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郊外の杖工房 ―十五秒・一筆の軌跡―  作者: 木兎太郎
〈第一章:仕事を知る〉

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14/19

014 その色を見て


 それからレトはハルを観察した。

 父と同じ金色の毛髪。

 髪型は所謂【姫カット】である。

 前髪は切り揃えられ、顔の横の髪が毛先のみ内にカールしている。

 艶々で夕陽を反射していた。

 目鼻立ちが高く凛々しい印象がある。

 父と同じ青い瞳が非常に美しかった。


 明るい緑色のドレスを身に纏っている。

 スカートのフリルが可愛らしい。

 160センチ弱、標準的な体形である。


「それで……クライブ殿。今日はハルの杖を作って欲しくて御呼びしたんです」

「承知いたしました。どのような用途の杖でございますか?」

「この度、娘は【アーキルム魔術女学園】に入学することとなったのです。そんな娘に素晴らしい杖をプレゼントしたいと考えましてね」

「ハル様、おめでとうございます」

「御丁寧にありがとうございます」


 クライブが先に、続いてハルが御辞儀をする。

 僅かに異変を感じて、クライブが隣を見る。

 レトの表情が、若干だが険しくなっていた。

 とはいえ、今は彼女に構えない。

 クライブは疑念を押し殺すことにした。


「エル様、このような名誉ある杖の製作に携われることを光栄に思います。私といたしましては、貴族社会においても主張の強すぎない装飾、かつ実用性のある杖を制作すべきと考えております」

「ほう、愛娘に地味な杖を持たせろと?」


 エルがクライブをジッと見つめる。

 怒らせてしまったのか、と緊張が走る。

 しかし、レト以外の二人は平然としている。


「先ほど、この素晴らしい御屋敷を拝見いたしました。特に庭の芝を見た時に、まるで自然の中に居るかのような暖かな空気を感じたのです。この御屋敷には、アーキルムからは失われた自然との調和が残っております。私はハル様にも、エル様に根付く調和の心を大事にして頂きたいと考えたのです」


 クライブはツラツラと考えを述べる。

 その間にもレトは緊張感を高めていた。

 ある種の挑発にも聞こえないか、と。


「……――す、素晴らしい」


 グッと目を潤ませてエルが言った。

 思わずレトはポカンと口を開けた。


「クライブ殿以上に、私の心情を理解してくれた職人はおりませんでした。スカーレット・パーチで杖を見た時から予感はありましたが、まさか……これほどに熟達した視点を持つ職人だとは思っておりませんでした。アナタにこそ、愛娘の杖を御任せしたい。いや、クライブ殿以外は、もはや在り得ない」


 依然としてレトはポカンとしたままだった。

 全く展開についていけていない。

 緊張と緩和で脳がフリーズしていた。


「勿論でございます。私史上最高の杖を仕上げる事をお約束いたします」

「どうか、どうか愛娘の為に、よろしくお願いします」


 また深々とエルが頭を下げる。

 娘の為に身分を気にせず礼を尽くす姿に、思わずレトまで涙ぐむ始末だった。

 

「では、まずはハル様の適性を見てみましょう」

「あぁ、幾つか簡単な書類は用意してあります」


 エルがパチンと指を弾いた。

 その瞬間、扉を開けてメイドが入ってくる。

 黒髪の美しい女性である。

 彼女はトレーを持ってきて机に置いた。

 そこには一枚の紙が乗っている。


「こちらがハルの魔法の適性診断書になります」


 クライブは受け取って紙を読み始める。


「ハル様は【風属性】に適性があるのですね」

「私からの遺伝だと思います」

「では、エル様もですか?」

「そうです。アーキルムの家系では風属性の適性はレアなんです」

「それはそれは……実は、私の適性も風属性です」

「ハッハッハ、それはまた奇遇ですな。我々はつくづく相性が良いようです」


 また機嫌を良くしてエルが笑った。

 というか初耳である、とレトは思った。

 初対面での出来事を静かに回顧する。

 そういえばボアボーアを倒したのは風属性の魔法だった気がする。

 あの太い首を魔法で切断したのだ。


「では、ここからはコリドー式の適性検査を受けて頂いてもいいですか?」

「ほうほう、それは興味がありますな」


 クライブは和服の袖に手を入れた。

 そこから巻物のような布を取り出す。

 それを徐に机の上に広げ始めてしまった。

 布がクルクルと展開されていく。

 そこには木の枝が計四本、等間隔に収められている。

 中央部のみ布で止められ、両端が露出していた。

 大体一メートルくらい、布の殆どは余白である。


「赤・緑・青・黄……四色の樫の枝。こ、これは……ま、まさか――……」


 明らかにエルが狼狽え始める。

 その異常な様子に全員の視線が集まる。

 誰もが続く言葉を待った。


「……――色見式しきみしきですか?」


 その問いかけに、クライブは静かに首肯した。

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