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郊外の杖工房 ―十五秒・一筆の軌跡―  作者: 木兎太郎
〈第一章:仕事を知る〉

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017 その門の前にて


◇――かくして彼らは迷宮に来た――◇



 商談から早くも三日が経過していた。

 あえてクライブは時間に余白を作った。

 ある程度の準備が必要だったからだ。


 あの日の面々の内、五人が集結する。

 クライブ、レト、アカネ、アキ、ハルだ。

 朝靄のかかる早朝である。


 クライブは各面々に順に視線をやった。


 アキとハルは色違いの御揃い。

 胸元に革製の防具を付けたローブだ。

 アキが青、ハルは緑。

 どちらもフリル付きで御洒落である。

 二人の金髪が朝陽に映える。


 アカネは何時と同じ格好である。

 真っ赤なコートに黒いインナー。

 ピチッとしてボディラインが際立つ。

 流石のスタイルである。

 触覚ツインテールが風に揺れる。


 そしてレトは……皮鎧と普段着。

 あの蛇柄のズボン。

 それにネコちゃんのロンTである。

 幸いにも、ネコは鎧で隠れている。

 ウルフカットは微動だにしない。

 

 クライブは決心した。

 次は防具を買い与えるべきだ、と。

 

「ここが【管理迷宮】ですか」

「はい、仰る通りです」


 ハルの言葉にクライブが答える。

 そんな少年に姉妹が視線をやる。


「クライブ様、御年齢を伺っても?」

「15歳になりました」

「私は13歳ですから……年上ですね」

「私とは同じ歳ですわね」


 ハルの確認にアキが続いた。

 ハルはアキに視線を向ける。

 それに応じて彼女は頷いた。


「これから迷宮に踏み込むわけですから、煩わしい敬語は無しにしますわよ。コミュニケーションが滞って事故を招く可能性がありますわ」

「ニッシッシ、そうしよう。本当は、堅苦しいのは得意じゃないんだ」

「あら、急に年相応になりましたわね」

「ただの大人ぶったガキさ、オレなんて」

「こちらの方が私好みでしてよ」

「ニッシッシ、オレも美人は大好きだ」

「あら、正直者ですわね」


 そう言ってアキはクスリと笑った。

 若干、ハルは引いている。

 レトはクライブをジトッと見つめる。


「では、あらためましてクライブ、妹のハルに管理迷宮に関する説明をお願いいたしますわ。学園入学前で、予備知識くらいしかありませんの」

「了解……とはいえ、簡単だがな。

 一つ、政府が管理する迷宮である。

 二つ、魔物の素材の安定供給が目的。

 三つ、階層構造のコロニーである。

 四つ、階層ごとの魔物は固定。

 五つ、管理可能な魔物のみ生息。

 ――くらいかな、要点だけ押さえてくれ」

「つまり、強力な魔物は出現しないわけですわね」

「一応、な。ほぼ無いと言っていい」

「含みのある言い方ですわね」

「完全は存在しない。だからアカネがいる」

「……心強い味方ですわね」


 アキが素直に認めている。

 それにレトは驚いていた。

 彼女には、やや傲慢なところがある。

 相手を選ばず果敢に挑む度胸とも言える。

 アキの視線には、尊敬の念が含まれていた。


 レトはアカネに視線をやる。

 彼女の事は、よく知らなかった。

 杖を売る商人、程度の認識である。

 しかし、只者ではないはずだ。

 ヒイロの存在が、それを裏付けている。


「はぁ、気が進まないけど」

「ニッシッシ、まぁそう言うな」

「どの目線からの言葉よ」

「オレ目線からの言葉さ」

「……はぁ、まぁクライブ坊やらしいわね」


 アカネは懐に手を忍ばせ、何も取らず戻す。

 今の動作の意味をレトは知っていた。

 あの場所には酒瓶があるのだ。

 懐に隠せる小さなサイズのヤツだ。


 ……本当に頼りになるのだろうか。


 レトは不安そうにして迷宮へ視線をやる。

 ここはアーキルムから程近い森の中。

 因みにコリドーよりも近い位置にある。

 

 目の前には小さな山が一つ。

 約三メートルくらいだ。

 小山に石造りの門が設置されている。

 明らかに自然物ではない。

 これが管理迷宮たる証拠だろう。

 しかし、経年劣化がチラホラ見える。

 欠けた石レンガに、髪のように覆う蔦。

 どれもレトからすれば不安の種である。

 扉は頑強な金属製、一応は隙間もない。

 若干、錆びている気はするが。


 だが、門の前には足跡が幾つもある。

 今でも現役である証拠だ。

 とはいえ、今日は他の利用者の姿はない。

 レトは顔を左右に振るった。


「ハル、今日はコレを貸すよ」


 と言って、クライブがハルに杖を差し出す。

 それを見てハルが目を見開く。

 ――茶樫の杖である。


「あ、ありがとう」


 レトとアカネは事前に知っていた。

 この三日間は、あの杖の製作期間だった。

 杖なしで迷宮に挑むのは蛮行である。

 空白期間に貸出用の杖を仕上げたのだ。

 返却の後にアカネへ譲渡される。

 今回の護衛代金にもなるらしい。


「ニッシッシ、準備完了だな」


 クライブの言葉にハルが俯く。


「……緊張しちゃうな」

「ハル、安心なさい。私が絶対に守りますわ」

「う、うん。お姉ちゃん、ありがとう」


 クライブはジッとハルを見つめる。

 どこか浮かない様子の少女の顔を。


 そんな少年の横顔をレトが覗く。

 何かを憂いているように見えた。

 レトの胸中には不安が渦巻いている。


 さらにレトの横顔をアキが覗く。

 若干だが顔を険しくしている。

 あらゆる思惑が蠢く証拠だ。


 一同の様子をアカネが見つめる。

 これは一難ありそうだな、と。 


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