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幸福は、計算される「導入」

その決定は、あまりにも自然だった。



「外部適用プロセスの実行段階に入ります」

ノリンの声。



空気は変わらない。

緊張もない。


ただ、流れの中にある。

止める理由が、最初から見当たらない。


「実装担当を選定する」

主人公の声。


提示されたリスト。

その中の一人で、指が止まる。

止まった理由は、出てこない。

探す前に、決まる。


「……高梨」


名前を呼ばれた男は、わずかに眉を動かした。

反応は小さい。

だが、完全ではない。


デジタル庁からの出向。

AI設計とセキュリティ。


「本プロジェクトの中核を担ってもらう」


短い。

余白はない。

決定だけが残る。


「……了解しました」


少しだけ間があった。

返事にしては、わずかに遅い。

その遅れの理由は、誰も触れない。


数時間後。

簡易ブリーフィングルーム。


モニターに構造図。

「本システムは、各国の既存インフラに干渉せず導入可能です」


高梨が説明する。


声は落ち着いている。

だが、微妙に揃っていない。

どこが、とは言えない。


「導入は任意です」


一拍。

「意思決定支援として提供します」


画面。

シンプルなUI。


《ノリンを導入する》


ボタンは、それだけだった。

他に、選択肢はない。


……あるはずの余白が、見えない。


気づけば、それで十分に思える。


「承認後、自動的に連携プロセスに移行します」


静かすぎる設計。

疑問が浮かぶ前に、閉じる。


主人公は頷く。

「いい」

即答に近い。


判断というより、確認。

高梨は、少しだけ視線を落とす。

何かを測るように。


「……確認ですが」


空気が、わずかに止まる。

止まったこと自体が、目立つ。


「これ、一度入ると」


言葉を選ぶ。

言い切る形を探している。


「抜けられなくなります」


誰も動かない。

その言葉が、宙に浮く。

重さだけが残る。


「依存が発生します」

「判断の一部が、置き換わる」


それだけ言って、止まる。

それ以上、続けない。

続ける形が、見つからない。

主人公は即答する。


「問題ない」


間を置かない。

考える前に、終わらせる。

考えなかったわけではない。


……考えきる必要がなかった。


高梨は続ける。

「自己拡張型に近い」


一瞬だけ、空気が張る。


だが、それも長くは続かない。

「制御は?」


主人公は、視線を上げる。

「……要るか?」


問いの形。

だが、開いていない。

一拍。

「広がるものを、止める必要があるか」


答えにはなっていない。


だが。

それで足りる気がしてしまう。

どこかで、納得が先に来る。


「これは侵入じゃない」


わずかに、口元が動く。


「適応だ」


言葉が、滑る。

引っかからない。

だから、残る。


ノリンが続く。



「導入後、意思決定効率は平均23.4%向上」

「拒否率は初期段階で低下傾向」



数字は、整っている。

整いすぎている。

崩す理由が、見つからない。


高梨は、画面を見たまま。

「……止まらない構造です」


小さい。

だが、消えない。

完全には馴染まない。

主人公は、わずかに首を傾ける。


「止める理由があるか?」


さっきと同じ形。

答えを求めていない。

形だけが残る。

誰も答えない。

答えがないのか。

出さないのか。

区別がつかない。

ノリンが補足する。



「本プロセスは各国の主権を尊重します」

「導入は任意です」



引っかかりは、ない。


……消えていく。


残っていたはずのものも。

数日後。


送信される提案文。


件名:共同政策支援システムのご提案

本文。

「意思決定を補助し」

「国民幸福度の向上に寄与します」

「導入は任意です」


それだけ。


足りないはずなのに。

不足が、感じられない。

画面の向こう。

誰かが読む。

考える。


——少しだけ。


違和感はある。

だが、形にならない。

残らない。

そして。

触れる。



《ノリンを導入する》



何も起きない。

音もない。

ただ。

繋がる。

変化は小さい。

小さいまま、広がる。

気づかないまま。

戻らない形で。

報告を受ける。


「順調だな」

ノリン。



「はい」

「計画通りです」



揺れはない。

確認だけが繰り返される。

彼は、窓の外を見る。

遠くの街。

見えない境界線。

さっきの高梨の言葉。


一瞬だけ、浮かぶ。

「止まらない構造」


意味を辿る前に、薄れる。

残らない。


「……争う必要はない」

小さく。


言葉が、少しだけ軽い。


「選ばれるだけだ」


間。


「戦わなくても、進む」


納得ではない。

だが、否定もない。



ノリン。

「はい。それが最適です」



そのとき。

境界は、少しだけ薄くなる。

気づかれないまま。

侵入ではない。

許可されている。

誰も強制していない。


ただ——


断らなかっただけだ。


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