婚約破棄をされ屋敷を追い出された役人の息子が元主家を追い詰める決意をする話
俺はライナー・ペトリ、雨の中、貧民街にいる。廃墟の修道院の中で雨宿りしているのだ。
つい、三日前まで伯爵家のご令嬢の婚約者だったのだ。
先代が亡くなってから、婚約破棄をされ身一つで屋敷を追い出された。
ご令嬢ザビーネ様は学園で自由恋愛の相手と結婚をしたいらしい。お爺さまがなくなってから、手の平を返されたのだ。
俺の実家はしがない役人の家で兄上夫婦が既にいる。
もう俺を養う余裕はない。
冒険者になるか・・・
残っているのは銀貨1枚、大事に使わないと・・・・
ゴト!
音がした。
「おい、君、どうした。こんな所で、何をしている?」
紳士だ。でっぷり太った人の善さそうな中年か?お付きの者はいない。
「君、私は慈善事業家だ。家に来ないか?暖かいスープを用意しよう。職も用意する」
「しかし・・」
「うむ。警戒するのは当然だな。それが良い。しかし、私は・・・グハ!」
【ヒィ】
思わず声をあげた。紳士の胸に槍が突き出ていた。後ろから刺されたのだろう。
気配で分かる。後ろの人物は槍を180度回した。
「グギャー!」
ドタン!倒れた紳士の裏に見えたのは・・・暗殺者か。小柄な少女だった。
髪は黒か。
「ひ、人殺し!」
「そうだ。暗殺者だ」
「どうして、この人、善人だったのに」
「そう見えるか。こいつは食い詰め者を言葉巧みに誘い込み屋敷で拷問を楽しむ変態紳士だ」
「ええっ」
そうは見えない・・・ヒィ!
今度は悲鳴をすんでの所でやめた。
彼女の腰に首がぶら下がっている。
女の首だ。
「ああ、これ、この女は残飯をシチューの具材にして売った」
「そんな・・・ことで殺したのか?」
「そんなこと?沢山の人物がこいつのおかげで死んだのだが?」
どうも腑に落ちない。
「しかし、何故、殺す!!・・・君のためだ。そんな血塗られた人生、おかしくないか?」
「生きるためにこの仕事をしている。人は生きるためなら何をしても女神様は許して下さる」
何も言い返せない。
「お前、縁があったら、また、会うことがあるかもな・・・・」
「おい・・・」
少女は暗闇に消えた。隠蔽魔法を使ったらしい。
髪は黒だったな。服も騎士の野戦服か。輪郭がぼやける。
雨が止んだ。街を歩くと。声をかけられた。
「おい、ライナー、探したぞ!」
「これはカール様」
お嬢様と仲の良い家門の伯爵様だ。
屋敷につれていかれ話を聞いた。
カール様はあっけらかんと言う。
「君は三年間、パウロ伯爵家で事務をしていたのだって?」
「はい、左様です」
「情報を全部売れ。執事として雇おう。お給金も払うぞ」
三年間、次期伯爵候補として、領地経営を学んで来た・・・
いつもだったら、断っただろう。
昨晩の少女の声が耳によみがえる。
『人は生きるためには何をしても女神様は許して下さる』
俺は・・・・
「カール様が我が主人です」
「そうこなくっちゃ」
パウロ家の商売の仕入れ先や次の商売、全てカール様に教えた。
そうか、俺が執事長みたいなものだったな。
詳細は分からないが、数ヶ月後にはパウロ邸には売家と立て看板が出ていた。
「あのね。君の元婚約者ザビーネ様は売りに出ているよ。買ってあげようか?」
「さすがに、それは・・・」
「でも、オークションでも最低の値しかつかないかもね。彼女の価値は隣にいれば伯爵になれるだもの」
オークション、知らないでおこう。
それから、俺はカール様の側近として重用された。
王城に赴く。
ササッと道を空ける者がいた。あれは・・・カゲか。
あの黒髪の少女がいた。
俺は一礼する。
すると、カール様は言う。
「よく分かったね。カゲはドブ掃除をしているのだよ。身分は低いが、だからと言って侮って良い相手ではない」
「彼女らは何者なのですか?」
「異世界人の末裔という説もあるが、その先は王太子教育だね」
そうですか。
今も俺は淡々とカール様の横で如何に他家を出し抜くか考えている。
最後までお読み頂き有難うございました。




