか、手はないか、なにか……。


 なにかあるとすれば、ふところにあるイカサマ用にこしらえたサイコロがふたつ。


 ――鮫九郎の視線をそらすことができれば、このサイコロを猫にぶつけて追い払えるんだが……。


 朱天は茨木をじっと見る。


 ――茨木、ここはお前がたよりだ、なんとか鮫九郎の気を引いてくれ。


 視線に気づいた茨木がこちらにふりむき、見つめかえしてくる。


 茨木は思う。


 ――なんだ、なにこっち見つめてんだ朱天のダンナ。そんな見つめられても、俺に妙案が浮かぶはずがねえじゃねえか。


 ちょっと思い違いをしていた。


「おい、お前ら!」


 鮫九郎が叫んだ。


「なに見つめ合ってるんだ、気持ち悪い。なんかよからぬことをたくらんでるんじゃあないだろうな、え!?」


「そ、そんなあ」朱天が首をふる。「なにもたくらんでなんていませんよ」


「へっ」っと鮫九郎が猫のほうへ振り向く。


 その瞬間。


 ――今だッ!


 朱天がサイコロを投げた。

 投げたサイコロは、綺麗なカーブを描き、鮫九郎が猫に視点を合わせるよりはやく、空気を引き裂いて飛び、猫の額にぴしりと命中したっ!


「ギャーーーーーッ!」


 奇妙な悲鳴を発して、猫は反転、岸へ向かって走り去って行った。


「ば、バカなッ!?」


「なにを驚いているのかな、鮫九郎さん」


 勝利の笑みを満面にうかべて、朱天が誇るように言った。


「バカなもなにも、げんに猫は三匹とも立ち去って行ったじゃあないか、え?」


「うむむむむ……。イカサマだ」


「イカサマ?なぜ?そう言える証拠でもあるのかね?」


「うむむむむ」鮫九郎、まさか猫は自分が仕込んだもので、イカサマでもしないかぎり勝手に逃げていくはずがない、などとは言えない。


「では、潔く負けを認めてくれるな」

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