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郊外の杖工房 ―十五秒・一筆の軌跡―  作者: 木兎太郎
〈第一章:仕事を知る〉

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18/22

018 そろそろ


◇―◇―◇


「ニッシッシ、それじゃ進むぞ」

「あっ、私が……」


 と言って、レトが前に出る。

 そっと迷宮の門に両手を当てた。

 意外にも扉は軽かった。

 力を入れてやれば、するりと動き始める。

 ズズズゥという特有の音を鳴らして。


「この迷宮に名前はありますの?」

「アーキルム第一管理迷宮だったはず」

「……面白味はありませんのね」

「ニッシッシ、まぁ管理迷宮だからな」


 アキの疑問にクライブが答える。

 そうして、ついに扉は開かれた。


 レトは視線を細めて先を窺う。

 一言で表せば、正方形に整えられた洞穴。

 薄暗いソレが、ずっと奥まで続いている。

 どこか生命体の喉のようにも見えた。

 ――総じて不気味である。


「並び順は、どうなさいますの?」


 そこでクライブはアカネに視線をやる。

 勿論、自分より的確な判断ができるからだ。

 それに説得力も段違いにある。


「先頭はレトに任せるわ。護衛だからね」

「りょ、了解です」

「身体能力強化で『かく乱』する感じで」

「そ、それはまた……はい」

「二番手はアキ。遠距離で魔物の迎撃」

「一つ質問をしても?」


 アキは素直には従わなかった。

 一同の視線が彼女へと向かう。


「レトは火属性に適性があるのでは?」

「光属性の適性があるわ」

「……どういうことですの?」


 アキは問答が面倒になりクライブを見る。

 少年は微笑みを絶やさずに開口する。


「レトは魔法属性の適性検査を受けていなかったんだ。ここ最近、オレが検査をしてみたら光属性に適性があることが発覚したのさ」

「そう……でしたの」


 少しショックを受けているみたいだった。

 貧富の差に驚いているのか。

 それとも別の理由なのか。

 関係が浅くクライブには見抜けなかった。


 とかく、一同は迷宮へと入った。

 計画通りにレトを先頭にして進んでいく。

 彼女は【ライト】を使った。

 光属性の初級魔法である。

 赤樫の杖の先端が、眩く発光する。

 

 通路の広さは7メートル弱。

 正面に魔物が居れば、素通りは不可能である。

 全ての面が岩肌のように硬い。

 しかし、砂地のように見えるから不思議だった。


 レトから少し離れてハル、アキ、クライブ。

 最後尾にアカネが控えている。


 ふとレトが何かを感じ取る。

 ……これは、魔物の気配?

 そのまま前方へとライトを放つ。

 攻撃ではなく更に奥まで照らそうとして。


「……【サーチ・アイ】」


 視力強化の光属性初級魔法である。

 暗視の効果までつく優れた魔法だ。


 ……――ゴブリンだ。

 すぐにレトは遠くのソレを発見した。


 緑色で120センチほどの小さな体躯。

 四肢は細くて枝のようでもある。

 なのに、腹だけは出ている。

 長い鷲鼻にガチャガチャな歯。

 毛の一本もない見事な禿頭。

 根源的な不快感を全て備えている。

 草臥れた腰布が浅く地面を撫でている。


「ゴブリンがいる。……三匹かな」

「――【アイス・ランス】」


 報告の瞬間、問答無用で魔法が放たれる。

 それらは曲線を描いてレトの真横を通った。

 計三本の氷の槍が、前方へと直進していく。

 レトの頬を冷や汗が伝う。


 ……――ギギギャッ!!??


 遠くからゴブリンの叫びが聞こえた。

 強化されたレトの視力が状況を捉える。

 魔法はゴブリンへと着弾していた。

 それぞれに一本ずつ、正確に。

 流石の技量にレトは息をのむ。


 ――が、すぐに怒りが生じた。

 勢いのままに後方へ視線をやる。

 やはり、杖を構えるアキの姿があった。


「ちょ、ちょっとアキちゃん……危ないよ」

「私がミスをするとでも?」

「……こ、声くらいあってもいいでしょ」

「ゴブリンに気付かれますわ」

「それでも同士討ちよりはマシなはず」

「そうなるはずがありませんわ」


 両者とも明らかに喧嘩腰である。

 クライブはポリポリと頭を掻いた。

 しかし、すぐに表情を隠す。


「二人とも、ここは迷宮の中だぞ」

「……部下を制御できていないクライブの責任でもありましてよ」

「アカネ、今のは何方の落ち度だ?」

「両方の落ち度よ。レトは背後から魔法が来るのを想定しておくべき。そういう陣形だと説明したはず。アキは適当に魔法を使いすぎ。魔力の温存は迷宮攻略の基礎中の基礎だわ。それに、今のは流石にクライブの落ち度じゃない」


 …………。

 レトとアキが同時に黙る。

 先に言葉を発した方が負け。

 そんな勝負があるかのようだった。

 だが、沈黙が同意を示すこともある。

 二人はアカネの意見に納得はしているらしい。


 ……仕方がない、話題を変えてやるか。

 クライブはレトへと義手で指示を飛ばす。

 シッシと振って前進を促したのだ。

 同時にアキを見ながら開口する。


「ニッシッシ、青樫の杖か。凄まじい逸品だな」

「流石は期待の杖工師、良い目をお持ちですわね」


 アキは機嫌よく答えた。

 杖を構えてクライブへと見せつける。

 迷宮内だから手放しはしなかった。


 捻じれた二本の枝が絡み合っている。

 【編み型】と呼ばれる非常に稀有な形状である。

 魔力回廊を描き込むのは至難の業。

 しかし、完成すれば杖二本分の力を発揮する。

 ――という説がある。

 それに値段も普通の杖の二倍ちかくする。

 あのエルが目を付けたのだ。

 おそらく相当な逸品であるはず。


「名前はあるのか?」

「――【ブルーツイスト】ですわ」

「……良い名前だ」


 クライブはジッとアキの杖を見つめる。

 観察にしては過剰なほどに。

 最終的には静かに顎を撫でる。


「その杖が送られたのは何時頃だった?」

「……今年ですわね」

「……へぇ、そうなのか」

「どうかなさいまして?」

「いや、それだけの杖を手に入れられる財力があって、どうしてオレに依頼が回ってきたのかなって思ってな」

「あぁ、それは……ふむ、迷いますわね」

「言い辛い理由なのか?」

「いえ、まぁクライブなら大丈夫そうですわね」


 アキは杖を撫でながら開口する。

 やはり、少し言い辛い事であるようだった。


「最初から強すぎる杖を持たせると、成長が阻害される恐れがある。御父様は、そう考えておりますわ。ですから、有力な若手との出会いの場としても使えるように、入学当初は新人の杖を私たちに持たせておりますの」

「なるほど、な。じゃあ作る杖が強すぎても駄目なんだな」

「ふふふ、面白いですわね。……まるで、これ以上の杖が作れるかのような口ぶりですわ」

「ん、あぁ……いや、ハハハ」


 クライブは「ハハハ」と笑った。

 前方にいるレトがギョッとして振り返る。

 珍しく誤魔化すかのような笑いだった。


「ところで、アキは氷属性魔法の適性が?」


 続けて流れるように話題を変えてしまう。

 明らかに異様な会話の動きだった。

 

 レトは思った。

 クライブは、今の瞬間に何かを企んだ。

 ――が、それを隠したのだ。

 ひっそりと不安を溜めつつ、彼女は前進を続けた。

 


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