015 検査をしてみたが
「お、御父様。【色見式】って?」
ハルは父の様子に怪訝な顔をする。
ここまで驚くのは珍しいことなのかもしれない。
エルは大きく目を見開いていた。
「ここから東の海の向こうにある【日の本】の国の杖工師に伝わる技術だよ。こうして見るのは私も初めてのことなんだ。非常に機密性の高い一子相伝の技術で、今は途絶えたと聞いていたんだが……」
「実際、日の本では途絶えたはずです」
「……クライブ殿、もしかして姓をお持ちなのですか?」
「いいえ、私は単なるクライブです」
クライブは軽く視線を伏せつつ答えた。
その様子に、エルは静かに顎を撫でる。
それから一つ頷いて彼は開口した。
「どうやら、答え辛い事のようですね。一子相伝の技術ともなれば、そこに纏わる苦労を想像するのは容易です。私も無理に聞こうとは思いません」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「ですが、概要だけはお聞きしても?」
「勿論でございます。ですが、説明すべきことは多くはありません。実際に披露するのが一番の回答になるはずです」
クライブは、そっと赤樫の端に触れる。
義手の人差し指で方向を示すような形だ。
そして視線をハルにやる。
彼女はクライブの意図を直ぐに理解した。
赤樫の反対の端に人差し指で触れる。
「では、ハル様。魔力を通してみてください」
「……わ、わかりました」
微かに警戒心を滲ませている。
それでもハルは枝の端に魔力を込めた。
そこでクライブが視線を細める。
「…………では、次の枝に」
「は、はい」
それから二人は緑・青・黄と手順を繰り返した。
四つが完了して、クライブは微笑んだ。
「ありがとうございます」
「い、いえ、検査の為ですから」
二人は枝から指を離した。
「ハル様には【茶】の適性がございます」
「……ほうほう、茶樫ですな」
「仰る通りです」
「つまり、各色の魔力伝導率を指先で察知し、どの色の材木に適性があるかを検査したわけですね。確かに、一見すると単純にも思えますな」
「分かりやすいことが、一番のメリットかもしれませんね」
「ですが、こう単純な技術が、どうして途絶えてしまったのか……何か秘密があるのではありませんか?」
「――あります。この枝の方にあるのか、それとも私自身にあるのか。この先は企業秘密にさせて下さい」
「ハッハッハ、そうですか」
クライブが突っぱねたのに、なぜかエルは嬉しそうだった。
素直に追及を止めてしまう始末だ。
レトも興味を惹かれたが、流石に空気を読む。
一旦は疑問を呑み込んだ。
隣のクライブの様子を窺う。
少年はハルの方をジッと見ていた。
それに習ってレトもハルに視線をやる。
どこか居心地が悪そうにも見えた。
「……ですが、もう一つわかったことがあります」
「ほう、そう言いますと?」
エルがクライブの続く言葉を待つ。
……――バンッ!!
そこで大きな音が鳴った。
全員の視線が追いかけるように扉へ向かう。
そこには少女が立っていた。
ハルによく似ている。
勢いのままに少女は歩みを進める。
ほどなくして一同の側に仁王立ちした。
「……――レト、どうして此処に居るの?」
「……アキちゃんこそ、どうして?」
クライブはアキと呼ばれた少女を見つめる。
エルとハルに同じく青い瞳。
それに彫の深い顔立ち。
背は170に届くくらい、ハルより高い。
表情からは自信が満ち溢れている。
ハルに似たドレスを身に纏っていた。
「む、娘が急にすみません。少々おてんばな所がありまして……彼女は【アキエル・ド・アーキルム】……――長女なんです」
「御父様、王族なのですから、そこまでかしこまる必要がありませんわ」
申し訳なさそうにするエルにアキが叱咤する。
普通は逆だろうに、とクライブは気の毒に思った。
隣のレトを窺うと、彼女は委縮していた。
以前から内気なところがあるとは思っていた。
しかし、この様子は普通ではない。
クライブは再びアキに視線を戻す。
ただ平坦に、ジッと見つめ続けた。
「ウッ……な、なんですの?」
若干だが、アキの勢いが減衰する。
「……しょ、商談を邪魔してしまったことは謝罪しますわ。級友を見つけて、少し舞い上がってしまいましたの」
「――と、言いますと?」
「レトと私は、アーキルム魔術女学園のライバル同士でしたの。主席と次席ですわ」
「失礼、どちらが首席だったのですか?」
「そ、それは――……レトでしたわ」
またアキの勢いが少し縮まった。
意外に扱いやすそうだ、とクライブは安堵する。
同時に疑問を一つ抱く。
質問する前に、アキが開口した。
「ですが、実技の戦績では私が上回っておりましたわ。座学では……多少、差がありましたけど……――こ、この前、退学したと知りましたの」
「そうでしたか。実は、つい先日にレトを助手兼護衛として私が雇ったんです」
「ど、どうして、そんなことを?」
アキの顔に怒気が混じる。
正直いって想定外の反応だった。
クライブは状況を整理する時間を作る。
これまでのレトの経緯を今得た情報から補足する。
母が病気になる。
治療費が必要になる。
冒険者になる必要がある。
学生を続けられなくなる。
退学を余儀なくされる。
森で狩猟を試みる。
自分と出会う。
治療費を借りる。
母の治療に成功する。
自分の杖工房で従事する。
簡単にまとめて顎を撫でる。
総じて結論は一つ。
自分が強引に引き抜いた、と勘違いされたらしい。
主席の才能を見込んで、との意義だろう。
クライブは溜息を呑み込んだ。
商売相手に不遜な態度は見せられない。




