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郊外の杖工房 ―十五秒・一筆の軌跡―  作者: 木兎太郎
〈第一章:仕事を知る〉

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15/22

015 検査をしてみたが


「お、御父様。【色見式】って?」


 ハルは父の様子に怪訝な顔をする。

 ここまで驚くのは珍しいことなのかもしれない。

 エルは大きく目を見開いていた。


「ここから東の海の向こうにある【日の本】の国の杖工師に伝わる技術だよ。こうして見るのは私も初めてのことなんだ。非常に機密性の高い一子相伝の技術で、今は途絶えたと聞いていたんだが……」

「実際、日の本では途絶えたはずです」

「……クライブ殿、もしかして姓をお持ちなのですか?」

「いいえ、私は単なるクライブです」


 クライブは軽く視線を伏せつつ答えた。

 その様子に、エルは静かに顎を撫でる。

 それから一つ頷いて彼は開口した。


「どうやら、答え辛い事のようですね。一子相伝の技術ともなれば、そこに纏わる苦労を想像するのは容易です。私も無理に聞こうとは思いません」

「お気遣いいただきありがとうございます」

「ですが、概要だけはお聞きしても?」

「勿論でございます。ですが、説明すべきことは多くはありません。実際に披露するのが一番の回答になるはずです」


 クライブは、そっと赤樫の端に触れる。

 義手の人差し指で方向を示すような形だ。

 そして視線をハルにやる。

 彼女はクライブの意図を直ぐに理解した。

 赤樫の反対の端に人差し指で触れる。


「では、ハル様。魔力を通してみてください」

「……わ、わかりました」


 微かに警戒心を滲ませている。

 それでもハルは枝の端に魔力を込めた。

 そこでクライブが視線を細める。


「…………では、次の枝に」

「は、はい」


 それから二人は緑・青・黄と手順を繰り返した。

 四つが完了して、クライブは微笑んだ。


「ありがとうございます」

「い、いえ、検査の為ですから」


 二人は枝から指を離した。


「ハル様には【茶】の適性がございます」

「……ほうほう、茶樫ちゃがしですな」

「仰る通りです」

「つまり、各色の魔力伝導率を指先で察知し、どの色の材木に適性があるかを検査したわけですね。確かに、一見すると単純にも思えますな」

「分かりやすいことが、一番のメリットかもしれませんね」

「ですが、こう単純な技術が、どうして途絶えてしまったのか……何か秘密があるのではありませんか?」

「――あります。この枝の方にあるのか、それとも私自身にあるのか。この先は企業秘密にさせて下さい」

「ハッハッハ、そうですか」


 クライブが突っぱねたのに、なぜかエルは嬉しそうだった。

 素直に追及を止めてしまう始末だ。

 レトも興味を惹かれたが、流石に空気を読む。

 一旦は疑問を呑み込んだ。


 隣のクライブの様子を窺う。

 少年はハルの方をジッと見ていた。

 それに習ってレトもハルに視線をやる。

 どこか居心地が悪そうにも見えた。


「……ですが、もう一つわかったことがあります」

「ほう、そう言いますと?」


 エルがクライブの続く言葉を待つ。


 ……――バンッ!!


 そこで大きな音が鳴った。

 全員の視線が追いかけるように扉へ向かう。

 そこには少女が立っていた。

 ハルによく似ている。

 

 勢いのままに少女は歩みを進める。

 ほどなくして一同の側に仁王立ちした。


「……――レト、どうして此処に居るの?」

「……アキちゃんこそ、どうして?」


 クライブはアキと呼ばれた少女を見つめる。


 エルとハルに同じく青い瞳。

 それに彫の深い顔立ち。

 背は170に届くくらい、ハルより高い。

 表情からは自信が満ち溢れている。

 ハルに似たドレスを身に纏っていた。


「む、娘が急にすみません。少々おてんばな所がありまして……彼女は【アキエル・ド・アーキルム】……――長女なんです」

「御父様、王族なのですから、そこまでかしこまる必要がありませんわ」


 申し訳なさそうにするエルにアキが叱咤する。

 普通は逆だろうに、とクライブは気の毒に思った。


 隣のレトを窺うと、彼女は委縮していた。

 以前から内気なところがあるとは思っていた。

 しかし、この様子は普通ではない。

 クライブは再びアキに視線を戻す。

 ただ平坦に、ジッと見つめ続けた。


「ウッ……な、なんですの?」


 若干だが、アキの勢いが減衰する。


「……しょ、商談を邪魔してしまったことは謝罪しますわ。級友を見つけて、少し舞い上がってしまいましたの」

「――と、言いますと?」

「レトと私は、アーキルム魔術女学園のライバル同士でしたの。主席と次席ですわ」

「失礼、どちらが首席だったのですか?」

「そ、それは――……レトでしたわ」


 またアキの勢いが少し縮まった。

 意外に扱いやすそうだ、とクライブは安堵する。

 同時に疑問を一つ抱く。

 質問する前に、アキが開口した。


「ですが、実技の戦績では私が上回っておりましたわ。座学では……多少、差がありましたけど……――こ、この前、退学したと知りましたの」

「そうでしたか。実は、つい先日にレトを助手兼護衛として私が雇ったんです」

「ど、どうして、そんなことを?」


 アキの顔に怒気が混じる。

 正直いって想定外の反応だった。

 クライブは状況を整理する時間を作る。

 これまでのレトの経緯を今得た情報から補足する。


 母が病気になる。

 治療費が必要になる。

 冒険者になる必要がある。

 学生を続けられなくなる。

 退学を余儀なくされる。

 森で狩猟を試みる。

 自分と出会う。

 治療費を借りる。

 母の治療に成功する。

 自分の杖工房で従事する。


 簡単にまとめて顎を撫でる。

 総じて結論は一つ。

 自分が強引に引き抜いた、と勘違いされたらしい。

 主席の才能を見込んで、との意義だろう。

 クライブは溜息を呑み込んだ。

 商売相手に不遜な態度は見せられない。

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