019 骨材(本来の意味とは違う単語として使っています)
「確かに、私には氷属性の魔法適性がありますわ」
「もう上級魔法だって使えたり?」
「それは企業秘密ですわ」
「……――エルエル社のか?」
「――私個人の、ですわ!」
「ニッシッシ、大事な手札ってわけか」
クライブはアキの機嫌を取りつつ進行する。
レトがゴブリンの亡骸の前で立ち止まった。
一度、五人は集まった。
少女はクライブを見て開口する。
「クライブ、これは使えないの?」
「使い道はある。分解できるか?」
「……も、もちろんできるよ」
「じゃあ、右前腕の骨をくれ」
レトが震える手でナイフを取り出す。
魔物の解体は、これが初めてだった。
それでも臆せずにゴブリンを捌き始める。
初めてが人型とは、精神的な難易度が高い。
だが、レトは果敢に挑み続けた。
クライブの助手として、初めてのソレらしい仕事だったからだ。
十分ほどかけて、レトは前腕の骨を取る。
それから【クリーン】と呟く。
水属性の初級――洗浄魔法である。
適性が無くとも、初級から中級魔法までは習得可能だ。
残念ながら、才能によるブレはあるが。
クライブは「ありがとう」とレトを労う。
それから骨の片端を持って軽く振る。
そのままハルの方に骨を向けた。
「……これを握れってこと?」
ハルは嫌悪感を滲ませている。
これまでの王族としての生活。
目の前にした解体風景。
それらがネックになっているようだ。
アキがそっとハルの背に触れる。
ハルは喉を鳴らして静かに頷いた。
ようやく骨の片端を握る。
クライブは目を閉じた
「……ふむ、なるほど」
とだけ述べる。
全員が静かにして続く言葉を待つ。
これが適性検査だと誰もが理解していた。
「――人型種の骨材の適性は無いな」
「……そう、なんだ」
ハルはホッと胸を撫でおろした。
人型種の骨の杖を使うのに抵抗があったのかもしれない。
ハルの様子を見てクライブが開口する。
「ゴブリンとか、トロールの杖は嫌か?」
「ちょ、ちょっと抵抗あるかも」
「そっか。一部のコレクターには人気なんだがな」
「骨の杖の?」
「いや、人型種の骨の杖だ」
クライブがニマっと笑みを浮かべる。
ハルは何らかの意図を嗅ぎ取った。
「……――人間の骨の杖があるの?」
「ニッシッシ、あるかも、な」
多分に不確定要素を含ませて答える。
あえてクライブは明言しなかった。
――が、自分の義手を自慢げに披露する。
しかし、クライブの義手は木材である。
少年はハルへと義手ワシを見せつけた。
最初に気付いたのはレトだった。
「そういえばクライブの右腕って――……」
正確には、元右腕である。
未だ人体だった頃、との意だ。
「…………実は、な」
「嘘でしょ!?」
「――冗談だ」
全員のジトッとした視線が少年を刺す。
アカネだけが「クックック」と笑う。
「もういい、さっさと進もう!」
質の悪い冗談に、流石のレトも怒っていた。
さっさと彼女は進み始めてしまう。
少し離されてから、四人は後を追おうとした。
……――ガコッ!
奇妙な音が鳴る。
レトは自分の足元を見た。
岩肌の一部が凹んでいる。
スイッチというより、陥没である。
彼女の足元から、一気にヒビが広がった。
少女はギコギコと一同へと振り返る。
直後に陥没が広がって大きな口となった。
ガラガラと、不快なほど大きな音を鳴らして。
……――レトは飲み込まれてしまった。
クライブはレトの落下した穴へと駆ける。
それにアキ、ハル、アカネが続いた。
下を覗けば、真っ暗な穴が広がっていた。
「レトッ!! 聞こえるかッ!!」
クライブは叫んだ。
……が、返答はない。
「――クライブ坊や、姉妹は頼んだわよ」
背後から声がした。
すぐに真横をアカネが通り過ぎる。
彼女は躊躇わずに穴へと飛び込んだ。
その姿が闇に消えるのは一瞬だった。
深さ――でなく、暗さのせいで。
「レ、レトは大丈夫でして?」
焦ったしたアキがクライブに声をかける。
クライブは深呼吸を一つ挟んだ。
「ニッシッシ、アカネが居れば大丈夫さ」
「……そうですわよね。あのアカネさんがいれば」
それが希望的観測であることはアキも理解していた。
しかし、今は信じるしかないのだ。
アキは視線を細める。
「まさか、罠にかかるなんて」
「正直、オレも驚いてる。まさか、罠があるなんて、だが」
「それはどういうことですの?」
「この管理迷宮に罠があるだなんて記録になかった。じゃなきゃ、アカネだってレトに先頭を歩かせないし、そもそもオレだって王族を連れてこようだなんて考えない」
「ある程度は安全が担保できるから選んだわけですわね。……ということは、まさか劣化が原因というのも有り得ますの?」
「いや、それは無いはずなんだ」
クライブはレトの落ちた穴を見つめる。
――瞬間、穴の修復が始まった。
崩れた縁が膨らんで、穴を覆い隠す。
そのまま萎んで、徐々に平らになっていく。
一分もしない間に、穴は塞がってしまった。
「迷宮には回復機能がある。周囲を見てみろ。戦闘の痕がないだろ。冒険者たちが、何度も訪れているはずなのに」
「……だから、アカネさんは追いましたのね」
「穴から飛んで戻れれば良かったけどな」
「つまり、ここからは私たちのみ」
アキが静かに言った。
ハルの喉を鳴らす音が聞こえる。
クライブが視線をやれば、彼女は不安そうにしていた。
ハルはクライブの視線に気づいて開口する。
「あの穴の先って?」
「……二階層目だと思う」
「そういえば迷宮は階層構造だって教えてくれたよね」
「普通の迷宮は、な」
「ま、まるで、ここがそうじゃないみたいに」
「――そうだ。アーキルム第一管理迷宮は、一階層しかない珍しい迷宮だった。今日までは、な。だから、エル様は許可をくれた」
「……何が起きているの?」
「それが分かればいいんだがな」
クライブは頭を掻きながら言った。
この展開は想定していなかったのだ。
不安そうにする二人に交互に視線をやる。
「オレとしては、このまま続けたい。レトの事もあるし、さっきのアキの魔法を見るに、この迷宮は十分に攻略圏内だと思ったからだ」
「……王族に危険な道を選ばせますの?」
「だから、二人の判断を優先する」
普通であれば撤退すべき。
外でアカネの帰還を待てばいい。
だが、クライブはレトを案じていた。
アキは長女として熟考し始める。
チラリとハルの方を見た。
「……私は構いませんわ。レトとはライバルでした。彼女のおかげで、今の私があると言っても過言ではありませんわ。ですから、レトを助けたい。ただ、それは私の個人的な想い。本当に重要なのは、ハルの気持ちかもしれませんわね」
「……わ、私は、お姉ちゃんに従うよ」
「本当に良いの、ハル?」
「う、うん。お姉ちゃんが居れば大丈夫だから」
そう言ったハルの表情を見つめる。
クライブは静かに顎を撫でる。
アキは彼女の返答に一つ頷いた。
「では、このまま進みましょう」
「あぁ、だが……一つ問題がある」
その言葉に、アキは視線を細める。




