表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
郊外の杖工房 ―十五秒・一筆の軌跡―  作者: 木兎太郎
〈第一章:仕事を知る〉

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/22

016 何も言わずに


「――私がお願いしたの」

「…………え?」


 レトは窺うように開口した。

 アキの視線が彼女へと向かう。


「確かに学校は辞めた。でも、それはアキちゃんには関係ないことだよ。私は今も自分の意志に従って生きてる」

「レト、それは違いますわ。アナタは才能に従って生きるべきでした。学園に通って才能を伸ばし、力ある者としての責任を全うすべきだったのですわ。あの学園で主席を取るということは、並大抵の事ではないのですから。私からすれば、アナタは逃げ出したに等しいですわ」

「……――逃げてないよ」


 そこだけは譲れない。

 ――との鉄の意志の籠る言葉である。

 レトの視線にアキが戸惑う始末だった。

 母の治療のために奮闘していたのだ。

 当然の主張ではある。


 貴族らしい主張だな、とクライブは思った。

 まさしくノブレス・オブリージュというか。

 才ある者は、それを全うする。

 そうやって世界は改善され続けてきたのだから。


「……アキちゃんだって私と変わらないよ。学校では偽名を使っていたでしょ。それは家柄から逃げたのと同じはずでしょ」

「レト、それは違いますわ」

「――同じだよ」

「私が才能を活かす為には、家柄が邪魔になると思って――……」

「でも、戦わなかった」

「……レト、言っていいことと悪いことがありましてよ」

「私は譲らないよ、絶対に」


 二人は真正面から睨み合う。

 互いの魔力が、僅かに身体から溢れている。

 今すぐにでも戦闘が始まりそうだった。

 クライブは淡々と視線を巡らせる。


 なぜかアカネは嬉々として観察中。

 エルは鯉のように口の開閉を繰り返している。

 ハルは二人の魔力に少し怯えているようだった。


 ……――パチンッ!

 場を仕切り直す為に一度のみ手を打つ。

 それからクライブは視線を巡らせる。


「ここは商談の場です。ですから、取引相手である私の方から一つ提案をさせて頂いても?」


 唐突なクライブの言葉に、一同の視線が集結する。


「先ほどの続きから話します。ハル様の色見式適性検査の件です。確かにハル様には茶樫の適性がございました。……が、それよりも適した相性を持つ素材があることが発覚したのです」

「そ、それは……残念ですな。エルエル社として、全力をもって材木の収集に注力するつもりでしたから。――して、それは?」

「……――骨材にございます」

「つ、つまり、骨?」


 首を傾げるエルに、クライブが首肯する。

 やがて、エルの視線は枝に向かった。


「この枝から素材の適性まで特定できるのですか?」

「可能でございます。実際に材木と骨があれば、見て頂くだけなのですが、あいにく今は持ち合わせがありません。私の言葉を信じて頂くしかないのですが……」

「――信じましょう」


 エルは即答してしまった。

 視線は真っ直ぐに少年を捉える。

 クライブは「感謝します」と答える。


「そこで一つ提案があります。

 ……――素材採取に同行しませんか?」

「ほう、それはまた……なんとも」


 明らかにエルは困惑していた。

 遠縁とはいえ王族である。

 危険な行為は避けられる立場にいるのだ。


「一概に骨材と申しましても、どの魔物の骨に適性があるのか調べるには、ある程度の試行回数が必要になるのです。私共が狩猟して、屋敷に骨を持ち寄って、では非効率的すぎるのです」

「で、ですが、愛娘を危険な目に合わせるのは……」

「当日はアカネが同行することをお約束いたします」

「……ア、アカネ殿がですか?」


 そこでハッキリとエルの表情が変わる。

 アカネの名前を聞いて安堵が滲んだのだ。


 レトは怪訝に思い、アカネへと視線をやる。

 あくまで彼女は微笑むのみ。

 しかし、それを偶然的に見つけてしまう。

 手の甲には、びっしりと血管が浮き上がっている。

 アカネは憤怒している。

 レトは恐ろしくて視線を外した。


「そして、御同行いただくのはハル様とアキ様のみ。人数を最小限に抑えれば、それだけ警護は楽になります」

「ア、アキもですか? それに二人だけ?」

「はい。アキ様はアーキルム魔術女学園の首席、それに実技が得意だと仰っておりました。戦力として期待できるのは勿論、今後の為にとても良い経験になるはずです」

「確かに、そうかもしれませんが――……」


 エルは両手を貝のように合わせる。

 口を結んで逡巡しているようだった。


「御父様、私は行きたいですわ」

「ア、アキ、私を困らせないでくれ」

「まだまだレトと話さないといけませんの」

「ア、アキ……」


 クライブは一つ頷く。

 やはり、アキは釣れたか、と。


 ……もう一押しあれば崩れそうだ。


「これには四つの意義があります。

 一つ目が、骨材の選定。

 二つ目が、アキ様の経験。

 三つ目が、アキ様とレトの関係修復。

 四つ目が、理念の継承です」

「……四つも、ですか」

「はい。一つ目と二つ目は言わずもがな、三つ目から説明させて頂きます。まず杖工房:コリドーの立場として、材木に長けるエルエル社様とは、今後も懇意にさせて頂きたいと考えております。ですから、アキ様との関係修復は必須……私が思うに、二人は巧妙に掛け違えているだけです。まだ十分に修復可能であるはずです」

「確かに、色見式といい……クライブ殿の技量は明らか。エルエル社としても、共に未来を描きたいと考えてはいます。それにアキには……良き友人を持ってもらいたいと以前から思っていました」

「ちょ、ちょっと御父様!」


 アキが羞恥心から頬を赤らめる。

 性格に難あり、とは周知の事実だったようだ。

 無論、クライブは表情を変えなかった。

 レトは隣で気まずそうにしている。


「四つ目は、エル様の理念を子へ継承していく、という意味です。エル様の家柄に囚われず、自ら会社を興した猛き挑戦の精神、それに市井に降りる博愛の精神、この二つを共有する素晴らしい機会になるのでは、と愚考した次第です」

「……ふむ、確かに一理ある」


 クライブに向けての言葉ではない。

 エルは自分に向けて呟いていた。

 念頭にあるのはアキとハル。

 当然、娘達には人格者に育ってほしいはず。

 クライブは目聡くソコを突いた。


 ここで止めの一撃を繰り出す。

 クライブは微笑みながら口を開いた。


「おっと、肝心な説明が抜けておりました。

 ……――【管理迷宮】を使うつもりです」

「え、そうなんですか?」


 こうかは ばつぐんだ!

 ついにエルの懸念は瓦解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ